第六十三話 邪神討伐編·終幕③
はい、中間考査の結果にホッと一息ついていたらただでさえ亀より遅い投稿速度がついに髪の伸びる速度より遅くなりました、ハヅキです。
あ、人に自慢できる程高くなく、ネタにできる程低くもない、何の面白みもない順位ですので言いません。
え?聞いてない?ですよね。
いきなり話は斜め上の方向にかっ飛びますが、ペンネームを少し変えようかと。カブってたので。
候補としては「ハヅキ」→「姫河ハヅキ」です。何か意見があったら感想で言ってください。
いつも感想書いてくれる人は何か反応してくれるかなー、(/ω・\)チラッ
無反応だったら悲しいなー、(/ω・\)チラッ
はい、調子に乗りました。前書きムダに長くてすいませんm(_ _)m
「さて、仕切り直しだ!」
ネプテューヌが腕を振るうと、それによって生み出された不可視の攻撃にスノウが被弾して多少よろけるが······それだけだ。その行動が戦況の仕切り直しになるとは到底思えない。
暴走しているはずのスノウも、攻撃を食らったのに傷一つない己の身体を見て首を傾げている。
「···おい、これのどこが仕切り直しだ?」
「あれだけカッコつけておいて、これだけ?」
傷の治療を終えたカンナとイスファにジトーっと冷ややかな目で睨まれるネプテューヌだが、そんな二人に対してやれやれと言いたげな様子で首を振る。
「私はスノウにダメージを与えようとしたわけじゃない」
その言葉と同時に、アルマ、リオン、リュミナを迎えに行っていたエメロアが転移魔法で帰還する。
「遅れてすまぬ!誰が転移妨害の結界なんぞ張りおった!?」
「スノウちゃんです!」
「スノウ!?いつの間に結界術を習得しておったんじゃあやつは······!」
「ところでパンツァーは?アタシ達の中で一番強いよねー?」
「パンツァーならあそこでずっと硬まってるぞ。ヘレナヘレナ繰り返すだけで、全く使い物になりゃしねぇ」
「あの阿呆······。リオン、何発か殴ってこい。全力でな」
「オッケー」
「GAAAAAAA!」
「やらせんよ!」
「GURUAAAAA!」
「私達を無視してリオンを狙うだなんて、いくらスノウちゃんでも自惚れすぎじゃないかしら〜?」
パンツァーの元に向かうリオンを狙って放たれた魔術は、その全てをエメロアが撃ち落とし、突如伸びてリオンを貫かんとした黒髪はアルマの鞭に弾かれる。
「······相殺か。かなり強化されているようじゃな」
「私の方もそんな感じね〜」
本来のステータスには及ばないが、それでも並のAランク冒険者では歯が立たないステータスを持つエメロア達。覚醒したての【憤怒】でそんな彼女達と拮抗する程に強化されたスノウを見て驚愕する十二英傑。
普通のスキルであれ、エクストラスキルであれ、ユニークスキルであれ、果ては神の権能や邪神の異能でも、最初から完璧に使いこなせる道理はない。何事も修練が必要だ。
しかしスノウは、【憤怒の暴虐竜】を獲得してから半日足らずで十二英傑と渡り合える程にこのスキルを使いこなしているのだ。
「耐性獲得や再生速度も異様に速い。そろそろ私の攻撃が権能無しだと通じなくなる」
「半日も経っておらんのに耐性獲得までするとは何事じゃ!?さすがに異常事態が過ぎるぞ!」
ステータスの極大上昇やHP、MPなど各種リソースの自動回復は【憤怒】が覚醒したてでも備えている能力だ。しかし、相手の攻撃を受ける度にその耐性を獲得する能力を今の時点で保有しているのは異常だ。
歴代の【憤怒】の所持者は【憤怒】に覚醒してから数年、十数年は経ってからその能力を発現している。それこそ初代の所持者でさえ、その能力を発現させるのに一年は要していた。
それは才能が成せる業。
百年に一人、千年に一人では済まない程の【憤怒】に対する適性。かつて【憤怒】を覚醒し、世界に破滅と絶望をもたらした歴代の所持者を鼻で笑い、彼らの中でも最も【憤怒】への適性があった者でさえ足元にも及ばない、圧倒的なまでの【憤怒】を使いこなす才能がスノウにはあった。
歴代の所持者が何年もかけて自らの魂と【憤怒】を馴染ませ、一つずつ発現させたその能力をスノウは初めての覚醒で全て発現させている。
「戦闘でも生産でも器用だとは思ったが、まさかこんな才能もあるとはなぁ」
「スノウちゃんは芸達者ね〜」
「むぅ。やっぱり私のメイドにしたい」
