第五十六話 邪神討伐編⑥
すいません遅れましたぁ!m(_ _)m
模試やら河合塾のなんちゃらチャレンジやらで執筆時間が中々とれなくて遅れました。申し訳ない。
······最近ほぼ毎回謝ってる気がしますね。執筆速度がんばって上げないとなぁ。クオリティは下げずに。
『加速』でボク以外の全てが遅くなる中、視界を埋め尽くす触手群を【神聖魔法】で浄化し、【火炎魔法】で焼却し、そうして出来た隙間を触手を蹴ることでくぐり抜ける。
うーん······どうにも効きが悪いな。聖属性は浄化の性質が強いので瘴気を祓うことはできるが、質量がある触手を破壊するには威力が足りない。火属性は焼却の性質が強いので触手の破壊はできるが、瘴気は残る。まぁ、リュミナは聖属性だけで触手ごと浄化してたし、ボクのINTが足りないだけなんだろう。
おまけに触手には再生機能もあるから、突破が面倒なんだよね。なんで父さんとカンナはあそこまでスイスイ進むのかな···?
·········よし。【混成魔法】、使うか。おじさん達には他人には見せるなとか言われてたし、【混成魔法】といくつかのスキルを隠すためだけに隠者の腕輪って装備品も渡されたけど、ここにいる人達なら見せても問題はないでしょ。
『魔砲』を発動。溜め時間に入る。
属性は【混成魔法】で火属性と聖属性を選択。視界の端にあるMPゲージが【魔力自動回復】持ちのボクでもかなりの速度で減り始め、ボクの手の辺りに光が集まる。
光は段々と大きくなってやがて魔法陣を形成し、いつもの赤色の炎とは違い、聖属性の金色が混ざったような黄金色の炎が顕れる。
父さんとカンナには当たらないように射角を調整して·········撃つっ!
「『浄却金炎』!」
放たれた金炎は、進路上にあった全ての触手を焼き尽くし、あっというまにニャルラトホテプまで到達する。金炎はニャルラトホテプの皮膚までも焼き、ニャルラトホテプが苦悶の声を上げる。
金炎で焼かれた触手と皮膚は焦げ、火属性、もしくは聖属性単体で攻撃した時とは違って遅々とした速度でしか再生が進まない。
おー。思ったより効果が高い。しかも邪神やその系統に属するモンスターに対する再生阻害効果もあるっぽい?
消費が普通の魔法より重い分、費用対効果がある程度とはいえ釣り合ってて安心したよ。
「ぬぅっ···聖炎を操る者がいるだと······!?」
聖炎?なんぞそれ。
そんな疑問を抱きつつも、金炎で空いた空間を素早く通り抜けて父さん達の元へ辿り着いた所で『加速』の効果が切れる。
「やっほー」
「なんだ今の?結構あのタコに効いてるみたいだが」
「エクストラスキルで火属性と聖属性を混ぜたんだよ」
「···【混成魔法】?」
「カンナ、正解」
隠者の腕輪で隠しているスキルの一つが【混成魔法】。おじさん達との模擬戦で熱くなっちゃって、〈複合魔法〉の制御をミスッた結果生えたのがこのエクストラスキルである。
アーツ名、スキル名だけで話してもややこしいだけなので、ここで〈複合魔法〉と【混成魔法】の違いについて説明しておこう。
〈複合魔法〉は汎用スキル【魔力操作】に含まれるアーツで、効果は、「異なる属性魔法を同時に放つ」というもの。ボクが使ったのは······学院の入学試験の時か。火属性と風属性で『火嵐』、氷属性と風属性で『氷嵐』的なのを再現したのだ。
これだけ聞くとかなりの強スキルに思えるかもしれないが、所詮は汎用スキルのアーツ。意外と弱点はあったりする。
弱点一つ目。単純に消費が重い。
このアーツを発動すると、二つの属性を同時に発動した時と比べて二倍のMPを消費する。『魔弾』や『魔槍』なら元の消費量がたかが知れているため〈複合魔法〉を使っても消費はあまり高くないが、『魔纏』や『魔砲』で使用するとボクのMPでもガッツリ減る。『魔纏』は継続消費だから急に減るんじゃなくて、時間経過でゴリゴリ減るって感じだけど。
単一属性での『魔纏』のMP秒間消費が16、それが〈複合魔法〉だと跳ね上がってMP秒間消費が64になる。つまり四倍。昨日の殲滅でスキルレベルが上がった【魔力自動回復Ⅴ】でもMP秒間回復量は50だから、差し引き14MPが一秒で消費されるってこと。
弱点二つ目。組み合わせられる属性に限りがある。
このアーツで全ての組み合わせられるわけではなく、どうしてもできない組み合わせがある。火と風、雷と風のように基本の四属性、もしくはその派生属性の組み合わせなら可能だが、光や影、聖に闇などとは組み合わせることができない。あと、時空や幻影などの古代魔法との組み合わせもムリ。このアーツで組み合わせられるのは基本四属性とその派生属性のみである。
弱点三つ目。属性を組み合わせても、威力が上がるとは限らない。
火と風を合わせると、風が火を煽ってさらに燃え上がらせ、氷と風を合わせると、氷の刃を風が加速させて威力を上げる。こんな風に相乗効果が望める組み合わせもあるが、中には逆に威力が下がる組み合わせもある。
