第三十四話 二次試験(中編③)
あるぇー?こんなはずじゃなかったのになぁ······?
(´・ω・`)
明日から4日間テストなのと、先週からテスト勉強してたので今回と次回は短めです。許してくださいなんでもはしませんけどm(_ _)m
謎の黒ずくめ達との戦闘も終わり、一息ついたボク達の耳に何者かの声が聞こえる。
『······龍の姫に精霊の姫、そして同胞の娘よ。助けてくださり、ありがとうございます』
え?え?誰の声?
「スノウ、後ろよ」
ユリアに言われた通りに後ろに振り返ると、体中が傷だらけで血塗れな親狼が立っていた。
『私は、賢狼マーナガルム。貴方達のおかげで娘達は無事に生き延びることができそうで一安心······うぅ』
喋ったぁぁぁぁあああああ!!??って、いや、今はそうじゃなくて。
親狼改めマーナガルムさんは一目でわかるくらい満身創痍で、現に今は立つことすらできずにうずくまっている。余程傷が深いんだろう。
一刻も早く傷を直してあげないと。
「ユリア、治療してあげて!」
ボクはユリアに頼み込むが、ユリアは力なく首を横に振る。
「既に致命傷を受けてるから無理よ。身体は既に死んでいるし、気力だけで耐えてるんだもの」
『その通りです。私の根性も四半刻は保たないでしょう。ですが、貴方に一つお願いがあります。どうか聞き届けてはくれませんか?』
「ボクにできることならなんでも」
もうマーナガルムさんが助からないのなら、今ボクにできることは、死ぬ前の心残りを無くしてあげることだけだ。
ボクがそう答えると、マーナガルムさんは息を整えてから話し出す。
『私の願いというのは、私の娘達と貴方が保護したウサギについてです』
ふむ。そこの白と黒の小狼とウサギのことね。って、あ。そういえばウサギを谷間に突っ込んだ後取り出すのを忘れてた。
胸元からウサギを引っ張り出すと、ウサギは「キュー······」と目を回していた。·········ごめん。
「それで、この子達についての頼み事って?」
『娘達を、貴方に託したいのです』
マジで!?しかもなんでボクに!?
「理由を聞かせてもらっていい?」
『簡単なことです。私はもうすぐ死にますので、誰かが私の代わりに娘達を守ってくださる者を探さなければなりません。私の眼で貴方の心に悪意が無いのは分かりましたし、先程の戦闘で十分な戦闘力を持っていることも分かりました。これで私は安心できます。······ふう。あまり時間は無いようですね』
マーナガルムさんの声はさっきより小さくなっており、今にも息絶えてしまいそうなくらい魔力も弱々しい。
いつの間にかボクの腕から離れていたウサギが、小狼達と一緒にマーナガルムさんの顔に近付いて何か訴えかけている。
「キュ、キュー!キュキュキュー!」
「置いていきたくない」?ウサギとマーナガルムさんの間には家族のそれとは違う特別な絆があるみたいだけど、何があったんだろう?普通なら捕食者と捕食対象なのに。
『何度も、貴方を助けたのは気まぐれだと言っているでしょう?だから、恩義など感じずに好きな所に行けばいいのですよ?』
ふーむ······ウサギは昔、マーナガルムさんに助けてもらったことがあって、その恩を返せていないのにマーナガルムさんが死んじゃうのが悲しいのかな?所々しか聞こえないから推測だけど。
「マーナガルムさん。最後に言いたいことはある?」
「······あぁ。一つ言い忘れていたことがありました。娘達は本来、長い年月をかけて成長させ、いつかはフェンリルとヴァナルガンド、神獣へと至らせようと思っていました。しかし、私の不甲斐なさのせいでそれは叶いませんでした。娘達はまだ弱く、神獣はおろか、精霊獣ですらないただの魔獣です。そのウサギは精霊獣で今の娘達よりは強いですが、貴方とは比べるまでもないでしょう。それでも、それでもどうか·········娘達を見捨てないでほしい。それが私の最後の願い······グフッ」
吐血したマーナガルムさんはもうすぐ目蓋を閉じてしまいそう。
ダメだ。もう二度と会えなくなるのに、この別れ方は寂しすぎる。マーナガルムさんは娘達のことが心配だろうし、小狼達とウサギはこんな暗い雰囲気でマーナガルムさんと別れたくはないだろう。
「他には無いの?そうだ!この子達の名前はなんて言うの?」
『名前は···まだないですね。神獣になった時に名付けようと思っていたので』
「じゃあボクが名付ける!この白い子はリルで黒い子はヴァルナ、そしてウサギはイナバ!どうかな?」
『リル···ヴァルナ···イナバ···良い······名前ですね』
マーナガルムさんは満足そうに微笑んで、リル達は嬉しそうに体を揺らしている。
良かったぁ。即興で考えた名前だから、気に入ってもらえたようで安心したよ。
「安心して、マーナガルム。リル、ヴァルナ、イナバが立派になるまでボクが守るから」
『ええ······頼みました···よ······』
その言葉を最期に、マーナガルムさんは瞳を閉じた。神獣の特徴なのか、その身体は少しずつ光の粒子へと変わっている。
「アオーン···」「ワオーン···」「キュー···」
二匹と一羽が悲しそうに啼きながらマーナガルムさんを見送るのを見て、ボク達三人は一旦大樹の外に出ることにした。
さっきここに来たばかりのボク達は、この場に相応しくない。今ここは、マーナガルムさんの家族か、その次くらいに強い絆を持つ存在だけがいるべきだ。
たとえ何かあったとしても、もう遮音結界とかは解除されたからすぐに駆けつけることができるだろう。
そんな訳で大樹の外に出つつ、気になることがあったのでロネに聞いてみる。
「ロネは途中から全く喋ってなかったけど、どうしたの?」
「あのねぇ······いきなり神獣様と会ったら誰でもこうなるわよ。普通に喋ってたアンタがおかしいのよ」
「そうかな?」
マーナガルムさんが喧嘩腰で話しかけてきたとか、ガンガンに威圧してきたとかならともかく、普通に話しかけられて固まるなんてことはないよねぇ。
ボクが首を傾げると、ロネは納得した様子で頷く。
「あぁ······アンタ、普通じゃなかったわね」
「失礼な。ボク程の一般人は滅多にいないよ」
ただちょっとレアなスキルと称号と装備をいくつか持ってるけど、性格はこれ以上ない一般人だよ。
「·········一応間違ってはないわね。アンタみたいな(非常識な技能と魔力量を持つ)一般人はそうはいないわね」
あるぇー?なんか別の意味で伝わったような気がするよ?
そんな風に疑問を抱いていたボクを他所に、ロネは質問を投げかけてくる。
「あ、そういやアンタって精霊と契約してたのね。どの属性なの?」
「ユリアの属性······なんだろう?それは本精霊に聞いて」
「ちょっと。こっちに丸投げしないでよ」
リル達がマーナガルムさんを見送る間、ボク達はそうやって話していたのだった。




