第六十話 邪神討伐編⑩
すいません前回の投稿から十日以上経ちましたぁ!m(_ _)m
春休みの課題を進めていたら思ったより執筆が進まなくて······
数学とか国語は問題数はそこまで多くないんですけど、一問一問が難しくて時間がかかっちゃうんですよね。化学はムダに範囲広い(´・ω・`)
まだ終わらない(´・ω・`)
「GAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
高らかに吼えるスノウの頭上には、HPゲージとMPゲージ、そして見慣れぬ状態異常アイコンが表示されている。
月に向かって男が何か叫んでいる様子のあのアイコンは······確か「暴走」だったはず。竜種のモンスターが、HPが一割以下になるとよく使ってたから覚えている。あと、俺の知り合いのプレイヤーも【狂化】ってスキルで何人か使っていたような?
効果は、理性の消失と全ステータスの極大上昇。
プレイヤーがあの状態異常になると、プレイヤーは精神空間という設定の別空間に飛ばされて自分のアバターが暴れているのを見ているだけで暇らしいが······スノウからしたら、暇とはとても言えない心境だろう。
プレイヤーがお遊びで魔物の大群に突っ込むのとは訳が違う。自分が仲間を傷付け、下手したら殺してしまう。スノウの暴走は過剰に吸収した瘴気によるものだが、この暴走においてスノウに責任はない。
そもそも、スノウが瘴気を吸収していなければ、スノウ以外のほとんどが命を落としていただろう。例外は聖属性を所持しているセナとユリアくらいだ。その二人でも、瘴気に持ち堪えられるのはリソースの続くまでだ。精霊として【魔力自動回復】や【霊力自動回復】は持っているらしいが、上級邪神と思わしき魚人モドキが発する瘴気の密度だと回復が追いつかないだろう。
そんな状況で俺達全員を守る為に瘴気を吸収したスノウに責任などない。悪いのは、もちろん魚人モドキだ。
その魚人モドキが現在は暴走スノウにボコられているのだが··········あれ、手出しする方が危険だな?
暴走スノウが黒腕に刺さったままの魚人モドキを地面に叩きつけたと思ったら魚人モドキは急いで黒腕を自身の身体から引き抜いて飛びすさるが、暴走スノウが瞬時に追い付く。
暴走スノウの黒髪が伸びて魚人モドキを拘束し、【格闘術】のアーツで三連撃を打ち込む。拘束された状態では衝撃をろくに逃がせなかったようで、魚人モドキが身体をくの字に折ると同時に吐血する。
邪神にも内臓とか血管ってあるのな。
暴走スノウの猛攻は止まることを知らず、拳、爪、足、尻尾、髪を束ねた大杭や大鎌で魚人モドキを攻撃し続ける。
「グッ······調子に、調子に乗るんじゃねェェェェェェェ!」
どうにか拘束を振り払い、いつの間にか刃先を修復していた槍で魚人モドキが苦し紛れに繰り出した突きは、あまりに呆気なく暴走スノウの尻尾に逸らされる。かえって突き出した槍を暴走スノウに掴まれ、槍を奪われる。
槍を奪われ再び距離を取ろうとする魚人モドキだが、再び暴走スノウが瞬時に追いすがる。
あ。また黒髪で拘束された。
「GURUAAAAAAAA!」
お?あのアーツは〈閃華〉······じゃなくて、雷だから〈雷華〉か。
【仙闘術】なんて、プレイヤーでは習得情報来てないんだが······。森の奥で会った仙人っぽいお爺さんのNPCが使っていた、くらいしか情報出てないんだよな。習得条件はおろか、プレイヤーが習得できるのかすら曖昧なんだよなぁ。
まぁ、スノウのおかげで、プレイヤーでも習得できるというのは分かった。······習得条件は謎のままだが。
とりあえず、【仙闘術】は人前では使うのを控えさせよう。スノウとしても、目立つのは避けたいだろうし。
なお、爺さんNPCが使っていたのが【仙闘術】だと判明した理由は、NPC本人が自慢げに語っていたからである。その時にアーツもいくつか教えてもらったため、【仙闘術】はその存在とアーツのみ知られている。
と、こんなことを考えている場合じゃない。暴走スノウをどうやって止めるか考えないとな······。
俺が考え事をしている間にも戦いは進んでいる。暴走スノウが常に腕や足、髪に纏っている黒炎によるものか、魚人モドキに付けられた傷が癒えていない。髪は燃えないのな。
段々と魚人モドキの傷は増えていくのだが、魚人モドキがスノウに付けた傷はすぐさま消える。かなりの再生速度だ。
·········スノウの暴走、【狂化】系統のスキルじゃないかとは思っていたんだが、かなり高位っぽいな。魚人モドキ相手に互角以上に戦えるレベルのステータス強化に加え、回復阻害の黒炎や、HPの自動回復、それも見てる感じだと結構速い。スノウによって妨害される前の魚人モドキと同じくらいか?
