第五十八話 邪神討伐編⑧
最 近 マ ジ で 忙 し い で す 。
学年末テストも近いのでいつもの定期テストより早いタイミングでテスト勉強を始めた所、こんなに投稿が遅くなってしまいました。
何の連絡も無しに投稿を休んでしまい、申し訳ありませんm(_ _)m
そして来週と···再来週もかな?学年末テストで投稿をお休みします。ご了承をお願いします。
「で、ここからどうする?」
「人魚の里って、ここから割と遠いよね?」
「来る時に一晩またいだのは敵が多かったっていうのがあるけど、距離も結構離れてるんだよなぁ······」
「僕は自信ないけど、移動速度に自信がある人いる?」
リュミナの質問に手を上げたのは、ボク、カンナ、父さんの三人。
「飛べば割と速いよー」
「カンナには負けるが、走りならこの中で二番目か?」
「走る」
「なるほど。セナ、君は?」
「アイリスちゃんに憑依していれば速いですけど、私単体だとすごく遅いので」
母さんのINTとMND以外はほぼ初期値だっけ。確実にこの五人の中で一番遅い。
「ふーむ······。うん、セナはアイリスに憑依して、四人で人魚の里に戻ってくれ。僕は少しやることがある」
「やることって?」
「あぁ、どこか別の場所に転移させられたパンツァー達の追跡だよ。人魚の里にはあの双子がいるし、これから君達も行くから戦力的には問題ないだろうけど、念の為にね。僕は足は遅いし、セナみたいについて行く手段もないから、一緒に行こうとすると足枷になる」
「そういうことなら······」
と、言う訳で現在は人魚の里に移動中。ボクは時々『魔砲』も使用してそこそこの速度を出している。······確か今の速度、ニャルラトホテプ戦の前にカンナがボクをお姫様抱っこして走った時より遅いんだよなぁ。あの時は父さん全力疾走だったし。今は割と余裕っぽい。
「この調子ならどのくらいで着くかな?」
「んー······感覚的にはそろそろ半分って所か?」
「そんなに進んでたんだ。というか、目印になる物も無いのによく分かるね?」
「うんにゃ、ただの勘」
勘かい。まぁ、父さんの勘って恐ろしいくらいに当たるからなぁ······。プロマジシャンのコインマジックを勘と動体視力だけで十回連続で看破したと言ったら、その精度が分かるだろうか。
あのマジシャン、いい歳したおっさんなのに最後は泣いてたなぁ······可哀想に·········。
あ、そういえば、人魚の里から神殿までの距離で、その半分くらいならギリ『念話』の射程圏内だっけ。ユリアに繋がるか試してみよう。
『ユリア、そっちはどう?』
『スノウ!やっと繋がった!こっちは邪神が二体も来てかなりヤバいわ!できるだけ早く戻ってき······きゃあぁっ!』
その悲鳴を最後にブツン、とユリアとの『念話』が途切れた。
「ヤバい!人魚の里にも邪神が二体来たって!」
「ちぃっ、リュミナの悪い予感が当たったか······」
「どうする?」
このカンナの「どうする?」は、このままの速度でいいのか、それともスピードアップして一刻も早く人魚の里に行くかを聞いているのだろう。答えはもちろん決まっている。
「スピード上げるよ!」
「ん」
「了解!」
『魔砲』の使用頻度と消費MPを上げてさらに加速するボクと、ボクに追随して走る速度を上げるカンナと父さん。
「『エリア·エンハンスド·アジリティ』!」
母さんのAGI支援魔法を受けたボク達は、先程までの二倍近い速度で人魚の里へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇
『魔砲』の使用頻度を上げたこともあり、途中で【魔力自動回復Ⅴ】でも回復が追いつかなくなってMPポーションで補給することにもなったが、その甲斐あって往路の四分の一以下の時間で人魚の里が見える所まで戻って来ることができた。
「頑張ればいけるもんだねぇ」
「ん、余裕」
「お前らは余裕あるかもしれんが、俺みたいなのはキツいぞ······?バフと自前のAGI以外に加速手段無いんだからな?」
まぁカンナは魔力身体強化、ボクは呪力身体強化と『魔砲』があるけど、その手の強化無しでボク達に追いつく父さんも大概だと思うけどね?
