俺より可愛い奴なんていません。5-9
佐々木の自己紹介も終わり、順番は進み七城の番へと変わった。
七城は元気でノリの良く、それでいて礼儀正しく、優しい非の付けどころの無い女性で、もちろんそんな性格から友達は多く、見た目もかなり可愛いため、男子からも人気だった。
紗枝や美雪といった黒い長い髪では無く、綾と同じくらいの髪の長さで、綾が少しボサっとした印象で、ワイルドっぽい感じのあるウルフヘアーだとしたら、葉月はボブヘアーで王道の可愛さがあった。
「2年C組の七城 葉月です!
今日はこの会を楽しみにしてました! 普段、放課後はテニス部で練習をしてます。
休日なんかは、友達とショッピングなんかをよくしてます! 結構活発に外に出るので、アウトドア系かもしれないです!
でも、家でゴロゴロするのも得意です! えへへへッ、よろしくお願いします!」
七城は佐々木のような作ったような明るいキャラではなく、佐々木の明るさがキャピキャピした印象であれば、七城の明るさは確かに明るいがうっと推しさを感じることがなく、どこか清々しさがあった。
厚かましいような明るさではなく、一緒にいて心地良いような、そんな雰囲気を持った女性だった。
葵は内心、「加藤とはえらい違いようだな」と勝手に綾と比較し、失礼な事を思いながら彼女の話を聞いていた。
「よろしくッ
七城さんは、テニス部のキャプテンもやってるんだよね?」
「うん! やってるよ!
北川君も部長さんだからよく部長会で会うよね!」
北川は他の子が自己紹介をし終えた時の同じように、質問を投げかけ、七城も愛想良く笑顔で答えた。
「そうだね、この中だと涼太の次に一番接点があるのが、七城さんかも。
また、こないだみたいに部長会の皆で、食事に行ったりしたいね!」
「ねッ! 楽しかったし、やりたいね!!」
部活のキャプテンと言うこともあり、2人は定期的に行われる各部活の部長と生徒会が集まり、議論する部長会と呼ばれる所で会ってあり、面識はお互いにあった。
そして、この場では2人しか知らない話で途中盛り上がってしまい、他4人を会話から置き去りにしてしまっていた。
特にそもそもこのイベント自体に興味のない葵や里中は、気にしていなかったが、北川に好意を寄せる佐々木は、複雑な表情を浮かべていた。
気の回る紗枝は、2人の会話に相槌を打ち、周りの3人があまりいい雰囲気では無かったため、これ以上二人で盛り上がり、寒い空気にならないよう、和らげようと、関心のあるような雰囲気を作っていた。
「部長会ってそんな事もあるんだ〜。
ちょっと楽しそうだね〜」
「楽しいよ!? 二宮さんもやろ〜よ、部長!
みんな部活に真剣だから、練習場所の取り合いとかで白熱する時もあるけど、基本的にはみんな仲が良いから、夕食前の間食感覚でご飯とかよく行くし!
大会の時とか、他の部活なのに応援に来てくれたりとかすると、ホント涙出るくらいに感動しちゃうしねッ!」
紗枝は二人が気持ちよく話をできるように、興味のある雰囲気を出しながら尋ねると、七城は話に食いついてきてくれた事が凄く嬉しかったのか、熱く紗枝に力説した。
葵はそんな紗枝を見て、全く持ってこの話題に、関心が無いわけでは無い訳ではないにはしろ、少し同情のような、可哀想に思えてきていた。
葵はこのまま3人で会話を広げていった先に、あまりいい想像が出来なかった。
そして、それが分かると軽くため息を付き、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、キツイ時とかに応援されると燃えるかもしれないけど、毎日、毎日、しんどく無いのか? 練習とか……。
それに、いくら練習したって結果が出ない時もある、そうゆうの凄い辛いと思うんだけど?」
葵も紗枝と同じように、この手の話に凄く興味があるといったような様子で尋ねた。
茶化したりせずあくまでも真剣に、七城を真っ直ぐ見つめ葵は尋ねると、七城は一瞬、ビックリとした表情を浮かべた後、葵から目を直ぐに逸らし、少しソワソワとしたようで話し始めた。
「え、えぇ〜と、うん……。た、確かにキツいよ? 練習は……」
先程からハキハキと話していた七城に先程までの勢いは無く、急にしどろもどろに話す様に葵は疑問を持ったが、そこに深く追求するのも変だったため、気づいていない様子で、話を進めた。
「だよな? 何で、それでも続けられるんだ?
面倒事と、疲れる事が嫌いな俺はそれがよく分かんないんだよな。
そんなに部活って魅力的か?」
葵には関心の無い話題で、即興で質問を七城にぶつけたが、その質問は本心をそのまま話しており、普段から部活を一生懸命に頑張る者に聞いてみたい事でもあった。
こんな事を聞くのは普通無神経で、人によっては嫌われるような質問だったが、葵はそれを堂々と尋ねられた。
葵がそんな事を尋ねると、隣にいた北川がニコニコと笑いながら、七城の答える前に話し始めた。
「面倒事が嫌いって、確かに葵は面倒くさがりだとは思うけど、意外と凝った事好きじゃん!
とゆうか、桜祭の女装! 絶対あんなの面倒事じゃん」
「確かにアレは面倒事だけど、趣味の範疇だろ?
それに趣味は1人で完結する、わざわざ部活にして、色んな人と一緒にやる意味あるか?」
葵は内心、北川の言葉にはごもっともと感じながらも、引き下がる事は無かった。
すると再び、七城が今度はしどろもどろといった様子は無く、ハッキリとした口調で葵に向かって声を出した。
「確かに面倒だし、辛いことや悲しいことが沢山ありますけど、いつか……数年後、この日々を思い出した時に、きっとやって良かったと思えるからだよ!
かけがえのない輝かしい日々だったと思える確信があるから!」
七城は少し興奮した面持ち、葵を説得するように強くそう言い放った。
七城のあまりの迫力に葵は勿論、周りの人も黙り込んでしまい、静かな時間が流れた。
その沈黙で七城は気付かされ、ハッとした様子で、更に顔を赤く染め恥ずかしそうにして、小さく縮こまってしまった。
「いや、ホント七城さんの言う通りだよ!
葵はそうゆうのに疎いからな〜、青春だよ! 青春ッ!
退屈に感じることもあるけど、学生の時代なんて長い人生の中で、少ししか無いんだから楽しまなきゃ!」
恥ずかしさで小さくなってしまった七城を見て、北川はニコニコとした様子で、上手くフォローを入れるようにして沈黙を破り、話した。
北川のその笑顔は決して七城を馬鹿にしている様子は無く、可愛いものを見た時に見せるようなそんな笑顔で、優しく答えていた。
「せ、青春ね……。
まぁ、確かに分からなくも無いな」
葵は七城の言ったことを全ては分からなかったが、少しそんな本気になれる七城を憧れつつも、わかったフリをするように、その場はそう答えた。
そして、七城が何故ここまでして、葵に必死に答えたのかが、それだけがのんのりと葵の中で疑問に残った。
何かを葵に伝えたいようも思えた七城の行動だったが、恥ずかしそうにする七城にこれ以上話しを振る勇気は葵に無く、追求を諦めた。
「それじゃ、この勢いをそのままに自己紹介してこう!
次は二宮さんだね!」
北川は楽しそうに、ニコニコと絶えず笑顔を続けたまま紗枝へと話を振り、良くも悪くも七城の発言で雰囲気は少し変わり、軽くなったような雰囲気をそのままに、つつがなく葵まで自己紹介を終える事が出来た。
 




