第六十七話 災禍の先触れ
皆さんどうもお久しぶりです。
一ヶ月振りの更新となりました姫河ハヅキです。
本来なら10月始まってすぐに更新しようと思っていたのですが、コロナワクチンの副反応でダウンしていました。
更新間隔に対して文章量はあまりおおくありませんが、広い心で許してください。
「これで終わり、だっ!」
自慢の棍棒はあえなくメルのタワーシールドに防がれ、大振りな攻撃の隙を突いたリュミナとフレイによって至る部位を斬り裂かれ、二人を攻撃しようとすればミオナの魔術が妨害する。
オーク相手と考えればいささか慎重に過ぎるかもしれないが、安定性は抜群だ。
連携でオークの動きをほぼ完封し、ついに止めの袈裟斬りでオークが倒れる。
「ふぅ、これで討伐証明部位も集まったな」
「おつかれ〜」
「上出来じゃない」
「······一対一でグラディエーターベアを仕留めたお前たちに言われても、皮肉にしか感じないんだが」
これでもCランク冒険者ですし。討伐ランクCが相手ならね。
「これでも褒めてるのよ?貴方たちって連携ならCランクにも張り合えそうだし」
「···そうだったのか?」
素人目で見ても、ヘリオス達の連携は攻守共に安定している。時間はかかりそうだけど、多分グラディエータベアも倒せるんじゃないかな。
「じゃあ一つ質問。師匠達から見て私達の陣形はどう?改善点があれば教えてほしい」
「「慎重すぎる」」
ミオナの問いに声を揃えて答えるボク達。
「······できれば詳しい批評をお願い」
「今は王都からそう遠くない場所だからこの程度で済んでいるけど、奥に行ったらオークが一体で歩いていることはほとんどないのよ。こうやって全員でオーク一体を相手するのは難しいわね」
「いきなりオークと一対一で戦えとは言わないよ。ただ、二人や三人でもオークを相手取る練習はした方がいいんじゃないかな」
いずれはタイマンでオークを瞬殺できるくらいにはなってほしいけど、いきなりそれを求めるのは鬼畜というものだ。
「···確かに、俺達はまだ本当の実戦ってのを体感したことはないからな。不測の事態を対処する経験が足りてない」
「まぁフレイ達の本分は冒険者じゃないからねぇ。貴族として最低限の自衛ができる強さがあれば十分なんじゃ?」
「そうでもないぞ。俺の父上、スルト家当主は、今も現役のAランク冒険者だ」
「私の兄様はソロの魔術師でBランクまで上り詰めた」
「僕の父は、戴冠さえしなければいずれはSランクにも届いたのではないか、と言われるくらいには強いらしい。僕以上の光魔術とかのアーサー·シュバルツ殿にも迫る剣術を振るっていたと聞いている」
AランクやBランクの冒険者ってそこそこいるのね。まぁボクが登録時に貰えたのがCランクだから案外ハードルが低いのかな?
「······貴族って皆そんなに強いの?」
「さすがにBランク以上は少ないが、大体の貴族はゴブリンなら狩れるくらいの戦闘力はある。いざと言う時の自衛のためにな」
「なるほどねぇ」
仕留めたモンスターを各々の収納鞄にしまった所で、どこからかグ~っと空腹を主張する声が。
誰だ今の。ボクじゃないし、音の聞こえてきた方向を考えるとロネもヘリオスもフレイも違う。
となると、ミオナかフィロかメル······。
「「「·········」」」
「なんで皆私を見るの!?」
「「「なんでって···ねぇ······?」」」
一番腹ペコキャラっぽいのがフィロだから、としか言いようがない。現に、ボクに料理をねだってきた回数が一番多いのもフィロだから。
「正解だけどさ!」
ならいいじゃん。
「キリもいいし昼ごはんにしよっか」
「そうね。今の内に食べておかないとたべ損ねる可能性も······って何してんのアンタ」
「え?昼ごはんの準備だけど」
「なんで調理場展開してるのよ」
「え?今から作るからだけど」
「アンタおかしいんじゃないの?」
「どこが!?」
「今の言葉を何の疑問も持たずに言い放つ所よ!」
「失敬な!この調理場は獣避けも虫除けも防御結界も備えてるからね!こんな場所で無防備に料理するわけないじゃん!」
