第二話 ゴブリンから盗まれた斧を取り返す冒険 その3
前回までのあらすじ:
シメオンは盗まれた斧を取り戻すため、ゴブリンにバトルを仕掛ける。ゴブリン族伝統のカードゲーム「ネズミ集め」で戦うことになった。その序盤でシメオンは戦う気のないカードを出し、ゴブリンに対して大きいな点数のリードを許してしまう。
「へっへっへ、こりゃもう俺の勝ちは動かねえな? 恥ずかしい呪いを受ける覚悟はいいか?」
ゴブリンのギリリがそう言いながら、次の得点札をめくる。
めくられたのは『4』。例によって、4匹のネズミの絵が描かれている。
「この4点も取ってやるぜ、げへへ……」
何やら考えながらカードを選ぶギリリ。
一方のシメオンは、ほぼ思考時間ゼロでカードを選び、テーブルの上に伏せる。
それを受けてギリリも出す手札を決め、テーブルの上に伏せた。
二人は同時にカードを面に向ける。
シメオンのカードは『8』。
ギリリのカードは『7』だった。
ここは、シメオンの勝ち。
シメオンはこのゲーム始まって初めて、特典を得た。4点である。
しかし対戦相手のギリリはすでに16点を得ている。まだ12点差。
(追い抜けるのかしら……)
見守っているメラニアはハラハラしながら見守っている。
(残る手札は6枚。6回の勝負で、大きい数字のカードが出てしまった今、わたしが代わっったところで逆転できる自信はない……)
「けっ、まあ一枚ぐらいは取らせてやるか! ケケッ!」
「ふふっ」
ギリリの言葉に、シメオンが笑いを漏らす。
「何だ、人間?」
「いや。 まあ、次のカードをめくろうじゃない」
そう言って、シメオンが得点札の山から一枚めくる。
めくられたカードは『-1』。
このゲーム始まって初めてのマイナスカードだ。
描かれている絵は、
「ケッ、マイナスか」
ギリリはあまりこれまでと変わらない調子だ。
(シメオンくんは?)
メラニアは心配してシメオンの表情を見る。
シメオンは、ここに来て表情が曇っていた。
(シメオンくん? どうして今更困ったような表情を?)
メラニアは衝撃を受ける。
やはりシメオンには勝利の道筋など見えてはいなかったのか?
メラニアの心配をよそに、シメオンは手札から一枚を選び、出した。
ギリリもカードを出す。お互いがカードを出したのを見て、出したカードを表向きにする。
ギリリが出していたのは『1』。
シメオンが出していたのは『8』。
ここはシメオンが制し、『-1』のカードはギリリが受け取る事になった。
これで、点差は1点縮まり11点差。
「ヘン。喜んでるか人間? 今のはわざと負けてやったんだぞ?」
「それはありがたいね……」
「まあ勝つのはこのギリリ様だけどな!」
ギリリはそう言って得点札の山から一枚をめくる。
めくられたカードは『-3』。
「フン、またマイナスか」
ギリリはつまらないものを見るような目で、3匹のネズミが逃げ出すイラストを見つめている。
「ふふっ……」
シメオンがまた笑いを漏らした。
「だから、なんなんだよ、人間」
ギリリは不機嫌そうだ。
「いやさ……」
シメオンは微笑みを浮かべたまま、言った。
「楽しいなあ、って思ってさ」
シメオンは手札から一枚選び、テーブルの上に伏せる。
シメオンの目は本当に、小さな子供が楽しい遊びをしているときのように、キラキラと輝いて見えた。
(シメオンくん……それなりに大きなものを賭けたバトルをしているのに、楽しいとかそんな事を言っている場合じゃないでしょ?)
横で見ているメラニアは気が気ではない。
ともかくギリリも手札を選び、テーブルの上に伏せる。
二人はカードを表向きにする。
ギリリが出したのは『3』。
シメオンが出したのは『4』。
数値はわずか1の差であるが、ここもシメオンが制した。
ギリリが『-3』を受け取り、点差は8点差まで縮まった。
「フン? まあ、マイナスの数字を避けるのに大きい数字を使うなんて、卑怯者のやることよ!」
「そう言うと思ったよ」
「む!? そうか? で、それって褒めてるのか?」
このゲームでは、得点札を誰がめくるかはルールに定められていない。誰がめくっても勝負に影響はないからだ。ここまでギリリとシメオンは交互にその役目をやっている。先程はギリリがそれをしたので、今回はシメオンが山から一枚をめくる。
出たカードは『1』。
「フン。『1』か」
ギリリはつまらなそうな顔をしている。
シメオンはいつの間にか、涼し気な表情に戻っている。
(ゲームももう中盤を過ぎた)
メラニアは考える。
(もうお互いの手札は4枚、残っている得点札も4枚。残り4回の勝負を、シメオンくんが全て制すれば8点の点差をひっくり返して勝てる……?)
メラニアは祈るような目で勝負を見守っている。
ともかく、『1』のカードを取り合うために二人はカードを裏向きに出して、お互い相手がカードを出していることを確認してカードを表にする。
ギリリが出していたのは『4』。
シメオンが出していたのは『5』だった。
シメオンが『1』のカードを得た。
この時点でギリリの得点は、プラスの点とマイナスの点を合計すると12点。
シメオンの得点は5点、その差は7点。
気づけば、最初シメオンは3連敗したが、その後4連勝している。
いつしか、ゴブリンのギリリは口を閉じて喋らなくなっていた。
冷や汗が彼の額を伝ってる。表情は渋い。
「気づいているか? もう勝ち目はないんだぜ、ゴブリン。ギリリだっけ?」
シメオンは不敵に微笑んだ。