第三話 合流と事情聴取
広場の噴水に到着して柊和姉を探していると、ログイン前に聞いていた特徴と合致するプレイヤーがいたので話しかけてみる。
「柊和姉?」
「ちゃうちゃう。ここではシユや」
「あ、そうなの?ボクはスノウ」
「にしても、まさか成功するとは思わんかっったわ。見事にロリ巨乳になりよったし」
「何が?」
「スノウのその姿や」
「シユ姉、何か知ってるの?」
「そら知ってるわ。だってアンタをその姿にした犯人ウチやもん」
「え···?嘘でしょ!?」
「嘘ちゃうで。体形スキャンの時に胸に何か詰めといたらどうなるやろうと思って入れてみてん」
「弟に対して何やってんの!?」
本当に何やってんのこの姉は!?
「スノウはちっちゃい頃から女顔で女声で女子にしか見えへんかったからいっぺんやってみたかってん」
「人が気にしていることをさらに強調させようとしないで!?」
「説明するとな、このゲームはまず顔をスキャンして性別を判断するんよ。その性別の判断はテストで15000人くらいやって正答率は100%やねん。このテストの結果でお偉方も信頼したらしく性別の判断方法にそのシステムが使用されるようになってん。で、その次に体形スキャンすんねんけど、最初の顔のスキャンで男子と判断されたら詰め物してても除外されるから本来はネカマは無理なんよ。でもな、アンタは女子と認識されて胸の詰め物も体形って判断されたから見事にロリ巨乳になった訳や。今まで15000人以上の顔をスキャンして正答率100%を叩き出してきたこのシステムにアンタは勝ったんや。おめっとさん」
「全然嬉しくないんだけど!?」
嘘でしょ······自分でも男なのに女っぽいとは(すごく不本意ながら)自覚してたけど。
まさか機械からも女子って認識されるとは思わなかったよ······(涙)。もっと頑張ってよ性別認識システム·········。
そして、言いたいことがあるので物申す。
「なんでこんなことをしたの!?」
「ウチが体形スキャンの時にこそっと雪の胸に詰め物をしといたからやな」
「どうやってこんなことをしたかじゃなくってなんでこんなことをやったの聞いてるの!」
「そんなんやりたかったからに決まってるやん。もちろん後悔はしてへん!(キリッ)」
「(キリッ)じゃないよ!なんて理由でこんなことをしてくれたのさ!?このキャラ消して、キャラメイクし直すからね!」
「何が不満なんよ。すっごい美少女やで?」
「それが嫌なの!なんで女キャラでやらなくちゃいけないのさ。ボクは男なのに!」
「せっかくの機会やし楽しみいや。というかな······アンタ、おっぱい無くても男には見られへんのちゃう?」
·········それは否定できない。現に、リアルでは初対面の人に男と分かってもらえた試しが無いんだよなぁ。あと、公共の施設でトイレに行くと、十中八九騒ぎになるし······。
「はぁ······わかったよ。このアバターでやればいいんでしょ」
シユ姉の言うとおりなんだし、もう気にしないでいいか············。
「おお!わかってくれて良かったわ」
「よく言うよ···。それに、ボクが見た目と声を気にしているのは知ってるでしょ?あと、リアルの知り合いにこのことを知られたらどう思われるか心配だよ」
「ゲームの中やったらリアル割れは滅多に起こらんしええやん」
「はあ······(ステータスにプラスの効果がある称号二つもあるし、もったいないかな)」
ボクはため息をついた後にシユ姉に聞こえないくらいの声量で呟く。
ここで、ボクが気にしている見た目と声について説明しよう。
ボクは十六歳だが、身長は150cm弱で体重は40kg程度と、男でありながら小柄で華奢である。(あくまでもリアルのことなのでゲーム内ではどうなのか把握していない。感覚的に身長はあまり変わってないけど、おっぱいのせいで体重は増えてると思う。)ボクに成長期は存在しないようで、年齢としては高校生なのだが、時々外に出かけると中学生と見間違われるという悲しい事態が起こる。酷い時は小学生にも間違えられる。
そのうえ、学校と本屋、コンビニ、そして仕事場以外は家からあまり出ないので肌は白く······いや、肌の白さはアレも原因か。
話を戻そう。父さんの血を色濃く受け継いだのか、何故か顔立ちは男らしさというものが全く無く、言って悲しくなってくるが女らしさの方が強い。髪は切ってないので長く、初対面の人に男と言われた試しがない。
声に関しては、成長期と変声期が一緒に無くなったのか小さいころから高いままで、電話で女子と思われなかったことがない。声変わりする前が低めだったらまだマシだったのだが、元が高かったので救いようがない。ちなみに、柊和姉曰く「これぞロリキャラ、色々セリフを録音したら売れそうな程可愛らしい声」らしい。録音なんてさせないけど。
女子としか思われないこの見た目と声は、他人からしたら羨ましいらしいが、ボクからしたらあまり嬉しくないのである。隣の芝は青い、というやつだろうか。
······ネガティブな気分にしかなれない。話を変えよう。
「柊和姉の種族は何?狐系なのは分かるけど。あと、なんで尻尾が三本?」
「ウチは霊狐、第二階位種族や。狐系の種族は進化すると尻尾が増えるんよ。最終的には九本になるらしいで。そういうアンタの種族やステータスはどんな感じや?」
「えっと···ランダムで選んで魔竜になったよ」
「は!?魔竜って第二階位種族やで!?アンタ運ええなー」
かなり驚いてるけど、そんなに珍しいのかな?
