俺より可愛い奴なんていません。4.5-4
前回投稿しました4.5-4ですが、投稿する箇所を間違えてしまったので、再投稿します。
全く同じものを再投稿するのも、変ですし、文字数も短かったこともありましたので、話しを少し進めたものを投稿します。
面倒な投稿方法して申し訳ありませんが、よろしくお願いします(><)
「ただいま〜……」
葵あおいは自宅に着き、玄関を開けるなり、家の中に居るだろう家族に向け、そう言い放った。
葵の言葉は廊下に響き、今度はそれに答えるように、リビングの方から様々な声で「おかえり」と声が響いて返って来ていた。
葵は疲れからか、のそりのそりと靴を脱ぎ、そのまま気だるそうにリビングへと向かって歩いていった。
リビングに入るための扉を開くと、中の明かりと共に、中の状況が見え始めた。
入って右手にあるリビングには、大きなテレビの前にある大きな3人用ソファがあり、そこに大胆にだらしなく、寝転がりながらテレビを見る蘭らんの姿があった。
対照的に、もうひとつある2人用のソファには、ちょこんと礼儀正しく座る椿つばきの姿もあり、蘭と同じくテレビを見ていた。
左へと視線を向けると、木製の大きな、5人が同時に使うには充分の、大きさのテーブルがあった。
用意された5つの木製の椅子の一つに、立花家の大黒柱、裕次郎ゆうじろうが座りながら、ケータイを横にして何かに夢中になっていた。
そんなダイニングのすぐ側には、キッチンがあり、そこには葵達の母、立花たちばな 百合ゆりの姿があり、せっせと夕食の準備を進めていた。
「おかえり〜葵。 今日はなんだか学祭で忙しかったんだってぇ〜〜?
待っててね〜、もうそろそろ夕食出来るから」
百合は葵にそう言うと、ニッコリと微笑みかけ、再び夕食の準備を始めた。
百合のその笑顔は、実年齢からは想像出来ない程美しく、可愛らしく、フワフワとした柔らかい印象はまさに、百合そのもので、その名前がよく似合った人だった。
葵はそんな百合から視線を外し、今度は久しぶりに会う父へと視線を向けた。
すると、そんな葵に気付いたのか、裕次郎も葵に視線を向け、葵と目が合った。
「久しぶりだな、葵。
大きくなったな……」
椿と共に海外から帰ってきた裕次郎は、優しく微笑み久しぶり会う息子を見て、そう呟いた。
「久しぶり……、身長はあんまり伸びてないよ」
葵と裕次郎は、元々そこまで仲良く会話をする事も無く、別に冷めているわけでは無いが、お互いに口数は少なかった。
葵は、最後に裕次郎と別れた時の身長の数値と、今の身長の数値を思い出し、さほど差がない事が分かるとそれを素直に答えた。
自分で言っていて悲しくなる事でもあったが、女装をする分には、背の低い方がより、ぽくなるため気持ちとしては微妙だった。
「そうか……」
裕次郎はそう一言呟くと、再びスマホの方に視線を戻し、葵も同じように裕次郎から視線を逸らした。
そのまま、リビングの方へと視線を持っていくと、こちらを見てニコニコと微笑む椿と、葵が帰ってきてもテレビに夢中な蘭がそこに居た。
「相変わらずだね〜……、お兄ちゃんとお父さんは……」
「何が?」
「何がって……、3年近く離れてたのに、凄い素っ気ないというかさぁ〜……。
まぁ、その分スグに私の番になったわけだけど……」
椿は、久しぶりに会う葵と話したかったが、葵と裕次郎が先に話しているのを見て、会話が終わるのを待っていたようだった。
「改めまして……、久しぶりだね! お兄ちゃんッ!」
「おかえり、椿。」
ニッコリと微笑む椿に、葵も優しく微笑み、返事を返した。
「出たなシスコン兄貴……」
仲睦まじく、葵と椿が会話を交わし始めると、テレビを見ながら、蘭が悪態を着くようにして呟いた。
「シスコンじゃねぇ……。これは家族愛だ」
「シスコンはみんな口を揃えてそう言うんだよぉ〜」
シスコンと呼ばれ、ムッと感じた葵はスグに蘭に反応し、蘭は少しムキになる葵を、姿を見ずとも気配や声色で感じ、続けてからかうようにして答えた。
ニシシといった様子で笑いながら答える蘭に、これ以上、この話題で蘭と話すのは時間の無駄だと感じ、食い下がることは無かった。
「そういえば、どうして桜祭来たんだ?