「まずこんな場所で料理するのがおかしいって言ってんのよ!」
突如口喧嘩を始めたボク達を、ヘリオス達が遠巻きに眺めている。
「······おい。携行用の調理場にしては設備や調理器具が揃いすぎじゃないか?」
「······王家でもあれ以上の代物は記憶にないな」
「出処はやっぱり···」
「十二英傑の方々だろうねー」
「高そうです」
ちなみにこの携行用調理場、イスファとミネルヴァの合作だそうで。実際に料理をするミネルヴァがレイアウト設計をして、包丁や鍋などの調理器具はイスファが、コンロや水道などの魔導具はミネルヴァが製作したものらしい。
材料に希少なものは使っていないので壊れた時の為に、と複数作ったはいいものの、数十年経っても故障する気配が全くない。
そもそも料理を頻繁にはしない、というのも理由の一つだが、作ったのが世界最高峰の職人だ。そうそう壊れることはない。
そんなわけで「余ったから素材費だけで売ってやる」と格安で譲ってもらったのだ。······素材費だけで結構な値段したんだよね。定価だと今の所持金では足りなかったんじゃなかろうか。いや、確実に足りないな。
「ごはんなのー!」
「···お腹空いた」
「メニューは何なのです?」
昼ごはん目当てにリル達が首飾りから姿を現す。まだ目元がトロンとしている辺り、起きてからあまり時間が経ってないと思われる。
「シンプルにサンドイッチかな。具は何がいい?」
「「肉」」
「フルーツなのです」
見事に肉食動物と草食動物で分かれたな。動物的な本能がまだ残ってる?
「そういやユリアは?」
「ここよ。あ、今日はリル達の切れ端をちょうだい」
「オッケー」
ユリアは精霊なため食事の必要がなく、食事を摂るかどうかはその時の気分で決めている。今朝も起きてはいたが朝ごはんは食べなかった。
ただ、味覚は普通にあるらしく甘味中心とした嗜好品はよく食べる。甘党のようだ。
よし、リルとヴァルナの焼き肉サンドから先に作ろうか。
まず貯蔵庫から取り出した牛肉を一口大に切り、小麦粉をまぶす。
次にフライパンに油を引いてコンロを点火。油が加熱されるまでの少しの間にパンに薄くバターを塗ってトースターに放り込む。
油が温まってきた所で先程の牛肉を炒め始め、色が変わってきたら自作の焼き肉のタレを加えて全体に絡める。
適当な所で火を止め、焼き終わったパンに切っておいたキャベツと一緒に挟む。
はい、出来上がり。切れ端は予定通りユリアに。
「冷めない内に食べてねー」
「「いただきまーす!」」
次に作るのはイナバのフルーツサンド。
この世界は食がかなり発達してるみたいで、ボク達が日常で使うような調味料は大抵揃っている。献立に悩む必要がないのは楽だねぇ。
さすがに焼き肉のタレ的なものは無かったから自作したけど。
クリームは何故か貯蔵庫にあったので使わせてもらう。······誰が入れたんだろう。
余計な疑問は頭から追い出して、ボウルに入れたクリームと砂糖をツノが立つまで泡立てる。本来はボウルの底に氷水をあてる必要があるのだが、今回は威力を弱めに調整した氷属性の『魔纏』で代用。
泡立て終わったらそれをたっぷりとパンに塗り、カットフルーツ各種をバランスよく並べる。
はい完成。切れ端はユリアに。
「どうぞ」
「いただきます!」
よく噛んで食べるんだよ〜。
さて、ボクも食べようかな。リル達のを作るついでに自分の分も作っておいたからね。
「·········スノウ」
「どうかした?」
「カットフルーツってまだ残ってたりするのかしら」
「残ってるどころか大量に保管してあるけど」
元々は生産作業中の空腹度と給水度の回復や、忙しい時のリル達のおやつ用にと貯蔵庫に入れておいたのだが、いつからだろうか、あったら誰かが摘まむようになっていた。こまめに補充しておかないとあっという間に枯渇する。
で、ちょうど昨日補充した所だ。
「相場の何割増しかで払うから売ってもらえない?」
「私も欲しい」
「私もー!」
「あ、あの···私にも売ってくれませんか······?」
カットフルーツが女性陣に大人気。やはり女性には甘味か?甘味なのか?
