第六十五話 束の間の平穏(前編)
はい、機種変とか色々あって今回も大分遅い投稿になった姫河ハヅキです。
あれ、夏休みのはずなのになんで忙しいんだ······?これが噂に聞く「受験生の夏」なのか?
そんなわけで、休みとはいっても投稿ペースは上がりません。ごめんなさいm(_ _)m
「眠い······」
「寝たらどうだ?」
三連休が終わり学院の夏季短期講習が再開した。学院の敷地内にある鍛冶用の建物でイスファに鍛冶を教わっている時に、ある理由で昨日夜更ししたボクはつい欠伸をしてしまう。
「いや、一流の鍛冶師に教わる機会なんて滅多に無いんだから起きようかな」
「オレ以外にも一流の鍛冶師はいるだろ?」
「ボクはその人達の名前も顔も知らないし、たとえ会ったとしても初対面のボクに鍛冶を教えてくれるとは思えないよ」
「なるほど。ただ、ちゃんと話を聞いてるのか不安なんだが」
「安心して。これでもちゃんと聞いてるから」
イスファはボクの手元を見て、腑に落ちないと言いたげな表情を浮かべながら頷いている。
「······確かに手元はしっかりしてるな。教えたことも実践してるし、特にミスもない。なんでだ?」
「この三日間で色々あったからねぇ」
邪神との連戦とか、邪神化とか神化とか色々あり過ぎたよねぇ。そのせいでレベルもスキルレベルもおかしいくらい上がったし、果ては種族があんなことに······。
「まぁこの三日間は濃密って言葉じゃ済まないくらい濃密だったから······って、まさかそういうことか?」
あ、気付いたっぽいね。
「スノウ、今のお前の種族って」
「亜神だよ」
「······やっぱ邪神化と神化が原因か?」
「うん。一つだけならともかく、二つも神格を得たら最低でも亜神化は避けられないって」
ヘルプによると、亜神化、もしくは神化した時、その時に獲得した神格が持つ権能に対応するスキルが一段階進化するそうだ。
例えば、武神や戦神系統の神格を得た人は戦闘系スキルが進化したり、火神や風神などの神格を得た人は魔術系スキルが進化したりだね。
「鍛冶技能が強化されたってことは、お前が獲得したのは鍛冶神の神格だろ?」
「違うよ」
「憤怒の異能と蒼竜王の権能を受け継いでるからどっちかだと思ってたんだが······え、違うのか?」
「違うよ」
ボクのスキルはステータス強化系スキルを除いたほぼ全てのスキルが進化している。というのも、どういう神格を獲得してもその手のスキルは進化しないのだ。
「えっと、聞いていいか?」
「別に隠してないから構わないよ。ただ、どういう神格かって聞かれると答えにくいんだけどね」
「どういうことだ···?」
「多分、種族を言った方が早いよね。······今のボクの種族は混沌竜。亜神の混沌竜だよ」
「混沌だぁ!?」
鍛冶作業をしながらボクと駄弁っていたイスファだが、ボクの種族を聞いて手に持った鎚を振り下ろすのも忘れて叫ぶ。
亜神になりたてホヤホヤのボクには分からないが、どうも混沌の神格は驚いて叫ぶくらいには希少らしい。
「混沌ってそんなに珍しいの?」
「珍しいどころじゃねぇよ。混沌の神格を持った神は滅多にいないし、邪神も同様だ。ニャルラトホテプが確か持ってたが、アイツは討伐したんだろ?」
へぇ、あのエロダコが混沌の神格を持ってたんだ。······あの変態と一緒って嫌だなぁ。
『ほぉ、小娘なら我の異能を受け継ぐのに相応しいかもしれんな』
ねぇ!聞こえるはずのない声が聞こえたんだけど!?アイツ死んだはずだよね!?
『クックック·········』
思わせぶりな笑いはやめてぇ!
