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Unique Tale Online ~竜人少女(?)の珍道中~  作者: 姫河ハヅキ


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第六十一話 邪神討伐編·終幕①

はい、今回も投稿がアホみたいに遅れました。大変申し訳ございませんでした。m(_ _)m

でも言い訳させてください。課題考査に加えて、新入生オリエンテーションとか三年としての仕事があったんです。

私、これでも部長なので動かざるをえなかったんです。

それでも、前回から三週間も空いたのは我ながらどうかと思うんですけどね。

言い訳すいませんでした。

これからも週一投稿がちょっと怪しいんですよねぇ······。気長に待ってほしいです。

あとブックマーク1500突破ありがとうございますぅ!!!

「·········え?ボクはボクだし、君は君でしょ?」


「あー······まぁそうよね。いきなり言っても伝わるわけないわよね」


 えっと······呆れてる?諦めてる?

 なんで?


「うん、アタシが言ったことは忘れて。で、アンタは今の自分の状況分かってるの?」


「今のボクの状況?」


 そういえば、さっきこの空間がブラックアウトした時に、暴走中のボクの中継映像が途切れたっけ。


「暴走してた、ってくらいしか覚えてない。あの魚人モドキは倒したの?」


「あんな雑魚、倒せない訳ないじゃない。あんなの相手に【憤怒】を完全解放したのはいただけないけど」


 あの魚人モドキが雑魚って······。このボクの2Pカラーみたいな子、どんだけ強いのよ。


「完全開放って?」


「文字通り、【憤怒】の異能の出力を100%まで引き上げるのよ。そうすれば、神技も使えるし」


「神技?」


「神の権能や邪神の異能、そのそれぞれに一つずつ備わっている必殺技みたいなものね。アンタが分かりやすいように言うと······各キャラクターの固有技、かしら?」


「なるほど!」


「分かったならいいわ。神技は、その権能、その異能の到達点。それらが持つ性質を極限まで突き詰めた集大成。単純な攻撃だったり、権能、異能の種類によっては防御系だったり回復系だったりと色々あるわね。······ここで問題。アンタが今もずっと発動し続けている異能、【憤怒の暴虐竜】。この異能の神技はなんだと思う?」


「いきなりそんなこと言われても······」


「じゃあ一つヒント。効果としては、一番【狂化】が近いわね」


 【狂化】······一度攻略サイトで見た覚えがある。肉体の制御を失う代わりに、ステータスや保有スキルの性能を爆発的に上昇させるスキル、だったかな。

 戦闘力こそ高くなるが、動きは単調になるのでPVPには向いておらず、よくPVEで使われている。もう回復アイテムが無い時に、モンスターの大群に突っ込むなどネタ的な扱いもされているらしい。

 【憤怒の暴虐竜】を発動する前はまるで遊ばれていたボクが、発動後は魚人モドキと互角以上に戦えるようになった。特殊状態異常である暴走が発生したことも合わせて考えると、ボクの【憤怒の暴虐竜】の特性は【狂化】のような理性を引き換えにした戦闘力の超強化だと分かる。それも、とびっきり強力な。

 特性が分かれば、その集大成もおのずと分かる。·········すなわち、


「······さらなる暴走とステータスの強化?」


「そんなところかしら。正確に言えば、解除条件の複雑化とステータス強化ね。ちなみに、半径100km圏内の生命反応が無くならない限りは解除されないわよ、これ」


「100km!?」


 広すぎない!?


「あ、使用者を殺せばもちろん解除されるわよ」


 ······それは解除と言って正しいのだろうか。


「一番制御がムズいうえに、神技発動のデメリットが一番デカイのよね······。七大罪の中では他の方がマシだったんだけど」


「あ、やっぱり七大罪だったんだ」


 憤怒の時点でなんとなく予想はついてた。ラノベや漫画でよく出てくるし。


「とにかく、アンタがあの雑魚にわざわざ【憤怒】を完全解放したせいで、まだアンタは暴走してるわけ。今は、カンナとチャンバラしてるわね」

 