「あ、あの···。そんなこと言う状況じゃないと思います······」
エメロアがリオン達を連れて戻って来るまでの暗い雰囲気が消え去り、誰からともなく和気あいあいと言ったムードが流れ始める。エメロアとアルマの中·遠距離コンビと前衛のカンナの連携によってスノウをほぼ完封できているため、どうにも緊張感が削がれてしまっているのだ。カンナに至っては、スノウと打ち合っているはずなのに軽口を叩く余裕がある程である。
また、今のスノウにはほぼ斬撃が効かなくなっているため、カンナは武器を木刀に持ち替えて戦っている。ちなみに世界樹製の木刀なのでそこらの金属よりは硬く、武具に加工し得る大抵の素材よりは魔力伝導性が高い一品である。
「さて、ここからどうするかのう?誰も魂に関する権能を持っておらんのが問題じゃな」
「まぁ、魂に関する権能って結構希少だからな。さすがにそんな魔道具はオレ達も持ってねぇし作ってねぇ」
「······一か八かで斬り離す?」
スッ、と目を細めたカンナから沸々と神気が湧き出始める。武神としての権能の封印を解こうとしているのだ。
それを止めたのは、一人の男の声だった。
「ダメだ。今の嬢ちゃんから無理矢理【憤怒】を引き剥がすと嬢ちゃんが危ない」
リオンに殴られて正気を取り戻したパンツァーだ。余程の力で殴られたのか、服は土や砂で薄く汚れており、頭部からは少し血が垂れている。
「···パンツァー」
「すまん。足を引っ張った」
「足引っ張ったで済むか。オレ達の力不足もあるとはいえ、ミネルヴァが死にかけたんだぞ」
「·········すまん」
「······はぁ。今度とびっきりの酒を呑ませろ」
「あぁ。すまんな」
「で、パンツァーよ。斬り離すのを止めるということは、何か代替案があるんじゃろうな?」
エメロアの質問を聞いたパンツァーが途端に渋い顔をする。
「······まさか無いとは言わんじゃろうな?」
「いや、あるにはある。ただ、その案を実行するには色々足りねぇ」
「それは無いと同義じゃろうが!」
エメロアがパンツァーを叩こうと杖を振り上げた時、その杖をアイリスが掴んで止めた。
「······ぬ、アイリス?おぬしはネプテューヌ達と一緒にノアに送ったはずじゃが?」
「いやー、実はあの時、ちょっと色々あってなぁ」
「ちょっとなのか色々なのかどっちじゃ」
「掻い摘んで話すとな······」
◇◆◇しばらく前、アイリスside◇◆◇
『うむ、ならばスリーカウントで転移させるぞ。···3···2···1···』
エメロアの転移魔法が発動し、結局ほとんど活躍できなかったな、と悔やんだその時、俺以外の全ての時間が停止した。
「······は?」
え、何これ。さっきまで激戦だったからってここに来て処理落ち?それともバグ?嘘だろ?
『···アイリスさん······今、貴方の精神に直接話しかけています······』
こいつ直接脳内に······!
『······おや、聞こえてないみたいですね』
お?俺が伝えようって思ったことしか伝わらないようになってるのか。だが、この推測が間違ってる可能性があるのでまずはお試し。
(ファミチキください)
『巫山戯ないでください······』
あ、伝わった。というか今のネタが通じるのか。
(伝わるかどうかが分からなかったから適当に言ったんだよ。あとアンタ誰?)
『私は、今暴れているあの子の父親です』
(どう考えても詐欺師です。本当にありがとうございました)
『何か誤解を抱かれている気がします!』
(誤解もクソもないだろ。俺がスノウの父親だ。さっさと引っ込め偽物)
『あの······』
(帰れ帰れー)
『どうか話を······』
(早く俺を解放しろこの犯罪者ー)
『人聞きの悪い!』
(拉致監禁遺体遺棄ー)
『やりませんよそんなこと!お願いですから私の話を聞いてください!結構この状態を維持するの辛いんですよ!』
(あ、この時間停止アンタだったの?)
『分かってて聞いてるでしょう!?』
(ほらー。話をするなら早くしろよー)
『長くしてるのは貴方でしょうが!······はぁ、はぁ、はぁ············。コホン、私の娘というのは、現在貴方の娘と身体を同じくしています。今、貴方の娘さんの肉体には貴方の娘と私の娘、二つの魂が存在しているのです』
(なんでそんなことに?)
