第四十話 謁見と人化と暴走事件(二回目)
宿題を早めに終わらせた後に復習しなかったせいで課題テストあんまり解けなかった······
(´・ω・`)
平均点いってるか不安(´;ω;`)
はい、こちらスノウ。現在は王城にいます。え?なんでかって?そう、あれは大体三十分前のこと·········。
〜三十分前〜
黒ずくめ達の追跡を振り切り、無事に学院に辿り着いたボク達を迎えたのは、ヘリオスと、どこかヘリオスに似ている男性と女性だった。
アナスタシアちゃんはヘリオス達を見ると、一目散に駆け寄っていく。
「母上、父上、兄上ー!」
「無事で良かった······!」
「アナが攫われたって聞いた時は生きた心地がしなかったわ······」
「本当に、本当に良かった·········!」
四人は皆で抱き合っている。
うん、やっぱり家族との再会は見てるだけでも感動するよね········ってお母さん!?お姉さんじゃなくて!?あの見た目で二児の母なの?全然そんな風には見えない············あ。ヘリオスのお母さん程じゃないけど、ボクの両親も似たようなものだった。母さんはラノベの登場人物かと思うくらいに歳と見た目が離れてるし、父さんは·········あの人は色々とおかしいんだよなぁ。
「スノウ殿、だったか。娘を助けていただき、礼を言う。一人の父親としては頭を下げたいのだが、私の立場がそれを許してはくれないのだ」
ん?いつの間にか家族の抱き合いは終わってたのね。ヘリオスに似ている、長身のダンディな男性がボクに近付いて話しかけてきた。
「あぁ。貴族、というか王族には立場がありますもんね。構わないですよ」
礼を言いながらも、頭を下げることができないのを謝るって、ヘリオスとほぼ同じことしてるなぁ。見た目もだけど、性格もかなり似ているみたい。
「貴殿には何か礼の品を渡したいのだが、公式の場でないと宰相がうるさいのでな。いきなりで申し訳ないが、城まで来てもらえるだろうか?」
「えっ、ボクは今日入学式があるんですけど······」
もう遅刻してるからある程度は怒られるだろうけど、せめて出席だけはして、少しでもお説教を減らさないと。
「スノウ、入学式ならもう終わったぞ?」
「えぇっ!?」
ヘリオスの言葉に愕然とするボク。まさか、入学式がもう終わっていたなんて·········。
『あの後もしばらく追いかけっこしてたものね。仕方ないわよ』
黒ずくめたち、ボクの追跡に気付かなかった癖に、すごくしつこかったもんなぁ。市街地だからボクの最大火力は発揮できなかったし、大変だったよ。草原とかなら『魔砲』で全部まとめて薙ぎ払ったのにね。
「あのさ·········先生たち、怒ってた?」
「いや、セイリア家の都合で動いていると伝えたから大丈夫だ。誰も怒ってなどいない」
ふぅ、安心した。入学早々、「不良生徒」のレッテルを貼られなくてよかったよ。
「それで、城には来てくれるのだろうか?」
あ、ヘリオスのお父さんを放置してたの忘れてた。入学式が既に終わってるから、もう今日の用事は無いんだよね。
「はい、大丈夫です」
「では、後で会おう」
〜現在〜
とまぁ、こんな流れで今に至る。
今ボクがいる部屋は、扉からまっすぐにカーペットが敷かれていて、その奥には玉座っぽいのがあり、これぞ謁見の間という作りになっている。
まだヘリオスのお父さんは来ていないが、この部屋にはたくさんの男性がいる。誰もかれも髭を生やしてたり、体格がゴツかったりであまり落ち着かないし、かなり緊張する。
え?男なのに、男だらけの空間で緊張するのはおかしいって?いやいや、おっさんばっかの部屋で落ち着く方がおかしいでしょ。
あと、ボクの胸とかお尻に嫌な視線が集中してるんだよね·········。こんな所にいる以上はそれなりに偉い人達なんだろうけど、やっぱり男の人はおっぱいが気になるんだね·············。
え?ボク?全く気にならないよ。
あ、アーサーさんだ。アーサーさんもボクに気付いたらしく会釈をしてくれたので、ボクは手を振って返事をした。
あれ?ボクに向けられる嫌な視線が減って、アーサーさんに標的が移ったような············。なんでだろ?
