第三十六話 二次試験(後編②)
少し投稿が遅れました。ごめんなさいm(_ _)m
◇◆◇クゲズスside◇◆◇
「(······よし!よしよしよし!この時間ならあのヘリオスも帰ってはこれないだろう。そして上手く事を運べば、あいつの命すら奪うことも可能だろう。弟の分際でこの俺より人望と才能を持ったあいつが悪いんだ。フハハハハッ!)」
ヘリオスの兄、王位継承権第三位であるクゲズス·セイリアは試験の残り時間を確認して、ほくそ笑んでいた。自らの二段構えの計画の成功を確信していたからだ。
最初の計画は一次試験にて。
相当な数の冒険者を金で釣って協力させ、学院に侵入させた部下を使って自分と協力者とヘリオス達を同じグループにし、取り囲んで数の暴力で脱落させる、という作戦だった。この計画は、撃破数稼ぎの目的でヘリオス側についたスノウとロネによって失敗した。
二度目の計画は二次試験にて。
彼は偶然を装って二体の地竜をヘリオス達のパーティーにけしかけ、自分達は魔道具をふんだんに使って試験会場へと戻るという作戦を行なった。それに加え、事前に抱き込んでいた部下を試験官にし、ヘリオス達を助けに行かないようにしていた。その作戦は成功。確実にヘリオス達は試験失格となり、このまま上手く行けばヘリオス達の命を奪うこともできると思っていた。これで王位継承権第一位のヘリオスが死に、あとは王位継承権第二位である、第一王女アナスタシアを葬れば、己が王位継承権第一位になれると思っていた。
しかし、残り五分の知らせと共に聞こえてきたアナウンスがその幻想を打ち砕いた。
〘いよいよ試験は残り五分です!まだ一次試験の一位と二位のパーティーは戻ってきていませんが······って何か飛んできているようです!あれは·········スノウちゃん!?スノウちゃんが、パーティーメンバーのロネと高天原の五人を背負ってきたぁ!?〙
「(何!?あんな遠い場所から六人を運んできただと!?なんて筋力をしてやがるんだ······!)」
完璧だと思っていた作戦、成功を疑っていなかった二段構えの己の策がボロボロと崩れていく様を幻視するクゲズス。ヘリオス達が帰って来た、つまり、スノウとロネの助力によってけしかけた二体の地竜を短時間で打倒したという事態は、全く予期していなかった。
ヘリオス達はCランク下位、もしくはDランク上位ほどの実力を持っているが、地竜は一体あたりでCランクの脅威度である。それが二体もいれば、ヘリオス達の実力では苦戦を免れないどころか、離脱すらかなり厳しい。
冷静な戦力分析を基に立てられた作戦だったが、スノウとロネというBランクとCランクの冒険者の参戦を計算に入れなかったのが、作戦失敗の原因だろう。
無事に試験終了に間に合い、地上に着陸したスノウをクゲズスは睨んだ。
「(この女め······覚えてろよ。いつか手段を尽くして貴様を手に入れ、泣き叫ぶまで犯してやる······!)」
逆恨みにも程がある憎しみと、その豊満な肢体への情欲を溢れんばかりに込めた濁りきった目で、スノウを睨むクゲズスだった。
······どちらの作戦もスノウとロネで潰しているので、逆恨みというのはあながち間違いでもなさそうだ。むしろ、なぜロネはその対象になっていないのかという疑問が湧いてくるまである。
◇◆◇スノウside◇◆◇
なんなんだろうあの人······すごい嫌な目でこっち見てくるんだけど·········。ボクの直感もかなり反応してるし、あの人には近付かないようにしておこう。
「ふぅ、間に合ってよかったね······って、あれ?」
後ろを振り返ってみると、皆ぐったりとしている。腕に抱えたロネとフィロはまだマシだが、尻尾で掴んでいた四人はまるで死体。生気がどこかで抜け落ちたかのような死んだ魚の目だった。
これ······大丈夫かな?
『明らかにダメでしょ』
『だよね〜』
······多分、後で怒られる。まぁ、今回の功績をアピールすればそこまで怒られないですむかな?
『すごい早かったの!』
『······景色、綺麗』
『さすがおかーさんなのです!』
うんうん。好評なら良かった·········え?今なんて?
『イナバ、今なんて!?』
『さすがおかーさんなのです!』
『なんでおかーさんなの!?』
明らかに血は繋がってないよね!?竜と兎だよ!?
『マーナガルム様に、「スノウさんを新しい母と思って甘えなさい」って言われたのです』
マーナガルムさぁぁぁああああん!?何を勝手に言ってくれちゃってんの!?
『リルも言われたの』
『······私も』
ブルータス、お前もか!
あとリルとヴァルナは貴方の実の娘でしょ!?
