第九十七話 ある少年の苦難
お待たせしました。ギリギリ月内更新を果たした姫河ハヅキです。
卒業研究が忙しいぜ······!
あ、11月と12月は更新できるかどうか分からないです。製作は割と順調ですが、論文の方がまだ手付かずなんですよ。どのくらい時間かかるか分からないし、リテイクも何度もあるでしょうし。
ムリだと思ったら活動報告あげますが、諦めきれずにチマチマ執筆続けて結局月末ギリギリに「ダメでした!」って活動報告あげる可能性も無きにしも非ずなのでね······。
更新されたらラッキーくらいの心構えでお願いします。
「お前、また権能か権能に近いモン拾ってきたな」
「······なんでイスファの前で使ってないのに分かるかなー?」
「オレはまだ優しい方だぞ。なぁミネルヴァ」
「二つとも直接戦闘には使わないもの······あと、手を媒介に発動する類ですね」
「なんでそこまで分かるの!?」
一度も見せたことないスキルの詳細見抜いてくるとか怖いんだけど!
「魔力や魔術式に関しちゃお前も大概だぞ」
「専用の魔術や器具抜きであの精度はちょっと引きます」
「急に矛先向いた!?」
今どう考えてもボクをディスる流れじゃなかったよね?
「すいません!匿ってください!」
「「「ん?」」」
全速力で駆け込んできていきなりどうしたのミシェル。
いや、大体の状況は察したけど。
「じゃあ誤魔化すのはお願いねー」
「あいよ」
「が、がんばります」
「へ?今から何を······ 」
困惑しているミシェルを髪で掴んで柏手を一つ。
パンッ
『略式詠唱・座標転移』
事前に決めておいた動作を行うことで魔術の詠唱を破棄する〈略式詠唱〉でマーカーを予め設置しておいた場所に移動する『座標転移』を発動。人目につかないボクの部屋へと移動する。
······うん············?
「なにこれ」
「······ここって············!?」
本来ボクの部屋は、ログアウト用のベッドと、ボクがログアウトする前に少し作業するようの生産器具と、アルマさんが勝手に置いていくぬいぐるみぐらいしかない普通の部屋だったはずなのだが、ベッドは3,4人乗ってもまだ余裕ありそうなサイズに変わっており、今までなかったクローゼットも新設され、ついでに照明も桃色にと妙な様変わりを果たしていた。うん、違う部屋だね。
これエメロアの仕業だな?あの悪戯好きロリババアめ。
「し、師匠!?その服装は······!?」
「え?······わぁお」
いつの間にかボクの服が下着だけになっている。なんというか······ロイヤル・〇イシング、あれを黒くした感じ。つまりクソ恥ずかしい衣装である。
巻き込まれたのが子供のミシェル一人なだけまだマシかなー?これ複数の大人に見られたら恥ずか死する自信あるよ。もしくはこのゲームでは初の自害を敢行するまである。
「どうせ脱げない仕掛けあるだろうし、気にせずこの部屋から脱出する方法探さないとね」
「いや、あの、その服装で平気なんですか?」
「うんにゃ。不特定多数がいない屋内だからマシだけど普通に恥ずかしい」
ミシェルの師匠としてあまり狼狽える姿は見せたくないから平気に振る舞ってるけど、内心は割と焦ってるよ。痴女扱いはやめてね?
