第十三話 「なら、私と契約しない?」
ポンッ
というコミカルな音と共に光が収まり、そこに残ったのはとても可憐で、幻想的な女の子。角度次第でどんな色にも見える虹色の髪、右目は桜色で左目はエメロアと同じ翡翠色のオッドアイ。
彼女はボクを見つけると、話しかけてくる。
「ねえ、貴方がさっき髪飾りに魔力を注いだ人?」
「うん、そうだよ」
「なら、私と契約しない?貴方の竜の魔力が気に入ったのよ」
あれ?あっさり契約しそう?エメロアから話を聞いてると精霊との契約は難しそうだったんだけど。
「いいよ。でも、どうやって契約するの?」
「貴方と私の間に魂の繋がりを作って、貴方は私に魂の一部と名前を与えれば契約完了。ちなみに、魔獣との契約もこの方法よ」
「魔獣と契約する予定はないかな······」
「そう?私の予想では二、三体しそうなのだけれど。まあいいわ。速く契約しましょう」
『【ノーネーム】樹精霊:世界樹と契約を結びます。譲渡するスキルを三つまで選び、名前を入力してください』
世界樹!?数多のゲームで樹木系素材の最上位の座を欲しいままにするあの世界樹!?
「ちょっと、何呆けてるのよ。さっさと契約するわよ」
「少し待って。君に渡すスキルを選びたいんだけどさ、君はどの能力値が高いの?」
「私は精霊だから魔法攻撃と魔法防御がずば抜けてるわね。その代わり筋力と耐久は恐ろしく低いから近接戦闘は無理よ」
考えるまでもなく後衛だね。MNDが高いなら効果がMNDに依存する【回復魔法】と【支援魔法】は渡すの確定だね。あとは【古代魔法·幻影】をボクのサポート&彼女の護身用として渡そう。
さっきのシステムメッセージと一緒に出てきた画面に入力して決定っと。
「え!?貴方、魔法を三つも私に与えて大丈夫なの!?しかもその内の一つは古代魔法だし!」
「全くもって問題ないよ。だって三つ渡してもまだ十種以上あるし。古代魔法もまだ一つあるからね」
「貴方、常識ってものを知らないの?」
「失礼な!ボクは常識人だよ!」
「常識人は魔法を十種類以上も持ってないわよ」
「うっ······」
事実だから何も言い返せない······。
「あ、まだ契約の途中だったわ。早く私に名前をちょうだいよ」
名前ねぇ······。何にしようか。いきなり言われてもすぐには思い付かないよ。
「世界樹と樹精霊から文字を少しずつ取ってユリアでどう?」
「良いわね!今から私の名前はユリアよ!」
『契約が完了し、条件を達成しました。霊力が発現しました。エクストラスキル【精霊交信】【世界樹の加護】、汎用スキル【召喚術】【霊力操作】を習得しました』
·········もうヤダぁ。ねえ、ボクはもうちょっとのんびりプレイしたいの。こんなレアスキルやエクストラスキルはあんまり欲しくないの。こういうのはもっと終盤で習得するものじゃないの?
「どうしたの、ご主人様?」
「ご主人様!?」
「だって、貴方は私のご主人様だもの」
「その呼び方はむず痒いからやめて!」
敬語を使われる機会が全く無いから慣れないんだよね。
「じゃあなんて呼べばいいのよ?」
「普通に名前で読んでくれればいいよ」
「私、貴方の名前知らないわよ」
「あ」
そういえば言ってなかったっけ。
「ボクの名前はスノウ。異界人だから家名はないよ」
「これからよろしくね、スノウ」
「こちらこそよろしく、ユリア」
-
ユリアとの契約も終わったので再度ステータス確認。······本来、レベルアップしない限りはステータス画面なんて見る必要ないはずなのに、短時間でスキルがポンポン増えるからその度にステータス画面を確認しなきゃ所持スキルを把握できないのがちょっと面倒くさい。
まずは【精霊交信】から見ていこう。
【精霊交信】
精霊との意思疎通を可能にするスキル。最近、精霊と意思疎通ができるのはごく一部の種族のため、このスキルを持つ者は貴族に狙われる宿命。
なんか嫌なこと書いてあるなぁ。他のプレイヤーより、この世界の貴族にはボクが【精霊交信】を持ってることを知られちゃマズいね。
それじゃ次は【世界樹の加護】を。
【世界樹の加護】
