俺より可愛い奴なんていません。4-8
桜木高校 中庭
ミスコンの結果発表が遂に行われ、ミスコンの参加者は1人ずつ、会場の方々に、発表の時を思い出させるように、大貫が紹介しながら登場させていた。
次々と、紹介され、舞台上に参加者が上がっていき、そこまで時間を掛けずに、全ての参加者の紹介を終え、舞台上にはミスコンの参加者がズラりと立ち並んでいた。
多くの参加者により、舞台も窮屈に見えたりもしたが、それよりも何よりも圧巻だった。
どの娘も高いレベルで仕上がっており、どの娘が優秀賞を取ってもおかしくないほどに、甲乙つけ難かった。
「いやぁ〜、立ち並ぶと素晴らしいですねぇ〜〜……。どの娘も美しいッ!!」
大貫は、紹介している途中からどんどんとテンションが上がっていき、全員が登場する頃には、テンションMAXと言わんばかりのテンションだった。
「さてね、この中から、一体誰がッ! 優勝するのでしょうかッ!!
私の気になるあの娘は何位なんでしょうかッ!? この中での唯一の男性、立花さんにも注目ですッ!!」
大貫の盛り上げにより、会場は更に盛り上がった。
「それでは、早速ですがッ!! 気になる優秀賞の発表に移りたいと思いますッ!!」
盛り上がりは最高潮へと達し、舞台上はもちろん、会場で見守る観覧者達にも、緊張が流れた。
それは葵も例外なかった。
(ヤバいな……、珍しく緊張する……)
こういった人前に出る場合でも、さほど緊張する事が無かった葵は、自分の今の状態に違和感を感じていた。
早く結果が聞きたいという焦りと高揚感から、気持ちが浮つき、そこに混じるようにして緊張感があった。
葵はそれほどまでに、このミスコンに情熱を注いでおり、負けたくないという気持ちが大きかった。
しかし、そんな緊張も横に立つ、1人の女性のせいでスグに消え失せた。
「…………なんで、そんなにビクついてんだ?」
葵は、自分の前に発表した事で、並びの順番で隣に立っている、美雪に声をかけた。
舞台裏でのはしゃぎようとは、うって変わり、完全にド緊張している様子だった。
「きッ、緊張しない方が可笑しいですッ」
美雪は、なんともないような様子で話しかけてきた葵に対して、小声だが力強く、反論するようにして答えた。
「まぁ、確かにな……。いい結果が出ると分かってても緊張するかもな。
テスト返される感覚に似てる……か……?」
「ぜッ、全然違いますよッ!
こんな大勢の前に立つ事が緊張するんですッ」
人前に立つことはへでもない葵に対して、大勢の前に晒されている事で緊張していた美雪は、訳の分からない答え方をしている葵に反論するように答えた。
(さっき発表してた時、1人でこの舞台に立ってただろうに……)
おろおろとしている美雪に対して、葵は心の中で冷ややかにツッコミを入れ、美雪から視線を逸らし、結果発表に集中し始めた。
葵が集中し始めると、丁度大貫が何がメモされた紙を広げ、話し始めた。
「まずは、お1人目の発表ですッ
獲得票数…………80票ッ!!」
(80ッ!? いきなり凄いな……)
大貫の口から発せられた言葉に、葵は驚きながら、次に発せられるであろう、その80票もの多くの票を獲得した者の名前を待った。
「多くの変化で楽しませてくれましたッ
2年B組…………、二宮 紗枝さんですッ!!」
大貫は場の盛り上げ方をよく分かっており、途中、長い間を取ることで観客の気を一気に引き、ために溜めた所で、大きく宣言するようにその名前を叫んだ。
紗枝の名前が呼ばれると、紗枝にスポットが当たり、昼間だったためかスポットの光は弱かったが、それでも紗枝が照らされている事は分かり、その瞬間は誰よりも目立っていた。
