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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
五章 ミスコン優秀賞達
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俺より可愛い奴なんていません。5-2

真鍋まなべ さとる


1年程前に、桜木さくらぎ高校に教員見習いとして訪れ、その明るさから生徒達からは、物凄い人気を得ていた。


ルックスも良く、180以上ある身長でありながら、スラッとした体型に、整ったイケメン顔からくり出す、ニッコリと笑った表情は、爽やかな印象を与えていた。


学生時代には街中でスカウトされ、ファッション雑誌に載ったことまである程だった。


そんな事もあり、今も女子からはかなりモテ、桜木高校の女子生徒の何名かは真鍋に告白した、なんて言う事と起こっていた。


しかし、真面目な彼はキッパリとその誘いを断り、断り方も誠実だったため、嫌味にはまるで見えず、教員が告白されたなんていう事態に陥ったとしても、妙なトラブルなどは起こることがなかった。


桜木高校の男子生徒達も、そんな真鍋を羨む者は多かったが、恨んだりなんかは、することは無かった。


それは、彼が普段から生徒達と近い距離で、親密な関係を築いて事が大きく影響していた。


「うおぉ〜ッ! マジかッ!?

あおいッ! まなべっちだぞッ!? まなべっちッ!!」


葵は、ぼぉっとした様子で真鍋を見つめていると、隣にいた大和やまとが、周りの生徒と同様に興奮し叫び、葵に呼びかけてきた。


「なんだようっせぇ〜な、見りゃ分かるよ……。

帰ってきたんだな、真鍋先生」


周りや大和とは違った温度で、葵は大和を若干ウザがりながら、冷たく答えた。


別に、葵は真鍋を嫌っていたという訳でもなく、むしろ内心ではいい先生だと思っていた。


それでも、大和や喜ぶ周りの生徒達みたいに、叫んだりして喜んだりする程では無かった。


「なッ! 相変わらず冷てぇ〜な……。

なんだ? イケメンが帰ってきた事が不服なのか??

まぁ確かに、まなべっちが帰ってきた事によって、桜木高校の女子生徒数名は、まなべっちに夢中になっちゃうかもしれないけどなぁ〜」


「そんなんじゃねぇよ……。

別に騒ぐ事でもないだろ? 何となく戻ってきそうな気がしてたし……」


葵の態度から、真鍋が帰ってきた事が不服なのだと勘違いする大和に、葵は機嫌悪そうに、当時のこの桜木高校を去っていった時の、真鍋を思い出しながら答えた。


「え? どゆこと??」


「どゆことも何も、ここ去る時、少し涙ぐんでたし……、なんか未練タラタラだったろ?

大人なのに…………」


葵がどうしてそんな事が予測出来たのか、理解できない大和は、不思議そうに葵に尋ね、葵はそんな大和に、真鍋が去る時を思い出させるようにして答え、最後には呆れた様子で愚痴を零すように呟いた。


葵の言ったように真鍋は、桜木高校を去る時に、1年程の期間だったが余りにも思い入れが出来てしまい、歓喜あまって少し、別れる際に涙ぐんでいた。


そんな誠実で素直な真鍋の涙ぐむ姿を見て、何名かの生徒も貰い泣きしていたその光景は、葵にとって鮮明に記憶に残っていた。


「あ、あれか〜……、前の俺たちのクラスでお別れ会やった時な〜……。

確かに泣いてたわ、担任じゃないのに」


大和は思い出したように話し始め、懐かしむようにしながら当時を思い出し、その光景が面白かったのか、最後の方には笑いながら話していた。


「その誠実さがまなべっちの良いとこだよな〜。

たった1年の俺たちに、涙ぐんでくれるんだし、ホントいい先生だったよ……。

まぁ、たった今帰ってきたんだけどなぁ〜」


大和は続けてそういった後、嬉しそうに笑顔で壇上に立つ真鍋へと視線を送った。


「誠実ね…………」


大和の言葉に葵は引っかかり、少し昔の事が頭に過ぎり、その時の事を思い出した。


◇ ◇ ◇ ◇


真鍋が桜木高校に研修として配属され、3ヶ月程経った頃。


真鍋のその持ち前の明るさと気さくさから、1ヶ月も経たずして、真鍋は学校の人気者になっていた。


葵達が1年生の頃の数学の教科担任は、良く言えばかなり融通が効き、悪くいえばかなり適当な先生でもあった。


そんな先生だったため、新しく来た真鍋は、その数学の教科担任の先生に、ノリで授業を任される事なんかもあり、研修という立場であっても真鍋は、1年生の数学を教えたりする事もあった。


1年生の内の3クラスを、真鍋は教えたりし、そのクラスの中に葵や、当時はまだクラスの違った、美雪のクラスなんかも含まれていた。


そして、段々と生徒と真鍋が親密になっていった時だった。


真鍋はある生徒が気になって来ていた。


その生徒は、普段は仲間と仲良く語らったり、時には男子特有のしょうもないイタズラなんかをする、年頃の健全な男子生徒だったが、彼の周りにはいつも仲の良い男子生徒だけが集まり、彼が女子生徒と会話をした所を見る事は無かった。


真鍋はそんな男子生徒を面白がり、声を掛け始めた。


「よ、立花たちばなッ!