世界樹に関わる存在と契約を結んだ者に与えられる加護。この加護を持つ者は身体系状態異常への完全耐性を得る。
······これまたとんでもない。エクストラスキルにしてもゲームバランスを崩しかねない程の性能だけど、運営はちゃんと考えてエクストラスキルを設定しているのかなぁ?どうせ獲得するプレイヤーはいないだろうと思って過剰な性能にしてそうな気がする。
あとは【召喚術】と【霊力操作】。
【召喚術】
契約を結んだ精霊や魔獣を呼び出して使役するスキル。召喚する相手がいないとこのスキルは効果を発揮しない。
【霊力操作】
【魔力操作】の霊力版。
まあ、予想通りだね。
「そんじゃあギルド行くか?」
ボクがステータス画面を閉じる動作を見たおじさんが待ち切れなさそうにボクに声をかける。
「あ、ちょっと待って」
「どうした嬢ちゃん?」
「少しでいいから習得した魔法の試し撃ちしていい?【古代魔法·時空】や【古代魔法·幻影】で何ができるか知りたいんだ。あとはユリアとの連携も試さなくちゃ」
「そうだな。俺らの推薦があるとはいえ、戦闘力試験があるからな」
「マジで?」
「ん?言ってなかったか?」
「初耳だよ!」
試験に対する準備じゃなかったけど、言ってよかったぁ······。いきなり試験は心臓に悪いし、今は使いこなせていない魔法やスキルがあるからね。
「そうと決まったら修練場行くか?」
「阿呆、スノウはまだ装備を着ておらぬだろう」
「ここで今から着替えるよ」
「ん?ここで?·········っ!ちょっと待て嬢ちゃーーー」
「よいしょっと」
初期装備の服を脱いでさっさと着替えないとね。おじさんが待ちくたびれそうだし。
バキキイィン
いきなり何!?急に周りにボクを囲むような形で氷が出てきたんだけど!?
「スノウ!何故おぬしは何の躊躇いもなく服を脱ぐのじゃ!?」
氷壁に穴が一つ空いて、その穴からエメロアが怒鳴ってくる。
「え、なんで脱いじゃいけないの?装備を変えるには着替えなきゃだよ?」
「おぬしの今の肉体は女じゃろうが!」
「あ」
「嬢ちゃんの魂が男なのは分かっちゃいるんだが、その体はどうにもならん。変に男を寄せない為にも女の自覚を持ってくれ」
「うん、気をつけるよ······」
ボクに男色の趣味はないからね。男に言い寄られても嬉しくないどころか、気持ち悪いもん。
「え、スノウの魂って男なの?」
「そうだよ。この世界に来る時に誤認されちゃったんだ」
「でも、スノウの魂を視ると女と大して変わらないわよ?」
「嘘でしょ!?」
「貴方が女と言ってる訳じゃないから安心して。魂ってね、転生する時に普通はまっさらな状態に戻されて生まれ変わるのよ。だけど、転生前の魂の力があまりにも強いと転生後もその特徴が残ってしまうのよ」
「つまり、ボクの前世は女の人だったってこと?」
「そう、それも最上位かその次点くらいに魂の格が高い女性ね。男に転生しても魂は女性に見えるなんて尋常じゃないわ」
「へえ、そうなんだ。まあいいや」
前世がどうであろうとボクはボクだし。というか、ゲームアバターには魂なんて存在しないから、多分称号のせいだろうなぁ。
「話を戻すのじゃが、そのような色気の欠片の無い下着もどうかと思うのじゃ」
「ボクには色気なんて必要ないよ!?」
なんで自分から男を寄せる真似をしなくちゃいけないのさ。
「じゃが、おぬし程の美人を眠らせるのはもったいないのう。そうじゃ、今から服屋に行くぞ!」
「え?」
ガシッ
エメロアがボクの腕を掴むと同時に何か魔法を発動する。あれ?何これデジャブ。
「パンツァー、ちとワシらは買い物に行ってくるのじゃ」
「ああ、あそこだな。くれぐれも嬢ちゃんが嫌がる服は着せるなよ?嬢ちゃんは何かエメにされたら俺に言えよ?〆るからな」
なんでいつも通りの様子なの!?これが日常茶飯事なの!?
「その前にこれを止めるって選択肢はないの!?」
ボクが文句を言う間もほとんどなく、ボクとエメロア、そしてユリアは服屋と思わしき場所に転移する。
◆◆◆◆◆◆
半強制的に連れてこられたのは当然の如く服屋である。······いきなり転移してきて店主さんに迷惑じゃないのかな?
