第三十五話 二次試験(後編①)
はい、一次試験とは違って二次試験は結構長くなっちゃいました。
二次試験はもう少し続きます。
しばらくして大樹から出てきて、ボクに近付いてきたリル達。そして、リルの口には何か咥えられている。
「これは···首飾り?」
丸まった狼の意匠の首飾りの効果を確認してみる。
母の祈り
母が娘を想う愛情が形を成した装備品。
この奇跡の結晶を託された者は、首飾りに込められた想いを裏切ることは許されない。
付与スキル:真偽看破、守護者、成長促進、進化促進、絶対領域、母の祈り
ステータス増強効果が無い代わりに付与スキルの数は多い、と。最初二つはボクに、残り四つがリル達に効果があるスキルかな?それにしても、【絶対領域】と【母の祈り】、【守護者】の効果がイマイチわかんないね。ちょっとチェック。
まずは【絶対領域】。
絶対領域
リル、ヴァルナ、イナバが入ることのできる空間を作成。中にいる間は【生命力高速回復Ⅹ】が発動する。一度入ると三十分は出れない。
これは助かる。ユリア、つまり精霊と違って魔獣や精霊獣は髪飾りなどの依代に宿るということができないからとても助かる。決して不遇スキルではないんだろうけど······少しだけ使い勝手が悪い。これ、召喚術っていうよりテイマーとか魔獣使いって感じだよね。まぁ、使い勝手が悪いからってリル達を捨てるようなことは絶対にしないけど。というかリル達みたいに可愛かったら率先して保護するよ!可愛いは正義だし!
まぁ、テイムモンスターを格納する魔道具は市場を探したら割とすぐに見つかるらしいけどね。髪飾りにこのスキルが無かったらその魔道具を買えば済む話だったりする。
あと、システムメッセージ的な通知が、マーナガルムさんと話をしている途中から出てきていて、ちょっと鬱陶しい。多分、リル、ヴァルナ、イナバにどのスキルを譲渡して契約するかを決めろ、って内容だろうけど、今はロネが近くにいるから放置で。
次は【母の祈り】。
母の祈り
リル、ヴァルナ、イナバに【精神系状態異常無効】を付与。
ファッ!?精神系の状態異常を全部無効化ってズルくない!?
『身体系状態異常を全部無効化するスノウが言えることじゃないわよね?』
······確かに。
あ、そういえばこの装備品には【精神系状態異常無効】はあるけど、【身体系状態異常無効】は無いんだよね。つまり、それが意味するのは·········毒とか麻痺とかはボクがこの身で受けろと?マーナガルムさんちょっと酷くない?
『それは違うわ。状態異常を一種類だけでも無効化できる時点でそのスキルは相当レアなのよ?そこ分かってる?』
いや、分かってないです。
『状態異常を一種類無効化できるだけでも人里では注目の的だし、ましてや二種類以上の状態異常を無効化できるってバレたら、たくさんの冒険者から盾役として狙われるわよ?』
うわぁ。それは面倒くさい·········。
『それが分かったなら文句を言うのはやめなさい。世の冒険者からしたら贅沢過ぎる一言よ』
『は〜い』
いや、ね?一応ボクも状態異常を何種類も無効化できるのは珍しいかなーとは思ったんだけどね?こんな序盤で入手できたくらいだから、大都市だったら一人くらいはいると思うじゃん?まさかそこまで少ないとは思わなかったよ。
最後に【守護者】。
守護者
守る者が多いほど、敵が強大なほどスキル発動者の全ステータスが上昇。
ふむ。強化倍率が判明しないことにはとやかく言えないけど、消費なしでステータス強化は嬉しいね。
「首飾りを見たら急に黙っちゃってどうしたの?」
「ん?あぁ。考え事をしてただけだよ」
ふーむ······。ロネ、というか現地人近くにいる時はシステムメッセージ関連は無視しとこう。今みたいに怪しまれる。
しかも今は試験中なんだし、ゆっくりしている暇はない。まだちゃんとした契約はしてないけど、リル達と意思疎通できるか確かめておかないとね。ここら辺の魔物はリル達には強すぎるから、首飾りに入ってほしいって伝えよう。
「リル、ヴァルナ、イナバ。この首飾りの中に入れる?」
リル達は少し考え込むように首を傾げた後、首飾りに触れる。すると、リル達の足元に魔法陣が浮かび上がり、リル達の姿が消える。これで中に入ったのかな?ちょっと〈念話〉で呼びかけてみる。
『みんな〜、中はどんな感じ?』
あ。【古代魔法·思念】の『念話』なら通じるだろうけど【召喚術】の〈念話〉じゃ契約相手にしか通じないから、『念話』で話さないとダメじゃん。
『心地いいのー!』
『······だいじょぶ』
『快適なのです!』
·········なぜか答えが返ってきた。なんで?