「フレイ達はどう?」
ロネ達から受け取った代金を貯蔵庫の「食費」フォルダにしまいつつ(食材や調理器具、設備を買う時はここのお金を使う)、男性陣の方を向くと、彼らの視線はフルーツサンドではなく······焼き肉サンドに注がれていた。
「俺としてはフルーツよりその調味料が気になる。嗅いだことはないんだが、妙に食欲が刺激される匂いのそれは何だ?」
さすが焼き肉のタレ。その存在を知らないフレイまでも惹きつけるとは······。「肉にかければ大体イケる」と漣が言ってただけはある。(※個人の意見です)
「これは故郷の調味料を再現したもの。こっちでも食べたくて作ったんだ」
「へぇ。スノウの故郷にはそんな調味料があるのか」
再現とはいっても、市販品には遠く及ばないけどね。クッ○パッドに載ってるような、焼き肉のタレの代用レシピにちょっとアレンジを加えた程度だ。
「金は払うから少し使わせてほしい。······情けない話だが、干し肉の味に堪えた」
貴族だもんねぇ。干し肉なんてそうそう食べないから慣れてないのか。
まぁボクも干し肉なんて食べ慣れてないんだけど。
「収納鞄があるんだし、普通のご飯も入れられるんじゃない?」
「それはそうなんだが、『戦が起こるとこういう事態もあり得る。今の内に多少は慣れておけ』と父上がな。あと収納鞄は食べ物をメインで入れるものじゃないからな?魔獣の素材を入れる為だ」
「僕も似たような経緯だ。僕も代金は払うから少し分けてほしい」
別に構わないけど······干し肉に焼き肉のタレって合うのかな?
「このタレ、二人分じゃ値段が付けられないくらい安いからおまけ。加熱してからタレをかけてパンに挟めば美味しいんじゃないかな。コンロも貸すよ」
タレの入った瓶と共に二つのパンを二人に差し出す。
って、何!?なんでいきなりボクを拝んでるの!?
「······恩に着る」
「本当に助かった」
その干し肉どんな味してんの?
食べれば分かる?
············確かに美味しくないねこれ。二人の反応にも納得だ。
「そういえば、ロネ達は干し肉についてどう思ってるの?二人は辛そうだけど」
「「「「特に何も」」」」
「とのことですが」
「「なんだって!?」」
「お前らも俺らと同じような食生活してたよな?」
「少し前から食事のグレードを段階的に下げてたからこういう味には慣れてる」
「血抜きもしないで食べた魔獣よりは全然マシだねー」
「あまり美味しくはないですが、我慢できない程ではないですね」
ミオナ、フィロ、メルの返答は以上の通り。······フィロは何故血抜きしてない魔獣の肉を食べた?美味しくないと分かるだろうに。
「あれ、ロネは?」
「私ここにいる唯一の平民だから聞かなくてもよくない?全然食べ慣れてるわよ」
「ちょっと待って」
ナチュラルにボクを貴族あつかいするのはなんで?
「ボクも平民だよ?」
「「「「「「え?」」」」」」
全員その反応!?
「そんなに驚くなら、どうしてボクが平民じゃないと思ったのか教えてほしいんだけど」
「平民じゃありえないくらいの教養」
「竜人なのに放出系魔術が使えるという特異性」
「十分な栄養がないと育たないであろうその胸部装甲」
「箱入り令嬢ですら驚く性知識の無さ」
「立ち振る舞いの上品さ」
理由多くない!?
「······皆ボクを何だと思ってるの?」
そう聞くと一斉に首を傾げるロネ達。
······マジでボクを何だと思ってるの?
「平民にしては貴族への態度が妙だし、かと言って貴族にしては礼儀作法が整ってないからどちらとも言い難い、というのが本音だ」
「え、ボクの態度って不敬に当たるの?」
「そういう意味ではない。スノウは、僕たちが『気軽に接してくれ』と言ったらすぐに砕けた口調で話してくれたじゃないか」
「うん」
「妙なのはそこだ。普通の平民なら、僕たちの方からどれだけ歩み寄っても一定の距離を取られるうえ、あちらの方から歩み寄ってきてくれることなどほとんどない。現に、ロネはまだスノウより遠慮があるだろう?」
「当たり前よ。急に癇癪を起こして不敬罪だなんて言われたら堪らないもの」
「まぁ、今みたいにあけすけな意見を言ってくれるくらいには打ち解けられたのだけどね」
なるほど。
貴族という存在をあまり知らないボクからしたら「相手が良いって言ってくれたんだし」って遠慮なく砕けた口調で話しかけるけど、貴族の権力をよく知っている現地人はどうしても貴族に対してロネのような態度になる、と。
「結局、ボクのことはどう思ってるの?」
「強いて言うなら······最近まで秘境でサバイバルしてた野生児?」
「私はヘリオスに一票。人里で過ごしていなかったのならその非常識にも納得」
「いや、自分の出自を知らぬまま人里離れた屋敷で育てられていたが、外の世界を知りたくて脱走した名家の息女と見た」
「私はフレイ派かなー。竜人なのに放出系魔術が使えるんだし、特殊な血筋だと思わない?」
「私もフレイに賛成ね。出処の分からない技能をいくつも持ってるようだし、戦闘時のあの合理的な動きは、誰かから教わらないと身に付かないはずよ」
合理的······なのかな?
