第二十三話 黒雪対策会議
今回もスノウはいないので三人称視点です〜
黒雪がスノウに戻り、部屋で寝ている時、先に目覚めたパンツァー、エメロア、リオンはリビングで話し合っていた。アルマとアルフレッドはまだ意識を取り戻していない。というか寝ている。
「結局、あの黒雪はどういうことなんだろうな?」
「使っていた能力から見るに、淫魔系の種族じゃろうな。何故あの姿になったのかは知らんがの」
「原因はお前の淫乱薬じゃねぇのか?」
「ワシに責任が無いとは言わぬが、全ての責任がワシにあるのでもないじゃろう?淫乱薬だけじゃあのような事態にはならん」
エメロアの言う通り、淫乱薬は飲んだ者を少しエッチな気分にさせるだけで、間違っても暴走などは引き起こさない。淫乱薬は黒雪暴走の一つの原因ではあるだろうが、本当の原因は他にある。
「そうだ、エメロアー。あれは何のお酒だったの?淫乱薬とお酒で何か相乗効果があったのかもしんないよ」
「確かあれは···竜血酒じゃったかの」
「竜血酒と淫乱薬、かぁ······」
淫乱薬に反応するのは淫魔系統の種族、竜血酒に反応するのは竜種である。
そして、その二つを混ぜた物に反応する種族はほとんど存在していない。竜種の多くは魔法、もしくは強靭な肉体を用いて戦う。未来を見たり、怪我や病気を治癒したり、淫魔のような能力を使ったりするなどの非戦闘系の竜種はかなり少なく、数百年の寿命を持つエルフやドワーフでも、一生に一度遭遇する確率は1%を下回っている。そして、そんな非戦闘系の能力を持つ竜種は大抵ユニーク個体、つまり一体しか存在していない。
だが、「大抵」の言葉通り、全てではない。ユニーク個体の中でもちょっとした区別があり、ある時突発的に誕生した、過去にも未来にも一体しか存在しないユニーク個体や、死んだとしても数百年経つと転生し、同じ能力を持った竜種が誕生するユニーク個体の二種類があったりする。
スノウが発現した能力を持つ竜種は、後者の転生して能力を受け継ぐタイプの個体で······
「多分だけど、『色欲の淫靡竜』かなー」
「十中八九、そうじゃろうな」
「確実ではねぇのか?」
リオンの予想に、何か思う所がありそうな感じで同意するエメロア。そのエメロアの様子を疑問に思ったパンツァーが問い掛ける。
「『色欲の淫靡竜』、というか大罪竜クラスが与えた恩寵ならば、ワシの眼で解るはずなのじゃ。そこがどうにも納得できぬ」
「だけど、スノウが使っていた能力は『色欲の淫靡竜』のものだよねー?」
「あんな能力を持った竜種は他にいねぇから、そのはずだ。だが······何かひっかかるな」
「どうしたのじゃ?」
そう言って悩むパンツァー。
黒雪と一番長く戦い、一番多く会話をした彼だけが抱いた違和感。
少し考えてから気付く。黒雪が「『男女の営みとやらのやり方は知らないけど』」と言っていたことに。
転生し能力を受け継ぐユニーク個体は、能力と共に、ある程度の知識も受け継ぐ。いきなり能力だけ発現しても、使いこなすことができないと、せっかくの能力が無用の長物となってしまうからである。
黒雪が『色欲の淫靡竜』の転生体ならば、能力と一緒に性知識も受け継いでないとおかしいのだ。だが、黒雪にはその手の知識が無かった。
黒雪の親が『色欲の淫靡竜』とだとしても、おかしい点がある。子供という存在は、二人の親から生まれるため、必然的に親の血は薄くなる。よって、受け継がれる能力は、親が持つ能力より性能が下がる。
また、大罪竜が与えた恩寵の効果ならばエメロアが視抜くことができるうえ、親から受け継ぐよりも技能の劣化は激しくなる。
なのにどうだろうか。エメロアやリオンから奪ったの魔力と霊力を使用し、二人の感度を増幅させることができた。そのうえ、その魔力や霊力を湯水のように使ってではあるが、パンツァーの精神にさえ干渉し、理性を奪うまであと一歩という所までに達した。
『色欲の淫靡竜』の能力は強力ではあるが、その血が薄まったり、技能の性能が下がったりしている状態では一般人ならまだしも、ステータスが一部下がってるとはいえ世界最高峰の戦闘力を持つ者達の魔法抵抗や精神防御を貫通する程の効果は無い。つまり、あの戦いの時に能力を使ったのは、黒雪ではあるが、黒雪本人ではない。
