第十八話 VS魔法騎士(前編)
前回の前書きに書いておいたように、投稿がテスト勉強で遅れちゃいました。
···コロナウイルスで中止になったんじゃないかって?
一応テスト勉強してたので、執筆できなかったんです。許してください。
さて、場所は変わって闘技場in冒険者ギルド。目の前にいるのは魔法騎士さん。片手剣に盾といった、いかにも騎士のようなスタイル。魔法騎士という二つ名を持っているってことは剣術や盾術に加え、魔法を同時に扱うんだろうね。武器だけ見てると足元をすくわれそう。
「貴女、もう準備はいいのですか?」
もう準備が終わった様子の魔法騎士さんが確認を取ってくる。
「はい」
まあボクの場合は武器ないし。己の手足と自前の爪だけだし。
「本当に?」
「はい」
「···本当に?」
確認する回数が尋常じゃないんだけど···。ボクの格好って変?
「え、何かおかしい所ありますか?」
「装備が戦闘用のものではないと思ったのですが······」
「あっ」
そう言われて、ボクはやっと自分の服装に気付く。昨日のワンピースから着替えるの忘れてた······。
「···ちょっと待ってもらっていいですか?」
「構わないですよ」
一度ギルドの建物の中に戻り、人目につかない場所で素早く着替える。と言ってもステータス画面を少し触るだけで済む。簡単だなぁ。現実にもこれ欲しい。
闘技場へとすぐに戻る。
「お待たせしました」
「······」
顔を赤くして呆けてるけど、どしたの?風邪かな?
「えと···大丈夫ですか?」
「は、はいっ!大丈夫です!」
魔法騎士さんの顔を下から覗き込むようにしながら話しかけると、結構な勢いで後ずさりながら返事をする。どうやら驚かせちゃったみたい。そんな気はなかったんだけどな。
「驚かせちゃいましたか?」
「い、いえ、驚いたというか貴女があまりに可憐で見惚れてたというか。貴女ほどの美人に会ったことがなくて」
「ふぇっ!?」
いやこの人いきなり何を言ってるの!?そりゃボクはゲームシステムにも間違われるくらいの女々しい顔はしてるけど全然美人じゃないし、可憐とか···あうあう······恥ずかしい·········。
「·········」
「·········」
「そこの若いの二人、乳繰り合わずにさっさと戦うのじゃ〜」
「「乳繰り合ってないよっ!(ませんっ!)」」
誰が好き好んで同性と乳繰り合うかっ!
『貴女の魂は男なのにね···』
本当にね···。
『相手はBランク冒険者だからユリアの支援も必要だと思う。準備しといて』
『おっけ〜』
〈念話〉でユリアに支援を頼み、これで準備完了。
「···じゃあ始めましょうか。俺はアルフレッド·シュヴァルツです」
「···そうですね。ボクはスノウ。家名はありません」
二人して顔を赤らめながら少し沈黙した後、仕切り直しとばかりに、お互いに自己紹介をし、構えをとる。
「それでは準備はいいですね?用意······始めっ!」
審判を務めるギルド職員がスタートを宣言すると、アルフレッドさんの周りに火、氷、水、風の球体が浮かび上がる。
「まずはお手並み拝見です」
そうアルフレッドさんが言うと、魔法が次々と飛んでくる。数はそこまで多くなく、明らかに舐められているのがまる分かり。
「あんまり舐めないで欲しいですね」
ボクも対抗して時空と思念以外の全ての属性の『魔弾』を放つ。
「えっ!?」
「まだまだ行きますよっ!」
そして、さっきと同じ属性、同じ数の『魔槍』を発射。まあ、これだけじゃアルフレッドさんは終わらないだろうね。でも、隙は作れた。
「ユリア!」
「わかってるわよ、『エンハンスド·トリニティ』!」
『エンハンスド·トリニティ』、事前に設定しておいた三つのステータスを同時に上昇させる支援魔法。当然、ステータス一つを上昇させる魔法より詠唱時間が長いので、今みたいに隙を作る必要があった。ちなみに、強化したのはSTRとINTとAGI。