『スキルの譲渡をしなくても名付けの時点で仮契約が済んでるから、〈念話〉は通じるのよ』
ユリアペディアさんありがたい。あ、語感的にユリペディアの方が言いやすいね。
「······今何があったの?」
あれ?ボクが言ってたことが聞こえなかったのかな?何があったかを理解できていないみたい。
「皆はこの首飾りの中。それより今は試験に集中しなきゃだし、たくさん魔物を狩ろうよ」
「そ、そうなの(······落ち着きなさい、私。スノウはこんな奴なんだから)」
······?何か呟いているようだけど聞き取れない。まぁ、伝えたい内容だったらちゃんとした声量で言うだろうし、そっとしておこう。
〜魔物を殲滅&蹂躙中〜
ボク、ロネ、そしてもう見られたんだから隠れる必要はないわよねと顕現したままのユリアの三人で魔物をサーチ&デストロイすること数時間。いつの間にか日が傾いている。そろそろ試験終了かな?
「もう戻った方がよさそうだね」
「そうね。それなりの質と量はあるんだし、そこまで低い順位にはならないでしょ」
「じゃあ、私は髪飾りに戻っておくわ」
ユリアが髪飾りに戻ったのを確認してから、ロネを抱き上げて羽ばた······こうとした所で腕輪からアラームが鳴る。
「······今の、試験終了三十分前の合図じゃなかったっけ」
「······そうね」
「·········」
「·········」
「「·········ヤバい」」
ボク達は結構遠くまで来ているから特にヤバい。アラームを聞いたボク達は途端に慌てだす。
「早く飛びなさいよ!」
「分かってるよそんなこと!スピードは上げるけど、少し荒っぽくなるから我慢してね!」
『ユリア!INTとAGIにバフちょうだい!』
『しょうがないわね······』
ユリアからバフをもらったボクはロネを抱き上げて空中に飛び上がり、【神速通】と『魔砲』を併用して思いっきり加速する。
「ちょっ、これっ、早すぎないっ?」
「早いにっ、越したことはっ、無いんだよっ!」
ロネからの抗議は無視してさらに加速すると、ロネが信じられない程の大きな声で叫ぶ。
「いやあぁぁぁぁあああああ!」
耳がっ!耳が壊れるぅぅぅうううう!叫ぶならもうちょっと静かに叫んでえええええええ!というか急げって言ったのはロネなんだからこのくらい我慢してよぉぉぉぉおおおおおお!
·········って、ん?あの魔力は······。
「ねえロネ。あれってヘリオス達かな?」
ふと地上を見ると、ヘリオス達のパーティーが二体の下位地竜と戦っているのを見つけた。
「え?······そうみたい。残り三十分を切ったってのにこんな所で油を売ってる理由は明白よね」
「うん。高順位を狙うために地竜を狩ろうとしたはいいけど、二匹一緒に来ちゃって苦戦してる、って状況じゃないかな?」
ボクの立てた予想を聞いたロネとユリアがため息をつく。ユリアに関してはわざわざ〈念話〉で伝えてきているのが腹立たしい。
「アンタってどこか抜けてるわよね······」
なんですと!?現実では近所の知り合い達から「柊和ちゃんと雫乃ちゃんの面倒は雪ちゃんが見るのよ?」って言われてるくらいにはしっかり者だよ! あ、雪ちゃん呼びはやめてって何度言っても直してくれなかったので諦めました。
ボクが「抜けてる」発言を不満に思っているのが分かったのか、ロネは訂正する。
「鈍感」
「抜けてる」よりはマシ······なのかな?
『······ヘリオス達のことはいいの?』
「「あ」」
ユリアの一言で元の話題を思い出したボクとロネ。話が逸れちゃったせいですっかり忘れてたよ。
『二人共、驚くようなスムーズさで別の話題に移行したわね······』
「スノウが抜けてるかどうかはどうでもいいとして、ヘリオス達はピンチなのよ」
ロネの方から言っといてその終わらせ方は酷くない!?······って、ピンチなの?地竜ってそこまで強いモンスターじゃないよね。ボクも初日こそ苦戦したけど、今は片手間でいけるよ?もうボクからしたらカモだよ地竜。
「そっか。ピンチなんだね······」
「······もしかしなくても助けるつもりよね?」
「あ、バレた?」
「そりゃ分かるわよ。アンタ顔に出やすいから」
······エメロアにも言われたけど、ボクってそんなに顔に出やすいのかなぁ?