例えば火と水。火は水を蒸発させ、水は火を消してしまう。この二つを〈複合魔法〉で同時に放つと互いが互いを打ち消し合い、威力が全くと言っていいほど出ない。
あとは······単一属性で魔法を使う時より少しだけ時間がかかって、少しだけ制御が難しいくらいかな。
次は【混成魔法】。〈複合魔法〉の良い所をさらに強化して弱点もちょっと埋めて、でもいくつかの弱点はダメな方向に強化されちゃったような、そんなスキル。「二つの属性魔法を混ぜて、新しい一つの属性にする」という効果である。
〈複合魔法〉より優れている所一つ目。威力が高い。
属性を混ぜた後に何らかの補正が入るのか、混ぜただけにしてはおかしいくらいの火力が叩き出せる。〈複合魔法〉より構築と制御が難しく、総じて時間がかかるものの、その手間以上の威力が出るので、いざという時の切り札として持っておくにはいいスキルだ。
〈複合魔法〉より優れている所二つ目。どの属性を混ぜ合わせても火力が叩き出せる。
先述の通り、〈複合魔法〉は組み合わせる属性によってはかえって火力が下がるのだが、【混成魔法】はそのようなことがない。属性を「組み合わせる」のではなく「混ぜ合わせる」ので、火力が下がることはないのだ。逆に聞こう。どうやったら一つの属性で魔法を放って火力が下がるのか。
話は少し変わるが、エメロアによると【混成魔法】というのは、普通一つの属性しか発現しないらしい。たとえ火、水、風の三つの属性の適性があっても、【混成魔法】が発現するのは火と水を混ぜた属性のみ、といった感じだ。しかも、【混成魔法】が発現するとは限らない。
·········なぜかボクはいくつも発現してるんだけどね。ボクがこのスキルを隠せと言われた理由はそこにあったりする。
ボクが発現した組み合わせは以下に記述。
火+聖 火+雷 火+土 火+氷 氷+雷 聖+雷 闇+火 闇+氷 闇+雷 闇+風
一つ言わせてもらいたい。·········火と闇に偏り過ぎじゃないかな!?十通りの組み合わせがあるのに、火と闇が八割占めてるんだけど!?
おじさんには「過去に辛いことがあったのか?」なんて心配された。別に思い当たることはないのに。
まぁ、さっきも言ったけど、どの組み合わせでもかなりの火力を出せるから特に不満はない。疑問はあるけども。
ちなみに、ボクは使えないがおじさん達が知っている組み合わせもあるとのこと。以前に戦った相手が使っていたのを教えてくれた。
水属性と鋼属性で流体金属。
何の金属かは分からなかったけど、硬さと速さを両立してていい魔法だったよー。何も考えずに魔法の防御ごと殴り破って勝ったけどー。(byリオン)
水属性と土属性で泥沼。
気持ち悪かった。(byカンナ)
火属性と影属性で陽炎。
その魔法の使い手は陽炎って言ってたが、自然現象の陽炎とは違う魔法だったな。相手の魔法抵抗を無視して、精神に直接攻撃を加えるっつう特性で少し苦戦した覚えがある。まあ、最後は面倒くさくなって全部まとめてぶった切ったんだが。(byおじさん)
火属性と光属性で灼熱。
火属性の殺傷力に光属性の弾速、ワシが知っている属性魔法では一番厄介じゃったのう。あれより戦闘に向いた属性はなさそうじゃな。いやぁ、いい属性魔法を手に入れられてワシも満足じゃ!(byエメロア)
こんな感じ。
うん、おじさんもリオンも「とりあえず全部ぶっ壊す」という脳筋戦法で勝ったみたい。······それはそれとして、エメロアの言葉が気になるな。戦った相手の魔法を習得するとかのユニークスキルをお持ちで?
ここまで色々と【混成魔法】の利点について語ったが【混成魔法】にももちろん弱点はある。
弱点一つ目。同系統の属性は混ぜ合わせることができない。
ボクが発現した組み合わせの中にあるように、火属性と水属性など相剋の関係にある属性でも混ぜることができるのだが、火属性と爆属性のように同系統の属性は混ぜることができない。
ボクにその組み合わせが発現しなかったとかではなく、そもそも混ぜることができないんだと思う。ボクに【混成魔法】が発現して間も無い頃、ボクはどの組み合わせで【混成魔法】を発動できるかを試してみた。風属性と水属性を混ぜた時は特に何も無く、ただ魔法として完成しなかった。それに対し、風属性と雷属性を混ぜようとした時は、何らかの力による反発があって混ぜることすらできなかった。
十二英傑の誰も同系統の属性を混ぜた【混成魔法】を見たことがないらしいので、同系統の属性を混ぜることができないというのはほぼ確実である。
弱点二つ目。コストめちゃ重い。
〈複合魔法〉もかなり消費が重いスキルだけど、【混成魔法】のそれは〈複合魔法〉を容易く上回る。
信じられる?このスキルの消費MP〈複合魔法〉の二・五倍なんだよ·········?『魔弾』とか『魔槍』でもバカにならない消費量だし、『魔纏』は秒間160。【魔力自動回復Ⅴ】を差し引いても秒間110で、ずっと発動してると80秒も保たないんだけど?