「その話は一旦置いといて、今はリルちゃん達とイスファさん達を探す時じゃない?」
「それもそうだな」
「そうは言っても、どうやって探すのさ。リル達はともかく、イスファ達の場所を探す方法なんてボクは知らないよ?」
「リル達の場所は分かるのか?」
「まぁ、契約してるからね」
ボクとリル達との間には【召喚術】で魔力的な繋がりがあるから、それを辿れば······。
「あそこらへん!」
「ほう、それは便利そうだな······って、リル達結構ヤバそうだぞ?」
「どれ······っ!?」
父さんはヤバそう、という印象しか受けなかったみたいだが、瘴気が視えるボクは、リル達の近くにいる化け物を見た瞬間に悪寒が走った。
姿は魚人っぽくて人型の範疇だが、中身はそれとはかけ離れた、言葉に表すこともできないくらいの禍々しさと瘴気をその身に秘めている。どう足掻いてもボクでは勝てないのがハッキリと分かってしまい、ボクの身体はガタガタと震えだし、動かそうとしてもピクリとも動かない。
おい···動けよ、ボクの身体。あいつはどう考えてもヤバい。ボクじゃ絶対に敵わないが、カンナがいればなんとかなるかもしれないし、リュミナがおじさん達の転移先を探っている。カンナだけでは倒しきれなくとも、おじさん達が来るまでの時間を稼ぐくらいなら、ボクにもできる。
それに、ボクはプレイヤーだ。何度死のうともデスペナを食らうがまたリスポーンする。だがリル達はどうだ?その本質はデータにすぎないが、確かに一つの生命として存在している。ボク達と違って、リル達にはたった一つの命しかない。死ねばそこで終わりなのだ。
ボクはさっきもそうやってカンナを助けようとしたじゃないか!ボクが死ぬくらいどうでもいい!ほら!動けよ!
「っ······!」
カンナも何らかの方法で瘴気を感じられるようで、ボクが固まっている間に魚人モドキに向かって走り出した。
早く!早く動けよボクの身体!
なんとか身体を動かそうとしているボクの脳内に誰かの声が聞こえる。この声はユリアじゃない。リルでもヴァルナでもイナバでも、おじさんでもエメロアでもリオンでもない。でも、この声は聞いたことがある。
『やめておけ。貴様はあやつの魂を直接視てしまったのだ。正気を保っているだけマシだと思え』
関係ない!この距離じゃ無理だけど、リル達の近くに行くことができれば〈強制送還〉でリル達を助けることができる。それだけでいいんだ!
『貴様には分からんだろうが、あやつを視て、屈さずにいること自体が貴様の魂に大きな負担をかけている。このまま屈さずにいても、あやつに立ち向かっても貴様の魂が傷つくぞ?』
そんなことどうでもいい!魂が壊れる=アバターロストだったとしても、リル達を助けられるのなら構わない!
そうやってボクが震えている間にも魚人モドキがリル達に近づいていて、槍を振りかぶっている。魚人モドキとリル達の間にはアルフが立ちはだかっているが、アルフも膝を付く程に疲弊していて、魚人モドキの攻撃を防げるか怪しい。
もう時間がない!邪魔するだけならどっか行って!