「どうしたんだ?」
ニャルラトホテプの幻聴(?)に悶えて身をよじらせているボクを心配したのか、イスファが下からボクの顔を覗き込む。
「いや、幻聴みたいなのが聞こえてさぁ」
「······それ本格的にまずくないか?」
大丈夫、多分。
あ、色々と予想の斜め上を行くような成長を果たしたボクの現在のステータスがこんな感じ。
スノウ:亜神(混沌竜)
Lv109
HP 4500 MP 16930 AP 5000(×1.7)
STR 1710 INT 1695
AGI 1500 DEX 2400
VIT 100 MND 100
LP0 SP905
称号《□□竜ノ娘》
効果:??? INT+800 MP+10000
断罪 魂析眼
状態:封印状態 弱体化中
《■■竜ノ娘》
効果:??? STR+800 AGI+400
叛逆 強制従属
状態:封印状態 弱体化中
《物好き》
獲得条件:戦闘系、魔法系、生産系
のスキルをそれぞれ五つ以上習得し
ていること。
効果:全てのアーツ、魔法、生産技
法の消費MPが一割減少。
《古代竜の叡智》
獲得条件:□□、または■■の血脈
を継承していること。十二種類以上
の魔法を習得していること。
効果:INTとMPに+50%の補正。魔法
の消費MP一割減少。新たな進化先
が解放。
《万能の才》
獲得条件:?????·??·??
·???·?·????の血統を継承して
いること。
効果:天性の才覚 世界の開拓者
《竜王》
獲得条件:竜王の神格を一つ以上保有
していること。
効果:竜に対する絶対優位
スペリオルスキル
蒼竜王
カラミティスキル
憤怒の暴虐竜
エクストラスキル
真·竜魔法
精霊交信
世界樹の加護
淫乱竜
仙闘術
精霊術
瘴気適応
身体操作
魔力制御
霊力制御
種族スキル
竜鱗
竜言語理解
竜眼
飛行
威圧
汎用スキル
上級爪術Lv1
上級格闘術Lv1
魔導Lv34
召喚術師Lv1
熟練槌術Lv1
熟練短剣術Lv1
熟練投擲Lv1
怪力Lv11
俊敏Lv21
精妙Lv9
術理魔法Lv1
豪炎魔法Lv1
爆破魔法Lv1
暴風魔法Lv1
雷轟魔法Lv1
流水魔法Lv1
氷結魔法Lv1
土壌魔法Lv1
銑鉄魔法Lv1
閃光魔法Lv1
陰影魔法Lv1
浄化魔法Lv1
闇黒魔法Lv1
古代魔法·時空Lv21
古代魔法·思念Lv17
家事魔法Lv1
調合師Lv1
錬金術師Lv1
法陣術師Lv1
鍛冶師Lv1
中位料理人Lv1
付与術師Lv1
歌唱Lv24
魔力自動回復Ⅶ
はっはっはー。どうだ、強いでしょー。
······前からだったけど、どんどん他人に見せられない要素が増えてるなぁ。最初は称号が異常に多いからという理由で、その後は汎用スキル、エクストラスキルが共に異常に多いからという理由で。
今度はスペリオルスキルにカラミティスキルかぁ。掲示板でも攻略サイトでも一度も見たことがない。目撃情報どころか、存在すら知られていないみたいだ。
ちなみに、今の画面には表示されていないが、ボクの種族である亜神は第五階位種族らしい。進化前の魔導竜は第三階位種族だったはずなんだけどな。なんで第四階位種族を飛ばしたの?
そして《古代竜の叡智》ェ······。
この混沌竜、絶対お前の効果じゃないでしょ。いつ新たな進化先が出るのかなー?