『それとも、イナバ達が娘じゃ嫌なのですか?』
『······そうなの?』
『悲しいの···』
うぅっ、念話越しでも悲しそうな雰囲気が伝わってくる······。違う、そうじゃないんだ。ただ、男として······「パパ」と呼ばれるより先に「おかーさん」って呼ばれるのは複雑な気分なんだ············。
『······ううん。皆ボクの大切な娘だよ』
『おかーさん!』
『······嬉しい』
『おかーさん!』
嗚呼、なんでボクは父親になるより先に母親になったんだ·········。
『頑張りなさい、お母さん!』
ぶっ飛ばすよ!?
「う······もう到着したのか?」
ようやく立ち直ったヘリオスがうめき声をあげながら起きる。
「うん。無事に間に合ったよ」
「そうか、本当にありがとう。······もう少し大人しい移動方法なら文句なしだったんだけどね」
うーん······さすがにボクでも他の手段は無かったかなぁ。
「間に合ったんだから、文句は受けつけないよ」
「わかっているさ。君は恩人なんだし、文句を本気で言うつもりはない」
「······うっぷ。酔った」
フレイぃぃぃいいいいい!?絶対にボクの尻尾に吐かないでよ!?フレイを掴んでるのは〈魔力物質化〉の尻尾とはいえ、気分的によろしくないから!
「ふんっ!」
「ゲフッ」
フレイがリバースする前に離れた所にぶん投げる。男に優しくする趣味はないし、ちょっとくらい雑に扱っても問題ないよね。
「他の皆はどう?吐きそう?」
「大丈夫!大丈夫だから投げないでいいよ!」
「は、はいっ!私も大丈夫です!」
「わ、私もよ!」
「·········(必死に何回も首を縦に振っている)」
あのねぇ。そんなに必死にならなくても、吐きそうじゃないんだったら投げないから。······吐きそうじゃなかったらね。
それにしても·········。
「周りの人達がボクを見てる気がするんだけど?」
「······今頃気付いたのかい?」
え?ヘリオスは気付いてたの?
ボクってそんなに目立つ見た目してないから、あんまり周りを気にしないんだよね。
『いや、スノウは結構目立つわよ?貴方が地味なら、世界のほとんどの人が地味にカテゴライズされると思うのだけど······』
『それは言い過ぎじゃない?』
ボクはただの女顔で声が高いだけの男子高校生だよ。
······ん?あー······もしかしたらこのでっかいおっぱいが目立ってるのかも?男の人はでっかいおっぱいをつい見ちゃうって柊和姉や雫乃が言ってたし。
え?ボク?別に興味ないかな。
「あと······そろそろ下ろしてはもらえないだろうか」
あ、忘れてた。
ヘリオスを除いて優しく地面に下ろし、ヘリオスを魔力の尻尾で掴んだまま〈魔力物質化〉を解除する。ちっ、上手く着地したか。
『なんでヘリオスだけ扱いが雑なのよ······』
男に優しくする趣味は無いから。ボクも男だもん。男と女がいたら、そりゃあ女の方を優しくするよ。
「すいません、収納鞄を回収させてください」
学院の職員と思わしき人がそう声をかけてきたので、ロネとヘリオスが素直に収納鞄を渡す。
「はい、ありがとうございま······え?」
二人から収納鞄を受け取ろうとした職員さんの動きが止まる。どしたの?
「すいません。この何かの尻尾がはみ出してるのって······」
「あぁ、容量がいっぱいになって溢れたのよ」
「容量が限界!?」
うるさっ!ちょっと驚き過ぎだよ······。横にいるミオナやメルも思わず耳を塞いでるじゃん。
「お前ら一体あたりどれだけのスピードで狩ってんだよ?」
フレイはそう言うけど、そんなこと聞かれてもいちいち数えてないから分かんないよ。確か数十体は首チョンパしたような······?
そうやってしばらく話していると、ステージの上に司会の人が戻ってくる。
〘それでは、二次試験の結果発表で〜す!〙
ウオオオオオォォォォォ!
〘まずは第三位!一次試験第三位のパーティーを退け、新たに第三位となったのは······鋼の獣!獣人だけで組まれたパーティーです!パーティーリーダーのレオナさん!一言お願いします!〙
ステージに上がったのは、長い茶髪をボサボサにした女の人。······どこが鋼なんだろうか。「私達の筋肉は鋼のように硬いぞ!」って意味なのかな?
〘アタシ達は狩りには自信あったんだけど、残念だねぇ。まぁ、一位と二位の奴らは尊敬するよ!〙
おぉ。なんか豪快で男らしいね。ボクもレオナさんみたいな口調にすれば、男らしくなるかな?
『おかーさんは今のままがいいの!』
『······そのままでいて』
『あんなのは嫌なのです!』
あ、うん。そんなにリル達が嫌がるのならやめとくね。
『スノウには男らしさってのが合わないのよ』
ボク男なんだけど!?
