第三十三話 二次試験(中編②)
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皆さんありがとうございますぅ!m(_ _)m
あ、中編は二つになりました。前話のタイトルは中編①になってます。
ウサギの先導に従って大樹の根元まで来てみると、大樹の幹の中に空洞があることに気付いた。そして、そこに謎の結界のような魔力の膜があることにも気付いた。
「ん······。あれ、結界かな?」
「結界?私には見えないけど?」
『多分あれ、遮音結界ね。対物理結界や防魔結界とは違って、不可視にすることもできるのよ』
「ふむ、遮音結界ね······」
「アンタ、不可視化された結界を発見するだけじゃなくて何の種類かも分かるの?······って、どうしたのよ?」
ユリアから聞いたことをつい口に出しちゃったけど、ロネはそれよりボクの表情の変化が気になったみたい。せっかくロネの意識が結界云々から逸れてるし、このまま話題の別に移しちゃおう。
「よく考えてみて。この一帯は学院の敷地内で、部外者なんて入ってこない。あと、学院の関係者がわざわざ遮音結界を張るだなんて不自然だよ」
「······分かってたことだけど、きな臭いわね」
「偶発的に起こった事故っていう可能性が消えて、誰かが人為的に起こした事件ってのが確定だね。何が目的でこんな所に来てるのかは知らないけど」
「で、やっぱり行くのね?」
「もちろん。目の前でトラブルが起きてるのにそれをスルーしちゃうのは、なんか違うでしょ。あと、このウサギもあそこに行きたいみたいだしね」
「そのウサギ、一旦ここに置いといた方がいいんじゃないの?そいつには戦闘力は無さそうだし、トラブルの渦中に連れて行くのは危険よ」
「キュキュキュ!」
ロネの言葉に鼻息を荒げて反論するウサギ。
「『それでも自分は行く!』だってさ。それに、危険なことになったらボクが収納するから安心して」
「······水を差すのもなんだけど、アンタ、さっきより意思疎通が流暢になってない?」
「······確かに」
なんでだろう?何回か使ってる内に慣れたのかな?まぁ、今はそんな話をしてる場合じゃないね。
「それについてはひとまず置いておこう。とりあえずあの大樹の側まで行って、そこで息を揃えて突撃って感じでいい?」
「綿密な作戦を考える暇はないし、それしか無いわね」
そうと決まれば善は急げ。素早く大樹の所まで移動し、中を探ろうとしてみる。
「う〜ん······。やっぱり結界の中に入らないと、内側の状況は把握できなさそう。しかも遮音結界以外にも、外からは中が見えないようになる結界が張ってあるし」
「ま、予想通りね。じゃあ突撃しましょう。スリーカウントで行くわよ」
「おっけー」
「3······2······1······」
「「GO!」」
息を合わせて、二人で結界内へと突撃する。結界を通り抜けると同時に、さっきまでは全く聞こえなかった戦闘音が聞こえ始める。そして、中の様子も判明する。
「あ、これ危険だね。ということでウサギさん、大人しくしててね!」
ズボッ
二人の黒ずくめの不審者たちが狼の親子を襲撃しているのをみて、ここが危険だと判断したボクは、道着の胸元をはだけさせ谷間にウサギを突っ込む。
「ムキュー!?」
「はぁ!?アンタ何してんの!?」
ウサギが驚いて悲鳴をあげ、ロネがボクの行動に目を見開く。
「収納しただけだよ?」
ここならボクが倒されない限り安心だし、ボクから引き離されることも無いだろうから、これが最適解だとボクは思う。
······って、あ。今の会話で黒ずくめ達に存在バレてら。ボク達のことをガン見してるじゃん。
「ほら、黒ちゃんのせいでバレちゃったよ」
「これ私のせいなの!?あと黒ちゃんって何!?」
相手は犯罪組織っぽい雰囲気してるから、名前は出さない方がいいかなって。急に戦闘が始まったせいで、良い呼び名を考える暇が無かったんだ。許して。
そんな口喧嘩をしながら狼の親子の方へと向かうが、当然黒ずくめの不審者達がボク達に向かってくる。
得物は······片方が短剣、もう片方が杖、か。近接武器は近接武器と、長柄武器は長柄武器と戦うべきだよね。
「ボクは短剣の方を相手するから、黒ちゃんは杖の奴をお願い!」
「もう黒ちゃんで決定なのね!分かったわよ!」
ロネに確認を取ったので、早速短剣持ちに突撃。戦巫女·袴の【神速通】で空中を蹴り、さらに『魔砲』で加速する。そして火属性の『魔纏』で、
「〈アサルト·スティング〉!」
「ッ!?」
ガガギィン
地面を蹴り、空中を蹴り、そこからさらに『魔砲』で加速し、さらにさらに突進系のアーツである〈アサルト·スティング〉で加速という我ながら物理法則的に不自然な四段加速に、短剣不審者は驚いたみたい。ボクのアーツへの対処がギリギリになって、防御には向いていない短剣でボクの爪をまともに受けてしまう。
短剣不審者に負傷は無いようだが、今ボクの攻撃を防いだ短剣は大きなヒビが入っていて、もう使えそうにない。
「······チィッ」
「あれ?思ったより質の悪い武器を使ってるんだね」
ボクのレベルはまだ50にもなってないんだけどなぁ。称号とか装備である程度物理攻撃力が加算されているとはいえ、一発でヒビ入るとか脆くない?ちゃんと自分の武器にお金使ってるー?
