第九十五話 第二回イベント⑫
第二回イベントクライマックスだぜおらー!
多分次で掲示板回やって終わりかな······?多分
いつもプロット作らずにその場で思い付いたように書いてるので作者本人でも「これ何話続くんだろ」とか思ってたりします。
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「―――よっしゃやるぞォ!【狂奔せし月の魔光】【獣王の器】〈月光炉心:身体強化〉【煮え滾る我が血潮】【神獣覚醒】【たとえこの躰が朽ちようと】【金剛修羅】【憤激狂乱】『覚悟の剣』」
『行くわよー!『オーバー・エンハンスド・デュアル』『オーバー・リジェネレーション』【精霊憑依】【臨界強化】』
二人が高コスト・高リスクのスキルや魔法を使って超強化されたバルド()を相手してくれている間、ボクは急いでバルドの魂を救う準備を進めなければ。一度不意打ちで【救済の御手】を当てたが、もう一度同じ方法は間違いなく通じない。というか、隠密全般がもう通じないだろうね。
となると正面突破しかないわけだが······これも非常に難しい。『超人強化』はステータスだけでなく五感の鋭さや反応速度まで強化するのだ。生半可な手段はあっさり破られるだけだ。
ボクの奥の手やさっきもらったスキル・情報でなんとかなる、なるが······ボクの負担めちゃくちゃデカいんだよねぇ。他に適役いないから嘆いてもしょうがないんだけどー。
一旦リル達には戻ってもらって『念話』でこれからの行動を伝える。
『今からリルはボクと〈融合召喚〉と【遥か理想の系統樹】で武装してあの突撃をかます。その後はユリアに交代して武装も変えてアイツに幻術をかける』
『了解なの』
『アレ使うとか、よっぽど大がかりの幻惑張るのかしら?』
『いや、規模よりクオリティ。ボクにこの女の子の幻影かぶせてね』
『念話』を介してあの子の姿をユリアに伝える。
『······なるほど。了解よ』
『リル、ユリア、準備はいい?』
『もちろんOKなの!』
『私もよ。術式は組んだしいつでも交代できるわ』
「おっけー。〈融合召喚:リル〉【遥か理想の系統樹:自由の空】【月の姫巫女】」
〈融合召喚〉。【召喚術】系統のスキルで習得するアーツの一つたる〈憑依召喚〉が【大いなる業】の影響で変化したものだ。〈憑依召喚〉の効果は「プレイヤーに対象モンスターの60%のステータスを付与」「プレイヤーに対象モンスターの汎用スキルを付与」「アーツ使用中は対象モンスターの召喚不可」の三つで、パーティの頭数を減らしてまで使うスキルかと聞かれると微妙なところだった。
しかし、〈融合召喚〉は「プレイヤーに対象モンスターの100%のステータスを付与」「プレイヤーに対象モンスターの全スキルを付与」「アーツ使用中は対象モンスターの召喚不可」と変化前に比べて非常に大きく強化されており、【大いなる業】のヤバさがにじみ出ている。
「ふー······『魔纏・混成複合』」
二つの属性を混ぜて一つの属性として扱う【混成魔法】と、二つの属性を合わせて一つの魔術として放つ〈複合魔法〉の合わせ技、オリジナルアーツ〈混成複合〉。
《混沌魔術師》のパッシブ奥義【混然一体】でできるようになったんだけど、練習で何度も使っていたらオリジナルアーツとして生えたんだよね。アーツが生えて以降はそれまでより使いやすくなったから助かる。
【混成魔法】と〈複合魔法〉の補正が二重でかかることによって威力をはじめとする諸々の性能が跳ね上がるのだが、『魔纏』で使うとなると効果が強すぎてボクのクソ雑魚初期値MNDだと防具込みでも自傷ダメージが入ってしまうのだ。なんなら雷入った混成二つで発動して蹴りなんてした日には、強化され過ぎたAGIによる蹴りでVITが低すぎることによる反動ダメージも入ってしまう。
HPそれなりに上げてるから一発くらいなら大丈夫だと思った(n敗)。
そこで輝いたのが〈融合召喚〉。リル達は自身が持つ属性の耐性スキルがあり、VITもMNDもユリアを除いてボクより高い。その防御周りを借りることで反動ダメージを抑えることができるのだ。
そこにさらに追加で【遥か理想の系統樹】よ。『自由の空』を運用することで雷属性魔法の威力・制御強化&消費軽減(極)をもらって自爆技じゃない戦闘手段として使えるようになったわけだ。
······逆に言えば、そこまでしないと実用レベルにならないという。
ちなみに今回は『真紅雷霆』と『紫怨雷霆』の複合。バルド()の隙を作ろうと思うと大火力をクリーンヒットさせないとダメそうだから、バ火力の〈混成複合〉を超高速でぶつけるために雷系二つなんだよね。
この状態でのボクの速度は、封印を一段階解除した十二英傑の面々でも捉えきれないレベルだ。 父さんを相手しながらでは反応できないだろう。
『準備完了。今から突っ込むよ』
『了解。捨て身の本気出すわ』
『えっ?』
まだ上あるの???