「助けに行っていい?」
「アイツらを助ける理由がアンタにあるの?昨日出会ったばかりでしょ?」
「昨日出会ったばかりだとしても、見捨てる理由にはならないよ」
ボクみたいなプレイヤーと違って、一度死んだら終わりの現地人を見捨てるのは気分が悪いんだよ、だなんては言えないけどね。
「でもね。もう試験終了まで三十分を切ってるのよ?もしアイツらを助けようとしたせいで私達まで失格になったらアンタはその責任を取れる?」
「ロネがこの学院に来た理由は十二英傑に会うためなんだよね。それなら大丈夫」
「······本気で言ってる?」
うん、信じられてないねこれ。仕方ないのかもしれないけどさ。
「本気だよ」
「······その言葉を信じるわ。それで、作戦はあるの?」
「ロネってあの地竜の首を一撃で斬れる?」
この返答次第で取れる手段が削られるから、できれば「斬れる」と答えてほしい。
「勿論できるわよ?Bランクにもなると、どんな役割でも下位竜くらいの硬さなら突破できないとしんどいのよ」
ちなみに、竜の分類としては下から
亜竜→下位竜→中位竜→上位竜→古竜→竜神
といった感じ。固有個体っていうのもいるらしいけど、固有個体はその固有能力によって強さがピンキリらしいから、この序列に当てはまらないそう。
「なら、ボクが考えた作戦の中で一番早く終わるのが使えるね」
「······大体予想がついたけど、一応内容を聞かせてくれない?」
「ここから急降下して首を斬る。以上」
「······一つ言わせてもらうわよ。私、アンタと違って翼が無いんだけど」
「でも、飛行手段はあるって言ってなかったっけ?」
「言ったけど······翼を持たない生物として、落下に対する恐怖があるのよ?だから心の準備が「それじゃあ行くよ〜」
「はぁ!?いきなり過ぎーーー」
「そぉい!」
「きゃぁっ!?」
文句を無視してロネを勢いよく放り投げる。ロネが落下し始めると同時に【神速通】で下方向に加速する。
重力によってボク達の落下速度はどんどん上がり、地竜の姿も段々と近づいている。タイミングはそろそろかな?
「スノウ!後で覚えてなさいよ!」
「覚えておくと怖そうだから忘れておこうかな!」
「アンタねぇ!」
「あ、ほら!もうすぐだよ!」
ボクが地竜を指さしてそう言うと、ロネは少し悩んでから地竜を睨む。どうやら地竜の内の一匹が八つ当たりの対象になるらしい。
南無三。
「······もう!私は右のを殺るからアンタは左のを殺りなさい!」
「はいは〜い」
「〈黒三日月〉!」
「〈フォール·エッジ〉!」
ロネの闇を纏った槍が、ボクの風を纏った爪が、ヘリオス達に襲いかかろうとしていた地竜の首を一本ずつ切り落とす。
地竜達は動かなくなり、ボクの視界に映っていた八割近く残っていたHPバーも消し飛んだ。
いや〜、首チョンパは楽でいいねぇ。どれだけHPが残っててもすぐに終わるのがとてもいい。今のステータスでも地竜は正面から殴り合うと時間がかかるわ素材の質はよくないわであんまり良い相手じゃなかったんだけど、首チョンパするようになってからは、今までの苦労が嘘のように完全にカモと化した。
「·········師匠?」
「なんで師匠と呼ばれてるかは知らないけど師匠ですよっと。ミオナ達はここで何してるの?」
「それは私のセリフ。師匠達こそ何をしてるの?もう試験終了まで時間がないのに」
「そのことなんだけどさ······ミオナ達はここから会場に二十分ちょいで間に合うの?」
ボクの質問を聞いた五人は全員揃って顔をしかめる。その行動でボクやロネと違って飛行手段が無いのは分かった。ここからどうやって帰るんだろう?
最初に口を開いたのはフレイ。
「隠しても意味がないから言うが······まあどう考えても無理だな。この中じゃ俺とフィロくらいしか高速での移動手段が無い。パーティーメンバー全員が時間内に戻らないといけないこの試験は失格確定だ」
場に重い雰囲気が流れる。特にヘリオスが一番落ち込んでいて、自分に責任があるかのようにとても申し訳なさそうな表情をしている。
「······すまないね四人共。僕のせいで皆まで巻き込んでしまった」
「気にするな。お前の兄貴がここまでする奴だと全く思っていなかった俺達にも非はある。何度かヘリオスに妨害工作を仕掛けてはいたが、まさか学院の職員まで抱き込むとはな······」
ヘリオスのお兄さん·········一次試験の時のあの茶髪かな?あの男、どこか嫌な感じがしたけど、そんな悪事をしてたんだ······。
というか、ヘリオスと全然似てなかったよね。ヘリオスはイケメンなのに、ヘリオスのお兄さんはフツメン止まり。こういうファンタジー世界にありがちな展開としては······ヘリオスがヘリオスのお兄さんよりも、見た目、魔法の才能、武術の才能とかが上回っていて、ヘリオスのお兄さんがそれを逆恨みして色々な妨害工作を仕掛けてたり?