 ボク(2P)の指パッチンと同時に、真っ黒だった空間に突如としてスクリーンが現れ、そこには、今のボクでは支援すらできない程高次元な戦いが繰り広げられていた。ボクの頭から次々と黒髪が目にも留まらぬ速度で突き出されたが、その尽くをカンナは刀で切り落とす。

 数で勝負しても勝てないと悟ったのか、暴走したボクは操る髪の数を減らしてその分込める魔力、呪力の量を増やす。全身に張り巡らせた呪力身体強化の強化率も引き上げ、黒髪を先程の戦いのように両腕へと纏わせ、より一層強化されたその黒腕でカンナに襲いかかる。


「······【憤怒の暴虐竜】発動状態のボクって、十二英傑とも張り合えるの?」


 そう言って首を傾げるボクの頭を、ボク(2P)が小突いた。


「あてっ」


「調子に乗らない。カンナは三段階ある封印を二段階目までしか解いていないし、神としての権能も使ってないし、殺したり、本来の解除条件以外で暴走を解除しようとアンタを殺さない程度に手加減までしてるのよ?世界最強の一人を舐めないでほしいわね。(·········なんたって、あの二柱の竜神の娘であり、【憤怒】発動中だったこのアタシと、複数人がかりとはいえ渡り合ったくらいなんだから)」


「最後の方、なんて言ったの?」


「独り言よ。気にしないで」


 ふぅん。どこか懐かしげな表情をしてたから気になったんだけど、本人がそう言うならこれ以上聞くのはやめておこう。

 というか、十二英傑を知ってるんだ。カンナの名前も戦闘スタイルとかも知ってるみたいだけど、どういう関係?


「······あれ?カンナって神様だったの?」


「カンナどころか、十二英傑はほとんど権能持ち、つまり何かしらの神よ?最近十二英傑として認められた何人かはまだだけど」


「マジで!?······最近っていうのは?」


「十二英傑と呼ばれてはいても、ずっと全ての席が埋まってるわけじゃないのよ。今は運良く十二席全て埋まってるだけ」


 でも、十二英傑のほとんどは神様なんだよね。ボクが今までに知り合った十二英傑は、どうなんだろう。


「向こうからの干渉が無い限り、アタシ達ができることは何もないから存分に質問して構わないわよ?アタシも最近暇してたし」


 えぇ·········。カンナ達は戦っているっていうのに、それは心苦しい······。


「本当にボク達にできることはないの?」


「ここでアンタを殺せば全部解決するわね。まぁ、精神を直接傷つけるとなると、死んだ方がマシってくらいの痛みがあるらしいけど」


「大人しくします」


 このゲームは子供も遊ぶから痛覚制限機能があるとは利用規約にあったけど、その次の文には「ただし、一部の特殊イベントは痛覚制限機能がないのでご了承ください」ってあったんだよねぇ·········。

 さすがにボク(2P)が言う程の痛みは無いとは思うけど、それでも試す気にはならないなぁ。それに、ユリア達とはボクの方で無理矢理魔力の繋がりを断ち切ったから、もしかしたらまだ何かしらのパスがあるかもしれない。カンナ達に余裕があるのなら、カンナ達に任せた方がよさそう。

 もちろん、カンナ達でも対処できない事態になった時はボク(2P)にボクを殺してもらおう。ユリア達には影響が無い方法で。


「よろしい。それで、何か質問は?大概の質問には答えるから遠慮なくどうぞ」


「じゃあ遠慮なく。十二英傑の誰がどんな神様か君は知ってるの?」


「まぁね。そんな浅い付き合いじゃないし」


 やっぱり、ボク(2P)は十二英傑の関係者?おじさん達は何百年も生きているらしいが、ボク(2P)は寿命があまり長くなく、もう死んじゃった元十二英傑とか?

 おじさん達が何の神様かは気になるけど、勝手に知っちゃまずいかな。


「別にレウス達は自分達の権能を隠してないいわよ?聞かれてないから言わないだけで」


 あぁ、そういうパターンね······ってちょっと待って。


「どうかした?」


「······今、ボクは喋ってなかったよね?」


「えぇ」


「なんで君が反応してるの?」


「そりゃ、アタシとアンタが魂で繫がってるからね。というか同じ魂?同一人物っちゃ同一人物的な?」


「どゆこと!?」


 最近ボクの心のプライバシーが侵略されすぎてると思うんだけど!?ユリアとかエメロアとかボク(2P)とか!