『······そこまで強情なら仕方ないか。小娘、貴様の時空魔法で転移術式を組め』
その言葉と同時に、転移魔法の使い方がボクの頭に流れ込んでくる。
術式はかなり難解で、今のボクの魔力操作ではとても間に合いそうにない。
いや······あの魔法を使えばいけるか。
すぐさま【古代魔法·時空】の『加速』を構築し、それをわざと不完全な状態で発動させる。
周りの全ての動く速度が数分の一になるが、ボクの動きも遅くなる。
この魔法の名は、仮称ではあるが『思考加速』。ボクの全てを加速させる『加速』とは違い、ボクの思考だけを加速させる魔法。
スキル名にある通り【古代魔法·時空】は古代魔法。当然と言うべきなのか、構築が普通の魔法より難しく、ユリアに構築してもらうのではなく自分で構築するとかなり時間がかかる、というのがおじさん達との訓練で分かっている。
そんな訓練の最中に生まれたのがこの『思考加速』。魔法の対象を自身の肉体と精神の両方ではなく精神のみにして術式の構築難易度を下げることで素早く発動し、自身の思考速度を数倍に加速させる。動きは速くならないが、思考が加速するので魔法の構築速度も加速する。
ちなみにこの魔法も制御ミスの産物だったりする。
『思考加速』で加速された思考で急いで転移術式を組む。初めて組む術式なうえ、焦っていることもあって魔力のロスが多いが今は気にしていられない。ニャルラトホテプからかなりの魔力と霊力、瘴気を吸収しているので惜しみなく魔力を術式に注ぐ。
疾走しているカンナがそろそろリル達の元に到着しそうな時、ボクの転移術式も完成する。
『行け、小娘。あのいけすかない奴に一発ぶちかましてやれ』
今、ボクの脳内に話しかけているあんたが本体なのか、本体が消えた後の残滓なのかは分からないが、今だけは礼を言うよ。ニャルラトホテプ。
『礼などいらぬ。我もあやつのことは嫌いだからな』
呪力身体強化と金炎を同時発動してから全力で地面を蹴ってほぼ最高速まで一気に加速する。続いて転移魔法を発動させ、運動エネルギーはそのままに魚人モドキのすぐ近くへと転移する。
転移したボクより一足先にここに到着したカンナは、既に刀を振り切っている。
魚人モドキが突き出した槍の穂先を切り飛ばし、魚人モドキの武器を撥ね上げて隙を作ることができたが、ニャルラトホテプとの戦いで大質量のものをいくつも斬ったり、刀で受け流しをしたりなどで負担がかかっていた刀が、その刀身の半ばで折れてしまう。
カンナが刀を犠牲にしてまで作ってくれたこの隙、無駄にはしない!
「飛んでけええええぇぇぇぇぇ!!!」
アーツ名の発声無しで〈隕星〉を発動させて、魚人モドキの側頭部目掛けて蹴りを打ち込む。
かなりの勢いで魚人モドキが吹っ飛び、建築物に突っ込んで倒壊する。
吹っ飛びはすごかったけど、手応えは全然無かったな·········。
蹴った時の感触から、今の一撃ではほとんどダメージが入ってなさそうなので、せめて目くらましにと魚人モドキが突っ込んだ辺りに【メイド式暗器術】で取り出した【属性炸裂瓶】を放り投げておく。
「皆!だいじょう·········」
リル達の現状を確認しようと振り返ったボクは、その光景を見て絶句する。
リルもヴァルナもイナバもアルフも、全員の武器と防具はボロボロで、いつ壊れてもおかしくないくらいの損耗だ。
被害は武具だけには収まらず、怪我の具合もかなり酷い。
今回の邪神騒動に参戦するにおいて、全員がエメロアから支給された、効果の高いポーションを持っているのだが、もう使いきったのだろう。治しきれていない傷が身体の至る所にある。
傷のほとんどが擦り傷や切り傷のリルはまだマシだが、他の三人が大怪我をしている。アルフの盾は幾度となく魚人モドキの攻撃を防いだせいで砕け、盾を持っていた腕はズタボロになっている。
ヴァルナの戦斧は柄の途中でへし折れており、右腕があらぬ方向に向いている。
ユリアは武具を装備していないし、目立った外傷もないが、瘴気に侵された身体の一部が黒ずんでしまっている。今は意識を失っていて、ヴァルナの左手で横たわっている。
そしてイナバに至っては······足が切り落とされてしまっていた。ポーションで出血は多少マシにはなっているが、足の断面がとても痛々しい。
