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第二話 ゴブリンから盗まれた斧を取り返す冒険 その2

前回までのあらすじ:

シメオンは先輩冒険者メラニアと共に、ゴブリンに奪われた斧を取り戻す冒険に出発する。問題のゴブリンを見つけたシメオンは、強引にバトルを開始する。ゴブリン族伝統の『ネズミ集め』なるカードゲームによるバトルが始まった。

「人間……勝負どころだな」

 ゴブリンが醜悪な顔を歪めて笑った。テーブルの上の7点の得点札を見つめている。

「そうかな?」

 シメオンが涼しい顔で手札から一枚選び、テーブルの上に伏せて出した。

 ゴブリンの笑みが凍りつく。

「ほう……悩まないで出したな。思い切りが良い」

「こんなの、悩む所無いだろ?」

「ふん。そうかもな」

 ゴブリンも手札から一枚を選び、テーブルの上に伏せた。

 そしてシメオンとゴブリンはテーブルの上に伏せたカードを表にする。

 ゴブリンが出していたカードは『10』。

 シメオンが出していたカードは『1』。

 ゴブリンの勝ちである。

 得点札「7」はゴブリンのものになった。

「ハッハー! やったぜ! 最大の得点『7』はギリリ様のものだ!」

「あんた、名前ギリリって言うのか」

「ああ、覚えておけ人間! お前を倒すゴブリンの名前だ!」

「意外と覚えやすそうかも」

 シメオンは軽い調子で言った。

「あんた、ギリリって感じの顔してるし」

「そうかそうか! ん? あ? それって褒めてるのか?」


 バトルを横で見守っているメラニアは、今の展開の意味を考えていた。

(ゴブリンの方は、最大の点数の得点札を見て、素直に最大の手札を出した。それは分かる。だけど……)

 メラニアの表情が曇る。

(シメオンくんはここで『1』を出した。今回はあえて争わないことで、自分のいい手札を温存したってこと? でも、それにしても……。それを、今行うべきだった? いま取り合っていたのはこのゲームの最高得点の『7』のカードなのに……)

 シメオンの顔を見ると、一見何も考えていないかのような涼しい顔をしている。

(分かっているのシメオンくん。あなたは今、どれほどの点数的不利を抱え込んでしまったのか……)

 メラニアは頬にかかる黒い髪をなでつけながら、考えた。

(もし、シメオンくんが負けそうなら、わたしが途中で勝負を代わる。そして勝たなくちゃ。ここに来る前に、シメオンくんの母親に約束したんだから。シメオンくんを無事に連れて帰るって……)

 メラニアは厳しい目でテーブルの上を見つめている。


「では次だ! めくらせてもらうぜ」

 ゴブリンがそう言って、得点札の山札を一枚めくり、表向きにした。

 そのカードは、『6』。

 先程のカードと同じように数字とネズミの絵が描かれている。6の数字と、6匹のネズミの絵。


(2番目に大きい数字が出た)

 横で見守っているメラニアが思考を巡らせる。

(これは取らなきゃダメよ、シメオン君。簡単でしょう? 相手はもう手札の最大の数字、『10』を使ってしまった。あなたは『10』を温存してる。その『10』を出せば、あなたは確実にその6点を取れるのよ)


 そうすれば得点は7対0の現状から7対6まで盛り返す。そうすれば有利不利はほぼない。十分勝利を狙える。

 そんなメラニアの思いはシメオンに伝わっているのかどうか。

 シメオンとゴブリンのギリリは、ほぼ同時に手札からカードを出した。

 お互いに相手がカードを出したことを確認し、出したカードを面に向ける。

 ゴブリンが出したのは「9」。

 シメオンが出したのは「2」。

 またも、ゴブリンが得点札を獲得した。


 メラニアは目がくらむ思いだった。

(どうして……どうして、『6』を取りに行かなかったの? 『2』で取れるはずがないじゃない? どうして?)

 これで、ゴブリンのギリリは6点を獲得、合計得点は13点になった。

 シメオンはまだ0点である。

(13点差!? 13点差……)

 メラニアは、先程の決意が揺らぐのを感じた。

 シメオンが負けそうになったら勝負を代わるという決意だ。

 なぜなら、冒険者としてある程度の経験があるメラニアでも、13点差をひっくり返して勝てるかどうか自信がないのだ。


 だが、シメオンが負ければどうなるか。

 対戦相手のゴブリンにどんな恥ずかしい呪いをかけられるか分からない。

 メラニアの知る例では、若い男の冒険者がゴブリンにバトルを挑みんで負けて、『可愛い異性を見ると服を脱いで抱きつこうとしてしまう』呪いをかけられたケースがあった。彼は呪いが自然に解けるのを待たずして自殺したと聞いている。

(シメオンくんをそんな目に合わせるわけには行かないけど、でも13点差……私の実力でひっくり返せるかどうか……)

 厳しいと感じる。

 最大ポイントの得点札と、その次にポイントの高い得点札はもう取られてしまった。あと残っているのはそれよりポイントが低い得点札だけなのだ。逆転が難しいのは理の当然。

(待ちましょう。シメオン君、次は勝つでしょう。今は状況を見守る、それでいいはず……)

 メラニアはそう考え、交代を申し出ることはしなかった。


 テーブルの上では、シメオンが得点札の山札を一枚めくり、表向きに置いた。

 そのカードは『3』。描かれているネズミの絵も3匹。


 ゴブリンのギリリとシメオンは手札から一枚を伏せて出し、ついでそのカードを表向きにする。

 ゴブリンの出したカードは『6』。

 シメオンの出したカードは『3』。

 またも、ゴブリンが得点カードをゲットした。


「何だ人間! おまえ、全然強くないじゃないか!」

「そうかな?」

 シメオンはあくまでも涼しい顔をしている。


 メラニアは絶望を感じていた。

 16点差。

 ここからあと、全てがシメオンに有利に進んだとして、逆転は可能なのだろうか?

 それすら怪しく感じた。


「なあゴブリン、俺の名前シメオンっていうんだけど、その意味知ってるか?」

「ん? 名前の意味? 知らん」

「聞くとか、耳を傾けるとか、そう言う意味があるんだ」

「ほーん。それがどうかしたか?」

 シメオンは不敵な笑みを浮かべた。

「聞くぜ。あんたの心の声をな」


(まさかシメオンくん、あなたには見えているっていうの? この圧倒的不利からの勝利の道筋が……?)

 自信たっぷりなシメオンの態度に、メラニアは息を呑んだ。

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