「【生への渇望】【禁忌術式:限界超越】」
「ぐがっ······!?」
先程までも身体の至る所にヒビが入っていたり、そのヒビから赤い蒸気が出ていたりとヤバそうな雰囲気のエフェクトを出していた父さんだが、ヒビが広がり蒸気がドス黒く変色し始めた。互角か少し不利だった殴り合いの天秤が一気に父さんに傾いたが、見るからにデメリットが重そうだ。
·····戦闘終わる頃には乙ってそうだね············。
父さんの犠牲は無駄にしないできっちり仕事をこなそうか。
「オラァッ!!!」
「くっ!?」
父さんが大振りの一撃を叩き込み、衝撃で大きく後退させる。さらに突進で追撃しようとしているのをバルド()に見せ、父さんに注意を向かせたのに合わせてボクも肉迫する。
大幅に強化されたSTRで床を蹴って加速し、同じく大幅に強化されたAGIで壁を走ってさらに勢いを増し、超高速で奴に一撃を―――!
「〈獣王進撃・蹂躙爆走〉」
「〈紫紅の流星〉」
「グアアアアアアア!!」
よし、今だ。
『ユリア!』
『OK!』
〈融合召喚〉の対象をユリアに、【遥か理想の系統樹】の兵装を『永遠の夢』に、装備を魅了特化の踊り子一式に、と一斉変更。
「【斯くも儚き白昼夢】【認識攪乱】【心揺るがす花容月貌】」
『【既に遠きかつての日々】』
続いてスキルの重ね掛けでこれからやることの成功率を可能な限り高める。
『幻術完了!行きなさい!』
『ありがとー!』
「んんっ······これでいいわね」
ユリアに幻術をかけてもらい、声のチューニングも終えたところで、バルドの恋人―――テミスの姿でバルド()に歩み寄る。
「お願い、バルド······起きて············!」
ここで全力魅了!バルド本人の魂を目覚めさせる!
「ふん、今更あの男が······ッ!?「······テ、ミ······ス············ 」」
よっしゃキター!
【追憶の御手】はいどーん!
「「お、おお············!」
よし、ダメ押しの【救済の御手】いくぞおらー!
「貴方を縛ろうとしている悪霊を振り払うのよ······!」
「「あ、嗚呼AAAAAアアアア!!!!!!」」
真のバルドが目覚めてさえくれれば身体乗っ取ってる生霊が異物判定されるから今度こそ【救済の御手】が効くはず······!
「ぬ、ぬああああああああ!!」
「なっ!?何故だあああAAAAAA!?」
剥がれた!