日本に今日帰ってきたんだろ? 疲れてるだろ??」
「え? まぁ、お兄ちゃんにいち早く会いたかったって、言いたい所なんだけど……、実際はお姉ちゃんに呼び出されたからなんだよねぇ〜……。
どう思う? お兄ちゃん。 普通さぁ、今日、海外から帰ってきたばかりの人にお使い頼む??」
「頼まないね、最低だね……。
物心付いた時から人間じゃねぇとは思ったたけど、ホントに人間がする事じゃないね……」
椿が新たな話題で、蘭を下げるような話をしだした事で、葵は先程のシスコン呼ばわりもあったせいか、ノリノリで椿の意見に賛同し、ボロくそに答えていた。
「そこまで言うッ!? 君らのお姉ちゃんぞッ!?」
「なんで俺は、この姉より先に産まれなかったのか…………」
「酷いッ!! お、おとぉ〜さぁ〜んッ!!」
必死につっこむ姉を見て、葵はわざとらしく頭を抱え、蘭を憐れむように告げると、蘭は今度は、裕次郎に泣きつくようにして、声を上げた。
「蘭は相変わらずうるさいな。
まぁ、明るさが変わってないのは嬉しいけどな」
「違うよッ!? そこ嬉しがるところじゃないよッ!?」
賑やかな雰囲気的に、裕次郎は懐かしむようにして、優しく微笑みながら答え、そんな裕次郎の答えは、蘭の求めていたものとは程遠く、擁護してくれなかった事を指摘した。
 
そんなやかましい蘭から視線を外し、葵はテレビに流れる映像が目に止まった。
テレビに流れるその映像は、何処か見た事のあるような風景が流れていた。
葵はそのまま、凝視するようにその映像を見ていると、それが何処で、今何を流しているのかスグに気付いた。
「姉貴……、何でこれ流してんだ……?」
葵は、少し顔を青ざめながら、恐る恐るといった様子で蘭に尋ねた。
「えぇ〜? いや、だってほら、お姉ちゃんの仕事はスタイリストだから。
今日の反省点とか、見返したら気付くこと、いっぱいあるでしょ??」
蘭は、飄々とした様子で、まるで自分のしている事が常識だと言わんばかりに、逆に葵を不思議そうに見つめながら答えた。
蘭が家族が集まる中で流していたのは、今日の桜祭のミスコンだった。
それも、順番的にはかなり進んでおり、そろそろ二宮 紗枝の順番が来そうな所まで進んでいた。
そして、紗枝が終われば、橋本 美雪や葵の発表まで、そう時間はかからなかった。
「リビングで流すもんじゃねぇだろッ! 消せッ」
「え、えぇ〜……、お姉ちゃんの仕事なのにぃ〜。
やだよぉ」
葵は、家に帰ってきて今日1番の大声を上げ、蘭にテレビを消すことを要求したが、蘭は駄々をこねるようにして、それを拒否した。
基本的に、葵は女装を見られたりするのは、嫌いではなく、むしろ大好きな部類の趣味だったが、それは普段の自分を知らない事が大前提であり、友達や、ましてや自分をよく知る家族などに見せるのは御免だった。
「私も見たいかな……」
「え?」
隣で可愛らしい声で呟くと椿に、葵はぎょっとした表情で視線を送り、小さな椿のつぶやきが聞こえたのか、蘭はますます調子に乗り、「だよねぇ〜」などといって、煽り始めていた。
「お母さんも見てみたいかも!
葵ったら、女装してるのを見せてくれないんだもの〜……。
蘭や椿には見せてるのにぃ〜」
「待て待てやめろ。せめて俺の居ないとこでやってくれ……。
とゆうか、椿は俺の女装を嫌がってただろ?」
「う〜……、確かに嫌だけど、やっぱり美人だから……。
女装してる時、妙に生き生きとしてるし……。
ホント……、凄い複雑なんだからねッ!?」
見たがる百合や椿に、葵はそれぞに否定の意を示したが、2人が引くことはなく、そんな様子でなし崩しに、ミスコンの映像は引き続きに流れた。
「分かった、分かったから……。
じゃあ……親父……、取り敢えず席を外そう…………」
葵は落胆しながら、低い声で元気なく力無く、裕次郎に呼びかけた。
百合や椿や蘭に見られるのも嫌ではあったが、我慢できない程ではなかった。
それでも、裕次郎に見られるのは、流石の葵も勘弁して欲しく、裕次郎もそんなものに興味が無いだろうと葵は思っていた、しかし、裕次郎から返ってきた言葉は、予想外の答えだった。
「葵が活躍したんだろ? お父さんも見たいな」
「マジか…………。
いや……、いやいやッ! 勘弁してくれ……」
「なんでだ??
まぁ……、お父さんとしては、かなり複雑ではあるが、頑張ったんだろ? 発表……」
「いや、まぁ…………」
葵が女装をしていた事は知っていたが、あまり裕次郎にはよく思われてないと、葵は思っていたため、裕次郎の答えは意外だった。
「なら、見ようじゃないか……。
第一、お父さんだけ仲間外れなんて……、そんなのないだろ?」
裕次郎の答えに葵は、内心ホントに勘弁してくれと思っていたが、上手く言い訳を言えず、裕次郎の決断を覆す事が出来なかった。
「わ、分かった…………。
なら、俺は席を外すから、俺の居ないところでやってくれ……」
葵は未だ、見られるのを嫌がる様子で、苦虫を噛み潰したような表情のまま、そう告げると、リビングから出ていった。
「あらあら、一緒に見ればいいのにぃ……。
ねぇ? お姉ちゃん」
リビングから出ていってしまった葵を見ながら、百合は少し寂しそうに呟き、同意を求めるようにして蘭に視線を向けながら尋ねた。
蘭の方に百合が視線を向けるとそこには、体小刻みに震わせ、何かを必死に堪えている蘭の姿があった。
不思議そうに百合は、そのまま見つめていると、蘭はヒィヒィと息を荒らげながら、笑いを必死に我慢しているのが見えた。
「はぁ〜……。
まさかの展開で葵も、たじたじだったねぇ〜……」
蘭は、やっと笑いを抑えられたのか、体を起こしながら、目元に溜まった涙を拭いながら、そう言った。
「お姉ちゃん……。
あんまり、お兄ちゃんをいじめないでよ…………。
はぁ……、嫌われたかな……?」
「大丈夫、大丈夫。
葵はシスコンだから嫌われるなんて事ないよ〜。
それより、見よ見よッ、葵の勇姿ねッ!」
ため息を吐きながら落ち込んでいる椿に、楽観的に蘭はそう答えると楽しそうにしながら、リモコンを手にし、テレビに流れる映像を早送りし始め、葵の発表の所までもっていった。
 