また、《□□竜ノ娘》と《■■竜ノ娘》は効果四倍になっているうえ、スキルも二つずつ獲得している。めっちゃ強化されてんじゃん。VITのマイナス補正がなくなったのは地味に嬉しい。
というか、名称しれっと変わってない?まぁいいや。スキルを確認しよ。
なになに······。
断罪
邪神に対する特攻、特防を獲得。
魂析眼
対象の魂を見抜くスキル。
親愛や憎悪などの感情を読み解くことが可能で、熟達すれば詳細な読心も可能になる。
叛逆
神に対する特攻、特防を獲得。
強制従属
自身と縁のある下位存在を強制的に従属させるスキル。従属させる条件は割と厳しい。
【断罪】と【叛逆】はパッシブスキルで【魂析眼】と【強制従属】はアクティブスキルと。前三つはともかく、【強制従属】だけはなかなか使い所が無さそうなスキルだねぇ。強制的に従わせるとか趣味じゃないし。
称号の強化について触れるのはこれくらいにしておこう。
で、増えた称号は二つ。《竜王》と《万能の才》。《竜王》を獲得した経緯は明らかで、どう考えても【蒼竜王】だろう。しかし、《万能の才》はなんで獲得したのかが不明だ。獲得条件に「誰々の血統~」って書いてあるけど、ご先祖様に偉人がいるなんて聞いたことないんだよね。
まぁ、ゲームシステムがボクのご先祖様を知ってるわけないし、獲得条件を知らぬ間に達成しただけだろう。
効果だけ確認しとこ。
天性の才覚
種族レベルの成長速度上昇。
全スキルの成長速度上昇。
世界の開拓者
全スキルの習得難度低下。
独自武技の開発難度低下。
··········································oh。
この称号おかしくない!?成長速度がどれくらい上がって、習得難度とか開発難度がどれくらい低下するのかはともかく、この二つのスキルを同時に習得できるとかヤバくない!?あと独自武技って何!?
運営ちょっと表出ろコラー!ゲームバランスを考えろ!あと称号の獲得条件厳しくしないとダメでしょ!ボクみたいに偶然に偶然が重なって称号を次から次へと獲得するプレイヤーもいるんだからね!?
隠者の腕輪ってスキル以外も隠せるかなー······あ、できるみたいだね。
さすがに種族を隠すと不自然だから、隠すのは称号とスキルだけかな。前から隠してるスキルはそのままで、称号は《竜王》と《万能の才》、スキルは、スペリオルスキルの【蒼竜王】とカラミティスキルの【憤怒の暴虐竜】を隠そう。
隠すスキルや称号の数を多くすればする程隠蔽効果の性能が下がるから、これ以上は隠さない方がいいだろう。
「おい、武器はできてるのか?」
鍛造作業の手を止めてステータスや装備を弄くり回しているボクに気付いたイスファがいつもより少し強めの声音でボクを叱る。が、イスファは勘違いしている。ボクはサボってなどいない。
「終わってるよ。ほら」
「······速度も精度も前とは段違いか。こりゃ何ステップか飛ばしてもよさそうだな?」
「ステップ?」
「剣術にしろ魔術にしろ、いくつかのステップを経て、段階的に経験を積むだろ?生産も同じだ。武器の種類によって使う技術だとか難易度だとかが変わってくるから、普通はある程度の数同じ武器を打って、要点を掴んだと判断したらまた別の武器を繰り返し打って要点を掴む、って流れだ」
「そういうものなの?」
「そういうものだ。······にしても、随分と成長が早いな?」
「ははは···」
ボクにはぶっ壊れ称号の《万能の才》があるからねぇ。少しズルをしている気分なので、褒められると嬉しさより後ろめたい気持ちの方が強い。要点はイスファが動きでそれとなくヒントを出してくれるからすぐ分かる。
「あ、そうだ。イスファに相談したいことがあるんだった」
「なんだ?」
「夏期講習が終わったらどうしたらいいかな、って。ここの生徒じゃないボクは学院の施設を使えなくなるけど、イスファの教えは受けたいし」
「それなら簡単だ。お前がヴォロベルクに来たらいい。鉱山に行きゃ鉱石はたんまり手に入るし、オレ達の工房もある」
「ヴォロベルクね。どこにあるの?」
「あの家のダイヤル回したらすぐだが?」
このパターン何回目?
