第八話 あれ、ギルドに登録するんじゃなかったっけ?
ティノアたちと別れた後、商店街っぽい所で散歩していたボクはある店を見つけた。かなりゴツいおじさんがやってるあの店は、串焼き屋かな?
「すいませ〜ん。一本くださ〜い。あと、何かジュースもお願いします」
「おう、串焼きは70ゴルドだ。嬢ちゃんは可愛いから一本おまけだ。ジュースはアプルので一つ50ゴルド。合計120ゴルドだ」
「あ、ありがとございます」
リアルでもこんなことあったなぁ···あの時、絶対ボクは女の子って思われてたよね······。
「はむっ。もぐ、もぐ······美味しい!」
お肉はとっても軟らかくて、噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。使われているタレもボクの好みの味だし、また買いに来よ。
ジュースの方は···あ、これ、リンゴだ。リンゴジュースってメーカーによって甘味が強いのと酸味が強いのがあるけど、このアプルジュースは甘味と酸味が上手くマッチしていて、今まで飲んだジュースの中で一番美味しい。肉もアプルも何処で買ってきたのかな?是非とも知りたい。
串焼きを食べ、アプルジュースを飲み終わったボクに、おじさんが話しかけてくる。
「そういや嬢ちゃん、ここら辺では見ねぇ顔だな。もしかして、異界人か?」
確か異界人ってプレイヤーのことだったかな?
「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」
「うんにゃ、こんな可愛らしい嬢ちゃんなら忘れるわけがねぇからな。(だが、どこか見覚えがあるような······?気のせいか)」
おじさんが何か言っていたが、おじさんの褒め言葉に照れていたボクには、その言葉は聞こえなかった。
すっごいべた褒めされるんだけど。さすがに照れるね···。
「そんなに褒めても何も出ないよ、おじさん」
「まだおじさんって言われるほど老けてねぇ」
「その顔で!?」
「そこまで言われると傷つくんだが!?」
······正直、もう四十歳超えてると思ってた。さらに傷つきそうだから言わないけど」
「途中、いや、最初の方から声に出してるぞ!?」
「ごめんなさい、つい本音が出ちゃいました」
「嬢ちゃんのそれは謝罪か謝罪を装った追撃のどっちだ?」
「謝罪のつもりです」
悪気は無いんだって。いや本当。
「ならいいんだが。あ、自己紹介をしてなかったな。俺の名前はパンツァー。冒険者と屋台をやってる。あと、敬語はむず痒いからやめてくれ」
「わかった。ボクはスノウ。ご存知の通り異界人だよ。あと、冒険者って何?」
「ん?知らねぇのか?モンスターを狩ったり依頼をこなしたりして金を稼ぐ奴らのことだ。嬢ちゃんも冒険者になるんだろ?」
「そうなのかな?」
一応ボクも冒険者のはず······なのかな?
「······その煮えきらねぇ反応は何だ?」
「モンスターは狩ったけど、依頼を受けてはいないからね。というか、依頼ってどこで受けるの?」
「ああ、そういや嬢ちゃんはこの世界に来たばっかりか。じゃあ、ギルドも未登録か」
ギルド?ラノベだとよくある組織だよね。そこで登録して、ランクを上げてく感じかな?あと、ランクによって受けられる依頼が決まってたりするよね。
「うん、未登録だよ」
「それなら俺と登録しに行くか?」
親切にも案内を申し出てくれる。良い人だね。でも、わざわざいいのかな?
「それは嬉しいけど、お店は大丈夫なの?」
「全然問題ねぇぞ。嬢ちゃんでもう売り物が無くなったしな」
おじさんがボクの懸念材料を消すように、笑いながら串焼きを焼いていた鉄板を持ち上げ、売り切れを知らせてくる。この屋台、結構人気あるっぽい?
「じゃあ、お願いします」
断る理由は無いのでこの申し出を受ける。ぶっちゃけ、渡りに船だったんだよね。知り合いはシユ姉かティノアしかいなかったし。
「そうと決まれば早速行くか?いや、この屋台を家に置いていくからギルドの前に俺の家に寄らせてくれねぇか?」
そう言いながら、おじさんは屋台を引いてどこかに歩き出す。ボクはそれについて行く。
「おっけ〜い。そもそも、ボクが案内を頼んでるんだし、それくらいは待つよ」
「俺の家には修練場もあるから、少し嬢ちゃんの腕を見せてくれ」
屋台を置くスペースや修練場があるってどれだけ広い家なの?エメロアもだけど、かなり冒険者ランク高そうだね。AとかSだったりするかも。
「おじさんの家、かなり広そうだね」
「まあ、狭くはねぇな。今は遠くの知り合いが居候というか、生産設備とかで何部屋か占拠されてるが、まだまだ空き部屋あるしな」
「それ、“狭くはない”どころかすごく広いよね?ランクはどれくらいなの?」
「ギルド行った時にわかるだろうよ。だが、今日は無理かもしんねぇな」
「どうして?」
「ギルドの冒険者登録の受付は夕方の五時までだからな」
その言葉の通り、まだ夏だから暗くはないけど、太陽がかなり傾いている。
······宿屋まだ取ってないけど、大丈夫かな?
