第十七話 ねえ待って全然ちょうどよくない。
そろそろ学年末テストなので、二週間ほど投稿はお休みです。誠に申し訳ないです。
「誠に申し訳ございませんでした」
アルマさんのお仕置き(弱)によってボロボロになったリュミナがボクの目の前で土下座していた。
こんなボロボロなのに、まだ弱めなのが信じられないなぁ。まあ、リュミナを痛めつけるのは全然OK、むしろ歓迎するけど。
「······二度としないならもういいですよ」
「スノウちゃんはこう言ってるけど〜、私達は許してないから〜、スノウちゃんが帰った後に本番するわよ〜」
「え、それはちょっと理不尽じゃないかな!?」
「文句があるのかしら〜?」
「何もございません」
リュミナは立ち上がって抗議したが、アルマさんがピシッ、と鞭で床を叩くとすぐに大人しくなった。
······この一部始終と、さっきからの様子を見るに、アルマさんは本気で怒った時は笑顔なんだろうか。でも、アルマさんはさっき笑顔でリュミナをお仕置きしてたから、Sの気もあるかもしれない。
「これは何か詫びの品を渡すべきじゃろうなあ」
「エメに同意すんのは癪だが、俺もそう思う。未遂とはいえ、無理矢理迫っておいて、ごめんなさいで済む訳がねぇだろ」
ニヤニヤしながらリュミナを見るエメロアに、渋々といった様子でおじさんも同意を示す。うん、その表情のエメロアに同意するのは少し躊躇があるよね。
「そうだなあ······竜人ちゃん、何が欲しい?」
「いきなり何が欲しいか聞かれても···」
そんな急に言われても、何も考えてないから答えようがないんだけど。というか、この人が何を持ってるかすら知らないんだよなぁ······。
「そりゃそうか。それなら何がいいか···魔法は全属性ある?」
「全属性?まず、属性ってどれくらいあるの?」
「そうだなあ······まずは初歩の初歩、無属性。次に基本の六属性の火、水、風、土、光、影。そして火の上位派生の爆、水の上位派生の氷、風の上位派生の雷、土の上位派生の鋼。あとは特殊な聖と闇かな。それ以外の属性は種族特有の物が多いね」
「ふ〜ん······あれ?古代魔法は?」
「なんで基本的な属性は知らないのに古代魔法の存在を知っているのか後で聞きたい所だ。まあそれは置いといて、古代魔法の説明をしようか。古代魔法はその名の通り古い時代に使われていた魔法で、現在は使える人物は国に一人いるかどうか、くらいだね。」
「エメロアは?」
「勿論使えるのじゃ」
「ちなみにこの国唯一の古代魔法使いがエメロアなんだよ」
「あ、私は少し前に【古代魔法·思念】を習得したわよ〜。運良く迷宮で見つけたのよ〜。他にも二つ程見つけたからエメロアとスノウちゃんにあげるわ〜」
あ、アルマさんの言葉を聞いたリュミナが口を開けてフリーズしてる。まあいいや、放置しよ。
「それはワシも習得しておらんな。礼を言う」
「そんな貴重なものを、ありがとうございます」
「敬語は使わなくていいわよ〜。でも、スノウちゃんには今度可愛い服を着てもらいたいわね〜」
なん······だと·········!?女物の服を着るのは初めてじゃない(幼少期に柊和姉と雫乃に着せられていた)どころか多少は慣れてるけど、割と恥ずかしいんだよね···。でも、アルマさんはその程度の対価で貴重な代物をくれるんだし、服を無料でくれたという恩もあるし、素直に着せ替え人形になろう······(遠い目)。