『それは私も分かりません。ただ、あの暴走状態が長く続くと良くないことが起きるのは想像がつくでしょう?』
(まぁ、な。あれが良い影響を与えるなんざ考えられない)
『そこで、貴方に一つ頼み事をしたいのです』
(どこからやってるかは知らんが、時間とか止められるなら暴走も解除できるんじゃないのか?)
『私はあれ以上の暴走を食い止めるのに精一杯でそこまでは手が回りそうにありません』
(······あれ以上があるってのか?)
『えぇ。私の娘が内側から、私が外側から抑えているからあれで収まっているのです。しかし、そう長くは続かないので貴方に解決してもらいたい』
(俺にそんな力は無い。他の奴を当たってくれ)
『その為の権能は私が与えます。あ、返却は不要ですし、この一件が終わった後も自由に使っていただいて構いません。権能が前払いの報酬です』
(急に権能なんて与えられても使えるとは思えないんだが······。まず権能って何?)
『獲得すれば解ります。権能とはそういうスキルのようなものです』
(なるほどね······うん。その依頼を受ける)
『······驚きですね。信用できないと言われると思っていました』
(ただの勘だ。俺の勘が嘘ではないと言ってるんでな)
『勘、ですか。私が言うのもなんですが、勘なんて不確かなものに委ねていいんですか?』
(結構当たるんだよ。それに、お前からは嘘を吐く奴の気配がしない。まぁ、これも勘のようなものなんだが)
『信じてもらえるなら私に否はありません。権能と共に暴走を鎮める作戦も伝えます。···どうか、娘をお願いします······!』
(言われなくともやってやるよ。こっちも息子を助けるためだ。······そういや、お前スノウのことを俺の娘って言ったか?)
『えぇ、そうですが』
(スノウは男だ。俺も男だ)
『えええええ!?え、ちょ、それどういう······あっ時間停止もう解除しちゃ』
突如、時間の流れが元に戻る。それと同時に権能と権能を扱う知識、そしてスノウを助ける手段が頭の中に······ってこの作戦ネプテューヌ必須じゃねぇか!そういうのはさっさと言えよあの野郎!
権能を獲得したおかげでステータスは上がったが、時間停止のタイミングが転移魔法の発動直前だったから何か行動を起こすにはギリギリのタイミングなんだよ!!
「ちぃっ······!」
どうにかネプテューヌを回収して魔法陣から抜け出す。めっちゃギリギリだった······。
さて、ステータスは上がったとはいえ、元が低いから今のスノウとまともに戦える程じゃないんだよな。タイミング見計らいつつ隠れとこ。
◇◆◇そして現在◇◆◇
「大体こんな感じだ」
「よくおぬし初対面の奴を信じたな······」
「騙されてたら自殺でも何でもして被害は抑えようと思ってたから」
「なるほどのう。ところで、その不審者から与えられた作戦とはどのようなものじゃ?」
「んー、『多分パンツァーが考えてるのと同じ』って言ってたな。俺が獲得した権能とネプテューヌがいればその作戦を敢行できるとも言ってた」
「······何?」
アイリスの言葉に訝しげな反応を見せたのは、他でもないパンツァーだ。
パンツァーが考えていた方法は、特定の権能が必要なだけあってほとんど知られていないやり方だ。同じ方法を思いつくなど、パンツァーがかつて同じ方法である女性を救おうとしたことを知っている人物に他ならない。
「なぁ、アイリス」
「なんだ?」
「お前さんに接触してきた奴の口調はどんなだった?」
「えらく丁寧な口調だったな。あと、男だろうが、男にしてはかなり高い声だ」
「「「「「「「(お前が言うか······?)」」」」」」」
この瞬間、十二英傑たちの心は一つになった。今は緊急事態であるにも関わらず、全く関係ない事柄で今までに無いレベルでシンクロしたのだ。
······ただし、パンツァーを除いて。
アイリスから相手の特徴を聞いて、アイリスに接触した存在に勘付いたパンツァーから急に怒気が溢れ出す。
「っ!パンツァー!?」
「ゼウスの野郎······!今になってどういうつもりだ·········!!」
パンツァーから怒気と同時に溢れた魔力に触発され、スノウがパンツァーに襲いかかろうとする。
「······!GAAAAAAAA!」
「んっ···。ちょっとキツい」
今のスノウとカンナはステータスにあまり差がない。STRはスノウが上、AGIはカンナが上だが、他のステータスはどっこいどっこいと言った所だ。
そのため、スノウの行動に先んじての攻撃は可能だが、スノウがどこかに行こうとするのを阻止するのはカンナには厳しい。鍔迫り合いになるとどうしてもSTRの差で不利になる。
「このおバカ!」
ドゴン!