「いつからボクの心の声が聞こえてたの?」


「ついさっきね。元が同じとはいえ、調律が必要だったから」


 元が同じ、ねぇ。さっきから結構気になることを口走ってるな。


「とりあえず、心を読むのはやめてほしい」


「今アンタが考えてたことにも反応しない方がいい?」


「もし読めちゃっても見て見ぬ振りでお願いします」


「分かったわ。で、アタシはレウス達の権能をアンタに伝えたらいいの?」


「そうだ、ね·····ところでレウスって誰?」


「アンタの言うおじさんよ。レウスって呼んだら驚くだろうし、今度呼んでみたら?」


 ふむふむ。······暴走が解除された後にでも呼んでみようかな?


「それじゃあレウスの権能から。あいつの持つ権能の一つは、剣の神としての権能。一般的な剣神の権能としての分類は二種類、力技で無理矢理空間ごと叩き斬るみたいなゴリ押しタイプと、縁とか契約とかの何らかの繋がりや、魂だったり形の無いものを斬るみたいな技巧タイプね。レウスは前者。あいつ馬鹿力だから」


「へぇ〜」


「レウスのもう一つの権能は、戦を司る竜王の神格。元々四柱しか存在していない竜王の位に、レウスは自力で到達して五番目の竜王になったのよ。ホント、あいつはやることなすこと非常識なんだから············」


 おじさん、言動や性格はれっきとした常識人って印象だったけど、そんなすごいことしてたんだ·········。憧れちゃうなぁ。

 って、竜王?


「おじさんって、竜人だったの?」


「あら、知らなかったのね」


 いつも角しか出てないから勘違いしてたよ。


「あ、話の腰を折っちゃってごめんね」


「構わないわ。それより、十二英傑は他にも神がゴロゴロいるわよ。誰から知りたい?」


「んー···次はエメロアかな。あ、その前に竜王って存在のことを教えてほしい」


「いいわよ。竜王っていうのは、世界の摂理の一部を司る、竜の中でもほぼ頂点に近い存在。神格は最高神には届かないけど、大神のくくりではほぼ最上位。さっき言ったようにレウスを除けば四柱。それぞれの説明、いる?」


「せっかくの機会だから聞きたい」


赫竜王ブリギッド

「燃焼」や「加速」の概念を司る竜王。その強力無比な権能は仲間だと頼もしいが、早とちりや勘違いが多発し、ブリギッド自身の短気な性格も相まって神同士のトラブルが絶えない。よくネプテューヌに叱られている。本竜は隠しているつもりだが、ネプテューヌの事が好きなのは周りのほとんどが知っていて、ブリギッドがトラブルをよく起こすのは、ネプテューヌの気を引きたいからとの噂も流れている。人化している時は、ナイスバディで気の強そうな長身の美女。


蒼竜王ネプテューヌ

「凍結」や「停滞」の概念を司る竜王。海神も兼任していて、水中や海中なら竜王の中で最強。地上でも火属性相手なら滅法強く、よくブリギッドのブレーキ役となっている。他の竜王とは違って人化した際の性別や外見年齢を頻繁に変えており、人里で遊ぶこともしばしば。ブリギッドとは正反対に冷静沈着な性格で、属性的な相性も良いのでそれなりの頻度でブリギッドとは絡むのだが、ブリギッドの好意には全く気付いていない。


翠竜王ニンリル

「流転」や「風化」の概念を司る竜王。カンナみたく世界中を放浪しており、さらにはかなり上空を飛んでいるので、カンナより遭遇するのが難しい。本竜の性格や魔力、権能の性質上、破壊だったり殺戮だったりは得意だが、修復や治癒は苦手で、よくヴォーロスに頼っている。基本的には感情の抑揚が小さく、あまり表情も変わらないが、自分の速度を馬鹿にされると無表情でガチギレする。人化した時は、正統派のツルペタロリ。ちなみに、理由は「風の抵抗が少ないので人化してても速く飛べるから」