そんな感じで色々と考えていると、突如として場に雰囲気が変わった。ここにいる人で、ボクを除いた全員が玉座に向かって跪き、頭を下げた。
んーと······状況を見るに、ボクも周りのおっさん達と同じ風な行動を取った方がいいのかなぁ?ボクは異界人でこの世界での礼儀作法とか知らないから、どうすればいいのか分からない。ヘリオスに聞いておけばよかった············。
後悔先に立たず。今のボクにはそのことわざが一番当てはまるだろう。王族に対する礼儀作法も王城での宮廷マナーも知らない内に、この国の王であるヘリオスのお父さんが現れたので、とりあえず周りのおっさん達を真似して跪いておいた。
「スノウ殿、其方が頭を下げる必要はない」
その一言で、急に謁見の間が騒がしくなった。
「陛下が敬称を付けて呼ぶだと······!?」
「あの竜人は何者だ?」
「もしや何か事情が·········」
ただの一般人だよ!?いやまぁ事情は多少あるけども!もう、なんでヘリオスのお父さんはボクを「殿」付けで呼ぶかな!?
『娘を助けてくれた人に敬意を払うのは、おかしいことじゃないでしょ』
『そうだけどさぁ······こんな大勢の人の前で言うのはやめてほしいよ。ボクはただの平民だし』
現実でもボクは一般人だからね。こんな風に目立つのは慣れてないんだよ。嫌な視線が集まることはあるけど、お偉いさん達に注目された経験はないんでね。
『······嫌な視線は集まるんだ』
あ、また『念話』発動していない間の思考が読み取られた。いったいどうなってるの?
『もう『念話』を発動しなくても、スノウの思考は私に直通よ?』
いつの間にボクの思考はフルオープンになってたの!?
『副作用はないから、無問題よ』
プライバシーの権利が蹂躙されてるのは立派な問題では!?
『それで、あっちの世界でも嫌な視線は集まるの?』
『中学生くらいから気付いたんだけど、人混みに行くと、100%男の人から嫌な視線が集まる』
数や質の差はあれど、全く嫌な視線を感じないことは無かったのが悲しい。校外学習でも、修学旅行すら例外ではなかったのが泣けてくる···············。
『スノウって本当に男なのよね··········?』
『あっちの世界のボクには、ちゃんとちんち○は付いてる』
顔は女らしくても、生物学的には揺るがない男だよ、ボクは。
「スノウ殿、顔を上げてくれ」
「あっ、はい」
あ、そういえば今は王城にいるんだった。しかも国王の目の前。ユリアと『念話』する暇はない。
「此の度の活躍、何度言っても言いきれぬ。我が娘であるアナスタシアの救出、誠に感謝する」
再び、謁見の間が騒がしくなった。
「アナスタシア様が攫われた!?」
「どこのどいつだ·········!」
「未来永劫、子々孫々まで許さぬ!」
············ここ、ロリコン紛れてない?すごい熱意なんだけど?
「静まれ」
ヘリオスのお父さんの一言で、辺りが静かになる。おぉ、さすが国王様。威厳がたっぷり。
「スノウ殿、何か欲しい物はあるか?私に用意できる物なら、必ず用意しよう」
「う〜ん········」
何をお願いしようか。今、ボクが欲しい物かぁ············。
「遠慮なく言ってくれ。其方はそれほどのことをしたのだ」
いや、遠慮してるんじゃなくて何を頼もうか悩んでるんです。
「自分で言うのもなんだが、私ならこの世の大抵の品は用意できる。希少な金属を贅沢に使った武具か?どんな傷も病も治すと言われている霊薬か?」
「私に不相応な武具を貰っても持て余すだけですし、私は職人を志しているので、霊薬はいつか自分の手で作りたいです。······そうだ、【人化】の技能書はありますか?それも三つ」
言うまでもなくリル、ヴァルナ、イナバの分である。三人が人化したらどうなるのか非常に気になるっていう単純な理由だね。本人たちが嫌でなければ、是非とも人化してほしい。
「その技能書なら二十くらいはあるが、そんな物でいいのか?」
「他に欲しい物はないので」
「ふむ、そうか·········。では、直接手渡そう」
そう言っておもむろに立ち上がると、何もない空中から技能書を三つ取り出した。
「これが【人化】の技能書だ」
「ありがとうございます」
帰ったら、リル達にこの技能書を使おっと。あ、もちろんリル達の承諾を貰ってからね。
こうして、特にトラブルは無く、謁見を終わらせるボクであった。
ちなみに、ボクがいなくなった後に、今回の事件についての対策を練っていたらしい。頭脳労働は頭脳労働が得意な人にお任せします。ボクはそういうの苦手なんで。
帰宅後。今は、やっと起きた三人娘に【人化】の技能書を使っていいか意思確認している所だ。
「リル、ヴァルナ、イナバ。今の姿のままか、ボクみたいに人間っぽい姿、どっちがいい?」
『おかーさんとお揃いがいいの!』
『······同意見』
『私もなのです!』
嬉しいことを言ってくれるじゃないか娘達よ。何か買ってあげたくなっちゃうなぁ。
「それじゃこれ。魔力を流せば使えるはずだよ」
それぞれに技能書を渡すと、リル達は各々で魔力を流し、【人化】を発動させる。
『こう···かな?【人化】なのー!』
『······【人化】』
『【人化】なのです!』
三人から光が溢れ、その光が止んだ時に立っていたのは······
「もう少しおっぱいが欲しかったの·········」
少し落ち込んでいる様子の、薄緑色の長い髪の毛と黄金色の目を持つ快活そうな美少女。
「······ふ。私はかなりある」
どこか満足そうな表情をして、灰銀色のセミロングの髪を靡かせ、瞳を赤色に輝かせたボクより少し背が低い褐色ロリ。
「ふむ。身長はあるけど、おかーさん程のおっぱいは無いのです」
胸に手を当ててそんなことを呟いている、雪のような純白の髪に、氷のような透き通る水色の目を持つスレンダーな美少女······というより美人?もしかしたらボクより年上と思われるかもしれないくらいには大人びた美少女。
·········って三人とも裸じゃん!?早く服を着せないといけないけど、ボクは服をそんなに持ってないや。どうしよう?