ホント、貴族って大変そうだなぁ。
「······こんな感じ。師匠達は構わずにゴールしてほしい」
ミオナは唇を噛みながら告げる。彼女としても、自分達の力ではこの局面が打開できないのがとても悔しいのだろう。
と、ボクはこの重苦しい雰囲気に対して一石を投じる。
「······ボクがここにいる全員を連れて、会場まで戻れるって言ったらどう?」
「「「「「!?」」」」」
ここにいる全員が驚いてボクの方を見る。
「スノウ、それは本当かい?」
「わざわざこのタイミングで嘘を言う程、ボクの性格は悪くないよ」
「······スノウは何が望みだ?お前は善意で言ってくれているのかもしれないが、俺達貴族は無償の善意ってのが一番信用できない」
「ちょっとー、フレイ?」
「師匠達は人の弱みに付け込むような悪人じゃない」
フレイにフィロとミオナからの非難の視線が突き刺さるが、フレイはそれを意に介さずボクをジッと見つめる。
この様子じゃ「何もいらない」って言っても絶対納得しないよね。でも今欲しい物は特にないし···。
「じゃあね······ボク達がいつか一つずつお願いをするから、それを聞いてくれないかな?あ、お金とか地位とかは要求しないから安心してね。ロネもそれでいいよね······って、何してるの?」
ロネにも確認しようとロネの方を見てみると、メルに何か渡していた。少し人への態度がキツいロネと、臆病なメルって珍しい組み合わせだね。
「メル達に私達が持っていた素材を渡してるのよ」
え!?ロネってそんな優しい性格じゃないよね!?
「私達の収納鞄が一杯になってね。捨てるのももったいないから渡してるのよ」
ロネが持っている収納鞄からは地竜のものと思われる尻尾の先端がピロっと出ている。
あぁ、それなら納得。
「収納鞄が満杯!?君達はいったいどれだけの魔物を狩ったんだい!?」
「普通に見つけた端から首チョンパしてただけだよ?」
「いや、それは普通じゃないだろ」
フレイがツッコんでくるけど、今は時間がないので放置。
「私もスノウが言った条件で問題ないわ」
「二人共、感謝する。それで、スノウはどうやって俺達全員を運ぶつもりなんだ?」
フレイの質問に応えるように、ボクは〈魔力物質化〉で尻尾を三本、翼を二対増やし、両足に『魔砲』を溜め始める。
「こうやって、間に合わせの翼と尻尾でなんとかするつもりだよ」
「「「「「「·········」」」」」」
ボクの姿を見た全員が絶句した。
「まさか、その尻尾で私達を掴むつもり?」
いち早く我に返ったロネがそう聞いてきたので、
「二人は腕で、残りの四人は尻尾だね」
こう答えると、
「「「「「「ジャン······ケン·········ッ!!!」」」」」」
今までに無かったレベルの真剣さで拳での戦いを繰り広げた。
うーん······そんなことしても、もう誰を腕で運ぶかは決めてるから意味無いのになぁ。
「はいは〜い。もう誰を腕で運ぶかは決めてるからね〜」
こういう多人数でのジャンケンは長引くと相場が決まっているので、無理やりジャンケンを中断させて、皆を掴む。
「うわぁっ!」※ヘリオス
「うおっ!?」※フレイ
「きゃぁっ!」※メル
「ひゃっ!」※ロネ
「うわひゃぁっ!」※フィロ
「っ!」※ミオナ
フィロとロネを腕で、他四人を尻尾で掴む。フィロを腕で掴んだのは、風魔法でこれからする高速飛行での負担を和らげるため、ロネを腕で掴んだのは、何かあった時に『悪食の闇』で対応してもらうためだ。今まで二回しか見てないけど、他にもレパートリーがあるだろうから対応力はこの六人の中でも高いだろう。
「行くよっ!」
地面から巨大な土属性の『魔槍』を発動してボク達を打ち上げる。
「フィロ、ボク達の前方に風の防壁をお願い!」
「お、おっけー!」
ボク達の前方に防壁が張られたのを確認したボクは、さっきから溜めていた『魔砲』で一気に加速した。
「いやっほーう!」
「「うわあああぁぁぁ!?」」
「「「「きゃぁぁぁああああ!」」」」
······そんな怖いかなぁ?むしろジェットコースターみたいで楽しくない?