黄竜王ヴォーロス

「豊穣」や「再生」の概念を司る竜王。平時はとある鉱山の最奥に籠もっており、滅多に出てこない。というのも、竜王の中でひときわ巨大な体躯であり、移動すれば確実に地震が起こるためだ。そうやって人里を心配するぐらいには温厚な性格で、竜王一の常識竜。やらかしたニンリルの後始末をよく頼まれており、毎回二つ返事で請け負うので、魔力操作の精度も随一だったりする。ただ、己より幼くて小さい存在を甘やかし過ぎるという悪癖がある。人化した時は、好々爺という言葉がぴったりな老人。


 以上。


「······なんで竜王の恋愛事情を知ってるの?」


「いいじゃない細かいことは」


 ······細かいかなぁ?


「あと、ヴォーロスって竜王の悪癖が不安なんだけど······。変態じゃないよね?」


「ヴォーロスの爺さんはただの子供好きよ。祖父母って孫には甘いでしょ?」


「あ、そういう感じなのね」


「ヴォーロスの爺さんはニンリルをよく甘やかしてるし······アンタも多分甘やかされるわね」


「なんで!?」


 ボクってそんなに子供っぽい見た目かな!?ロリじゃないよ!?


「あの爺さんは竜の中でもベストスリーに入るくらいは長生きで、大きさも一二を争うくらいだからねぇ。甘やかすにしても何かしらの基準はあるみたいだけど」


「·········エメロアの話お願いします」


 これ以上聞いたらボクの心が傷付きそうな気がする······。ボク、これでも身長低いのと、声が高いのは気にしてるんだから·········。


「エメロアね。あいつの権能は······まぁ分かってるだろうけど、魔術に関しての権能ね。割と単純な権能で魔術の威力、構築速度、魔力消費効率など諸々が上昇するってだけ。シンプルな分、性能は高いみたいね」


「生産に関しての権能は無いの?」


「生産系の権能は、軒並みイスファとミネルヴァが持ってるわね。二人揃って技芸神系統の神格に覚醒したから、生産技能はそこらの有象無象は足元にも及ばないくらいの腕前よ。ただあの二人は生徒を(性格的な意味で)選ぶから。エメロアでも大抵の職人より高い生産技能を持ってるし、イスファとミネルヴァより教えることに慣れてるからあまりあの二人が教師役をすることはないわね」


 学院で受けた【鍛冶】の授業で、イスファがしれっと使ってた【付与】の効果がすっごく高かったのを思い出す。あの効果の高さでもイスファに言わせれば「ミネルヴァなら息をするぐらいでやってみせるぞこのくらい」って言ってたなぁ。

 二人揃って基準が高すぎるんだよねぇ。


「あとアンタが出会ってる十二英傑は······」


「君からの説明を聞いていないのは、リオンとカンナ、アルマさんかな?」


「リオンは格闘術や仙闘術など徒手空拳に特化した武神、カンナは刀に特化した武神。アルマは神ではなくて亜神だけれど、一部の身体能力やスキルは神クラスね」


 ······え?アルマさんって神様じゃなくて、獣人のままで数百年生きてるの?このゲームだと、獣人はそんなに長生きなの?


「普通の獣人の寿命ってどれくらい?」


「人間よりは長いけど、精々が二百年ね。亜神になったらある程度寿命が伸びるのよ」


 ある程度とは。


「これで十二英傑の紹介は一旦終わりね。他に聞きたいことある?」


「そうだなぁ·········そういえば、君の名前を聞いてなかったね」


「あ、そうだっけ?じゃあ自己紹介。アタシはヘレナ。冥獄竜とも呼ばれる、由緒正しき竜神よ。今後ともよろしくね」


 彼女の笑顔は、カラーリング以外は同じ顔をしているボクが見惚れてしまう程に美しく、その呼び名や禍々しい見た目からは想像もつかないような明るい笑みだった。

 ·········ボクはナルシストじゃないからね?


