第六十六話 束の間の平穏(後編)
最初は週一投稿だったのにいつの間にかほぼ月一投稿になった姫河ハヅキです。
受験終わるまではこんな投稿ペースになりそうです。······いや、冬は月一すら怪しいな?
下手したら数ヶ月投稿しないなんてこともあり得ますが、その時は活動報告でその旨を伝えます。
二ヶ月以上空いたらまずはそっち見てほしいです。
「準備はいいー?」
「大丈夫だよー」
結界の中にはボクとリオンの二人きり。他の皆は結界から少し離れた所で観戦するつもりのようだ。
ボクとリオンの手合わせを見ても、得られるものなんてろくにないと思うけどねぇ。······あ、これアレだわ。ボク達で言うところのスポーツ観戦。見取り稽古じゃなくて娯楽あつかいされてる。
いよいよリオンとの手合わせだ。お互いに近接戦闘手段のメインが格闘術なので、他の十二英傑との手合わせと比べて高い集中力が必要だ。つまり疲れる。
カンナの刀も速いけど、手とか他の部位の動きである程度先読みできるからまだマシなんだよねぇ。まぁ、読めても回避できない時が多々あるんだけど。
格闘術だと、先読みの材料が体捌きのみで、近距離だと体捌きを観察する余裕なんてない。純粋な反射速度が求められるのだ。速さ勝負なら父さんの方がいい線行くんじゃないだろうか。
もっとも、父さんはMNDが初期値以下なので【仙闘術】を食らったらゴッソリ削れるのだろうが。
あれこれと後ろ向きな考えを巡らせている内に、おじさんがスタートの合図を下す。
あっヤバっ。
「何ボーッとしてるのかなー!」
既にボクの側にまで接近していたリオンの一撃を後ろに跳んで回避し、追撃の妨害のため『魔弾』を放つ。
「魔術の大きさが定まってないね。何かあったのー?」
「昨日の今日で変化したスキルを把握できるとでも!?」
武術系スキルや生産系スキルは進化しただけでそこまで大きな変化はないが、魔術系スキルにはある変化が起きていた。
汎用スキル【魔力精密操作】からエクストラスキル【魔力制御】に進化したせいか、ボクが使う魔法の仕様が色々と変化していたのだ。
まずは『魔弾』について。
元々は、選択した属性の魔力を弾丸状にして放つという極めてシンプルな魔法であり、消費MPは固定値だった。
ところが現在、消費MPや弾速、威力を調整することが可能になっていた。それだけでなく、回転を加えて貫通力を高めるなどもできるようになっており、元の『魔弾』とはほぼ別物と言える。MPをつぎ込むだけつぎ込めば際限なく威力は上がる。
ただ、MP消費量に応じて制御難易度も上がり、それだけ撃つのに時間がかかってしまう。それなら『魔砲』を溜めて撃った方がいい場合もあるのでそこは使い所次第だろう。
また、『魔弾』を普通に放てば前と同じMP消費、同じ弾速、同じ威力なのだが、テンションが高くなったり焦ったりすると『魔弾』それぞれのパラメータがバラバラになるのだ。
とは言っても消費MPはさほど変わらないので制御は大して難しくなく、そうなるのは本当に焦った時とか、余程びっくりして咄嗟に放った時くらいだろう。
うーん······いくつか基本的なパターンを用意しておこうかな?相手や戦況に応じたパターンの『魔弾』を準備して、必要ならそこから微調整するって感じ。
あ、『魔槍』の変化も『魔弾』と似たようなものなので割愛。
次は『魔纏』。元は身体に選択した属性の魔力を纏う持続発動型の魔法で、消費MPは固定、魔力を纏わせることができるのは四肢だけだった。
それが今、『魔弾』と同じように消費MPと威力の調整が可能になり、発動範囲が身体全体に広がった。全身に纏わせることも、髪の毛一本や指一本だけに纏わせることもできるようになったのだ。
