桂沙夜の話
ん、ああ、ちょっとぼおっとしてた。
上崎君の話だっけ。うん、いいよ、私に話せることなら。
といっても、私に話せることなんてそんなにはないけど。
まあ、確かに彼と近くにいることは多いけどね。けど、近くにいればいるほど、彼という人物がよく分からなくなってくるの。
良い人なのか、悪い人なのか、陽気なのか、内気なのか。
彼のことが知りたいなら、私以外にも聞いてみたら?遠いところから見たときと、近くで見たときじゃ、見えるものも違ってくるのかもね。
お祭り?ああ、ついこの間の話ね。
ああ、ごめんね、顔に出てた?正直言って、あの時の話はあんまりしたくないの。
まあ、でもいいか。誰かに聞いてほしいとも思うし。
あの日、上崎君と心とで近所のお祭りに行ったの、その時の話。
ちょうど花火が上がり始めた時、人で混み始めてね、三人ともバラバラになっちゃったの。
それからしばらく歩き回って、彼を先に見つけたんだけど、その時の彼の様子が、なんというか、おかしくて。
空をぼおっと見上げてたの。花火を見てるとのかと思ったんだけど、よく見たら違ってた。
彼、月を見てたの。側にあれだけ輝いてる花火が上がってたのに。おかしいと思わない?
それに、その時の彼の表情がなんとも言えなくて。
笑ってるような、悲しんでるような、怒ってるような。
それで私、なんだか無性に怖くなっちゃって、先に帰っちゃったの。
後日彼に会った時は、なんともなかったんだけど。
それ以来、不意に彼を見たとき、あの日の感覚を思い出すことがあるの。
ねえ、あなたは、どう思う?