◇◆◇カンナside◇◆◇


 カンナと暴走スノウが激闘を繰り広げていると、それを少し遠くから見ていたアイリス達の近くに魔法陣が現れる。

 魔法陣が光り輝き、その光が収まると、そこにいたのは······パンツァーとエメロアだった。


「パンツァー!エメロアも!」


「すまんアイリス。遅れた」


「よく耐えたのう。ここからはワシらに任せておけ」


 二人が到着したのを見て、暴走スノウと打ち合っていたカンナが暴走スノウを蹴り飛ばしてから大きく跳躍。二人の元へと戻る。


「遅い」


「······すまん」


「うむん?今のスノウでも軽くあしらえるじゃろう?······あぁ、そういう状況かの」


 カンナの文句にパンツァーは素直に侘びたが、エメロアはそう言いながら暴走スノウの方を向き···何かを悟ったような表情でため息をつく。


「私じゃ【憤怒】だけ斬ってスノウには傷を付けないなんて無理。せめて誰かが引き剥がしてくれないと」


「お前の権能は良くも悪くも特化型だからな」


 カンナは刀に特化した武神であり、その権能も刀の扱いや斬ることに特化している。

 そのため、とりあえずぶった斬るなどの単純作業なら得意だが、今回のような状況だと解決にはほぼ役に立たない。カンナにはありとあらゆるものを斬ることが可能で、それはレイスやリッチのような霊体系の魔物も、魔術の術式や従魔契約のような目には見えない概念的な繋がりも、果ては心、魂すらも例外ではない。しかし今回のような、混ざり合った二つのものの片方だけを斬るのは難しい。

 スノウの暴走の原因である【憤怒の暴虐竜】も斬ることはできるが、そうしようとするとスノウの魂ごと斬ってしまう。【憤怒の暴虐竜】とスノウの魂が完全に融合してしまっており(この状態が暴走である)、その二つを引き剥がさないとカンナは手出しができない。


「俺もそういうのは苦手だからなあ。エメ、頼むぞ。カンナはアイリスとセナと連携してユリ助達を逃がせ。俺は嬢ちゃんを足止め······す·········」


 虚空から愛用の大剣を取り出し、それぞれに指示を出したパンツァーが、カンナに蹴り飛ばされてから戻ってきた暴走スノウと顔を合わせて呆然とする。彼の手に握られていた大剣が、ガランと彼の手からこぼれ落ちる。


「······パンツァー?」


 パンツァーの異変に気付いたカンナがパンツァーに声をかけるが、パンツァーは何一つ反応を示さない。


「誰、だ······あいつは、誰だ·········?」


「何を言ってる?あれはスノウ」


「違う!」


 パンツァーは必死に思考する。目の前にいるのはスノウであるはずなのに、己の心は、スノウではないと言う。お前は知っているはずだと、パンツァーの考えをパンツァー自身の心が否定する。


(あれは嬢ちゃんのはずだ。それ以外の人物であるはずがねぇ。なのに······この懐かしさは何だ?嬢ちゃんと初めて会ってから一月も経っていない。だからあり得ねぇんだ。前にも嬢ちゃんが暴走した時にも感じたこの思いはどういうことだ?)


 立ち尽くすパンツァーに尋常ではない事態が起きていることを察し、パンツァーを庇うように彼の前に出るカンナとエメロア。


「アイリス、すまんが自分達の身は自分で守れ!何が起こっているのかは分からぬが、とりあえずおぬし達を守る程の余裕がない!」


「分かった!なに、余波を防ぐくらいなら俺達でもできる!」


 アイリスは戦いに参入できるステータスが自身に無いことに歯噛みするが、自分のやるべきことは理解している。ヴァルナの横に並び立ち、【瞬間装備】で武器を騎乗槍と大盾に切り替える。


「お前らは逃げろって言っても逃げないだろうし、もう逃げれるタイミングじゃないからそこに関しては何も言わないがな。残るなら最後まで残れ!お前ら、気合い入れろよ!」


「ん!」


「言われなくとも!」


「逃げてやるもんですか!」


 各々の役割を理解し、戦闘態勢に入る面々だったが、パンツァーだけは今も立ち尽くしている。

 必死に思考を巡らせ、今抱いている違和感を正体を暴かんとする。


(種族の関係なく魅了する絶世の美貌と甘く透き通る鈴の音のような声。戦闘では遺憾なくその頭脳や才能を発揮する癖に日頃では色々と鈍感で抜けた所がある。日々を一緒に過ごして楽しいと、幸せだと感じることができる相手。忘れるはずがねぇ!)