って、普通に扉あるじゃん。
······あの野郎。
「『キスしないと出られない部屋』ァ?」
「『もちろん口と口じゃぞ!』············誰の仕業なんですか、これ」
あ、ミシェルも悪戯だと察したね。
さっきまで真っ赤だった顔が一転して呆れた表情になってら。
「こういうことするのエメロアしかいないんだよねー」
「エメロアって、あのエメロア・ディアネイア様のことですか!?」
そうだよね、エメロアは世間一般では超有名人だし様付けで呼ばれるくらいの英雄だよね。こんなくだらない悪戯をするなんて思わないよね。
信じられないかもしれないけど、中身は悪戯好きのクソガキなんだよ······。魔法関連の技術は超一流だけど、それ以外に尊敬できる点があんまりない人だよ······。
「うん、そのエメロア。ボクの空間魔法に干渉したりルール系の結界をオートで張ったりとか高度な技術を悪戯に惜しげなく注ぎ込むレベルの悪戯好きなんだよ······」
『座標転移』に干渉して転移先書き換えるとかめちゃくちゃ高度なんだよね······。しかも装備を勝手に変えるおまけ付きという。さらにルール系の結界張るのもセットで発動する仕掛けとか、製作に使ったスキルは五次だろうし仕掛けに使う素材もバカ高いの使ってるんだろうなぁ······。
「なるほど······。ところで、ルール系の結界ってなんですか?」
「本来は力押しで破壊するか術者に解除させるかの二種類の解除方法がある結界に、追加で『解除条件』を設定することでその強度を高める応用技術。条件緩いほど結界の強度上がるのが厄介なんだよねー。ついでに今回は結界術の応用としてこの部屋を結界の外殻にしてるね。ほら、パッと見変哲のない扉が開かないし魔術ぶつけても無傷」
「強力なんですね······。ちなみに···キ、キスは条件としては······?」
「命に関わるものでもなく、特定の血筋やスキル・魔術が必要でもない。すごい雑に言ってしまえば肉体の単純接触······結界の破壊は厳しいかなぁ」
術者がエメロアなのもなぁ。元の強度からして高いだろうし、それを緩い条件でさらに強化してるもんなぁ······。空間系の手札ならいけるかもだけど、周辺への余波あるからミシェルが一緒にいる今は使えないね。
リル達は今朝から別行動だし、結界の細工でスキルやアーツによる通信も通じない、と。詰んだわ。
「···なんか身体が火照ってきました······」
「え!?」
まさか薬品の類まで散布してるんかあのロリババア!?【世界樹の加護】でボクには薬や毒が効かないの知ってるだろうに······いや、ボクの同伴者狙いか、これ。
さすがに命に関わる毒ではないだろうけど、長居していい影響ないのは確実だからちゃっちゃとキスしちゃおうか。
「こうなったらさっさと出ないとだね。ミシェル、覚悟はいい?」
「えぇっ!?ちょ、心の準備が······!せめて落ち着くまで待ってもらえませんか······!?」
急にどうしたの、前屈みになって。
薬品の影響っぽいし、やっぱり早くキスを済ませないといけないね。
「薬撒かれてるっぽいから多分治まらないよ。大丈夫、ボクは気にしないから」
「僕が気にするんで「ンッ······」············!?!?」
「······うっ············」
「あ」
ガチャ
扉は開いてボクの服装は戻ったけど、ミシェル倒れちゃった。興奮のし過ぎだろうね。
治療部屋に運ぼうか。急いでもないし背負って······っと············?
なんか股の辺りが······あぁ、そういう年頃か。抱っこに持ち替えよ。
治療部屋より先に洗面所だねー。
あ、おじさんじゃん。
「嬢ちゃんに、嬢ちゃんの弟子?なんでこんなところに」
「ちょっと一悶着あってこっちに転移してきたんだー」
「弟子の坊主が倒れてるのも、その一悶着か?」
「いやー?これはエメロアの悪戯だねー」
~説明中~
ボクの話を聞いたおじさんは頭を抱えている。
「······あのクソガキが············!」
「気持ちは分かる」
「ハァ···で、その坊主がキスで倒れちまったから治療部屋に······?こっちは洗面所だぞ」
「ボクも最初は治療部屋に運ぼうかと思ってたんだけどねー」
ごめんよミシェル。人には倒れた所までしか話すつもりなかったけど、おじさんにだけは話すね。
あーでも、こっちの世界の言い回しで通じるのかな······?ボクは授業で習った言い方しか知らないんだけど。
「あの······ね?生物として大人になった証というか······生殖機能が完成した合図的な······」
「うん······?あ、そういうことか!」
伝わったっぽい?
「嬢ちゃんその知識あったのか!?」
「そっち!?」
伝わる伝わらないじゃなくてそこ!?