『アルマを呼べば?』
『たくさん持ってるだろうけど······不安が拭えない』
アルマさん、色々な服を着させようとしそうなんだよなぁ。どうにかしてアルマさん以外に頼まないと。
しかし、ボクの行動が遅すぎたことを世界は告げた。
「美少女の気配がするわ〜!」
突如ボク達の部屋に乱入者が現れ、三人がビクッ!と驚いた。
「あああああああ一番来ちゃいけない人来ちゃったああああああああああ!!!」
なんで呼んでないのに来るの!?というかまず美少女の気配って何!?
「アルマさんなんでここに!?」
「美少女がいる所に私はいるわよ〜」
理由すらなく、ただそういうものだと言われた。
「ダメだ絶妙に話がかみ合ってない!」
最初は、最初はあんなに常識人だったのに············!
『初対面でのあれ、取り繕いすぎでしょ·········』
『本当にね··········』
昔のことを考えている場合じゃない。どうやったら十二英傑の一人を相手に三人を守り切れるかだ。
『ユリア!いつもの幻惑系の魔法をーーー』
「むぐぅ!?」
ユリアに『念話』で指示を出そうとしたが、ボクの身体に衝撃が走り、なぜか『念話』が途絶えた。
な!?鞭で縛られてる······!?速すぎる············!
「もがぁ!むぐ、むぐむぐぅ!」
「暴れても無駄よ〜。その鞭は古竜の素材を使ってるから、スノウちゃんの魔力は封印されるから〜」
魔力が使えないと、リル達の送還もできないし、おじさんやエメロアに助けを呼ぶことすらできない。どうすれば······。
ボクが身動きを取れない間に、アルマさんがリル達に迫っている。
「ふふふ〜。どんな服が似合うかしら〜?」
「お、おかーさん。この人怖いの······」
「······命を奪われる恐怖じゃない。じゃあ、なんでこんなに身体が震える·········?」
それは、アルマさんが変態だからだ。変態に迫られるというのは、ホラー映画とかとは違う恐怖がある。現実で味わったことがあるからボクにはよく分かる。
「この人の目が普通じゃないのです!?」
ちくしょう、ボクにはアルマさんを止められる程の実力はないし、そもそもこの鞭を拘束を抜けることすらできない。万事休すか、と思ったその時。
「大丈夫か嬢ちゃん!」
「さすがにむりやりは犯罪だよ!」
「あふん!?」
おじさんがドアを蹴破り、素早く飛び込んできたリオンがアルマさんの頭部を容赦なく蹴り飛ばして意識を奪う。
「ふう······。大丈夫か、嬢ちゃんたち?」
「危なかったの······」
「······感じたことのない種類の恐怖を感じた」
「変態、怖いのです」
「うぅむ、アルマは酔うとすぐにこうなるのう」
「またお酒!?」
いい加減、アルマさんにお酒飲ませるのやめない?襲われる側からしたらたまったもんじゃないんだよ。
こうして、突然発生した、アルマさん暴走事件(二回目)はおじさんとリオンによって解決された。アルマさんには飲酒禁止令が出され、当分の間はリル達にも嫌われることとなるのだった。自業自得だね。
あ、結局、リル達の服は無事に入手できたよ。アルマさんのポケットマネーで、服と服以外を色々と買い込みました。結構使ったはずなんだけど、おじさんに言わせると「この金額を毎日使い続けても百年分はある」らしい。·········アルマさんの変態性と高スペックを思い知った事件だった。
あ、【真·竜魔法】と〈魔力物質化〉の効果を少し変更しました。【真·竜魔法】はINTで魔法を防ぐのは変わらず、VITへの加算が無くなりました。〈魔力物質化〉は外付けのMPタンク的な使い方ができるように上方修正。
ちなみに、それぞれ第九話と第十五話に書いてあるので、気が向いたらご確認を。