だが、スキルの良い面だけ強化されて悪い面は強化されないってことはないだろうし、スノウが現在使用しているスキルには、理性の消失以外にも何かデメリットがあると考えるべきだ。
例えば解除条件。【狂化】は発動前に討伐対象を決める。その対象は単体でも集団でもいいのだが、とりあえずターゲットを決める。そして、そのターゲットを討伐したら【狂化】は解除。
これが悪い方向に強化されたとすると······半径○メートル内に自身以外の反応が無くなったら解除とか?······悪い予感が実現するかもしれないので、このあたりでやめておこう。
今はスノウの暴走を止めるのが第一だ。といっても、俺のステータスじゃ今のスノウには逆立ちしたって勝てないだろう。カンナ頼りである。
「カンナ。どのタイミングなら横入りできそうだ?」
「······少なくとも、あの邪神がいなくならないことには厳しい。瘴気をどうにかしないと」
うーん。セナのMPは今も回復し続けているが、あの瘴気の濃さじゃ無理だな。すぐに許容量を超えてバフが切れるだろう。
スノウは暴走状態でありながら、何らかの手段で瘴気の放出を抑えているらしく、瘴気の濃さは思ったよりマシだ。暴走スノウに追い詰められて、なりふり構わなくなった魚人モドキによる瘴気の放出量が多くなってはいるものの、俺達の所に近付く頃にはかなり薄くなっており、店売りの聖水やセナの弱めの聖属性魔法で浄化できるくらいだ。
スノウはいくつものスキルを駆使して邪神と渡り合い、瘴気を自分一人で抱え込んで、暴走した今も俺達を傷付けまいと············。自分が酷く情けない。我が子を助けることはおろか、足手まといになってしまい、俺達が守るべきはずの存在に守られている。
そうして落ち込んでいる間にも戦いは進んで暴走スノウ優勢となり、今も魚人モドキが暴走スノウの巨大な黒腕に殴り飛ばされ、ふらつきながら立ち上がる。
「······確かにテメェは強かった。だがなァ、さすがに超級でもこれを食らえば跡形も残らねェだろうよ」
そう口走る魚人モドキの槍には、その言葉が真実だと疑わせない凄みがあった。
魔力や瘴気を感知するスキルを持たない俺にすら見える程に圧縮された瘴気を含んだ激流。黒く穢れた水は槍の周りで渦巻いて、大きな騎乗槍を形作る。
「······GURUUUU」
暴走スノウが魚人モドキに対抗して黒腕に纏わせたのは、あろうことか先程まで行使していた黒炎。
火属性は水属性に対して相性が悪い。その摂理はこのゲームでも当てはまる。プレイヤーでもNPCでも知らない者はいないと言われる常識だ。なのに、あえて火属性を使おうとする暴走スノウは何を考えているのだろうか。それとも、魚人モドキを倒すのには火属性で十分なのか。
暴走スノウの黒炎を見た魚人モドキの表情が急変し、みるみる般若のような形相と化す。·········うん、目の前であんな分かりやすいナメプされたらそりゃムカつくわな。
「······舐めやがってェ!『捻れ貫く海神の槍』ォォォォォォォ!!!」
魚人モドキが槍を突き出すと同時に瘴気に侵された水で形成された竜巻が暴走スノウへと迫る。
暴走スノウは微塵も慌てることなく、自身に迫る黒い竜巻を眺めている。やがて右腕を振りかぶって竜巻へと狙いを定める。
次第に燃え盛る黒炎。そして一言。咆哮ではなく、意味ある言葉でポツリと呟いて、暴走スノウは拳を竜巻に叩きつけた。
「『永久に消えぬ我が憤怒』」
「な···クソがァ······」
暴走スノウより放たれた黒炎が、一瞬で魚人モドキが生み出した黒い竜巻を蒸発させる。黒炎は勢いを全く落とさず、そのまま魚人モドキも一瞬で蒸発させる。武具の一欠片、肉の一片も残すことなく。
魚人モドキが暴走スノウに倒され、気を抜きかけた俺達だったが、カンナだけは違った。新しく取り出した刀に手をかけ、鋭い目で暴走スノウを睨んでいた。
「······カンナ?」
「············まだ終わってない」
「······嘘······だろ?」
「············嘘じゃない。憤怒は、これじゃ終わらない。自身を中心とした、半径100km圏内の生命反応が全て消えるまで止まらない」
「なっ······!?」
広すぎる。
なんで今まで逃げなかったんだとは思わないでもないが、カンナや俺だけならともかく、その他のメンバーでは今の戦闘の間に100km離れるのは無理なのだと思い至る。なんせ片足を欠損している奴がいる。誰かが背負って運んでも、その分移動速度が落ちて、結局100kmの移動は無理だっただろう。