「アルマはおるかー?」
どうやら店主さんの名前はアルマさんっぽい。それにしても、勝手に店内に転移してきて呼び出すって何してんのエメロア。
「はいは〜い」
間延びした声と共に現れたのは、円を描いて湾曲した鋭い角を頭から生やした女性。その金色の髪はとても長く、ふわふわしている。髪と角の特徴からして、羊の獣人さんっぽい?
「あら〜?見ない顔ね〜」
「どうも、スノウです」
「私はアルマよ〜。よろしくね〜。突然なんだけど、メイド服とかゴスロリとか興味······今はやめておくわね〜」
ちょっと取り繕うのが遅いかな······。この人の性格が大体分かった気がする。
「アルマよ。こやつの下着と服のコーディネートをしてくれんかの?じゃが、あまり男を誘うようなのや、露出が高いのはやめてやってくれ」
「了解よ〜。それで、エメロアがそんなことをわざわざ言うってことはその娘には何か事情があるの〜?」
「うむ、それはの······かなりデリケートな問題じゃ。そうそう言えることではないの。おぬしには申し訳ないが、しばらく秘密に「いいよ、言わせて」させて···ってスノウ?ええのか?」
「うん、秘密にしたままお世話になるのは失礼かと思って。それに、エメロアが紹介する人なら信用できそうだしさ」
「うむ······アルマ。今からする話は他言無用じゃ」
「もちろんよ〜」
「よかろう。ではスノウ、説明するのじゃ。」
「アルマさ「アルマでいいわよ〜。あと敬語は無しね〜。」あ、はい。じゃなくて、うん。ボクは昨日からこの世界に来た異界人。そして本来は男」
「それは本当なのかしら?」
とても驚いているのかアルマさんは語尾が伸びなくなり、表情も先程までのほんわかしたものから少し鋭いものへと変わっている。
「うん、そうだよ。この世界に来る時に性別が誤認されちゃったんだ」
「······そういうことだったのね〜。わかったわ、私が良さげなのを見繕うわよ〜」
元通りの口調と表情に戻ったアルマさんはそう言い残して店の奥に去っていく。
「アルマに任せておけば心配は無いじゃろう。しかし、本当に話してよかったのか?」
「秘密を抱えたまま接するのは苦手だから。それにしても、あっさり受け入れてくれたね」
「あやつは数百年前に魔族を初めて受け入れた奴じゃからのう。大抵のことは些細なこととしか思わんのじゃろう」
·········ん?
「今、なんて?」
「聞こえんかったか?数百年前に魔族を受け入れたのがあやつじゃ」
聞き間違いじゃなかった!
「数百年前!?」
「そうじゃが?何かおかしかったかの?」
「·········エメロアって何歳なの?」
「うーむ。五百から数えておらんの。確か千はいってなかったはずじゃが」
なんで自分の年齢を覚えてないの。まあ、五百年以上も生きてたらしょうがないのかもしれないけどさ。ってことは、エメロアと古くからの知り合いっぽいアルマさんも見た目に似合わず年齢は三桁なんj
「スノウちゃ〜ん?今、何を考えていたのかしら〜?」
ひいっ!!今までお店の奥にいたのに気付いたら後ろにいたよ!?怖すぎだよ!
「い、いや何もカンガエテナイデスヨ?」
「じゃあなんでカタコトになってるのかしら〜?」
「スノウ、今のはおぬしが悪い。大人しく報いを受けよ」
「ちょっとお着替えしましょうね〜。大丈夫よ〜、もう下着と服は選んであるから〜」
いつの間にかアルマさんがボクの腕をがっちり捕まえてる!?
「なんで二人はボクが何も言ってないのに考えてたことがわかるの!?」
「やっぱりね〜」
あっ、ハメられた·········。
「離してぇ!お願い、離してぇ!!」
「ダメよ〜」
抵抗も虚しく終わり、ボクは店の奥へと連れていかれてしまった。この後に何が起こったかは·········ボクのメンタルの安全の為に黙秘します。
あ、ユリアとの契約が終わって髪飾りの効果がやっと判明したんだけど
世界樹の花の髪飾り
世界樹で一番生命力が強い枝と、世界樹で一番魔力が籠もった花を使って作られた装備品。さらに世界樹の精霊も宿っていて、唯一無二な生きた装備品。
AP+50%
付与スキル:霊力自動回復Ⅰ、成長(1/10)
こんな感じで恐ろしい性能になっていたりする。······MPやらAPやらそれらの自動回復やら攻撃性能はバカ高くなってるのに、HP関連の付与効果が無いのがとても残念。魔法が無いと紙防御なのが悩み所なんだよねぇ。