「そんなにレアなの?」
「ウチの竜人の知り合いに教えたら血涙流すやろうな。あいつはギリギリ魔竜に進化でけへんかったから一からレベリングしなあかんって嘆いとったし。もっかい言うけど、魔竜は第二階位種族やで?せやから第一階位種族より多くのSPとLPがもらえるし、Lv1で第二階位種族っちゅうのはベータテストで必死にレベリングして第二階位種族までいったプレイヤー以外より有利やで?そんなポンポン第二階位種族引き当てる奴がおったらベータテストプレイヤーが可哀そうやからってランダムで第二階位種族引く確率をおもっきし低くしてるらしいから、当てるにはめっちゃ運が良くないとダメらしいわ」
「え。そうなの?」
「これが無欲の勝利ってやつかいな······。そんでステータスはどんな感じや?」
そう言われたボクはシユ姉にステータス画面を見せる。
そしたら、シユ姉がステータスのある一点を凝視しながら何度も瞬きをし、何度も目をこすり、目の前の光景が信じられないかのような行動をとる。
そんなおかしい所あったっけ?
「アンタ······なんで最初から称号二つも持っとるんや?しかも弱体化と封印ついとるし。ってか封印と弱体化の二重でまだこんだけ効果が高いって恐ろしいなぁ···」
「へー、ふーん」
「いや、他人事やなくてアンタのことやからな?わかってへんやろうから説明するけど、封印されとるってことはまだ隠された効果があって、弱体化しとるってことは効果がまだ上がるんやで?とりあえず、アンタのステータスはあんまり他人に見せへん方がええで」
「なんで?」
「こんだけ種族やらステータスやら称号やらが恵まれとると、嫉妬する奴らがアホ程出るで?かなり恵まれとるウチでもINTが200、MPが1500やで?これでも羨ましがるメイジの連中がかなりおんのに···」
「MPもINTもどっちもボクの方が上だね。ベータテストプレイヤーのシユ姉の方が高いと思ってたよ」
「いや、アンタが異常なんやで?」
「そうなのかな?まあいいや」
「まあいいやで片付けてええ問題ちゃうで?それはともかく、アンタのスキル構成おかしいで?何を目指してんの?」
「えと···戦う職人?」
「アンタはSTRもINTも高いんやから、魔法戦士でもやったらよかったん」
「ボクは性格的に、戦闘より生産の方が向いてるよ。素材を採って、アイテム作って、それを売って、みたいなプレイスタイルでいくつもりだよ」
まぁ、まだ戦闘も生産も試していないから、この先どうなるかは分からないけどね。
「もったいないなぁ。このステータスやら称号やら持ってたら立派な戦闘職になれたやろうに」
「別にいいじゃん。ほら、モンスターを狩りに行くんじゃないの?」
「それなんやけど、もう少し待ってくれへん?ある知り合いと待ち合わせしとるんよ」
「誰?」
「アンタも知っとる奴やで。まあ、会ってからのお楽しみや」
ん?誰?