「逃げて。私一人では止められないかもしれない。······第一封印、第二封印、解除」
そう言いながら暴走スノウに立ち向かって行くカンナ。
俺はすぐさまユリア達の元に走り、歩けないイナバと意識を失ったままのネプテューヌを背負い、逃げる準備を整える。
「お前ら、逃げるぞ!」
俺が呼びかけても、ユリアとヴァルナはその場から動こうとせず、リルは立ち上がろうとしない。イナバに至っては、片足が欠損して、俺に担がれている状態なのに、俺の腕を振り払って降りようとする。素直に立ち上がったのはアルフレッドだけだ。
スノウの元に向かおうとしたユリアの前に立ちはだかる。
「······おい!」
「逃げられるわけないじゃない!あいつは私達の主よ、繋がりが切れたとしても、主を置いて逃げる召喚獣がどこにいるのよ!」
「おかーさんに殺されても構わないの!おかーさんに出会ってなかったらとうにリル達は死んでいたの!」
「お前らは死んだら終わりだが、俺達なら死んでも戻ってこれる!スノウにお前らを殺させるわけにはいかない!」
「本当にスノウは戻ってくるの!?あれだけ瘴気に侵されて、死んだらはい元通り、って保証はどこにあるのよ!」
保証なんて言われても困る。俺達からしたら、死んだらデスペナ背負ってリスポーンはそういうものだとしか答えようがない。
スノウが暴走してるといってもあれは自動戦闘だ。プレイヤーが精神系状態異常、もしくは一部特殊状態異常にかかった場合、何もない空間に送られて状態異常が解除されるのを待つだけなので、プレイヤーの精神には何の影響もないって言ったところでユリア達がそれを理解できるとは思えない。
この世界で真剣に、懸命に生きているこのゲームのNPCを、所詮仮初の生命と身体で訪れているプレイヤーが邪魔するのは、俺個人としてはあまり好きじゃない。ただ、そんな尊い命が投げ出されようとしているのを見殺しにしたくはない。
どう言って止めたものか。
「お前らはスノウと契約してるんだろ?スノウがリスポーンしたらそれで分かるじゃないか」
本当にリスポーンするのか、という答えづらい質問から、リスポーンした後のことについてと論点をどうにかずらそうとする。
その思惑は叶わず······しかし、想定外の事態が起こり、その思惑は意図せずして叶った。
ユリアを筆頭としたスノウの召喚獣達が、ボロボロと涙を流していたからだ。
「え······どうした?」
「ちょっと、アイリスちゃん?」
「これ俺のせい!?」
今泣かせるようなこと言ってないんだけど!?
セナが俺を責めるより先に、ユリアが涙の理由を語る。
「······それができないのよ。スノウは······暴走の寸前に私達との契約を破棄したのよ!」
······髪飾りと首飾りを渡してきたのはそういうことか。瘴気による悪影響が召喚獣達に及ばぬように契約を破棄し、さらに念を入れて俺に召喚獣達の依代を託したのだろう。
「それでもな、お前らがここにいてできることはあるのか?あの戦いに介入できる程のステータスも技術もないだろ?」
カンナと暴走スノウの激闘を見て黙り込む。メイド服の補正ありの俺でも目で追うのがやっとの速度で戦っている。召喚獣達じゃ介入するどころか、まず見えないだろう。
「「「「············」」」」
「あーもう!埒があかん!アルフレッド!全員運ぶからお前も手伝え!」
「······あ、はい!」
······アルフレッドも従いはするものの、内心は残りたいみたいだな。不本意だという気持ちがびしびしと伝わってくる。
ただ、現状を冷静に理解している。自分がここに残っていても何もできないというのを分かっているから、無理にここに残ろうとはしていない。
俺とアルフレッドで召喚獣達を無理矢理にでも担ごうとした時、近くの地面に魔法陣が浮かび上がる。
魔法陣の光が止むと、そこにいたのは······考える限り、最も頼りになる十二英傑の二人。パンツァーとエメロアだった。
◇◆◇スノウside◇◆◇
「······ん·········んん」
目を開けると、先程までいた海底とは全く違う、異様としか言いようがない空間が広がっていた。どの方向を見回しても果ては見えず、辺り一面真っ白の清浄な······ってボクがいる辺りだけドス黒いな。なんだこれ?