リオンの拳骨がパンツァーの脳天に落ち、パンツァーの頭が勢いよく地面と衝突する。
「さっきも言ったけど、今はスノウを元に戻すのが最優先でしょ!?ゼウスだか座椅子だか知らないけどさ、そんなのは後で考えなよ!」
「あ、あぁ······。すまん、リオン。また取り乱した」
「じゃあアタシはカンナに加勢するから!」
リオンはそう言ってスノウの元に向かう。カンナの負担を減らす為だ。
「スノウはアルマ、カンナ、リオンが食い止めておる。今の内に作戦を共有するぞ」
カツン······
エメロアが持っていた杖を地面に突き立てると、それぞれの頭の中にアイリスとパンツァーの作戦の内容が流れ込む。エメロアの【古代魔法·思念】によるものだ。
「······なるほどな。アイリスとネプテューヌがいればこの作戦ができる。だが···ネプテューヌ、お前はこれでいいのか?」
「これで、とは?」
「しらばっくれるな。本気でお前の竜王としての神格をスノウに渡す気なのかって聞いてんだよ」
作戦の内容は、スノウの暴走の原因であり、負のエネルギーである瘴気を大量に蓄えている【憤怒の暴虐竜】に対抗して、正のエネルギーである神気を蓄えている何らかの権能をスノウに与えることで、瘴気を神気で相殺する、というものだ。権能は神格と結び付いており、その二つを分離させるのは不可能である。
だが、己の神格を他者に譲渡するという行為は、神格を一つしか持たない神にとっては自身の消滅と同義であり、この作戦を遂行できるのはパンツァーとネプテューヌの二人だけだ。
「別に構わない」
「なんでだ?お前と嬢ちゃんにそこまでの縁や恩は無いだろ?」
「それはパンツァーもじゃないか?」
「ノアの中で待たせても良かったってのに、嬢ちゃん達をこの戦場に連れ出したのは俺だ。その責任は俺が取る」
「よく言うね。君の神格をスノウに与えても、沈静化するどころかさらに暴走する危険性があるのは君が一番分かっているだろう?」
「ぐぬ···」
「······これは長くなりそうじゃのう。ワシもリオン達と一緒にスノウを足止めしておくかの。アイリス、二人の話し合いが終わったら教えてくれ」
「あいよー」
ネプテューヌが持つ蒼竜王の神格が司る概念は「凍結」や「停滞」で、何かを落ち着かせたり、働きを弱めたりするのは得意な部類だ。
それに対して、パンツァーが持つ戦竜王としての神格は、「戦」の字の通り司る概念は戦い一辺倒である。むしろ士気や感情を高めたりなど、今のスノウには逆効果だ。
それが分かっているのでパンツァーはネプテューヌに言い返すことができない。
「それにね、パンツァーはさっき無いと言ったが、私はスノウに恩がある」
「なんだと?」
「君はその時いなかったから知らないだろうけど、スノウ達がニャルラトホテプを打倒してここに戻って来た時には私は瀕死でね。堕ちる寸前だったんだ」
「はぁ!?お前クラスの神が堕ちるって、どれだけの量の瘴気を叩き込まれてたんだよ!」
堕天。神が瘴気を、邪神が神気を多量に注ぎ込まれる、もしくは怒りや喜びなどの強すぎる感情によって、その存在の性質が反転してしまう現象。神として、邪神として上位であればある程堕天しにくく、その分堕天した場合には劇的にエネルギー量を増大させて堕天するのだ。なお、スノウを元に戻す方法がこれである。
ネプテューヌは大神レベルの神格を二つ所有しており、その片方である蒼竜王の神格は大神の中でもトップクラス。そんなネプテューヌを堕天させるのに必要な瘴気の量は計り知れない。
よくスノウはその量の瘴気を吸収できたものだ。もっとも、吸収した後に耐えきれなくなり暴走してしまったのだが。
「その危機を救ってくれたのがスノウだ。命の恩だ、神格の一つなら惜しくはない」
「······分かった。嬢ちゃんはお前に任せる」
「あ、そろそろ終わったか?エメロア達にまだ余裕はあるが、早く暴走を解除するに越したことはないだろ?」
「「·········」」
パンツァーとネプテューヌが握手を交わした所で、アイリスのどこか気が抜けるような暢気な声が二人の耳に入る。
······言っていることは正しいのだが、もう少し緊張感のある声は出せないのだろうか?二人の真剣な雰囲気が台無しである。アイリスは二人の話が長かったためインベントリから食料を取り出して小休憩を取っていたので、さらに台無しである。
「お、おう。長くなってすまん」
「あぁ、すまないね」
「エメロアの魔法で伝わってるとは思うが、俺がネプテューヌの神格を渡す役目だ」
本来、神格の継承には大掛かりな儀式が必要不可欠である。神格を譲渡する神が瀕死の時、という例外はあるが、今回はその条件を満たしていない。また、継承が血縁者同士だと儀式の手順を一部省略できるが、その条件も満たしていない。