〘レオナさん、ありがとうございました!それでは第二位······って、第二位と第一位変わってないですね。そんな訳で以下省略!第二位、高天原!第一位、スノウさんとロネさん!ヘリオス様、スノウさん、ロネさん、ステージに来てください!〙
あれ?なんでボク達は二人共呼ばれるの?
不思議に思いつつも、ロネとヘリオスと一緒にステージに上がる。
〘一次試験、二次試験の両方でトップワンツー、おめでとうございます!〙
パチパチパチパチパチパチパチパチ
おぉ、なんだか照れる。こんな風に誰かから拍手されることなんて久しぶりだから、少しむずがゆいね。
〘あと、スノウさんとロネさんには副賞もあります!〙
副賞?なんぞそれ。
〘スノウさんとロネさんのお二人にはまだパーティー名が無いようなので、試験の間に観客さん達から候補を募って、投票してもらいました!〙
······嫌な予感がしてきた。
『嫌な予感がしてきてるのはボクだけかな?』
『······私もよ』
どうか、中二病みたいなパーティー名はやめて······!
そう祈るボク達だったが、その祈りは届かなかった。
〘その結果は·········絶滅戦妃!お二人に付けられたパーティー名は、絶滅戦妃だぁー!〙
ちょっと名付け親出てきて!一回ぶん殴るから!!
〘ボク達に拒否権は······?〙
〘ありません!〙
清々しい笑顔で言い切りやがったコイツ。殴りたい、この笑顔。
現実でも「ポン狐」なんて恥ずかしいあだ名があるから、もう通り名はお腹いっぱいなんだけど······。いや、あれはボクであってボクじゃないからノーカンかな?
〘あ、もう冒険者ギルドにそのパーティー名を登録してありますのでお手間はかけさせません!〙
余計なお世話だよ!?
〘これにて入学試験を終わります!八月一日、昇降口前にクラス分けの紙を貼りますので、それを見て各々の教室に登校お願いしま〜す!〙
ちくしょうめぇぇぇぇえええええ!
◇◇◇◇◇◇
結果発表も終わり、ロネとも別れた後のこと。
「はぁ、入学試験の成績はトップなのに、素直に喜べないよ······」
「そこまで変な名前かのう?」
貴方には分からないでしょうねぇ!?中二病っていう概念がない現地人のエメロア達には!
「ボク達にはボク達なりの価値観があるんだよ!」
「別にいいじゃん。これで知名度はかなり上がるだろうしさー」
知名度が上がる代わりに何かが減っていると感じるのは気のせいじゃないんだろうね······。
「有名になるのは悪いことじゃないわよ〜?」
「悪い意味で有名になりそう······」
「殲滅竜姫」、「蹂躙猫姫」、「絶滅戦妃」。この通り名やパーティー名を聞いただけだと、悪いイメージしか浮かばないよね?
「そう落ち込むなって嬢ちゃん。その場のノリでついただけだから半年もしない内に皆忘れるだろうよ」
慰めてくれるのはおじさんだけなんだね······。今、おじさんに対しての好感度がグングン上がってる気がする。おじさんはボクルートでも攻略する気かな?
まぁ、今日の所はさっさと家に帰ろうかな。おじさんに間借りさせてもらってる家に。
と、帰ろうとした所で誰かに呼び止められる。
「竜人の女傑よ、少し待ってはくれぬか?」
おじさんが鬼人の男、エメロアがエルフの女、リオンとアルマさんは獣人の女、······あ、ボクか。
「ボク?」
「あぁ。貴殿に用がある」
うん?ボクを呼び止めた男性の横にいるのはアルフじゃん。昨日からアルフはいなかったけど、この人と一緒にいたのかな?
「貴方の名前は?」
「おお、すまん。私はアーサー·シュヴァルツ。シュヴァルツ侯爵家当主である」
えっと······爵位としては上から大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、準男爵、勲功爵·········アルフってそんなに偉い人だったの!?
「それでアーサー様、ボクにどんな用があるんですか?」
「我が息子を打ち倒した貴殿と手合わせがしてみたいと思い、ここに参った」
うーん。ボクとしても、強い人と戦うのは大歓迎なんだけど······。
「すみません。今日は用事があるので、明日でもいいですか?」
「了解した。明日、我が邸宅に来てほしい。案内は息子にさせる」
アーサーさんはそう言って、アルフをこの場に残してどこかに去って行った。
「すいません。父は強い人がいると知ると、すぐに手合わせをしようとするもので」
「別に構わないよ。ボクも手合わせはしたいと思うからさ」
「それは良かったです」
「じゃあ、今日は帰ろうかな」
そろそろ夜ご飯の準備をしないとね。柊和姉と雫乃がお腹を空かせて待ってそうだから。