「······あまりに露出が激しい物でなければOKです」
「交渉成立ね〜。エメロアはいつか私の素材集めを手伝ってくれたらいいわよ〜」
「うむ、承知した。そうじゃスノウよ、先程リュミナが言っていた属性の中で習得していない属性はあるかの?」
「えっとね···無、爆、氷、鋼だね」
「うむ、その四つじゃな。ほれ」
すぐにエメロアの腰のポーチから魔導書が四つ出てきた。便利そうだなぁそれ。プレイヤーのインベントリは時間停止機能はあるけど、エメロアみたいに手早く取り出すことができないんだよね。
「今更だけどさ、こんなに色々貰っちゃっていいの?」
「確かに今更じゃのう。というか気にしてたのじゃな。案ずるな、魔導書を消費しろと言ったのはあそこで固まっておる変態じゃ。おぬしは気にせんでよい」
エメロアがそう言うならありがたく頂こうかな。···そういえば、あそこの変態は何時まで固まってるんだろう。別に再起動しなくてもいいけど。
「じゃあ使わせて貰うね」
早速魔導書に魔力を流すと、ボクの頭の中にシステムメッセージが流れる。
『【無属性魔法】、【爆属性魔法】、【氷属性魔法】、【鋼属性魔法】を習得しました』
これで、変態が言っていた属性魔法はコンプだね。何も報酬は無いけど、達成感はあるんだよね〜。
「ありがとう。おかげで属性魔法は全部習得できたよ」
「ちょちょちょ、ちょっと待って!今、全部習得したって言った!?」
「うん、そうだけど」
何かおかしな所あったかなぁ?エメロアやおじさん、アルマさんの方を見ても三人揃って首を左右に振る。三人から見てもおかしな所はないっぽい。
「そんなに興奮してどしたの?」
ソファから立ち上がり、ボクに詰め寄ってきた今のリュミナは、見ればすぐわかる程興奮していて、息を荒立てている。正直に言ってきもい。
「竜人ちゃんは今自分が何を言ったかわかっているのか!?」
「何のこと?」
「だから、古代魔法、混成魔法を除いた全ての属性魔法を習得したってことだよ!」
ちなみに、回復魔法や生活魔法はまた別の分類らしい。さっきの属性魔法の説明の時にリュミナが言ってた。
はあ、はあ、と一気に喋りすぎて疲れたのか、リュミナが肩で息をしている。
「ちと落ち着け、リュミナ。スノウも引いておるぞ」
あ、バレてた?
少し間を置き、やっと落ち着いたリュミナ。四人で部屋にあったソファに座り、さっきの話の続きをする。
「うん、ここにいる四人の中で、僕以外知らないみたいだから言っておくよ。······魔導書を使用したからといって、確実にその魔法を覚えられるとは限らない」
「「「「·········え?」」」」
「はあ···竜人ちゃんはともかく、なんで三人まで知らないかなあ」
ボクたちの返答を聞いたリュミナは深い、そりゃあもう深いため息を吐いた。
「いや、ワシは使用した魔導書の魔法は全て習得しておるからな」
「私もよ〜」
「俺もだ。まあ、全属性のを使ったわけじゃねぇけどな」
「じゃあこれも説明しなきゃか」
「別にいらぬぞ?」
「お願いだから知っておいて。もちろん二人もだ」
「仕方ないわね〜」
「しょうがねぇなぁ」
三者三様ではあるが、そのどれもが露骨に面倒くさそうな返答を聞き、リュミナは肩を震わせている。これ、キレかけてるよね?