「今まで嬢ちゃんはその手の知識に疎いと思ってたんだ」
「あー······。向こうの学校で学んだから、生物の構造として少し知ってるくらいかなー。保健体育は赤点取らなかったらいいやってくらいであんまり授業聞いてなかったし、そもそも興味ないから忘れやすいし」
教科書に書かれてる言葉ならギリ分かるかどうかで、えっちな漫画や動画での言い回しはマジで分からん。たまに事務所の後輩が使ってても「?」ってなってる。
あ、ネットミームなら分かるよ。
「······うう············」
「おっと。じゃあボクはミシェルの身体を洗って着替えさせなきゃいけないから「待て、嬢ちゃん」······ん?」
なぜかおじさんがボクの肩を掴んで引き留める。
「坊主の介抱、俺に任せてくれないか?」
「え?いや、悪いよ。発端がエメロアとはいえ、ボクもミシェルが気絶した原因の一つだもん」
「嬢ちゃんにそこら辺の世話をされたと坊主が知ったら、嬢ちゃんは気にしなくとも坊主が気にしちまう。だから頼む、俺に任せてくれ」
「···そ、そこまでおじさんが言うならお願いするね······?」
「おう」
◇◆◇◆◇◆◇
「ふう、これで坊主の尊厳は守られたな」
汚れた服の洗濯をはじめとする後始末を終え、一息つくパンツァー。
パンツァーは時折鍛冶場に顔を出しているためミシェルのことは知っており、ミシェルの想い人がスノウであることもとっくに察している。
そのため、スノウに不審がられることを承知の上でミシェルの介抱を申し出たのだ。
「······好いた相手に下の世話をさせてしまうなんざ、一生モンの恥になっちまう。まだそこらのおっさんの方がマシだろ」
そう宣うパンツァーもミシェルからすれば遥か高みの人物で、自分の後始末をさせたと知ればあまりの精神的ショックで気絶しそうなものである。
本人にはほぼ落ち度がないにも関わらず、自分の下の後始末を想い人と天下の十二英傑のどちらにさせるかという究極の二択を勝手に迫られ勝手に決められたミシェルは泣いていい。
「······う、ううん············貴方は······」
「お、起きたか坊主。気絶する前の記憶はあるか?」
「気絶する前······―――ッ!」
「安心しろ、俺が後始末をしたからスノウの嬢ちゃんはお前さんのアレには触れてねぇよ」
「ありがとうございます!······ えっと、師匠のお知り合い、もしくは親戚の方ですよね。どうしてあまり話したことのない僕を助けてくれたんですか?」
「顔見知りの尊厳がヤバそうなことになってるのは見過ごせねぇよ。特にやらかしの相手が惚れた奴なんざ最悪過ぎる」
「ほっ······惚れ············!?」
「あ゛ー······言わせてもらうとな、当の嬢ちゃん以外は全員気付いてるぞ」
ありゃ気付かない嬢ちゃんがおかしいんだよ、という呟きはミシェルの耳には届かなかった。
◇◆◇スノウside◇◆◇
ボクとおじさん、イスファにミネルヴァの四人がミシェルの事情を聞いていた。
「―――こういう理由でして」
「なるほどねぇ」
お祖父さんがミシェルに無理やり魔導工学を学ばせようとしている、と。
「嫌がってることやらせても上達するわけねーだろ。バカだなそのじいさん」
「今まではこんな強引じゃなかったんですけど······」
「······今までは、ねぇ。厄介事の気配を感じるのはボクだけかなー?」
「あそこの頭首はまだボケる年齢じゃなかったはずなので······何かあったんじゃないか、とは思います。確証はないですけど」
「まぁ、まだ疑惑程度だし一度爺さんとミシェルを引き離してみるか」
「引き離すにしても、何かしらの建前が必要じゃない?」
「まぁそうだが······こういう時はあそこだろ」
「ですね」
「だな」
「「「修練国家オリュンピアス」」」
「あ、あのオリュンピアス······!」
「······???」
「やっぱりあそこだよねー」みたいなノリで言われても知らんのだが。
いや、そういや10月頭のアプデ情報で見たような······?スキルレベル上げやすい国だったっけな。今の環境以上に成長しやすいことはないだろうからスルーしたし忘れかけてた。
「オリュンピアスの研究区画か戦闘区画に入ってしまえば貴族の干渉でもしばらくは跳ね除けられたはずだろ」
「そのはずだ。ただ、どっかの貴族か高ランク冒険者の紹介がないと区画に入るのに長めの審査入るし、審査終わる前だと普通に連れ戻せちまう」
「······僕、高ランク冒険者の伝手ないです」
「······オレらも頼めそうなやついねぇんだよな」
十二英傑ってめちゃくちゃ有名人だから、そのネームバリューがボクの時みたいな冒険者の保証人ならこれ以上ない信用度として扱われるんだけど、この手の紹介には格が高すぎて逆に不都合だって前に言ってたなぁ。その気がなくても「あの方達が紹介するほどの腕前だ」と勝手に認識されるとかなんとか。
それに普通の人だと十二英傑に保証人・紹介人になってもらうには恐れ多いってメンタル的に問題あるんだってね。今は認識阻害の魔道具を三人が付けているからミシェルも普段通りに話せてるけど。
「高ランクってどれくらい?」
「Bですね。アルフレッド君が該当しますけど、あの子も貴族なので今回は不要なトラブルを避けるためにも頼めません」
あー、今回はミシェルの家の頭首の意向に思いっきり反抗してるから、そこに他の貴族が関わってるとマズいのか。
ん?B?