「夏期講習の後はどう過ごすか全く決めてなかったし、お願いしようかな」
「確か、異界では夏の休暇が終わるんだっけか?そのせいでこっちに来る時間も減ると聞いてるが」
「そうだよ。一週間の内休みは二日間あるけど···買い物とか用事とか色々あるからなぁ。基本的に夕方くらいしか来れないと思っといて」
「了解。ただ、オレから鍛冶を教わるだけじゃなくて、少しはミネルヴァの所にも顔を出してやってくれ」
「それくらい全然構わないというか、むしろ付与も錬金術もまだ習いたいことがあるんだけど。でもどうして?」
「前にも話したと思うが、ミネルヴァは人見知りでな。子供はともかく、成人くらいの年齢相手だと、見知らぬ奴とはほぼ話せねぇ。お前からしたら師弟の関係でも、ミネルヴァからしたら数少ない友人なんだよ。お前入れても十人いないんじゃねぇかな。·····いや、五人いるか?」
さすがに少な過ぎじゃない!?
「十二英傑のメンバーとは喋れるんでしょ?それなら五人は確実にいるよね」
「あいつらはなぁ······」
イスファは遠い目をしながらポリポリとお頬を掻く。
「オレは家族だから友達とは別枠だし、パンツァーとエレクトラは目上の人って認識らしい。アリアは高飛車だからミネルヴァは苦手意識持って近づかないだろ。エヴァンにチェルシー、シャーロットは会った回数が少なすぎて知り合いかどうかも怪しい。あとアルマとアビゲイルは変態だからオレが近づかせない」
ミネルヴァと友人関係にありそうなのは、エメロア、リオン、カンナ、あとネムって人だけっぽいね。確かに五人もいない······。
あと、ボク的にはエメロアも変態枠なんだけども。よく悪戯をするから。
「十二英傑以外には友達いないの?」
「いねぇ」
んなバッサリと。
「幼少期は修行ばっかだったんだよ。なんせあの頃は普人至上主義の最盛期でなぁ」
そういう世界観のラノベも読んでるから大体の状況は分かる。「全ての亜人は普人に平伏すべき」だとか、「我々が一番優れた種族」だとか言うんでしょ?
ったく。寿命も短いし何の取り柄もない器用貧乏な種族のくせに何様なんだか。
「それなら外は出歩けなさそうだね」
「当然の如く他の種族の怒りを買ってその人族の国は滅ぼされたんだが、その頃にはオレもミネルヴァも今と同じくらいまで生産の腕を上げててな。弟子入り志望の同族以外だと、オレらの評判を聞いてすり寄ってくる奴しか来なかったんだ」
ミネルヴァの友人が少ないのは彼女の人見知りも理由の一つなのだろうが、そもそも友人を作る暇が無かった、というのが一番大きい理由だろう。話を詳しく聞いてみると、イスファ達は同じ種族、その中でも同じ職種のドワーフとしかほとんど話さなかったそうで、それがミネルヴァの人見知りの由来のようだ。
つくづく余計なことしかしないな普人族。
「あんな風に子供と話すのが精一杯なわけだ」
イスファの指差す先を見てみると、壁にある小窓から、アナちゃん用と思わしき魔導具を何やら調整しながらアナちゃんと楽しそうに談笑するミネルヴァの姿が見えた。
······子供なら王族でも大丈夫なのか。
それにしても、あれってどう見てもマイクにしか見えないんだけど。
「どうした、ミネルヴァが調整してる魔導具が気になるのか?」
「魔導具の機能より見た目がね。あの形状、どこで知ったのかな」