まだアルフレッドさんはボクの魔法を防いでいる途中なので、【魔力自動回復Ⅱ】でさっきの弾幕で消費したMPを回復させていると、『魔弾』と『魔槍』で立った土煙の中から、信じられない物を見るような目でボクを見るアルフレッドさんがそこにいた。
「なんで龍人が放出系魔法を使えるんですか!?」
「なんでって言われても······。ねえ?」
エメロアに魔力回路を弄くられて入手したスキルだから、ボクは何も知らないよ···。
「いや、『ねえ?』って言われても、その頃はまだ私と契約してなかったじゃない」
「あ、そっか」
「···そこの小さな女の子は?」
「この子はユリア。ボクの契約精霊ですよ」
「精霊術師でもあるんですか!?」
「その言葉が、精霊と契約している人を指しているのなら、そうです」
「なんで貴女の存在が今まで知られていなかったんでしょうか···?」
「えと、ボクはずっと田舎にいましたからね」
うん、「魔法が無い所」を田舎と強引に解釈すると、嘘は言ってない。
「そうですか···今までずっと辺境で修行していたと······それなら、見た目に似合わぬ魔力があったり、全属性への適性があっても、噂にはならないわけですね」
······あるぇー?なんか微妙にニュアンスが変えられてるような?これ以上話すとボロが出そうだし、さっさと話を戻そう。
「で、試験の続きはまだですか?」
「あ、すいません!考え事をしていました!それでは続きをしましょうか。いつでもいいですよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言うが早いか、さっきと同じように弾幕を張る。
「くっ、やはりこれを全て迎撃するのは消費が大きいですね」
弾幕の隙間を縫い、ほぼノーダメージで弾幕を避けたアルフレッドさん。『魔弾』や『魔槍』の一発当たりの消費MPはそこまで多くないとはいえ、時空と思念以外の属性で五発ずつ撃っているので、全部避けられると割に合わない。でも、
「それは読めていたよっ!」
「吹っ飛びなさい!」
「なっ!?」
わざと作っておいたいくつかの隙間から出てきたアルフレッドさんを迎え撃つボクとユリア。ユリアはいくつもの風の槍を生み出し、ボクは『魔砲』も併用して勢いを上げ、アルフレッドさんへと突進する。腕に纏うは火属性。
「〈アサルト·スティング〉ぅ!」
「『風槍乱舞』!」
ボクとユリアの同時攻撃が決まったと思ったが。
「くっ、〈魔装盾〉〈フォートレス〉!」
嘘っ!?今のはほぼ完全な不意打ちだと思ったのに、防がれたよ!?
多少後ずさりながらも、大きなダメージは受けていない様子のアルフレッドさん。
「いやあ、今のは焦りましたよ」
「防いでおきながらよく言うよっ!」
「なんて硬さしてんのよ貴方!」
「照れますね」
「褒めてないわよ!」
ユリアの叫びと同時に蹴りを入れても、アルフレッドさんには容易く避けられる。それどころか、カウンターまで振ってくる。
「危なっ!」
翼を羽ばたかせ、カウンターを避けつつ距離をとる。
「大振りの蹴りにカウンターされて、それを避ける貴女もどうかと思うのですがね」
「まあ、ボクには翼がありますから」
「そうでしたねっ!」
ボクがさっきとった距離を、アルフレッドさんが素早く詰めてくる。中距離の魔法弾幕戦は分が悪いと思ったんだろうね。
「ふっ!」
「なんの!」
突き出された剣先を手甲で弾く。アルフレッドさんの本気がどれくらいか分からないけど、これくらいの速さなら全然捌ける。
「俺はっ、これでもっ、Bランクっ、なんですけどねっ」
「まあっ、おじさんよりっ、遅いしっ、軽いからねっ」
次々とくる剣撃を躱し、捌き、弾く。エメロアより魔法の構築速度は遅くて一度に発動する魔法の数は少ない。そして剣は、おじさんより遅くて軽い。うん、数日間の特訓が酷すぎて、ボクの感覚がおかしくなってるんだろうなぁ······。
ギャリィッ ガリガリッ
ん?今不穏な音が聞こえた。
「やばっ!?」
アルフレッドさんの剣を防いでる手甲が削れてるぅ!?これミスリルだよ!?