さらに、遠目からでは気付かなかったが、ネプテューヌも大怪我をしていた。それも一番の深手で、腹にいくつも指し貫かれたような穴がある。そこから大量に出血しており、すぐに処置しないと命が危ない。
ネプテューヌの意識が無いのでネプテューヌの傷口に直接ポーションをかけながら、リル達に頭を下げる。
「······こんな危ない場所に連れて来ちゃって、ごめんね」
「おかーさんは悪くないの。ここで戦うって決めたのはリル達なの」
「それでもね。安全とは決まってない所にリル達を置いて行ったボクのせいだよ。皆大怪我しちゃってるし、イナバは···足も······」
「こ、これくらい平気なのです。おかーさんと出会う前に、耳や足が食いちぎられたことは何度もあるのです」
「···それよりも、おかーさんは大丈夫?いつもと様子が違う」
······うん。いきなり髪が伸びて色が変わって、身体にもタトゥー的なのも増えて、目の色も変わってたらそりゃあ不審に思うよね。
「これくらい、どうってことな
「嘘よ」
「······ユリア」
いつの間に起きたんだか。
「それだけの瘴気を抱えておいて、普通でいられるわけがない。貴方の魂を見れば分かる。スノウ、今すぐ瘴気をどこかに放出して。このままだと貴方の心と身体が保たない」
「それはできないかな。このメンバーで瘴気に耐性があるのはボクだけだ」
それに、瘴気は今はボクの戦力強化に繋がっている。おじさん達が来るまでの時間稼ぎをするにも、少しでも戦力を失うのは避けたい。
「ですがお嬢様!それ以上は危険です!」
「心配しすぎだよ、アルフ。ボクは死んでも死なない異界人だ。命の一つや二つは安いもんだよ」
と、ここで魚人モドキが吹っ飛んだ辺りの瓦礫が弾け飛び、魚人モドキが何事もなかったかの様子で戻ってくる。
ユリア達の身体を蝕んでいた瘴気を全て吸収し、魚人モドキに向き直る。
「新しい獲物が来たようじゃねェか。今度は上玉だなァ?」
······こいつはボクが一番嫌いなタイプか。ボクの全身を舐め回すような、心の底から気持ち悪いと思うような、べったりとした嫌な視線を送ってくる。
「そんな目で見ないでくれるかな。見られるだけで汚れそう」
「それは好都合だ。そうやって俺様に歯向かう女を無理矢理犯すのが趣味なんでなァ?」
「スノウ」
「スノウ!」
ボクだけを戦わせるまいと前に出てきたカンナと、頑張って走って来てそのまま参戦しようとした父さんを制する。
「カンナと父さんはユリア達の手当てをお願い。こいつはボクが相手する」
「でも···」
「カンナは刀が折れてるでしょ?それに、二人とも瘴気への対抗策が無いよね」
「ぐぅ。それはどうにかするしか無いだろ」
「瘴気を至近距離で浴びても問題ないのはボクだけだ。安心してよ。おじさん達が来るまで耐えるだけだから」
二人の方を向き、心配させないように精一杯の笑顔を見せる。
実はおじさんにも邪神対策はあり、エメロアは全ての属性魔法を習得していると聞いている。そのうえ、リオンにも自身だけなら瘴気から身を守るスキルがあり、アルマさんは中距離戦闘を主なスタイルとしているため瘴気の影響は薄いらしい。
そして何より、性格はアレだが邪神相手にする時は頼れるリュミナがいる。
残りの五人がすぐ来れるとは限らないが、誰か一人でも来てくれたら戦況は有利になるだろう。ボクの役目はそれまで耐えること。
「ほォ?お前一人で来るのか?」
「あぁ」
これからは近接戦闘だ。制御に気を取られる【混成魔法】は解除。代わりに呪力身体強化の強化率を上げる。
さっきまでは金炎を纏っていたから聖属性と相性が悪い呪力身体強化は出力を抑えていたが、今ならその問題はない。呪力を全体に巡らせ、特に手足を強化する。
手足の爪とその周辺の鱗が黒く染まり、禍々しく変貌するが構いはしない。そんな手抜きをしたらすぐに倒される相手だ。
「この戦いが終わったらこの場のお前以外の全員を殺し、お前だけは残して死ぬまで犯してやろう。光栄だろォ?」
戦闘準備を整え、魚人モドキへと歩み寄る。
「死ぬ方がマシだね。もっとも、そんなことにはならないだろうけど」
「はッ。やれるもんならやってみろォ!」
「ぶっ飛ばす!」
勝つことはできないだろうが、ユリア達をいじめた分、せめて一発でもぶん殴る!