「どうもアイリスから聞いたらしい。あの娘の属性魔法にはあの形状がぴったりなんだとか」
なるほどねぇ。あの魔力の色はそういうことか。
「ところでさ、そういう情報ってペラペラと話していいの?」
途端に「あ、ヤベ」とでも言いたげな表情を浮かべるイスファ。守秘義務はどうした。
「······オフレコで頼む」
「······いや、うん。頼まれずとも漏らす気はないけどね」
「············」
「············」
「······一旦作業終わって、戦闘訓練でもすっか」
「······はーい」
◇◆◇◆◇◆◇
「あれ?今日はずっと鍛冶の予定じゃなかったっけ?」
「よ、予定変更だ。生産は十分鍛えられてるから、戦闘力を高めた方がいいと思ったんでな」
「ふーん?ま、いいけど」
外へと出ると、ミネルヴァはアナちゃんの魔導具の調整を、おじさんはユリア達四人との打ち合いを、カンナはひたすら木刀で攻撃してメルの防御訓練を、リオンはフィロとのタイマン組み手といった具合に十二英傑の面々がそれぞれ違った手法でヘリオス達の訓練を行っているところだった。
ロネはリュミナとの試合のようだが······リュミナがロネの攻撃を掻い潜ると、攻撃ではなくロネの脇腹や背中、足などをさするので中々に疲労が溜まりそうな訓練だ。ご愁傷様です。
ボク達二人にいち早く気付いたリオンが鋭い一撃でフィロを吹っ飛ばし、こちらへと近づいて来た。
「スノウはどうする?誰と戦いたい?」
「いや、誰も何もイスファ以外いないでしょ。リオンもだけど皆、他の人の指導中じゃん」
「アタシはそうでもないよー?そろそろ休憩しないとフィロが倒れそうだし」
「もう無理······お願い、だから、休ませて·········」
息も絶え絶えになりながら懇願するフィロ。敬語も忘れるってどれだけ疲れてんの?
「······何してたの?」
「休み無しの組み手十本勝負」
「そりゃこうなるわ」
後半五戦はろくに動けなさそうだなぁ。
「で、誰と戦う?」
「じゃあリオンと戦っとけ。戦闘スタイルが似てるし、色々と経験になるだろ」
「自分が戦うのが面倒だからじゃないよね?」
「······そ、そんなことねぇぞ?」
こっち向きなさい。顔を逸らしながら言っても説得力は微塵もないんだから。
「皆が思う程、ボク達の戦闘スタイルって似てないよね」
「まぁねー。格闘術が共通してるってだけだし」
リオンは純粋な前衛。
ボクは近接も中、遠距離もこなす遊撃。
結構違うんだよね。
「アタシ達が手合わせすると周りの被害デカそうだよねー。エメロアに頼んで結界張ってもらおー」
リオンの言う結界とは、学院の夏季講習の一次試験で使用された魔導具のことである。結界内の人物を魔力体に換装するため、死ぬことなく実戦に匹敵する経験を積むことができる非常に便利な代物である。
また、お互いに与えたダメージを測定する、防御機能のない測定専用障壁という機能もあるのでどの部位にどのような攻撃がどれだけの勢い・威力で命中したのかなどが細かく判定できるのだとか。もしくは障壁に擬似的な耐久値を設定し、その耐久値が無くなれば自動で結界が解除されるなんて芸当も可能である。
その魔導具の開発者がエメロアとミネルヴァで、ミネルヴァは作業中なため、エメロアに声をかけようとしたのだが······エメロアどこ?