深呼吸をして、どうにか怒りを抑えたらしいリュミナは、急に真剣な顔をする。
「······始めるよ。まず、魔導書は迷宮から稀に見つかる物で、市場では高値で取引されている貴重な品だ」
···おじさんの家の倉庫に山ほどあったような。
「あまり数が無いため、多くの人には出回っていない。と、ここまでは三人も知っているはずだ」
その言葉に頷くボク以外の三人。
「ここからが本題なんだよ。魔導書は使用すると必ず対応した魔法を習得できるとは限らない。習得するには適性が必要なんだ。あと、適性以外にも魔力回路がある程度太くないとダメなんだ。まあ、習得するだけならそこまで太さはいらないけど、魔法をいくつも習得しようとすると相応に太い魔力回路が必要になる」
「そうじゃったのか」
「知らなかったわね〜」
おじさんは声こそ出していないが、少し驚いた顔をしている。
「民間にはたまにしか流通しないんだけど、魔導書は一定の確率で魔法を習得させる物として認識されている。本来は違うんだけど、データが無いせいでそういう認識なんだよ。ちなみに、今は適性という言葉を使ったけど、相性と言った方が近いかもね。適性が高いとその属性魔法が習得しやすくて、適性がなくても魔法を習得できるけど、習得難易度は魔法を習得する毎に上がっていく。全属性揃えるとなるとかなり太い魔力回路でないと」
「うむ。それはわかったのじゃが、その適性というのはどれくらいの割合で備わっているものかのう?」
「うーん···今、僕が持っている情報は的外れとまでは言わないけど、確実ではないんだ。何事にも例外があるから」
「それでもよい」
アルマさんやおじさんも頷き、リュミナに話の続きを促す。
「事前に大量の魔導書を用意して、僕たちが秘密裏に行った実験なんだけどね······結果としては、誰でも一つか二つは適性属性がある。ちなみに適性属性として挙げられるのは火、水、風、土、光、影の六つで無属性は適性属性には該当しない。魔力を持っている存在なら必ず使えるからね。加えて派生属性の爆、氷、雷、鋼、聖、闇、そして特殊な古代魔法も除外。火属性の適性があるなら爆属性の適性もあるし、水と氷、風と雷、土と鋼、光と聖、影と闇も同様だ。
で、話を戻すと適性属性がゼロなんて人はいない。魔法が使えないのは、体内の魔力回路が酷く細いのが原因なんだよ」
プレイヤー的に言えば、INTが物凄く低いってことかな。多分だけど、INT=魔力回路。でも、適性属性なんて情報は攻略サイトに載っていなかったよね······?雫乃が言ってなかっただけで、キャラメイク時に設定される隠しパラメータでもあるのかな?それとも、異界人はこのルールに当てはまらないとか。
「適性属性が三つの人は少し珍しい。高ランクの冒険者の魔法剣士や魔術師には結構いたけど、低ランクの冒険者や一般人にはほとんどいなかった。適性属性四つはかなり珍しい。魔導学院に行ったら人気者になれるくらいかな。それと将来がほぼ約束される。実験には三百人以上集めたけど、適性属性を四つ持つ人は高ランク冒険者に数人だけだった。······そして、適性属性が五つ以上の人物は、実験した人の中にはいなかった」
「·········マジで?」
「そうだよ、竜人ちゃん。だから僕はさっきの君の言葉にすごく驚いたんだよ。集めた冒険者の中には高ランクの魔術師もいて、その人物ですら基本属性全てを習得することはできなかった。なのに君はあっさりと基本属性どころか派生属性までコンプリートしてしまった」
「ワシも全属性持ちじゃが?」
「私も全属性持ちよ〜。そこの二人とは違って古代魔法は一種類だけしか持ってないわよ〜」
「ああ、そっか。そこの二人が異常だから竜人ちゃんは···ん?」
「どうしたのかしら〜?」
「今、なんて言った?」
「私も全属性持ちよ〜」
「その次」
「そこの二人とは違って古代魔法は一種類しか持ってないわよ〜」
「エメロアが複数の古代魔法を習得しているのは知ってたけど、竜人ちゃんも複数持ってるの!?」
おおう。いきなりこっちに話が来たからびっくりしたよ。