ただ、『魔弾』とは違って『魔纏』には消費MPの限界がある。何故かというと、遠距離魔法である『魔弾』は魔力の弾丸を放つだけなので身体に負担はないが、魔力を直接身体に纏う『魔纏』は身体や武具への負担があるからだ。ある値までは問題ないが、その値を超えるとHPにはスリップダメージが発生し、武具は少しずつ耐久値が削れていくのだ。やるとしてもごく短時間だろう。
余談ではあるが、『魔纏』には物理攻撃にINTを上乗せして属性ダメージを与える、という効果以外にも属性ごとに追加効果があるというのを覚えているだろうか。
ちなみに下記の通りである。
火属性→風属性の攻撃を軽減。確率で状態異常「火傷」を付与。
水属性→火属性の攻撃を軽減。確率で状態異常「濡鼠」を付与。
風属性→土属性の攻撃を軽減。確率で状態異常「裂傷」を付与。
土属性→水属性の攻撃を軽減。VITの上昇。
爆属性→ノックバックと確率で状態異常「気絶」を付与。
氷属性→確率で状態異常「凍結」を付与。VIT上昇。
雷属性→確率で状態異常「帯電」を付与。AGI上昇。
鋼属性→斬撃、刺突属性の攻撃を軽減。VIT上昇。
光属性→影属性の攻撃を軽減。確率で状態異常「幻惑」を付与。
影属性→光属性の攻撃を軽減。確率で状態異常「暗闇」を付与。
聖属性→アンデッド系のモンスターに特攻&特防。
闇属性→霊獣、精霊系のモンスターに特攻&特防。
無属性→特になし。他の属性よりSTRとVITへの補正が高い。
実のところ、普段のレベリングや手合わせで攻撃軽減以外の追加効果が発揮されることはほとんどなかったりする。
状態異常付与の確率は低いようで、普通の敵だったら状態異常がかかる前に倒してしまうし、十二英傑が相手だったら相手が格上すぎてまず通らない。
取得可能スキルの中には状態異常付与の確率を上げる『状態異常攻撃』があるけど······そもそも状態異常を使う機会があるかどうか微妙なところだ。必要になったら取得する方針で。
とまぁ、「先読みが難しい」云々言いながらもこんな風に色々と考えていられるのはつい先日習得した【身体操作】のおかげだ。ボクはスライムのような不定形生物ではないので操作できる部位は少ないが、髪が操作できるだけでもかなり便利だ。
テールの一本を腕の一本として使えば、ツインテールなので腕が二本も増え、合計四本となる。
ボクは翼で飛べるため足技もよく使う。飛行できないリオンは足技の頻度は少なく、二本の腕がほとんどだ。
多少の変動はあるもののボクの手数はリオンの三倍。そこに魔法を加えれば、足止めするだけならボクとリオンは相性がいい。
まぁ、本気出されたら瞬殺だけどね。
「スノウはいつの間にそのスキルを習得したのかなー!」
「この前の邪神戦の時ー」
「それは知ってるけどね!」
◇◆◇リオンside◇◆◇
「スノウはいつの間にそのスキルを習得したのかなー!」
「この前の邪神戦の時ー」
「それは知ってるけどね!」
リオンが聞きたいのはそういうことではない。
異界人は自身が持つ技能を確認できる能力がある、ということは知っている。しかし、それは自分が持つ技能を確認するだけだ。大まかな効果は知ることができるが、使用法や活用法までは分からない、とスノウ本人から聞いている。
そこで一つの疑問が浮き出る。
暴走中に習得したはずの技能が何故、既に戦闘で使い得るレベルまで上達しているのか、ということだ。練習する暇はなかったはずだ。
実のところ、暴走する前に【身体操作】は瘴気の吸収によって習得していた。しかし、その時【身体操作】は瘴気で運用しており、魔力による運用はこのリオンとの手合わせが初めてである。そのため、スノウは初めて【身体操作】を発動しているに等しい。
リオンはふと、ある日アイリスと交わした会話を思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇
「スノウとアイリスってどこか名家の生まれなの?」
「どうした急に」