リオンからは構えや型は一切教わってないんだけどね。組み手してるだけだけど······ボクはリオンの体捌きを少しずつ真似してるから、リオンの動きが合理的なんだろうね。
あ、世界最強の十二人だから当たり前か。
「あの、スノウさんが本当に平民だと思ってる人はいないんですか?」
「「「「「それはない」」」」」
「全員表出ろ」
ボクの言葉を信じてくれるのはメルだけだよ!
「おかーさんは平民って感じはないのー」
「···フレイと同意見」
「おかーさんの出で立ちで平民と言うのは無理があるのですよ」
リル達にまで裏切られた!?
君達にはボクのリアルを伝えてあるんだけどな!?
「平民に見えるか貴族に見えるかって聞かれたら間違いなく貴族と答えるわね」
お前もかユリア。
······逆にユリアがこういう時に味方だったことの方が少ない気がするのは気のせいか?アルフ女体化事件みたいに敵の方が多くない?
「数日会わなかっただけで髪を動かせるようになってた時は驚いたわ」
それはボクの責任ではないんだよなぁ。
文句は瘴気を撒き散らしてた、今は亡き魚人モドキにどうぞ。
「なに、今更だが、竜人が放出系魔術を使うこと自体が前例のないことだ。髪を動かせる程度じゃもう驚かん」
「スノウが非常識の塊だもの。これ以上驚くことがあるとは思えないわよ」
そこまで言うならいっそ何かやらかしてやろうか。
「······師匠って天候操作とか出来る?」
「出来るかぁ!?」
そんな芸当は魔術系か天空系の権能持ちじゃないと無理なんだけど!?
「じゃあ竜脈操作」
「竜脈?」
竜脈って言うと······地面の下にある魔力の大きな流れ的なやつ?ラノベでよく戦略兵器とか大規模な儀式魔術に利用されるあれ?
大概の作品では専用のスキルがないと干渉できないけど·········あ、ちょうどこの真下通ってる。
「······」
「···まさか出来るとか言わないよね、師匠」
「ん?ああ、さすがに干渉は無理。見るだけ」
無理矢理すれば出来なくもなさそうだけど、後始末が大変そうだな。水道管に穴を開けて水は取り出せても、水道管の穴を塞ぐ方法が分からない、みたいな感じ。
「「「「「「え······?」」」」」」
「なんで出来ないって言ったのに驚かれるの!?」
今回は期待通りの返事をしたはずだけど。
「竜脈を知覚できるのか···!?」
「マジで何者だお前」
「ネルトゥス家の秘伝魔術って、何のためにあったんでしょう·········」
「メル、気に病むことはない。あくまで師匠ができるのは観測まで。調整はネルトゥス家の独壇場」
「にしても、事前準備無しで竜脈を観測するなんてドワーフの血でも混ざってるー?」
「アンタよく今まで目立たなかったわね······」
そりゃこの世界に来たのが一ヶ月前くらいだし。それ以前の時期で目立つわけがない。
「ところでさ、今の竜脈って正常なの?森の奥の方でめっちゃ詰まってるんだけど」
「それ、本当ですか!?」
「う、うん」
普段は引っ込み思案なメルにしては押しが強いな。······結構ヤバい状況かもね。
何やら呪文を唱えて地面に両手を着くメル。目を閉じて三十秒ほど経過した所でメルが口を開く。
「······緊急事態です。いつ大氾濫が起こってもおかしくないレベルの魔力溜まりが発生しています」
「ッ!皆、撤退だ!急いで王都まで帰還してギルドにこのことを報告ーーー」
瞬間、悪寒を感じた。
途端に木々がざわめき、葉が擦れ合う音が不気味な雰囲気を醸し出す。
まさかこれが·······
ボクの懸念を肯定するように、システムメッセージが流れた。流れてしまった。
《緊急イベント【王都防衛戦】が発生しました》