アンデッドじゃないとはいえ霊体系には聖属性効くから砲撃ぶち込んじゃる。
【遥か理想の系統樹】に聖・光属性担当のデータないから兵装はこのままでいいか。
「『魔砲・混成複合』」
『黄金雷霆』『浄却金炎』 の聖属性系ダブルですよと。
「NUAあああアアアア!!!」
うーん、あっさり。スペックがクソ高い肉体使ってたおかげで強かったけどその肉体からひっぺがしたらクソ雑魚だったね。
「······テミス······?テミス······なのか············!?」
······まぁ、そりゃ死にかけだよね。さっきの不届き者をひっぺがした時から分かってはいたけど、魂が消耗しきっている。まるで線香花火のよう、何か一つでも外部からの干渉で消えてしまいそうだ。それこそ触れただけでも。
んー······さすがにここで嘘はねー?いやでも、現実付きつけて落胆させるのなぁ······。
『お願い、そのまま私の言葉をバルドに伝えて。······私は、もう伝えられないから』
『······うん』
テミスの消耗具合も割とヤバいんだよね。長年の呪詛で蝕まれていたことによるダメージ+ボク達へのスキル付与で限界が近い。
「······そうよ。この身体を借りて、幻術をかけてもらってるの。ようやく言える。············迎えに来たわ、バルド」
「お······おお············ !」
―――!抱き着いてきたね。
テミスとボクだと胸部の差がすごいことになってるけど気にならないのかな。
············あ。バルドの目、焦点あんまり合ってないね。魂が消耗し過ぎて五感がうまく働いてないのか。ボクのことがちゃんとテミスに見えたあたり、全く働かないわけじゃないみたいだけど。
「ごめんなさいね。私の祝福······いや、呪いが貴方を苦しめてしまった」
「そんな······呪いだなんて!貴方の祝福があったからこそ、長い生が辛くはなかった······。私の方こそ、長く待たせてしまいすまなかった······!」
「謝らなくていいわ。貴方を解放できたんだもの······!」
「また貴方に会えるなんて思っていなかった。まだ話したいことが―――あ」
突如、バルドが膝から崩れ落ちた。―――もう、限界だ。
······幻術も解けちゃった。
「······もう、ダメか。すまない、テミス」
あぁ、幻術が解けたことに気付いていない。こちらを見てはいるが、もう何も見えていないのだろう。
それでもボクは、テミスの代弁をやめない。最期までこの二人には語り合ってほしい。
「私が欲しいのは謝罪じゃないわ」
「······なるほどな。······迎えに来てくれて、ありがとう······テミス」
「どういたしまして」
「······そうだ、名も知らぬ少女。君にも礼を言う。おかげで、またテミスと話すことができた」
声戻してから返事しよ。
「んんっ······礼はいらないよ。勝算とか報酬なかったら手伝ってなかったかもだし」
「それでも君は恩人だ。······これからの君の幸福を祈る」
《エクストラスキル【彼方照らす運命の玉輪】を獲得しました》
「あぁ、ようやく死ねる。呪縛から解放され、最期にテミスにも会えた。······悔いはない」
そう言ってバルドは目を閉じた。安らかな死に顔だ。
『ありがとう、スノウ。これで私も悔いはない。バルドと一緒に冥界に行くわ』
『お疲れ様』
『アイリスとセナにもお礼を言っておいてね』
ボクの身体からモヤのような魔力の塊がにじみ出てバルドの身体を包み込むと、彼の肉体は端から黄金色のチリへと変わり、モヤと共に月の方へと漂いながら消えていった。
『······ねぇ、ヘレナ』
『何かしら』
『············二人はどうなるのかな』
『今回の件に関しては多分お咎めなしね。二人とも被害者だし。まぁ、これまでの人生で何をしたかは分からないから確かなことは言えないけれど、白い魂だったから大丈夫だと思うわ』
『今日まで苦しんだ分、冥界で二人で過ごせるといいね』
『······そうね』