「この剣の大部分はミスリルですが、微量のオリハルコンも含まれていますからね」
今も手甲がどんどん削れていて、あまり猶予はない。このままじゃジリ貧なボクは、ある賭けに出る。
「こうなったらぁ!」
ちょっと忘れかけていた〈魔力物質化〉を使用し、半透明の鎧を腕と足に纏わせる。
ギギィン
硬質的な音が鳴り、ボクの爪とアルフレッドさんの剣が打ち合わされる。
「〈魔力物質化〉でこの剣と打ち合えるとは思いませんでしたよ。貴女は本当に何者なんですか?」
「いや、少し削れてますよ?」
削れた端から直してるだけだから、そう見えるかもだけど。
そうして、しばらく近距離で打ち合ったり、ユリアと一緒に中距離で魔法を撃ち合ったりしている内に、ついにその均衡が破れる。
「そろそろ倒れてくださいよっ!」
「俺はこれでもBランクですからね。新人には負けてられないんですよ!」
「ちくしょーーーうわひゃぁっ!?」
アルフレッドさんがいつの間にか地面に作っていた凹みにつまづいてしまう。うわぁ、さすがに巧いね。
「これで終わりです!」
体勢を崩したボクにアルフレッドさんの剣が突きつけられる······
「ふぃー、危ない危ない」
「···まさか、これまで防ぐとは」
······ようなことはなかった。〈魔力物質化〉で作った半透明の鎧を纏ったボクの尻尾がアルフレッドさんの剣を防いでいた。
「まだです!」
「なんの!」
足を払うようなローキックをジャンプで避け、斬り上げてきた剣を踏み台に空中へと飛び上がる。
「かかりましたね!『氷槍乱舞』!」
やばい。ボクの周りに大量の氷の槍が出現した。あまりにも数が多く、ボクの飛行速度じゃ全てを回避するのは難しいだろう。かといって、『魔砲』でブーストすると、曲がりきれずにどれかにぶつかってしまう。まだ降り注いではいないが、もう逃げる時間がないだろう。あー······これは無理だね。
『諦めんじゃないわよ!』
ユリアが念話でそう言うが、ボクにはこの状況を打開する方法は見つからない。
『いや······この数はさすがに無理でしょ』
『ちょっと待ってなさいよ。』
······?
「って、おわぁ!?」
え、なんでさっきまで地面にいたユリアがここにいるの!?
「髪飾りがあるから私は貴方の所に転移できる。失くさないでね」
「失くさないよ!」
ボクをなんだと思ってるんだよ、まったくもう。
「!······精霊がいると打開されそうですね。今度こそ終わりです!」
空中に浮遊していた氷の槍が次々と向かってくる。いよいよ負けると思った時、誰かの魔力がボクに流れ込んだと思ったら。
「『加速』!」
ユリアがそう叫んだ瞬間、世界の全てが灰色になった。······どゆこと?
「大丈夫?」
絶賛困惑中のボクに、ユリアが何くわぬ顔で聞いてくる。
「ねえ、今どういう状況?」
「【古代魔法·時空】の『加速』よ。この魔法は体だけでなく、思考も加速するのよ。ほら、見てみなさい。周りは少しずつだけど動いているでしょう?」
「あ、本当だ」
よく見てみると、じりじりと氷の槍が近付いているのがわかる。本当にゆっくりすぎて、じっと見てないと分かんない。
「まあ、あまりに私より能力値が高いとこの状況でも動けることや、今の私じゃ効果時間が短いのが難点なのだけれど。あと二分もないわよ」
「マジで?」
「だから、今からこの状況を打開する方法を教えるのよ。うーんとね······こうかしら?」
ユリアが頭に指を当てて、念じた時、ボクの頭の中に映像が流れ込んでくる。これは······周りの状況と道筋?
「伝わったわよね?その道筋を【飛行】以上『魔砲』未満の速度でいきなさい」
「ボクにはその手段がないんだけれど?」
「安心しなさい。それも考えているわ。貴方の『魔弾』を形状変化させればいけるんじゃないの?貴方の『魔弾』や『魔槍』は意識すれば形状を変えられるはずよ」
······魔法を使う本人より契約精霊の方が詳しい件。
「そうなの?」
「ちょっとやってみなさいよ」
「はいな」
形状がわかりやすいように氷属性の『魔弾』を出現させて、むむむ···あ、できた。球状だった氷が板状に変わった。
「できたじゃない。あ、もう魔法の効果が切れそうよ。じゃあ、頑張りなさ〜い。私は髪飾りに戻っておくから」
「え、ちょ、それはずるくない!?」
ユリアが消えた瞬間、世界に色が戻った。氷の槍はかなりの速度で迫ってくる。
あーもう!やるしかないじゃん!
氷属性の『魔弾』を形状変化させて足場を作り、先程ユリアが脳内に送ってきたルートで逃げられるようにする。あとは風属性の『魔砲』も併用して翔ぶーーー!