 数千年の時を生きた竜神、パンツァー。その長い記憶を必死に掘り起こす。

 すると、ある特定の期間の記憶だけが全く思い出せないことに気付く。心にぽっかりと大きな穴が空いたような、言葉にすることもできない虚しさ。

 それに気付いた瞬間、パンツァーの頭に原因不明の激痛が走る。


「が!?ぐあああああああああああ!!」


 パンツァーの頭上に突如現れ、彼の頭に突き刺さる光の輪と棘を見たエメロアが、瞬時にその光輪の性質を見抜く。


「あれは記憶に対する枷······!?しかもパンツァーに通用する程じゃと!?一体どこの神がやりおった!」


 魔術のエキスパートであるエメロアが解除に専念できればパンツァーの記憶の封印を解除することは可能だろうが、いかんせん【憤怒】発動中のスノウは割と強い。

 暴走している状態でもスノウの異常な学習能力が働いているのか、暴走スノウはじわじわとカンナの動きに対応し始めている。カンナと戦うことでスノウのレベルもかなりの速度で上昇しているが、理性がないおかげでLPが振られることがないのは幸いだ。


「···段々私の動きを学習してる。あまり余裕はないかもしれない」


 カンナとの戦いでレベルは上がってもLPは振られないのでステータスは変わらない。しかし、プレイヤーのステータス強化方法はそれだけではない。


「それに、スノウの身体能力が上がってきている。そろそろ私じゃ捌けない重さになる」


「あぁもう!師匠としては弟子の成長が速いのは喜ばしいことじゃが、今だけはその成長速度が恨めしいのう!」


 そう、レベルが上がってスキルレベルが上がらないなんてことはない。【筋力上昇】や【俊敏】、【精妙】などステータス強化スキルがガンガン上がっている。元々ステータス構成としてSTRが高くないうえに、封印を二段階までしか解除していない今のカンナでは、スノウの攻撃を捌くのが厳しくなってくる。


「パンツァー!早うせい!」


「大変!早くして!」


「うぐぐぐ·········!」


 エメロアとカンナが暴走スノウの猛攻を凌ぎながら呼びかけるが、パンツァーは未だ頭を抑え呻いている。


(誰だ?俺は、誰を忘れている?胸が張り裂けそうになる程の虚しさ。単なる知り合いじゃねぇ。ただ、俺に肉親はいない。気が付けば荒野に一人。あのババアに拾われなければ野垂れ死んでた捨て子だ。肉親以外で大切な存在···家族······妻······娘······息子·········)


「·········あ」


 パンツァーはついに思い出した。

 生涯守ると誓ったのに、かつて己の力不足で死なせてしまった少女の名を。

 パンツァーが人生で唯一、そして最も愛した少女の名を。

 パンツァーの脳裏に浮かんだ彼女の顔は、何故かスノウの顔とぴったり重なった。

 理由も分からず涙をボロボロと流しながら、パンツァーは慟哭した。


「どういうことだ······!なんで嬢ちゃんが、お前と同じ顔をしてやがる、ヘレナあああああああああ!!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] >これからも週一投稿がちょっと怪しいんですよねぇ······。気長に待ってほしいです。  問題無い。  前も言ったかな? プロを目指す訳じゃないのなら、書けるときに書けば良いんだし。  の…
[一言] 色々あって更新が遅れたのは解るが重大情報の一括大放出はやり過ぎだって?!(・◇・;) 2Pカラーさんはスノウの暗黒面では無く先代[憤怒]保持者の魂?人格?なのか?Σ(゜Д゜ υ) そして…
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