「今スノウには、アタシが格闘術を、エメロアが魔術を、イスファとミネルヴァが鍛冶や錬金術とかを教えてる。で、スノウはどれも上達が早すぎる。経験者かって思うくらいに。でも、それはあり得ない。最初の動きは間違いなく初心者のそれだったからね。」
「それで異界じゃ名家の生まれなんじゃないかって?」
「習ってるのが一つだけならおかしくない。でも、全く違う分野を同時にいくつも習っていて、どれもあの上達速度ははっきり言って異常だよ。だからスノウは異界の貴族が出自なんじゃないかなーって」
いつになく真剣な声音でリオンから放たれた質問を、アイリスは一瞬キョトン、とした後にからからと笑い飛ばす。
「俺達が貴族なわけあるか。てか、そもそもこっちの世界に貴族なんていねぇよ」
「そうなんだ。アイリス達の家系って、代々特別な才能を持つ人物を輩出してる気がしたんだけどなー」
「······どんな気だ」
そんな話を両親や祖父母から聞いた覚えはないが、普通か特殊かと聞かれたら間違いなく特殊だと言えてしまう人物に心当たりが多すぎるため否定の言葉に勢いがないアイリス。
第一、菖蒲や雪たち星宮家は勿論、雫乃たち天宮家、文香や文乃たち間宮家も含めた三家は誰も彼も年齢不詳だったりする。星宮家が特に顕著ではあるが、一般人からだと全員特殊なのだ。
「(特殊な才能と言ったら、星宮家は違うよな······。天宮と間宮だろ)」
「どうかした?」
「うんにゃ。何も」
武器無しで鹿や猪、果ては熊まで仕留める脳筋や、工具による研磨で機械を鼻で笑うレベルの精度を叩き出す変態を頭の中に思い浮かべながら、自分たちは比較的普通だと誰に言うまでもなく弁解する。
比較的普通、という文言に疑問を持っていないあたり菖蒲も普通か特殊かに分類するなら特殊なのだが、それは知らぬが花である。
「まぁ、スノウは特殊っちゃ特殊だな」
「どんな所が特殊なのー?」
「才能と言える類のものではないが······あいつは記憶力と学習速度が人より高い、くらいだな」
「······それだけ?」
「それだけ」
そう言うアイリスの顔はまるでイタズラを企んでいる子供にようにほくそ笑んでいたのだが、「それだけであんなことになるのかなー?」と呟いて首を傾げていたリオンはアイリスの表情に気づくことはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
(どう考えても記憶力や学習速度って言葉だけで納得できるわけないじゃんこれー!)
四肢だけでなく、ツインテールに結んだ二房の銀髪をも、元からあった手足の如く自由自在に操るスノウの猛攻を二本の腕だけで防ぎながら胸中で悲鳴をあげるリオン。スノウに目立った隙はなく、下手に足技を繰り出すともれなく足払いが襲いかかってくると思われる。飛行手段を持たないリオンにとって足払いを食らう事態は避けたい。
おまけに、スノウは手足には火属性の、髪には雷属性の『魔纏』を発動しているため、迎撃に手間がかかる。
最大限まで封印を施しても今のスノウより高いステータスと、封印されることのない自前の技術のおかげで、スノウよりはるかに少ない手数でスノウと渡り合っているが、これ以上スノウが何かしら強化されるとこの均衡は崩れる。
(アイリスの嘘つきー!)
アイリスも嘘をリオンに教えたつもりはなく、本人からすれば言いがかりも甚だしい。
雪は先述の二つ以外にも、並外れた洞察力や並列思考など、持つものが少ない特殊技能を平然と、高い練度で行使している。でなければ、これまでの戦いで何度もデスペナを被っているだろう。
ただ、並列思考などは柊和の方が高い練度でこなす。アイリスが言わなかった理由がそれだ。
仮に知人にプロの野球選手がいたとすれば、誰だってその知人をさて置いて他の知人を「野球が上手い」とは言わないだろう。そんなものである。
(···武技を使ったら後々で絶対イジられるよねー······。でも、ここで負けるよりマシかなー?)