そもそも儀式を行うのは、経路を構築するためだ。最初から経路が繋がっていれば儀式の必要はない。
その経路の構築ができるのは一部の神に限られる。
「権能【恋愛神】。縁や絆を司る神格だ。これで俺とスノウの間、俺とネプテューヌの間に経路を構築し、ネプテューヌの神格をスノウに渡す」
「その作戦なんだが、直接私とスノウを繋ぐことはできないのかい?その繋げ方だと、瘴気が君に逆流するんじゃないか?」
「堕天しかけたお前が言えることじゃないだろ。まぁ、理由としてはこの神格を得たばっかりだから自分と他者を繋ぐことしかできないだけだ。使い方は解っちゃいるが慣れてないんだ」
「······二人とも、堕天のリスクを背負わせることになってすまん」
「気にすんな。家族を助けるだけだからな」
「私も命の恩を返すためだ。君が謝ることかない。堕天のリスクがあるのは君もだろ?」
パンツァーのこの作戦での役目は、スノウとの正面衝突である。ステータスの一部を封印した状態で【憤怒】状態のスノウと正面から渡り合えるのはパンツァーだけなのだ。
ネプテューヌはパンツァーにも堕天のリスクはあると言うが、実際、アイリスとネプテューヌ、パンツァーの堕天のリスクは圧倒的に二人の方が高い。スノウが暴走する直前の悪あがきで体外に漏れ出る瘴気はほぼ全て抑えている。が、体外に出る分の瘴気を無理矢理抑えこんだことによって、体内の瘴気密度が跳ね上がっている。
スノウの内面に干渉する二人と、スノウの表面上にしか干渉しないパンツァーでは、堕天のリスクは比べ物にならないのだ。
アイリスの権能によりアイリスとネプテューヌの間に経路を構築して準備完了。エメロアに作戦開始を呼びかける。
「エメロア、こっちは準備完了した!いつでも作戦開始して構わない!」
「やっとか!散々待たせおって!」
待たせた二人の申し訳なさそうな顔を見て、一旦は溜飲を下げるエメロア。二人には、自分含め全員にいつか埋め合わせをしてもらおうと決意をしつつ、作戦の内容を知らないアルマ、リオン、カンナに指示を出す。
三人はスノウとの戦闘の真っ最中だったので、邪魔になってはいけないと魔法の対象からは外していたのだ。
「リオンとカンナはパンツァーと前衛を交代、回復をしておけ!カンナはそのまま休憩して構わんが、リオンは回復が終わり次第イスファの元に行け!」
「ん」
「なんでアタシだけー!?」
リオンのブーイングは黙殺する。
「アルマはそのまま妨害続行、ミネルヴァも結界を張り続けよ!」
「了解よ〜」
「分かりました!」
比較的消耗が少ない二人には、戦況の安定の為に支援、妨害の継続を指示する。アルマは鞭によるスノウの行動の妨害と牽制、ミネルヴァは魔道具によって神を強化し邪神を弱体化する結界を張っている。
リオンとカンナが退くと同時にパンツァーが代わりに前に出る。
「パンツァー、出番じゃぞ!」
「おう!」
「GAAAAAAAA!」
「効かねぇよ!」
スノウの黒腕を鎧で受けるパンツァー。腕にまとわりつこうとする黒炎は魔力で強引に散らす。
パンツァーがスノウの気を引いている間にアイリスとネプテューヌがスノウに近付こうとするが、二人はパンツァーや現在のスノウ程ステータスが高くない。慎重にならざるをえないのだ。
「回復終わったよー」
「お、来たか。お前にはこれをスノウに当ててもらう」
「これって······」
イスファがポーチから取り出したのは、地球の土木工事で使うような杭打ち機をそのまま小型化したような機械。ファンタジー世界にはあまりに不似合いなそれに装填されている杭にリオンは見覚えがあった。
「装填されてるのは、古竜種の血を触媒に対竜拘束術式を刻んだ杭だ。銘は『アスカロン』。竜王クラスでも短時間なら動きを止められるとっておきだ」
「これって確か、巨竜に撃ったやつじゃないの?」
「あぁ。オレの見立てではこれより下位のランクじゃ刺さるかどうかが微妙だし、刺さっても拘束できそうにない」
「なるほどねー。アタシとカンナで殴ってたらもう打撃もほとんど効かなくなったし、何回かは刺突系の武技使ってたし、これくらいじゃないと刺さらないのかなー。じゃ、撃ち込んでくる!」
「パンツァー、手筈通りスノウに隙を作れ!」
「おうよ!オラァァッ!!」
エメロアの指示を受けて、先程まで防御に徹していたパンツァーが突如攻勢に移り、渾身のアッパーをスノウの鳩尾に叩き込む。
「GAA······!」
「どっこいしょー!」
パンツァーの攻撃を受けて身体が少し浮いてしまったスノウ。その背後に跳んだリオンが狙いを定めて杭打ち機の引き金を引く。
ズドン!!!