さっき見回した時には、エメロアは誰の訓練もしてなかったはずなんだけどな。
面倒くさがりだから外からは不可視の結界を張ってサボってそう。予想通りだと、このまま普通に探しても発見は難しいだろう。
そう思ったボクは両目に魔力を込めて再び周りを見回す。
竜人が持つ種族スキルの【竜眼】。パッシブスキルらしく、自然体で人が持つ属性や大抵の結界を視認できるのだが、魔力を目に込めるとその機能がさらに強化されるのだ。
掲示板を見る限り、ベータテストではそんな仕様ではなかったらしい。ベータテストでは竜人を選んでいたが、当時の不遇な状況に嫌気が差して本サービスの時に他の種族に変更したプレイヤーが多いせいで、竜人についての情報が出なくなったのかもしれない。
誰もネットにアップしてないということは、竜人を選択している人はこの情報を隠したいということだろう。ボクが勝手に公開しちゃうのはまずいよね。
と、エメロアが張ったと思わしき結界を発見した。外から中の状況は見えないので、入ってみるしかない。多分だが、隠蔽性を重視して防御性能は無いも同然だろう。
案の定、触ってみると大した抵抗もなく通り抜けた。そのまま内部に侵入する。
結界内には意外にも、エメロアだけでなくフレイとミオナもいたのだ。もっとも、この結界内部にも外側と同様の結界が張ってあるらしく、現在はミオナと、フレイとエメロアの一対二で隔離されているようだが。
近くにいたミオナに声をかける。
「ねぇミオナ。中で何やってるの?」
「師匠!?」
そんなに驚かなくても。
「エメロア様は、外部からこの結界を発見できるのは十二英傑くらいだとおっしゃっていたのに······!」
マジで?
「気が抜けてたんじゃない?結局、中で何してるの?」
「エメロア様に限ってそんなことは無いと思うけど······」
ミオナによると、結界内部では交代でフレイの血統魔法とミオナの固有魔法の練習を行っていたらしい。
血統魔法とは、各国の王族や一部の貴族においてのみ発現する、一族固有の魔術。血統魔法が発現した者が次代の当主となり、発現しなかった者には継承権が与えられないという、何とも理不尽な掟のようだ。
攻撃魔法だったり防御魔法だったり、珍しいのだと転移限定の空間魔法だったりと血統魔法にも色々あるのだが、総じてどれも、普通の魔術で同じことをやった時より消費魔力が少ないらしい。
貴族家の当主はなかなか時間が取れないため、魔術のエキスパートであるエメロアが監督を務めているのだとか。エメロアでもさすがに血統魔法は使えないが、魔力操作については一流の中の一流だ。他人の魔力も強引に操作することもできるので、術式の制御を教えるのに適任というわけだ。
「師匠は何しにここへ?」
「エメロアに用があってね。さて、どうやって入ろうか」
とりあえず『念話』でアポ取ろう。さすがに事前連絡なしで突撃するのはマナーがなってないからね。
え?さっき結界に入ったのは無断じゃないかって?
忘れてました。
『エメロアー。入っていいー?』
『いきなり入ってきたと思ったらおぬしか······。どうやって見つけた?』
『目で見た。ところで入っていい?』
『そういうことを聞いてはいないのじゃがな!入れるもんなら入ってみい!』
あれ、若干怒ってる?
まぁ許可は貰ったのでいざ突撃。
······外側のとは違って通り抜けはできないな。でも、結界内部は転移妨害されてないし、結界にそこまで厚みはない。これなら転移すればいける。
つい最近習得した転移魔法を発動して結界の内部に移動する。って危なぁ!?
転移した瞬間に目の前から炎が迫ってきたので、急いで『魔砲』で上空へと退避。
ん?ただの炎じゃないなこれ。フレイが炎?炎がフレイ?
あぁ。カンナの『転魔:雷鳴』と似た魔法か。術式は属性以外も所々違うけど。
「「スノウ!?」」
いきなり現れたボクに対し、二人の口から驚愕の叫びが漏れる。
フレイはともかく、エメロアもボクが転移魔法使えるって知らなかったっけ。というか、フレイはその状態で声帯どこにあるの?
この後、転移魔法が使えるようになったことや、エメロア謹製の不可視結界をどうやって見破ったのかということを言及され、かなりの時間を結界内で浪費することになったのであった。