あ、でも予備の武器はあるのか。どこから出したかは知らないけど、いつの間にか新しい短剣が不審者の手にある。この様子じゃあ武器の損耗による撤退は無いね。この不審者達を出来るだけ早く倒すか、撤退させるかしないと、傷だらけの狼の親が死んでしまう。
とりあえず今は、狼の親子をかばえるように狼の親子を背にして立っている。投げナイフとかの飛び道具が飛んできたら、魔法かボクの身体で止めるつもりだ。
◇◆◇ロネside◇◆◇
「ボクは短剣の方を相手するから、黒ちゃんは杖の奴をお願い!」
「もう黒ちゃんで決定なのね!分かったわよ!」
呼び名は少し不服だけど、この状況ではそんなことは言ってられないわね。今は素直に指示に従っておくわ。犯罪者に私の本名をさらさないようにしているのでしょうね。
······でも、もう少しマシな呼び名はなかったのかしら。さすがに「黒ちゃん」は見た目そのまま過ぎよね。スノウにネーミングセンスは期待しないようにしないと。
スノウのネーミングセンスの悪さはともかく、戦況の判断はちゃんとできてるわね。長柄武器の私では、短剣相手はどうしても相性が悪いもの。
「〈アサルト·スティング〉!」
「ッ!?」
ガガギィン
······あれ、どうやって動いてるのよ?最初に地面を蹴ったのと最後の武技に関しては不思議は無いのだけれど、二回目と三回目の加速は謎よね。冒険者に技能を聞くのがマナー違反じゃなければ聞いたのに。
ま、いつまでも余所見してると攻撃されちゃうし、私は杖持ち相手に戦わないと。親狼の状態を見た感じ、得意属性は闇、それも呪術系統ね。
相当闇属性への適性が無いと呪術系統は使えないし、その分他の属性は不得手のようね。あと、呪術を使える程に闇属性適性が高いと、ほぼ確実に聖属性適性は無い。一般的に火属性と水属性、風属性と土属性、光属性と影属性、聖属性と闇属性といった感じに相反する属性への適性を持つ人物はいない。ごく一部の例外として十二英傑のエメロア様や、同じく十二英傑のカンナ様にアルマ様。今の所はこの三人以外に反属性の魔法を使える人物はいない。
さっき見た親狼に付いていた傷は全て闇属性魔法によるもので、火属性や風属性の傷は一つもない。
運がいいわね。相手が影属性か闇属性使いなら、私に負けはない。
◇◆◇スノウside◇◆◇
「うわぁ·········」
何してんのロネ······。見た目が明らかに禍々しい魔法を素手で叩き落とすとか······。あんなことして大丈夫なの?それとも、闇属性魔法とか呪いに対する完全耐性でもあるの?
『私としては、スノウも大概だと思うのだけど?』
『ボクがこんなことできてるのは、ユリアが理由なんだけどねぇ』
『傍から見ると、スノウが一人でやってるようにしか見えないわよ?』
今ボクは、短剣不審者が次々と投げてきている投げナイフを、片っ端から『魔纏』を発動させた手で受け止め、握りしめて砕いている。······うん、金属を握りしめるだけで壊せるってことは、STR1500は低くない数値だよね。
短剣不審者が投げてくる投げナイフは刃の部分の色が普通の鉄と違うのは何なんだろう?もしかしたら毒が塗ってあるのかもしれないけど、ユリアと契約した時に獲得した【世界樹の加護】があるから毒は無効なんだよね。VITが低いせいで『魔纏』発動中でも少しダメージを受けちゃうけど、ユリアの【回復魔法】ですぐそのダメージは無かったことになる。さらに、ボクとユリアには【魔力自動回復】がある。
つまり何を言いたいかというと、今の調子で短剣不審者の攻撃が続いても、ボクとユリアならずっと耐久していられるということである。
この状況で膠着させる理由は無いし、そろそろ突っ込もうかな?あ、ちょうど短剣不審者の投げナイフが枯渇したみたい。突撃だぁ!
