第二十五話 和解と禁句と制裁と
おじさんと一緒にリビングへと向かうと、皆揃っていた。アルマさんとアルフも目が覚めたんだね。アルフはまだ女のままだけど。
「スノウちゃん、今日はごめんなさいね〜」
「···?何のことですか?」
「私がお酒で酔っちゃったってリオンに聞いたのよ〜」
「別にボクはアルマさんから何もされてないし、謝るならアルフにじゃないですか?」
一番被害が大きかったのはアルフじゃないかな······。女にされて、正気じゃない二人から追いかけられたし。
「やっぱりそうよね〜」
そう言ったアルマさんは、未だに女のままなアルフの方を向き、とても申し訳なさそうな顔をする。
「本当に申し訳ないわ〜。お詫びに今度、何か一つ頼み事を聞くわね〜」
······その間延びした口調は変わらないのね。
「いや、そんなのは恐れ多いです!私が貰いすぎです!」
アルフが遠慮しすぎじゃない?お詫びって言ってるんだし、貰っておいたらいいのに。
「貰っておいたら?」
「お嬢様は十二英傑の方々の地位を知らないから言えるのですよ!」
「貰って損があるものでもないんだし、素直に受け取ればいいと思うんだけどなぁ。あとアルフ、お嬢様呼びはやめてほしいな」
「ですから十二英傑は······って、お嬢様は私のことが分かるのですか?」
アルフが心底不思議そうにボクに聞いてくる。性別が違うのに、すぐアルフだと分かったことが疑問なのかな?
「性別は変わってるけど、魔力の質がそのままだから分かるよ?」
ボクの返答に反応したのは、アルフじゃなくてエメロアだった。
「スノウ、おぬし、魔力の質が視えるのか?」
「視えるよ?というか、竜人は皆魔力が視えるから普通じゃない?」
だって、竜人の種族スキル【竜眼】は魔力を視ることがスキルだよね?
でも、おじさんやアルマさんは『ああ、またか』と言いたげな表情を浮かべ、エメロアは頭を抱えている。
「はぁ······おぬしの世間知らずは筋金入りじゃのう」
「「「激しく同意」」」
「なんでよー!?」
なんて失礼な!ただボクは、こっちの世界に来てから数日しか経ってなくて、少しこっちの世界の知識が無いだけだよ!······あ、世間知らずだ。
「スノウちゃんが世間知らずなのは今更として〜、一つスノウちゃんに言いたいことがあるのよ〜」
今更ってひどい!
それで、ボクに言いたいことってなんだろう?怒られるようなことしてないよ?
「ボクに言いたいことって何です?」
「私、敬語はやめてって言ったと思うのだけど〜?」
「それはちょっと·········」
エメロアやリオンは年上に見えないから普通に話せるけど、アルマさんは見るからに年上だからなぁ······。おじさんも年上だけど、アルマさんより親しみやすさがあるし。全員から『タメ口でいい』って言われてるんだけど、どうにもアルマさん相手では敬語になっちゃう。
「エメロアやリオン、それにパンツァーとは親しげに話してるのに〜、私だけが敬語なのは寂しいのよ〜」
「う〜ん······」
「強情ね〜。なら、今度スノウちゃんの着せ替えをする時、うんと露出してるのを着てもらおうかしら〜。あ、エメロアみたいに外を歩かせるなんてことはしないから安心してね〜。見るのは私だけだから〜」
「!?」
な、なんて恐ろしいことを思いつくんだこの人······。しかも、全然安心できないことも言ってきてるよ!?
「うう······さすがに呼び捨ては無理だけど、こんな感じの話し方ならいい?アルマさん」
「ちょっと残念だけど、今はそれでいいわよ〜」
くぅ、脅しにあっさり屈してしまった·········。
「私からも一つ、いいですか?」
今度はアルフがボクに質問?
「いいよ」
「お嬢様が契約している精霊は、今どこにおられるのですか?先程から姿が見えないのですが」
「ユリアのこと?······あ」
······そういえば、さっき強制送還したままだった。それから出てきてないけど、何かあったのかな?
それはさておいて、ほいっと召喚。本精霊に聞けば分かるよね。
「再召喚が遅すぎるのよ!」
なぜか怒られた。解せぬ。
「あのねぇーーー」
ユリア曰く、「一度強制送還されると、次に召喚されるまで依代から出れないうえ、外部の状況も把握できない」とのこと。
······強制送還される原因を作ったのは、ユリアだけどね?
「らしいよ?」
「それは聞いてたので分かりましたが······強制送還されたって、何があったんですか?」
「まあ色々とね」
エメロアが植物を操りだした辺りから、アルフは意識を失ってたし、何も知らなくて当然だよね。アルフには、ボクが縛られたこととかは知らないでほしいし、黙ってよう。
「てかさ、アルフがエメロアとアルマさんに拉致られた原因はユリアが作ったんだけど、恨みとかない?あるなら、ボクが許すから晴らしておきなよ」
「スノウ!?」
そりゃあ、ユリアが事の発端なんだし、ユリアが収拾をつけるのが普通じゃない?