「ボクが時空と思念、ユリアが幻影を持ってるよ」
「······頭が痛い」
「大丈夫?ユリアに回復魔法かけさせる?」
「一つの国に一人いたら多いと言われる、古代魔法の習得者がいきなり三人に増えたら僕を含めた政治側の人間はこうなるよ···」
「そういうものなの?」
「そういうものなんだよ。ところで質問なんだけど、ユリアって誰?」
「ボクの契約精霊」
「あー···さっきパンツァーが言ってたっけ。竜人ちゃん、今その精霊を召喚できる?」
「ちょっと待って」
少しリュミナから離れて、【召喚術】のアーツの一つである〈念話〉を発動させる。
『ユリア、起きてる?』
『······』
うん、完全に寝てる。四人が話をしてる時から呼びかけてはいたんだけど、今みたいに反応が全く無いんだよね。これはもう、強制的に起こすしかないみたい。
ピンッ(ボクが指先に魔力を込めて髪飾りを指で弾く音)
ポンッ(ユリアが実体化する音)
べシャッ「むぎゅっ」(ユリアが床に落下した音とうめき声)
「何するのよ!」
目覚めたユリアがプンスカと体で怒りを表現しているが、悲しいかな、その小ささだと迫力が全くない。
「何度念話で呼びかけても起きないからだよ」
「他の方法もあったんじゃないの?」
「否定はしない」
「じゃあ他の方法で起こしなさいよ!」
「えー」
「えー、じゃないわよっ!」
「はい、このちっちゃいのがボクの契約精霊のユリア」
「あら、知らない顔が二人もいるわね」
「私はアルマよ〜。ユリアちゃんよろしくね〜」
「僕はリュミナ。よろしく頼むよ」
二人から手を差し出されたユリアは、アルマさんの手だけ握ってボクの所に戻ってくる。
「リュミナは?」
「あそこまで桃色な魂をした奴には近付きたくないわ······」
ユリアはそう言ってボクの背中に隠れてしまう。おいこら、ボクを盾にするんじゃないよ。ボクだってこの変態は苦手なんだから。
「せめて自己紹介くらいはしたらどう?」
「仕方ないわね···。おほん、私はユリア。今はスノウと契約している世界樹の精霊よ」
リュミナはまた頭を押さえている。頭痛はかなり重症なようだ。
「エメロア、なんて娘を連れてきてくれたんだ···。竜人ちゃんの存在が貴族の連中に知られたら大騒ぎになるんだけど···」
「先手を打つ為にもここに来たのだからの。ギルド登録の時に、ワシら三人がバックにおる事を世間に知らしめるつもりじゃ。そうすれば、いつかスノウが古代魔法を使えることがバレても大丈夫というわけなのじゃ。ワシらの庇護下にある人物に手を出そうとする輩なぞほぼおらんじゃろう」
「俺(私)もそのつもりだ(よ〜)」
「それなら安心か。十二英傑の内の三人が後ろにいるなら手出しは無いだろう」
ふむ、十二英傑?ラノベ読者として持つちゅーに心がくすぐられますな。後で詳しく聞いてみよっ。
「それじゃあ話も一段落したことだし、竜人ちゃんのギルド登録試験に行こうか」
やっと試験か〜。どんな人が相手なのかなぁ。
「そうだ。三人は竜人ちゃんを誰と戦わせるつもりなの?話を聞いた感じだと、最初から高めのランクで登録させてみるのもよさそうだけど」
「まず、ワシはギルドに今誰がいるかを把握しておらんな」
「俺もだ。アルマはどうだ?」
「そうね〜······今日ギルドに来た時にざっとあたりを見渡した感じだと〜、魔法騎士がいた気がするから、それでいいんじゃないかしら〜?」
···なんか強そうなんだけど。二つ名持ちとか弱いわけがない。
「そうじゃのう···。うむ、魔法騎士はワシの記憶が正しければBランクじゃ。スノウにはちょうどよかろう」
ねえ待って全然ちょうどよくない。最初はゆるめでお願いしたい。
「そうだな。嬢ちゃんにはそのぐらいの奴と戦わせるといい訓練になりそうだな」
おじさんまで!?
「いいんじゃないかしら。私の契約者なんだからそのくらいはやってもらわないと」
裏切ったねユリア!
こうしてボクは、有無を言わさず連れて行かれて、Bランクの魔法騎士さんとやらと戦うことになってしまったのである。