状況を把握しようと立ち上がろうとしたボクだが、何かに引っ張られてつんのめる。
見下ろすと、足元のドス黒い地面から何本か鎖が生えており、その先を追ってみると、鎖は両手首、両足首にいつの間にか填められていた枷に繫がっていた。
これがボクを引っ張ったのか。······メイド服に鎖って·········微妙に合わないな。
で、ここどこ?ボク、さっきまで魚人モドキと戦ってて、瘴気を吸収する毎に意識が朦朧として、気づけばこうなってたんだけど。
ステータス画面を開く動きくらいなら可能な程度の余裕があり、特に支障なくステータス画面が開く。
えっと······特殊状態異常、暴走?ヘルプは······なるほど。今はボクのアバターは自動で動いていて、ボクはそれを眺めることしかできない、と。
自身のアバターの状況を俯瞰的に見ることのできる機能があるらしいけど·········?
あ、これかこれか。ポチッと。
······ふむ。暴走状態のボクは、魚人モドキ相手に優勢に戦えるくらいには強化されてるみたいだね。この空間ではステータス画面の閲覧が一部制限されてて今は見れないけど、暴走の時に習得したスキルの説明は後で確認しないと。······メイド服がえっちぃデザインに変わっているのだけは納得できない。なんであんなことになってるの?
意識が朦朧であんまり覚えてないけど、憤怒ってのは聞いた気がする。字面が怪しいんだよねぇ。魚人モドキと戦えるレベルの補正がかかるのは嬉しいんだけどね。
おぉ!瘴気を吸収する過程で習得した【身体操作】、そんな使い方もあるんだ。瘴気で強化した髪を瘴気で強化した腕に纏わせる。ボクがやってたのより威力高そうだし、今度強敵相手に試してみよう。
暴走をどうやったら止められるのかは分からないのは怖いけど、カンナ達を襲ってないのは不幸中の幸いだ。どうしたらこの状態異常を解除できるんだろう?
【真·竜魔法】や【精霊術】、【仙闘術】など各種スキルは使用できるが、聖属性だけは使えない。この黒い枷と鎖が原因かな?
束縛を解こうとあれこれ試していると、暴走したボクと魚人モドキの戦いがそろそろ決着しようとしていた。
魚人モドキが繰り出した黒い竜巻に対して、暴走したボクが何か唱えた瞬間、この空間に異変が起きる。
足元のドス黒い泥たまりのような塊が急に広がり、真っ白だった空間を真っ黒へと変える。
それに呼応するように鎖が増え、先程までより厳重にボクを拘束しようと巻き付いてくる。······ん?なんか黒い靄がメイド服にかかったような·········。
いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁメイド服がすっごい扇情的なデザインになってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?
あっこれ暴走してるボクと同じデザイン!?なんでこっちにまで影響が!?
突然の事態にあたふたしていたボクに、どこから現れたのか何者かがコツコツと足音を立てながら近づいてくる。
近づいて来た何者かは、焦りすぎて自ら鎖を絡ませているボクに呆れたような声音で問いかける。
「······アンタ、何してるの?」
「ちょっと待って今それどころじゃないから·········え?いつの間にここに来たの?というか誰?」
誰かに声をかけられたことで我へと返り、声のした方を向いたボクは、思わず瞬きし、目をゴシゴシと擦ってから向き直る。それ程までに目の前の人物の顔が衝撃だったからだ。
なにせ·········
「誰?って酷いわね。アンタはアタシ、アタシはアンタよ」
目や髪、肌の色が違ったとはいえ、目の前の人物の顔は紛れもないボク自身だった。
あ、少し題名を変更しました。
前の題名はちょっと長かったので、ちょっと短くしました。