空いていた距離を即座に詰め、短剣不審者の頭に火属性の〈閃華〉である〈焔華〉を蹴りでぶち込む。
余談ではあるが、〈閃華〉は無属性。このアーツは属性によって名称が変わるアーツだったりする。水属性だと〈水華〉、風属性だと〈天華〉といった感じだ。手でも足でもこのアーツの発動は可能だが、今回は威力重視で足である。
「〈焔華〉ぁ!」
「ぐぅっ!」
ちっ、腕で防がれたか。でも、もう使い物にならないはず。〈焔華〉を撃ち込んだ時に何かを砕いた感触があったからね。
······って、え?なんでロネの方に向かうの!?待ってよー!
◇◆◇ロネside◇◆◇
杖持ちの黒ずくめに対して、私の固有魔法を発動させようとした時、短剣持ちの黒ずくめがこっちに向かってくるのが見えた。
ちょ、スノウは何をしてるのよ!?······あ、スノウもこっちに来てるわね。どうやら、戦闘の最中にも関わらずこっちに来たようね。片腕をスノウにやられてもう使い物にはならないだろうから、せめて私を二人で殺す気かしらね?
でも好都合。たった今、固有魔法の発動準備が整った。
「『悪食の闇:暴君蜘蛛の重脚』」
私の背後に闇の渦が形成され、そこから出てきた何本もの闇の大杭が二人の黒ずくめを貫く。
「ガッ······」
「グフッ······」
間違いなく致命傷ね。胴体にいくつもの風穴を開けられて生きてられる人間なんていないもの。
闇の大杭を黒ずくめ達から抜くと、黒ずくめ達は地面に崩れ落ちる。さて、この二人はどうしようかしら?
この時の私は油断していた。この手の犯罪組織の連中は、大抵自爆の手段を持っていることを失念していたのだ。
黒ずくめ達が自爆しようとしていることに私が気付いた頃には、もう止められそうに無かった。
「しまっーーー」
「こんのおおおおおおおぉぉぉぉ!」
まさかスノウはこの爆発を止めようと!?
アンタの非常識な魔力は見てるけど、さすがにこの状況は無理よ!
◇◆◇スノウside◇◆◇
ロネが謎のスキルで不審者を二人共倒し、一件落着だと思っていたボクは、不審者がしようとしていたことに気付かなかった。
『スノウ!そこの二人の懐!』
『ん?』
不審者の懐?······!?何この濃密な魔力!?あんな小さい石にあれ程の魔力が込められるの!?しかもなんだか溢れてきそう!
『ヤバい!あれ、爆発するわよ!』
『嘘でしょ!?』
口ではそう言うが、ボクにもあの石が爆発するであろうことは、目で見て分かっていた。
『少しでいいから時間を稼ぎなさい!私がなんとかする!』
『おっけー!』
「しまっーーー」
「こんのおおおおおおおぉぉぉぉ!」
土属性と鋼属性の『魔槍』を次々と地面から生やして、魔力の奔流を食い止める。ボクのINTは500ちょいあるのだが、まるで砂の城かのようにすぐに崩れる。
って、ヤバ!MPが結構な勢いで削れてる!【魔力自動回復Ⅲ】でも回復が追いつかない!
「もう足掻いても無駄よ!諦めなさい!」
「無駄じゃない!まだ策はある!」
「どこにあるって言うのよ!」
「あと······少し·········」
ここにいるのがボクだけなら諦めた。プレイヤーのボクなら、死んでも時間が経てばまたログインできる。
でも、ここにはロネがいる。狼の親子がいる。ボクとは違って本当の命を持っている存在を、ボクは見殺しにしたくない!
「はああああああああぁぁぁぁぁ!!」
気合いを入れて『魔槍』の発動速度をさらに上げる。普通の魔法と違って思考で発動する【真·龍魔法】なら、気合いで発動速度は上げられるっ!
「準備できたわ!下がりなさい!」
ユリアが髪飾りから顕現する。
よし、ここまで耐えた!
「『空間断絶』!」
ユリアの言葉と同時に出現した不思議な色をした壁は、荒れ狂う魔力の波を全く通さない。
そうして三十秒程、やっと爆発は収まった。
「はぁ、終わった〜」
「さすがに危なかったわね······」
なんで学院の試験でこんな目に遭うんだろう·········。




