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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-11

「うっほぉ〜ッ! ラッキーッ!! めちゃくちゃ広いじゃんッ!!」


河野こうのは指定された部屋に入ると、自分が思っていた以上の大部屋だったのか、少し興奮した様子で、そう言い放ち、長くコの字で据え付けられたソファのど真ん中に勢いよく座った。


カラオケBOXに行くことになったあおい達は、休日の昼間という事もあり満席や、部屋が少なかったりを覚悟していたが、葵達が訪れた所で丁度、大部屋が一つ空き、そこへ案内される事になっていた。


最悪ファミレスの時のように、2つにグループを分けるなどを考えていたが、葵を含めた10人がその大部屋で賄う事が出来た。


弘樹ひろき、はしゃぎ過ぎだぞ〜……」


落ち着きのない河野に、馬場ばばは少し呆れたような声のテンションも低めにそう言った。


「いや〜、だって! こんなに広いのラッキーじゃね?

あッ! そだぞだッ! 飲み物ッ!!」


馬場の言葉を聞いても河野のテンションは変わらず、ソファに座ったと思ったら今度はおもむろに立ち上がった。


そして、出口の方に河野が歩み始めようとした所で、葵が声を上げた。


「あ……、俺が行ってくる。 何、飲むんだ?」


葵は部屋に付いたばかりで、1度もまだ腰を下ろしてすら居なかったが、全員の飲み物を持ってくること自ら申し出た。


葵の思わぬ気の利いた発言に周りは一瞬、静まり返ったが、河野はスグに調子を取り戻し、「それじゃあ、メロンソーダッ」などと言って葵に注文をしていた。


河野に続くように馬場や里中さとなか、佐々ささきが次々に好みの飲み物を葵に注文し葵はそれを確認しながら、今度はまだ答えていない美雪達の方へと視線を向けた。


「お前らは? どうすんの??」


葵の態度は別に面倒そうでは無く、淡々とした様子で質問を投げかけていた。


「い、いや、俺も行くよ葵。

流石に10人分を1人じゃ厳しいだろ? ドリンクバーにお盆置いてあったけども……」


注文を引き続き取ろうとする葵に、北川きたがわは気を利かせ、葵の手伝いを申し出た。


「いいよ……、別に階段上り下りする訳じゃないし

それにお前が抜けるのは……、なぁ……?」


葵は佐々木がこの場に残る以上、北川がこの場を離れるのは、彼女に取っては不都合だと言うことはよく分かっていたため、北川の申し出を断った。


最後の言葉は、少し気遣ったような様子で、北川以外には聞こえないように小さな声で話していたが、注文を取っている葵を放って、テンションが上がって盛り上がっている里中、馬場や佐々木には聞こえなかったが、それ以外には聞こえていた。


そして、葵が再び注文を取り始めようとしたその時、不意に2人の女性が声を上げた。


「じゃあッ」とハモりつつ声を上げた女性は、紗枝と美雪みゆきだった。


声を上げた2人に周りの視線は集まり、紗枝と美雪はお互いに驚いた表情を浮かべ見つめ合っていた。


「なんだよ葵……、モテモテだな」


紗枝と美雪が葵に付いていくと申し出ようとした事は明確で、北川はそれを見て苦笑いを浮かべながら葵をからかうようにそう言った。


北川の言葉に紗枝はそわそわした様子で、否定しようとして少し焦っており、美雪も小声で「い、いや……」と、歯切れ悪く否定しようとして声を上げていた。


そんな2人を見て、更には周りの雰囲気も少し妙なものになってきたのを感じた葵は、少し気だるそうに北川の言葉に答えた。


「そうゆうんじゃねぇだろ? お前の連れが変ながっついた奴ばっかだから、あんまり一緒にいたくねぇだけだろ?」


葵はわざと部屋の奥で騒ぐ、3人にも聞こえるような音量で答え、軽口を叩く事でその場を上手く誤魔化した。


葵の答えに3人は反応し、馬場や里中は「酷いな〜」や「がっついてないよッ!」等と否定しており、佐々木もそれに賛同するように声を上げていた。


葵はそれ以上に彼等を構う事無く適当に無視し、北川達の方へと向き直った。


「それじゃあ、えっとぉ……、頼めるか? 二宮」


葵は少し考えるような妙な間を空けた後で、紗枝に手伝ってくれと声を掛けた。


「えッ? あ、うんッ」


葵に頼まれるとは思っていなかったのか、紗枝は少し驚いた様子で反応した後、すぐさま二つ返事で承諾した。


少しの間だが、葵と2人きりになることが決まった紗枝に綾は、何故か「気をつけた方がいいよ〜」などと、わざと葵に聞こえるような音量で紗枝に告げ口していたが、葵はもう反応するのも面倒だったため好きなように言わせていた。