このまま防ぎ続けても状況は好転しない。かと言って、下手に攻めれば返り討ち。そこで、リオンはアーツの使用を解禁しようかと悩む(禁止されていないが、ハンデの為に使わないでいた。他の十二英傑も同様)。
スノウはリオン以外とも結界内で何度か手合わせしており、一度も勝ったこともなければ、一度も相手にアーツを使わせたこともない。記録から見れば惨敗だが、実はアーツ無使用ではスノウに勝つのが段々難しくなってきていた。
アーツ無使用以外にも、ハンデとして障壁の許容ダメージ量をスノウと相手で等量に設定しているという理由もあり、高いVITとMNDを活かせずスノウよりAGIが低いイスファ、ミネルヴァの二人が、VITもMNDも低いがAGIは高いスノウに対し、前から苦戦しやすい傾向にあった。
ステータスのバランスで言えばパンツァーも似たようなものだが、そもそもパンツァーは戦闘が本業だ。技術の練度でAGIの差はある程度カバーしている。
問題なのはミネルヴァだ。ろくに武器を振るった経験がなく、戦闘手段は多少の魔術と自作の魔導具しかないため、近距離戦闘となるとスノウがミネルヴァを圧倒する光景は珍しくない。
それでもなんとか距離を取って勝ちを収めているのだが、ミネルヴァ本人は「今の力ではもうスノウさんと戦いたくないです······」と嘆いていた。
ミネルヴァがそうやって戦闘から逃げようとするため、あまりに腕が鈍らないようにと身内がスノウとの手合わせをセッティングしたことを彼女は知らない。
閑話休題。
ここまで長々と説明はしたが、これは邪神との戦いの前の話だ。亜神化したことによってステータスもスキルも大幅に強化されたスノウが相手となると、AGI重視のステータス構成のリオンやカンナでもアーツ無使用では厳しいものがある。
十二英傑で初めてスノウに敗北した時にどれだけイジられるか、十二英傑で初めてアーツを使用した時にどれだけイジられるか。どちらの方がよりウザく煽ってくるかを予想し、少しでもマシそうな方を選ぶ。
「ごめんねスノウ。ちょっと手加減緩めるよ」
「えっ」
「〈幻惑歩法·舞霞〉」
リオンが一歩踏み出した瞬間、スノウの視界からリオンの姿が消える。
いきなりの出来事に呆気に取られたスノウの背中に、バシッと軽くない衝撃が走る。スノウが振り返ってもそこには誰もおらず、また背中に衝撃が走る。
背中を警戒すれば横腹を殴られ、横腹を警戒すれば足払いをかけられる。
現れては消えるリオンにいいように翻弄されるスノウ。
リオンの呟いたアーツ名から効果を推測し、己の両目に魔力を集中させるスノウ。魔術による隠蔽なら、スノウの眼で見抜くことができる。
しかし、スノウの眼について知っていたリオンはそれを逆手に取る。魔力を視るスノウの眼には、リオンと思わしき魔力の塊が二十ほど映っていた。囮だ。
スノウは本物と偽物を見分ける余裕はないと割り切って、全ての魔力をターゲットし、氷属性の『魔弾』を放つ。
デフォルトより少し高い弾速に設定された『魔弾』が全ての魔力塊を貫き、その尽くが霧散する。
直後、スノウの至近距離で魔力が発露。スノウが咄嗟に『魔纏』の属性を鋼属性に切り替えるとほぼ同時にリオンの拳がスノウに突き刺さる。
「ハァッ!」
「ぐっ!?」
一連のリオンの猛攻でスノウに付与された障壁の耐久値が四割を下回った。リオンの障壁はまだ八割ほどだというのに。
痛打を受けて体勢を崩したスノウに止めを刺すべく接近するリオン。
スノウは【身体操作】で髪を操り、自身を覆い隠す繭を作った。
(そんなんで防げると思ってるの······っ!?)
防御ごと殴り壊してしまおうと【魔闘術】の準備に入ったその時、リオンはスノウが張った罠の存在に気付いた。
◇◆◇スノウside◇◆◇
リオンはボクがやろうとしてることに気付いたようで、拳に集めていた魔力を散らして今度は足に魔力を集め始めたのをボクの眼が捉えた。足に魔力身体強化を施して跳躍するつもりだろう。
さて、間に合うかな。
【身体操作】への魔力供給量を増やして一時的に毛量を激増させ、毛先を全方位に向ける。『魔纏』を鋼属性単独から〈複合魔法〉の鋼属性と雷属性の二属性へと変更。
鋼属性により硬化し、雷を纏ったボクの銀髪が数多の槍へと姿を変え、全方位に突き出される。
「〈百雷角〉」
手応えが軽い。直撃はしなかったらしい。
【身体操作】を一度解除して上空のリオンを見据える。
「リオンには一度も見せてなかったからいけると思ったんだけどな!」
「似たような技を見たことがあるからねー!」
地面から飛び出した巨大な土属性の『精霊槍』はリオンの拳とそこから巻き起こる風にあっさりと砕かれる。あれは〈風華〉······いや、霊力が無いから【魔闘術】か。こちらのエクストラスキルを汎用スキルで相殺できるということは、それだけステータスや技術に差があるのだろう。
んー·········ステータスを強化するスキルはまだあるけど、例の如くエメロアには「人前ではホイホイ使わないように」って止められてるんだよねぇ。
リオンがアーツを使い始めた以上、今よりステータスを強化しなければ勝つことはできない。が、ここで無理して勝つ必要もない。今のステータスでやれる所までやってみよう。
~しばらく後~
はい、やっぱり負けました。
自分よりステータスも技術も高い相手にどう勝てと·········?