「GURAAAAAAA!?」
杭が刺さった瞬間、スノウの身体に幾何学模様が走り、スノウの動きを束縛する。
「よし、今だ!」
アイリスがネプテューヌの神格をスノウに渡そうとスノウに歩み寄ろうとしたその時。
「GAAAAAAAAAAAAAA!!」
「嘘でしょ!?」
「ウッソだろおい!?」
竜王ですら短時間なら拘束可能の『アスカロン』がスノウによってものの数秒で破られる。撃たれる前から竜王が警戒していたら刺さっても拘束が難しいとはいえ、ほぼノーマークのはずのリオンから受けた杭を数秒で破壊するなど、【憤怒】の異能を抱えた邪神でも尋常ではない。
「チィッ。許せよ嬢ちゃん!」
『アスカロン』を破壊したスノウが油断していたリオンに襲い掛かる寸前、パンツァーが思いもよらぬ手段でスノウを拘束した。
パンツァーがスノウを抱き締めたのだ。
スノウの黒腕や爪でいくら傷付けられようと、黒炎や黒雷にいくら焼かれようと、パンツァーはスノウを抱き締めて離さない。
「アイリス!やれえええええええ!」
「今度こそ!【恋愛神】エエエエェェェ!」
蒼竜王の神格がネプテューヌからスノウへと移り、スノウの身体が眩い光を放った。
◇◆◇スノウside◇◆◇
しばらくの間ヘレナと楽しく世間話をしていた所、突然周りの空間が罅割れ始めた。罅は瞬く間に広がり、どんどんボク達がいる空間が崩れていく。
「ん?何これ?」
「あぁ、レウス達がうまくやったんでしょうね」
「暴走が治まったってこと?」
「そうね。だから一旦お別れよ」
「······また会える?」
ボクとヘレナは初対面なのに、性格だってあまり似ていないのに無二の親友かと言う程に気が合う。ボクの記憶を読めるのか、アニメやラノベの話だってできる。推しキャラは違うけど、互いの推しキャラのことについて話し合うのだって楽しい。
これっきり会えないなんて嫌だ。
ヘレナはボクの頭を撫でながら一言。
「会えるわよ」
「いつ会える?」
「いつかしらねぇ······当分は【憤怒】の抑え込みにかかりそうだけど······蒼竜王の神格もあればそうかからないかもね。半年以内にはまた話せるんじゃない?」
「······半年以内だよ?」
「分かった分かった。······はぁ、アンタはどうしてそう子供っぽいのかしらね」
「なんでだろうね」
顔はカラーリング以外同じなのにね。
もうこの空間は限界だ。罅割れていない場所は無く、もう崩れるだけ。
「バイバイ、また会おうね」
「次がいつかは分からないけど、またね」
······。
············。
··················。
目を開けると、そこにはいつもと違う父さんの姿が。
アバターの初期設定で耳が見える程に短くしたはずの髪は腰の辺りまで伸び、活発、といった言葉が正しい普段の雰囲気とは裏腹に、淑やかで母性まで感じる柔和な雰囲気。
ただ、口を開くといつもの父さんだ。
「·········おかえり、雪」
「ただいま、父さん」