「ボクならいけるのか」
「お前ならいけるっつーか、お前ぐらいしか無理だ。本人の意思を無視した強引な行為とはいえ、相手が王族に次ぐ地位のヴォロレフト大公だからなぁ。国交にも影響あるから他国の貴族はそうそう事を構えていられないし、ヴォロベルクでも対抗するには王族かヴォロライト大公レベルじゃないと無理だし、貴族でもないただの平民じゃ国に関係なく詰みだ」
「ボクも平民だけどね?」
その理屈だとボクも無理じゃない?
「いや、お前はただの平民じゃない。十二英傑がバックについてる。理由なくぶっ殺したりとかの重罪だとさすがに厳しいが、今回みたいなケースならオレらが口出せる」
「スノウちゃんは私たちの直弟子なので、口を挟むのも不自然ではありませんしね」
「······???」
「あ、ミシェルが分かってない。三人とも、認識阻害の魔道具を外してあげてくれない?」
直接名乗った相手以外にはいくら顔を合わせても喋っても自分たちが十二英傑とは気づかれないって、ぶっ飛んだ性能してるんだよねー、認識阻害の魔道具。そうでもしないといけないくらいの有名人だけども。
ただその魔道具のせいで、ミシェルからしたら「知り合いがなんか偉い人っぽい振る舞いしてるけどこの人ら貴族だったっけ?」って状況なんだよね。
「そういや忘れてた」
「名乗ってもいなかったな」
「外すの久しぶりです······」
「!?!?!?!?(言葉にならない声)」
「ウケる」
悲鳴とか苦しんでる光景で昂るほど愉悦民じゃないけど、驚いてるのを見る分には楽しいよね。
「じゃあ師匠も······!?」
「うんにゃ。十二英傑じゃないし十二英傑の誰かと血縁関係ってこともないよ。偶然出会って色々あって弟子にしてもらってるだけ」
「『だけ』って言葉じゃすまないと思いますよ?」
「それはそう」
最初は気付かなかったけど、色んな場面でおじさん達の強さを目の当たりにしたり、VIP待遇なの見て段々と「この人たちすごいんだ」って実感湧いたよ。
「いつ向こうが本腰入れてミシェルを探すか読めねぇし、スノウは今からミシェルを連れてオリュンピアスの審査行ってこい。紹介あっても多少の審査はあるから早く行くに越したことはねぇ」
「はいはーい」
「あ、あの!」
「うん?」
「······お、お礼はどうすればよいでしょうか。僕では十二英傑の方はおろか、師匠に見合う報酬すら出せません」
「「「「え?」」」」
「え?」
「礼なんていらないよー。ボクはミシェルの師匠だからね。というかボクだって最後はおじさん達に頼るし」
「子供は自由に学んでのびのび育つのが仕事で、年長者はそれを応援してやるのが役目だ。こういう時はじゃんじゃん頼ってくれていいんだ」
「なんか作れって話ならきっちり代金取るが、今回はいらねぇよ。義務でもない自分の意見を押し付けるのは気に食わん」
「まぁ、立場的に無報酬で動くのはあんまりよくないので口外はナシでお願いしますね······?」
「皆さん······!」
ということでオリュンピアスにしゅっぱーつ!
※移動法はいつもの