まぁ、前よりは苦戦させられただろうし、今回はやっと相手にアーツを使わせることができた。通常攻撃だけで負かされていた頃よりは成長したのだ。
それに、体感ではあるが、ボクとリオンのステータス差がかなり縮まった。〈呪力身体強化〉と【混成魔法】の『魔纏』を併用したらもしかして勝てるかも?
コラそこ、「どうせ封印解いたら負ける」とか言わない。ボクも分かってるんだから。
手合わせを終えて皆の元へ戻って来たボクを、ヘリオス達がなぜかボクに憧れのような視線を注ぎながら取り囲む。
「スノウ!リオン様に武技を使わせるなんてすごいじゃないか!」
「さすが師匠。私達にできないことを平然とやってのける」
「前から強いと思っていたが、まさかここまでとはな!」
「す、すごいです···!」
「へ?え、何?」
「コイツらは複数人でかかって武技を使わせることなく負けたのよ。だからタイマンで使わせたアンタの実力の高さに感激してるってわけ」
そう言ったのは、ヘリオス達がワイワイ騒ぐのを遠目で眺めていたロネ。
言われてみれば、ヘリオス達との特訓でおじさんやカンナがアーツを使ってる光景を見た覚えがない。もっとも、ボクの場合、外で戦闘訓練してるより屋内で生産系スキルのレベリングしてる時間の方が長いからあんまりヘリオス達のことを見てないのだが。
「ちなみにロネは?」
「ユリアやリル達と組んで、ようやくね」
へぇ、ユリア達と。ロネにはパーティーで戦うようなイメージが無いから驚いた。
「······何か言いたいことでも?」
「イイエナニモ」
勘が鋭い。
「思い返せば、ロネの嬢ちゃんは初めて組む相手にしてはいい連携だったな。······嬢ちゃんも見習った方がいいんじゃねぇか?」
うぐっ。その言葉はボクに刺さる。
というのも、ボクが過去にユリア達四人と組んでおじさんと手合わせした時、散々な結果だったのだ。
主武器を斧から大盾に持ち替えて盾役へとジョブチェンジしたヴァルナや、純粋な後衛のユリアとは特に問題はなかったが、ボクがガンガン攻撃しようとしたせいでリルとイナバの邪魔をしてしまったのだ。
「嬢ちゃんは一人の時の方が強い」とはおじさんの評価である。
今までやったことあるゲームでも、他のプレイヤーと協力した経験がほとんど無いんだよねぇ。
そもそもボクがよく遊んでたゲームが世界○の迷宮だったり、ミート○アだったりと一人用が多いのだ。モン○ンもよくやってたけどほとんどソロだったし。もしくは現実の知り合いとだけ。それも、役割分担など存在せず、各々が好き勝手に行動するという、協力の二文字とは程遠いプレイ風景だった。
数少ない多人数用ゲームにしても、桃○やマリ○カートなど対決系が九割以上。あとはちょびっとだけマイ○ラしたり。で、VRに触れたのはこのゲームが初めて。
当然の結果だったりする。
「連携訓練、しないとなぁ」
「ずっと屋内だったし、丁度いいんじゃない?」
「やっとおかーさんと一緒に訓練なのー!」
「···楽しみ」
「ビシバシ行くのです!」
いや、イナバは指導役じゃないでしょ。
「この講習の〆として、月末に街の外で実戦じゃ。それまでには仕上げておくのじゃぞ?」
「マジで?」
「マジじゃ」
え、いつそんなこと言ってた?
ボクの呆けた顔を見て、ロネがポン、と手を打ち合わせる。
「あぁ。そういやアンタ、初日に遅刻してたわね。あの日に夏期講習の流れの説明があったのよ。実戦も最後の方にあるって言ってたわね」
何故それを誰も言ってくれない。