二人で話しながら十分ほど歩いたところ、おじさんが足を止めた。おじさんの家はここら辺かな······って入ってくのそこ!?豪邸だよ!?すごく広い家だとはわかっていたけれど、さすがに広すぎないかな!?
「何そこで突っ立ってんだ嬢ちゃん?」
あまりの家の広さに呆然としていたボクに、屋台をガレージ的な所に仕舞ってきたおじさんが呼びかけてくる。
「······さすがに広すぎない?」
「今居候してるあいつの実家の方が広いぞ?」
居候どんな人なの!?
「とりあえず、入ったらどうだ?」
「じゃあ、お邪魔しまーす」
貴族の屋敷みたいに広い庭を抜け、これまた貴族の屋敷みたいに大きい扉を開けて中に入る。
「うむん?客人かの?あやつなら無駄に大きな声で帰りを知らせてくるはずじゃからな。あやつは今おらぬし、客人への対応くらいはしてやるかのう」
なんか奥の方から聞こえてきた声に聞き覚えがあるような······。
「パンツァーはおらぬが、言付けくらいなら受けてやろう·········ってスノウが何故ここにおるのじゃ?」
「エメロアこそなんでここにいるの?」
「ワシの実家は遠いからの」
エメロアはそう答えながらおじさんを少し、いやかなり蔑んだ目で見てるけど何事?
「ナンパしたのではなかろうな?」
「してねぇよ!?」
おじさんに根も葉もない風評被害がいってる······。
「スノウはチョロそ·······ゲフン、騙されやすそうじゃしな」
なんかこっちにも流れ弾きた!!というかほぼ言ってるよねそれ!?
「ただ嬢ちゃんの冒険者登録をしようと思っただけなんだが。そんで邪魔な屋台を置きにきたってわけだ」
「うむん。ワシが明日スノウの冒険者登録をしようと思ってたんじゃがな」
「そうなの?」
そんなこと初耳なんだけど?
「その時にワシの冒険者ランクを教えようとしてたのじゃ」
「ボクは案内してもらうだけでいいんだけど?」
「うむん?スノウは冒険者の登録について何も知らんかったのを忘れておったわい」
「そういや、言うの忘れてたな」
二人共何か納得してるけど、ボクは何もわかんないから納得も何もできないんだよなぁ·······。
「どういうこと?」
「それはワシが説明しよう。冒険者登録はの、誰かCランク以上の推薦が無いとできないのじゃ。一人で行くと仮登録しかできんと言った方が正しいかの」
ふむふむ、なるほどね。
「だから俺は登録行く前にちと腕試しをしとこうと思ってな」
「パンツァーよ。そのことなのじゃが、スノウはワシの支援込みで相手もまだ幼体だったとはいえ、一人で地竜を狩っておるぞ?」
「は?」
エメロアのその言葉に驚いたのか、おじさんが固まってる。シユ姉とティノアも驚いてたけど、地竜ってそんなに強くなかったよ?
あと、あの地竜って幼体だったんだね。道理で思ったより小さいはずだよ。
「エメ、お前は支援しかしてないのか?」
「一回妨害魔法も使ったの。動きを少し止めるくらいのじゃが」
「腕試しの必要ねぇな。それならさっさと行っちまうか」
「阿呆。この時間ではもう今日の受付は終わっておるぞ」
「ん?もうそんな時間だったか?」
壁に掛かった時計を見てみると、もう五時十五分くらい。あ、終わってるね。
「じゃあ明日にするか」
「ワシもついて行くとするかの」
あれ、二人共行く気満々っぽいけど推薦は一人で十分なんじゃ?
「えと······一人だけでいいんじゃないの?」
「いや、別に二人でも構わねぇ。推薦人が多い方が登録時のランクが高くなりやすいから人は多ければ多い程いいんだよ」
「その通りじゃ。ワシはもうおぬしの実力を見ておるから推薦には躊躇などない。今まで弟子のような奴もおらんかったし、存分に鍛えてやるわい」
「ありがとうエメロア」
師匠げっと。もしかしたら隠しスキル習得とかあるかも?
「そうなると今日はもうやることねぇな。スノウ、一回修練場に行かねぇか?」
ねぇ、なんでそう言いながらボクの腕を掴んでるの?
「ちょっと待って!言葉では誘ってるけど、ボク無理矢理連れて行かれてるよ!?」
おじさんの力が強くて抵抗が全く出来ない!?
「この光景、パンツァーの強面とスノウの可愛らしさが相まって、誘拐現場にしか見えんの」
エメロアはそんなこと言ってないで助けて!!
あ〜〜〜れ〜〜〜!?