Tips:初出スキル&アーツ解説(〈融合召喚〉と〈混成複合〉は作中で説明したので除外)
【狂奔せし月の魔光】:セレネから授けられたスキル。HPリジェネとSTRおよびAGIに強化が入る。周辺の月の魔力が濃いと効果上昇。
【獣王の器】:獣人たちの中で猫、犬、獅子などそれぞれの部族で最も力を持つ者に生える自己強化スキル。正式に獣王になるとエクストラスキル【獣王】に変化する。ちなみに「最も力を持つ者」の基準は単純な強さには限らないが、アイリス(熊獣人)の場合は単純な物理戦闘力のパターン。
〈月光炉心:身体強化〉:テミスから授けられたスキル【月光炉心】に含まれるアーツの一つ。他のアーツには魔力砲撃を放つものや範囲バフなど色々ある。
【煮え滾る我が血潮】:HPを持続的に消費する自己強化スキル。消費量は使用者の最大HPに対する割合で、消費HPに応じてスキル効果が上昇する。
【神獣覚醒】:神獣の資格を持つ獣人が会得する自己強化スキル。明確な条件は定かではなく、アイリスも知らぬ間に持っていたらしい。
【たとえこの躰が朽ちようと】:VITが上昇し、『裂傷』『骨折』『欠損』などの一部の特殊状態異常を無効化するスキル。
【金剛修羅】:STRとVITを強化するスキル。戦闘時間が長くなるほど効果が上昇する。
【憤激狂乱】:STRとAGIを強化するスキル。ダメージを受けるほど効果が上昇する。
『オーバー・エンハンスド・デュアル』:【支援魔法】系統で覚える強化魔術。強化度合いは高いが効果時間中は継続ダメージが発生する。
『オーバー・リジェネレーション』:【回復魔法】系統で覚える治癒魔術。効果値は高いが、満タンまで回復した後も効果は続き、過剰に回復した分だけダメージを受ける。
【精霊憑依】:憑依した相手のステータス上昇、憑依した相手に対して使用するスキル、魔術の効果上昇
【臨界強化】:対象の強化スキルおよび支援魔術による強化の上限を少し引き上げるスキル。支援魔法をよく使っている内に生えてくるためバッファーは割と所持しているが、そうそう強化上限に届かないため使われることは少ない。
【月の姫巫女】:テミスから授けられたスキル。月の満ち具合によりスキル効果上昇。月の魔力の濃度によりさらに上昇。
【生への渇望】:HPが少なければ少ないほどステータスが強化される、いわゆる背水系スキル。あまり知られていないが最大HP減少でも強化が入る。
【禁忌術式:限界超越】:最大HPをコストとしてその時点で自身にかかっている全ての強化効果をさらに引き上げるスキル。減少した最大HPはリスポーン以外に回復する方法は少ない。
〈獣王進撃・蹂躙爆走〉: 【獣王の器】を持つ者に一人一つ与えられる「獣王」の名を冠するアーツ。ステータスのバランスや性格によって名称と効果は大きく変わり、攻撃系や防御系、回復・支援系など多岐にわたる。アイリスの場合はSTR,AGIと自身にかかっているバフを引き上げて突進による一撃をかますというもの。シンプルイズベスト。
〈紫紅の流星〉:スノウのオリジナルアーツ。〈混成複合〉により『真紅雷霆』と『紫怨雷霆』を纏った状態で〈身体操作〉を用いて騎乗槍のようなものを形成。そして超高速で突撃をかます。似た者同士。
この技をはじめとする〈混成複合〉を用いたオリジナルアーツの開発過程で何度か死んだ。
【斯くも儚き白昼夢】:自身に対するスキル・アーツの効果時間を短くする代わりに効果を高める強化スキル。このスキルを発動する前のものはもちろん、スキルを発動中に付与されたものに対しても効果を発揮する。
【心揺るがす花容月貌】:自身の魅了・幻惑系スキルやアーツを強化するスキル。
【既に遠きかつての日々】:幻術の中で「昔の情景・人を再現する」場合のみ効果を発揮する幻術強化スキル。再現する対象が破壊もしくは殺害されており、もうこの世にないものだとさらに補正が入る。
【彼方照らす運命の玉輪】:バルドから託されたエクストラスキル。パッシブで自身に対する回復効果を増強し、月が出ている間はHP、MP、APの自動回復が追加される。また、致死ダメージ無効化(CT一日)も備わっている。