大貫の発表を聞き終えた観客達は、大きな歓声を上げ、紗枝の仲の良い友達だと思われる女子生徒達は、紗枝の名前を一斉に大きく叫び、喜びを表していた。
「ささッ、二宮さん。こちらへ……」
学園祭の出し物だというのに、80票もの多くの票を獲得した紗枝は、まだ状態が上手く飲み込めていない様子で、キョロキョロと辺りを見渡しており、そんな紗枝に優しく大貫は、前に出るように促した。
「凄いですね〜、二宮さん。
80票ですよぉ? 80ッ! どうですか? 今のお気持ちは……?」
大貫は手筈と同じように、質問を紗枝に投げかけた。
発表され、何か一言を言うまではリハーサルで行われていたため、突然のアドリブという訳でもなかったが、紗枝は、未だに完全に浮ついている様子だった。
「え、えっとぉ……、ほ、ホントに信じられないです…………。
私なんかが取れるとも思ってなかったですし……、それに…………」
紗枝は答えていく中で、だんだんと落ち着きを取り戻していき、キチンと頭の中で答えを考えながら話している様子だった。
そんな中、そのまますんなりと、スラスラと答えるかと葵は思っていたが、最後に話す言葉を途中で自ら途切らせ、今まで会場の方を向いていた紗枝だったが、不意に葵の方へと顔ごと視線を向けた。
葵は、もちろん前に出て話す紗枝に視線を向けていたため、不意に振り返られ、紗枝と視線が合った事に一瞬驚いた。
葵の驚いた表情を見て、何故か紗枝はニッコリと優しく笑い、そしてゆっくりと再び話し始めた。
「私がこんな賞をいただけたのは、とっても優秀で、誰よりも美に真剣な人が私をコーディネートしてくれたからです。
彼のメイクやコーディネートが評価された事が、何よりも嬉しいですッ」
紗枝は自分の話したい事を全て話終えると、最後に満面の笑みを浮かべ、葵を見つめた。
そして、紗枝は満足したように、葵から視線を外し、再び会場の方へと顔を向け、清々しい表情で、堂々とした様子で立ち尽くしていた。
「はいッ、ありがとうごさいましたッ!!
ホントに、美しかったり、可愛かったり、色々な一面が見れて楽しませて頂きました!
最後に二宮さんに、会場の皆様、大きな拍手をお願い致しますッ!!」
大貫が会場にそう呼びかけると、会場の観客は素直に反応し、大きな拍手を紗枝に送った。
舞台に立つ、同じ舞台で輝いた参加者達も例外では無く、紗枝を祝福するように手を叩き、拍手を送っていた。
そんな中、舞台上にただ1人、葵も一応同じように拍手を、紗枝に送っていたが、葵の拍手は、誰よりも弱々しく、ただ力なく手をゆっくりと合わせているようにしか見えなかった。
厳密に言えば、雑誌や本でも似たように笑顔を浮かべるモデルはいた、それでも、ここまでの衝撃を葵は感じたことは無かった。
紙なんかでは伝わらない美しさがそこにあった。
(な、なんだ……、アレ…………。)
葵は、今まで美の探求のため色んな雑誌を読み漁り、色々な女性を見てきていたが、それでも、あんな笑顔で美しく映る女性を見た事がなかった。
そして、紗枝が葵に向けて放ったであろう言葉が何よりも、心に響いている事に気がついた。
(俺って……、もしかして…………)
葵の中で湧いた疑問は、どんどんと大きくなっていった。
思い当たる節は何度かあった。
(なるほどなぁ〜……、こうゆうのもアリなのか…………)
葵は、ミスコンを通して新しい楽しみの様なモノを見つける事が出来ていた。
自分が美しくなる事だけを考えてきた葵にとってそれは、とても新鮮なものだった。
(姉貴もこれが楽しくて今の仕事やってるんだろうな……。
ちょっと羨ましいかもな……)
葵は、姉である蘭の気持ちが少し分かり、それを仕事に出来ている蘭を少し羨ましくも思った。