お前、いっつも男とばっかりいるよな〜〜、ゲイなのか?」


真鍋の渾身のギャグは、葵には大不評だった。


当時の葵(今もそうなのだが)に対して、その弄りはかなり鉄板であり、女子嫌いが激しかったその頃は、よくゲイで弄られる事があった。


葵は言われ慣れてるとはいえ、ゲイと言われるとスグに機嫌が悪くなり、ましてや教育実習で来ている真鍋に、開口一番にそれを聞かれたのが余計に腹が立った。


葵は真鍋を無視し、歩き始めると後を追うようにして、真鍋も歩き始め、続けて話しかけた。


「ごめんごめん。 なんか、高校生の男子生徒のノリって見てて楽しそうでさ?

ちょっと懐かしくて、混ざりたかったんだよぉ〜……、怒るなよぉ〜」


真鍋は、失礼な事を言ったことを認め、縋るように葵に声をかけたが、葵は依然として無視し歩いた。


「いや、ホントごめんッ!

ゲイなわけないよな? ちょっと思春期入ってて、女子が怖いだけだよな〜??

分かるッ! 俺も学生時代モテなかったから分かるぞ〜ッ!」


真鍋は続けて話しかけるが、逆効果であり、葵はますます不機嫌になり、不穏な空気を漂わせ始めた。


「でもな? 立花……。

女の子には、優しくだぞ? 男の子なんだから、威嚇したり、訳もなく不機嫌な態度を取ったらダメだぞ?

女子が言ってたぞ〜? 立花はちょっと怖いって……」


真鍋がそう言うと、遂に葵は足を止め、真鍋の方へと振り返った。


葵が足を止め振り返り、ようやく自分と話してくれると思ったのか、真鍋は少しホッとした様子で、葵を見つめた。


しかし、そんな真鍋の心情とは裏腹に、葵は真鍋を睨むようにして見つめ、ゆっくりと話し始めた。


「お前に何が分かんだよ……、女子なんて、群れるくせに、少しでも目障りな奴が居たら、陰湿にとことんいじめるクズしかいねぇだろ」


真鍋は、最初は葵の言葉を冗談だと思ったが、まゆ一つ動かさず真顔で、まるで冗談を言っているような雰囲気がなかったため、それが葵の心からの本心だという事はすぐに分かった。


葵は続けて話し、今まで茶化していた真鍋も、葵が冗談を言っているのでは無いのだと、気付くと真剣な表情で、葵の話を聞いていた。


「そんな女子に媚び売る男子も気持ち悪い……。

高校に上がってから余計に増えた。顔が良いから、可愛いからでちやほやして……。

大和も山田達も、それで女子が付け上がるのが分かってないんだ。

しかも、対して可愛いくも無い、ブサイクをチヤホヤして、何考えてんだか…………」


葵は、話始めると火がついてしまい、語気を強く、言葉も段々と悪くなっていっていた。


全てを言い終え、ようやく葵の勢いは止まり、興奮したのか少し息を荒らげていた。


葵が話し終えても、真鍋は何も言う事は無く、少しの間、沈黙が流れた。


真鍋が何も言わないことが気になった葵は、真鍋に視線を向けると、真鍋は真面目な表情だった顔を、ゆっくりと変えた。


そして、ニッコリと清々しい笑顔を浮かべながら話し始めた。


「そっかッ!」


真鍋は短くそう答え、葵の意見を否定するでもなく、尊重するように答えた。


「そっか、って…………」


葵は、最初は自分の意見を面倒くさがって、流すために適当に肯定しただけなのかと思ったが、真鍋の笑顔見て、そうは思えなかった。


仲のいい大和などには、今言った葵の考えは言ったことがあり、その度にそれは違うと、否定ばかりされていたため、真鍋の答えは意外だった。


葵が驚いた表情で真鍋を見ながら呟くと、真鍋は続けて葵に話した。


「だって、立花がそう思うんだろ? 別に、それが間違ってるとも言わないよ」


「なんだよそれ……、さっきは仲良くしろ的な事を言ってたのに…………」


葵は、先程言われた事と、今言われている事に矛盾を感じ始め、真鍋を何を言ってるだと思いながら、呆れた様子で呟いた。


そんな、生意気で年下な、高校生の葵を煙たがらず、嫌な顔をひとつせず、真鍋は会話を続けた。


「確かに、女子への立花の態度は問題だと思うけど、立花がそこまで嫌いなら、俺が言ってもしょうがないしなぁ〜……。

でも、ただ……」


真鍋はそう言って話を一度区切り、葵の頭に片手を乗せ、再び優しく諭すような声で、続きを話し始めた。


「いつかきっと、この子だけは大切にしたいって思える日が、そんな人が現れる。

その時の立花を想像すると……先生、楽しみだよッ!」


真鍋のそんな言葉に葵は、呆気に取られ、しばらく何も言い返せず、真鍋はニッコリと優しい笑顔を葵に見せていた。


真鍋のそんな笑顔が、バカにされていると感じると、葵はスグに我に返り、頭の上に乗せられた真鍋の手を軽く振りほどいた。


「まだ教師見習いの癖に…………。

それと、今の時代だと、こういうのもセクハラになるからな?」


「え? マジ??

……っていうか立花……、年下なのにさっきから生意気だぞ〜」


葵は、真鍋に再び嫌味を告げたが、真鍋はそれを真に受ける事無く、何故か嬉しそうに笑顔で答えていた。


そんな真鍋に、葵は不服そうに不機嫌な表情を浮かべたが、不思議と最初に言葉を交わした時に湧いた、彼への不満はまるで感じなかった。


そして、不服にも少ししか年の変わらない彼が、葵には大きくも見えた。

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