それはどういうことか。スノウに宿った何者かが黒雪として表に現れ、黒雪の身体で能力を使った、ということである。その何者かが『色欲の淫靡竜』であり、スノウは『色欲の淫靡竜』の転生体ではなく、その娘でもない。なぜかは知らないが、『色欲の淫靡竜』が黒雪の身体を通して能力を使用したのだ。
長く考え込み、一つ結論を導き出したパンツァーは口を開く。
「······嬢ちゃんは『色欲の淫靡竜』の転生体でもその娘でもねぇ」
パンツァーが語った結論を聞いたエメロアは、心底不思議そうな表情を見せる。
「なぜじゃ?黒雪が使った能力の性能はオリジナルに引けを取っておらんかったぞ?」
「······あれすっごい気持ち良かったよね」
エメロアは先程の事件を気にしていないようで、全く顔色を変えず平然と話すが、リオンは恥ずかしさが抜けきっていないのだろう。黒雪にされたことを思い出して、顔を赤くしている。
「だが、俺は黒雪に『男女の営みとやらのやり方は知らない』って言われたんだよ。転生体か娘なら、そういうのは知ってねぇとおかしいんだ」
「うむ、確かにのう······」
「それじゃあさー、スノウの親は誰なの?あと、なんで『色欲の淫靡竜』がスノウに宿って力を振るったの?」
「俺が思うに、スノウの親は大罪竜の上位存在じゃねぇか?娘である嬢ちゃんを守る為に大罪竜を送り込んだのかもしれねぇ」
「そう考えると辻褄は合うのじゃが······もし目的がそれならば、人選を完全に間違えておらんか?」
「それもそうだ。まあ、嬢ちゃんがそんな窮地に陥ったことが無ぇからこの予想は違うな」
「大罪竜の上位存在がいるかもしれん、ということは視野に入れておいた方が良さそうじゃな」
「まあこれ以上考えても進まねぇだろうし、この話題は終わりでいいだろう」
実はパンツァーには二人にはまだ話していないことがある。ただ、それは自分でも信じられず、二人にも信じてもらえないだろうと思い、彼自身の心にしまっている。
そう、気のせいなのだ。スノウと初めて会った時に感じた既視感よりも強い、この思いは。
死に別れた愛する者に、家族に再会できた時のような嬉しさ、そして懐かしさ。
スノウは異界人であり、年齢は二十にすら届いていない。何百年ぶりかのようなこの懐かしさを感じるのはおかしい。そう分かっているはずなのにこの思いは拭えない。
パンツァーは胸中を誰にも語らない。ひたすらに、己の心の奥底に押し込める。
「そうだねー。じゃあ、白雪ちゃんはどうする?」
「人格はスノウのままのようじゃったし、被害が出るまでは、そこまで気にしなくてもやかろう」
「しばらく放置でいっかー」
リュミナがスノウに襲いかかって、思いっきり蹴飛ばされた時のリュミナの『その純白の髪と角、そして銀色の瞳と鱗はまるであの竜のように綺麗だったよ······』という発言。スノウはリュミナの見間違いだと思っているが、実は見間違いではなかったりする。マジで白髪銀眼になっていたのだ。まあ、もうその話題は終わりそうなのだが。
「そうじゃ、そろそろスノウも起きてくるのではないか?」
「結構話してたしねー。じゃあパンツァーが様子見てきてよ」
「はぁ!?なんで俺なんだよ!?」
「スノウの心の性別は男だし、男のパンツァーが行った方がいいんじゃない?あと、今回の記憶が残ってるかも聞いといてよ。それで私達に教えてよー」
「それならばワシが【古代魔法·思念】で念話を繋いでおこう」
「もう俺が行くのは決定なのか······」
ため息を吐きながらも、スノウの様子を見に行くこと事態は拒否していないパンツァー。なんだかんだでお人好しである。
パンツァーがスノウの様子を見に行くと、丁度スノウも起きた所だった。色々聞いた結果、黒雪の時の記憶が無いのは良かったが、ステータスを確認すると【淫乱竜】というエクストラスキルが生えていて、スノウが悲鳴をあげた。
そして、自分がエメロアに酒を飲まされてから何があったのかをスノウに聞かれたパンツァーは、とりあえず全部エメロアのせいにしたという。
04/22 【淫乱竜】のルビを変更