『魔砲』は······言わなくても分かるでしょ。半分以上持ってかれたのでエメロア特製のMPポーションで回復中。
まぁ、消費量に見合う威力はあるんだけどね?
「すごい高火力ねぇ。エクストラスキルかしら?」
「うん。習得条件は分からないけど」
多分ボクの習得方法は裏技に近いんだろうなぁ。〈複合魔法〉の制御ミスが正規の習得方法だったら運営に問い合わせるわ。
「私も欲しいわね。習得条件は分かるの?」
「うーん······事故った結果だからなぁ。分かんない」
「······どうやったら事故の結果でエクストラスキルを習得するの·········?」
「不思議」
「そろそろ世間話は中断した方がいいぞ。奴さんが起き上がってきてるからな」
あ、本当だ。
さっきまでどれだけ触手を攻撃しても減ることのなかったニャルラトホテプのHPゲージが少しとはいえ削れている。そしてそれが回復しそうな素振りはない。見た目以上に影響が大きいらしい。
「ぬぐぐ···竜人だからと油断した。これ以上聖炎で焼かれては敵わん。まずは貴様から排除するとしよう」
「「「「「え」」」」」
マジで?
「ぬううおおおおおおおおおお!!!」
「いやぁああああああ!?」
ニャルラトホテプの雄叫びと共にボクだけを狙って殺到する大量の触手を自前の体術と聖属性魔法、〈魔力物質化〉などのアーツを駆使して必死に捌く。父さん達もボクに向かう触手を多少破壊してくれるけども、触手が多すぎて焼け石に水。エメロア特製のHPポーションを服用しながらでもボクのHPがかなりの速さで減っていく。
多い!多いって!死ぬ!!死ぬうううううううう!!!
「ちっ。野郎、うちの息子だけを狙いやがる。セナ、野郎の本体に魔法頼む!」
「やってるわよ!撃った端から黒い渦に吸収されてるけど!」
さっきまで黒い渦なんて使ってなかったよね!?どれだけボク相手に本気出すのー!?
「くぅっ、女性だけを狙うとはなんて卑劣なやつだ!野望も欲にまみれているし、生かしておくわけにはいかない!」
「我の野望に賛同しかけた奴が何を言う!」
リュミナはボケずに真面目にやってくれない!?今めっちゃピンチなんだけど!?
そんなツッコミを声に出す余裕すら今はない。母さんが攻撃から回復主体で行動してくれているおかげでまだ死んでいないものの、母さんのMPはあたりまえだが有限だ。いずれ限界が来る。父さんとカンナはこちらに来ようとしているが、あまりに触手の勢いが強く、近づけていない。
ボクはプレイヤーだから死んでも戻ってはこれるけど、今まで一度も死んでないから、リスポーン地点が分からないんだよね。ここから近いとも限らないし、できれば死にたくない。
【淫乱竜】······できれば使いたくないけど、使うかぁ。目には目を、歯には歯を、触手には触手を。触手は出せば出す程MP消費量は上がるが、その分のリソースはニャルラトホテプから奪えば足りるだろう。
「【淫乱竜】···〈淫靡なる触手〉っ!」
数え切れない程の触手がボクの背後から出現してMPが即座に枯渇しかけるが、触手の内のいくつかがニャルラトホテプのそれに絡みついた数瞬の後、枯渇しかけていたMPがぐぐっと回復する·········あれ?なんでHPまで回復してるの?【淫乱竜】に含まれているのは〈魔力吸収〉と〈霊力吸収〉だけだよね?
まぁいいや。回復してくれる分にはボクに損はない。
MPが回復したら触手を出して、回復したら出して回復したら出して回復したら出してを繰り返す。まだニャルラトホテプの触手の方が数も多く馬力も上だが、それなら追いつくまで触手を出せばいい話。なんせリソースはあっち持ちなんだからボクの触手が絶えることはない。
吸って出して耐えて、どうにか少しの間だけでもこの触手群を止める。今は触手の密度と勢いがすごいから近寄れていないだけで、それを弱めれば、ほら。
「〈抜刀術·空間斬り〉」
ズンッ
何百本もあったであろう触手の束がただ一刀で全て斬り飛ばされる。
触手をまとめて斬り飛ばした主はニャルラトホテプとボクの間に立ちふさがり、ニャルラトホテプを睨みつける。
「私のメイドに手出しはさせない。私が満足するまでご飯を作ってもらう」
·········後半を口に出さなければかっこいいだけのシーンになったんだけどな。いまいち格好がつかない。まぁ、これがカンナだもんね。
カンナは刀に手をかけ、居合の構えを取る。
「私のメイドに手を出そうとした罪、その命で贖ってもらう」
·········さっきから思ってたけど、ボクはカンナ専属のメイドじゃないからね?いや、ご飯は戦いの後に作ってあげるけども。