葵はそのまま一通り、注文を取り終えると早速、紗枝を誘い部屋を出ていった。


その間、葵は何故だか美雪の方に視線を向ける事が出来なかった。


◇ ◇ ◇ ◇


北川達いる部屋を後にし、葵と紗枝は2人で横並びに歩いてドリンクバーへと向かっていた。


葵達が来たカラオケBOXは3階まであり、階段を使って昇り降りをするような所だった。


葵達が案内された部屋は1階で、わざわざ階段を昇ったり降りたりはする事は無かったが、それでも奥の部屋に通されたため、受付の近くにあるドリンクバーへは少し歩かなくてはならなかった。


北川の言った通り、1人で10人分を運ぶには少し歩く距離があった。


「北川君もまさか本当に来てくれるとは思わなかったよ」


ただ2人で無言に歩くのは気まずく、カラオケに来れたためか少しテンションの高めな紗枝は、葵に次々に声を掛けていた。


「北川君って何歌うの?」


「ん?あ、あぁ……、割とメジャーな所。

カラオケはそんなに自分からは行かないけど、いざ誘われて行くとなったらそれなりに知られてる曲じゃないと、盛り下がるしな……」


「あぁ〜、確かにねッ」


好きな曲を聞いたはずだったが、違う視点から返ってきた葵らしい答えに、紗枝はニコニコとしながら答えた。


「でもさ!テンションが上がってくると、どうしても好きな曲歌いたくならない?

そうゆう時はどうしてるの?」


「んん〜……。仲の良い友達なら構わず歌うかな。

大和やまととかに気を使ってもしょうがないし……。

アイツも良く分からんアイドルの曲を男の声で歌うし……、ホント迷惑だよ、あれ…………」


「アハハッ……、それも神崎かんざき君らしいかも……。

でも、楽しそうだね! 男同士だとそういうのもあるんだね〜」


葵は過去のカラオケを思い出しながら、少し嫌な思い出も思い出し、気分を落としながら、心底迷惑そうに答え、そんな葵を見て紗枝は楽しそうに笑っていた。


しかし、そこまで楽しげに話していた紗枝は、急にモジモジとし始め、続いていた会話が途切れた。


流石の葵も不思議思い、紗枝に視線を向け、不思議そうな表情で声をかけた。


「どうした?」


「え……? えぇ〜と、ちょっとね、気になる事があって……。

これを聞こうか聞かまいか…………」


「何?」


最近、ミスコンを越えた辺りから葵の女性に対する、特に美雪や紗枝に対する接し方はかなり変わり、気遣うような口調が多くなっていた。


葵が尋ねれば尋ねるほど、紗枝は小さく縮こまってしまい、葵は少し気になったがそれじょう追求するのは止めようとしたが、葵が辞めようとしたその時、紗枝は小さく小声で答え始めた。


「えっと……、どうして私を誘ったのかな〜……?なんて…………」


紗枝は極力葵から視線を逸らし、明後日の方を向いて、顔を少し赤らめ恥ずかしそうに尋ねた。


「え……?」


「あ、いやッ! ほらねッ? いつもだったら美雪の事を誘ったりするのかな?とかさッ!

結構、立花君と美雪って一緒にいる事多いしさ……」


葵の聞き返した声に紗枝は妙に焦り、早口でまくし立てるように答えた。


「あ、あぁ……、そっか……。

まぁ、別にそんなに気にした事無いからな。

アイツ人見知りだからあんまり馴染めないんだろうけど、今日は楽しそうだし、何より加藤かとうがいるからな……」


「なるほどね……、確かに綾が居れば、心配も無いよね…………」


葵の答えに、紗枝は今度は急に声のボリュームが落ちていき、暗い雰囲気を出していた。


落ち込んでいるようにも見える紗枝に葵は、なんで落ち込んでいるのかよく分からなかった。


「でもまぁ、誘った1番の理由はなんだかんだで、落ち着くからなんだろうな」


「え……?」


不意に葵は紗枝を誘った本当の理由を話し始め、いきなりの事で紗枝は声を漏らし、葵に視線を向け、驚いた表情を浮かべていた。


「それなりに接点があったし、ミスコンの時にメイクしたぐらいだもんな……。

今更、気を使うことも無いし…………」


葵は色んな事を思い返しながら話し続け、ただ当然と言わんばかりに話し終えた。


葵にとっては取るに足らない事だったが、紗枝にとってのその言葉の重みは少し違っていた。


「そっか……、そっかそか、そうだよねッ! 一緒に優勝を狙った仲だもんね!

あ、でも、立花君も参加して本気で優勝狙ってる感じだったからちょっと違うかな?」


紗枝は暗い表情が段々と明るくなっていき、最初に2人で歩いていた時のように明るくなって、苦笑いとかで無く、笑顔も戻ってきていた。


「確かに、仲間というよりはライバル?? でも、協力はしてたしな。

なんか、思い返せば妙な感じだったな。俺も出場かかってたし……」


「うん! 変な感じだったね! でも、やっぱり立花君が発表してる時は、ちょっと贔屓目に応援とかしちゃったよ?」


葵と紗枝はそのまま会話が尽きる事無く、ドリンクバーと北川達がいる部屋を往復し、紗枝は終始笑顔で楽しそうに話し、葵も紗枝と話す事は楽しく、珍しくあまり得意ではない女子と長々と話を続けていた。

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