え?お前もサムズアップしてゴーサイン出しただろって?······ちょっとなにいってるかわかんない。
「そこまで怒っていませんよ。エメロア様とアルマ様がそれだけお嬢様を大切に思っておられるということの証明になりましたし、私としては、それで十分です」
ボクにはもったいない、主君思いの部下だね。まあ、主君やら部下のくだりはアルフが言ってるだけで、ボクはアルフを部下扱いする気はないけど。
「スノウー、さっき言ってた装備と武技をあげたいんだけどー」
「なんですと!?」
そのリオンの言葉に、アルフが食い気味に反応する。
「十二英傑の方から装備や武技を頂けるなど、ここ数十年ほど無いめでたいことです!私と話すことなんかより、そっちを優先してください!」
さすがに自分を卑下しすぎじゃない?それとも、ボクが十二英傑のすごさを知らないだけなのかな?
「いいの?」
「ええ、私のことなど気にしないでください」
本当に良い人だねぇ。こんな人が悪人に仕えることにならなくてよかったよ。ボクは主君に相応しくないけどさ。
「それで、どんな装備や武技をくれるの?」
「装備はねー······この道着!攻撃力と素早さが上がって、武技の魔力消費を抑えてくれるんだよー!」
そう言ってリオンが取り出したのは、一着の道着。紅と白を基調にしている和風の道着で·········これ道着というより巫女服じゃない?
「······巫女服?」
「見た目はね。でも、性能はそこそこ高いから安心してねー。それに、さっき言ったのとは別の機能もあるよー」
「へえ、そうなんだ」
見た目は戦闘に向いてなさそうだけど、実は結構戦闘向きっぽいね。ステータス効果とは別に、追加効果も二つ以上あるみたいだし。
「サイズ自動調整のエンチャントが付いてるから、一回着てみたら?」
「おっけ〜」
隣の部屋に移動し、装備変更。肌触りは悪くないし、動きやすいんだけど······一つ問題がある。
「胸がキツいなぁ·········」
リオンによると、サイズ自動調整のエンチャントが付与されているはずなのに、胸の辺りがかなりキツい。これ本当にサイズ調整されてるんだよね?
「着れたー?」
ドアの向こうからリオンの声が聞こえる。
「着れたことには着れたんだけど······」
「何かあったのー?」
「サイズが合わない所があるんだよ」
「マジでー?え、どこ?」
「胸」
「······あ、そっかー」
リオンは原因が分かってるの?
「ちょっと入ってもいいー?追加で渡そうと思ってる物があるんだけどー」
「いいよ〜」
部屋に入ってきたリオンが、ボクの胸元を凝視して一言。
「下着よりエロい」
「そんな褒め言葉いらないよ!」
「無理矢理に胸を道着に納めたから、今にも道着がはだけそうになってるし、そのはちきれそうな爆乳がすごくエロい」
「詳細を解説しないで!?」
これどんな罰ゲーム!?
「気を取り直して。一つ言っておくと、サイズ自動調整のエンチャントは問題なく機能してるよー」
「じゃあこの胸元はどういうこと?」
「サイズ自動調整ってねー、身長に合わせて機能するんだけど、胸元はその身長での普通ぐらいのサイズに調整されるんだよー。ある程度の小ささや大きさには対応できるんだけどね」
······今の説明で原因が分かった気がする。
「つまりね、スノウの胸が大きすぎるんだよ」
知りたくなかったよそんなこと!いや、初ログインの時から、貧乳ではないなと思ってたけど、ボクの胸ってサイズ自動調整が効かないくらい大きかったの!?
「うう······こんな無駄に大きな胸、捨てることができたらいいのに」
「それを捨てるなんてとんでもない!」
「大きくて邪魔だし、男の人達にジロジロ見られるしで、良いことなんか一つもないよ?」
突然、リオンの纏っている雰囲気が変貌する。俯いて、何かブツブツ言っている。
「······ない·········た」
「え、リオン、どうしたの?」
「スノウは女性に言っちゃいけないことを言ったぁーーー!!!」
いきなり顔を上げたと思ったら、涙目になっていたリオンは叫んだ。
「スノウは、おっぱいがどれだけ女性にとって大切な物なのか分かってない!それを望みながらも、得られなかった人がどれだけいるか!子供の頃から憧れ続け、いつか自分も大きくなるんだと夢見ていたのに、全く成長せぬまま成長期が終わった人がどれだけいるか!街の銭湯で巨乳を見かけて、自尊心を粉々に砕かれる人がどれだけいるか!」
······どうやら、ボクは地雷を踏み抜いちゃったみたい。元気溌剌で明るい性格だったリオンも、胸に悩みを抱えていたとは知らなかった。
「·········スノウには、制裁を加える必要があるみたいだね」
ゾクっと。背中に悪寒を感じた。さっきまで叫んでいたリオンが、静かになっていて、悪い予感がする。
「貧乳の怒りを思い知れええええええええええええええええ!」
「ごめん待って揉まないでえええええええええええええええ!」
この後数分間、ボクは無慈悲なリオンに胸を揉みしだかれ続けた。




