俺より可愛い奴なんていません。4-7
桜木高校 校内 中庭。
ミスコンのイベントが行われ、更にはそのミスコンの結果発表が始まるという事もあり、その中庭には多くの人で溢れかえっていた。
そんな中庭に設営された舞台の裏で、ミスコンの結果発表を待つ美雪と綾の姿があった。
「中々帰ってこないね……」
綾は心配そうに、隣にいる美雪にそう呼びかけた。
飲み物を買ってくるといって舞台裏から姿を消した紗枝は、あれから30分以上も戻ってくる事が無く、その紗枝を探しに行った葵も、まだ戻ってきてはいなかった。
「心配ですよね……。電話も出ないですし……」
美雪や綾は、あれから何度か美雪に電話を掛けたが繋がらず、美雪は葵の同じ修学旅行の実行委員という事もあり、何があった時のために、連絡先を交換しておいたため、葵の方にも電話を掛けていたが、出ることは無かった。
「絶対何かトラブルに巻き込まれてるよぉ〜……
紗枝ってしっかり見えて、ちょっとおっとりしてるところあるからな〜。
もう〜、お願いだから電話出てよぉ〜……」
綾は心配の余り、少し嘆くように呟いた。
綾と美雪は、紗枝が時間に遅れるはずが無いと思っていたため、途中で何かあったのだと決めつけ、行動に出ていた。
生徒会長である麗華に取り入ってみたり、知り合いに電話を掛け、紗枝を目撃したりした人物がいないか、連絡を取っていた。
綾も美雪も、手を尽くしたが、紗枝の情報は出て来ず、いよいよ最後の手段、自ら探しに行こうかと考えていた。
「ミスコンの結果発表の開始時間も押してるし、チャンスかな〜……。
探しに行く? 美雪?」
綾の言う通り、ミスコンの開始時間は本来の時間から若干押しており、奇跡的にまだ結果発表を行っていなかった。
会場では、何度かアナウンスが流れ、押している事への謝罪の言葉が響いていた。
「どうしましょう……、流石に1時間は押さないと思いますし、もうそろそろ始まりそうな気配はありますよね?」
美雪は、本来の結果発表の時間を押し始めた当初は、生徒会の人達が舞台裏で、慌ただしく動いていたが、そろそろ始まるのか、最初に比べて落ち着き始めていた。
美雪の尋ねた言葉に、綾もそれを感じていたのか、「う〜ん」と唸りながら、難しい表情を浮かべ、答えが出せずにいた。
その時だった、本来の開始時間から40程押した所で、会場にアナウンスが流れ、ミスコンの司会を最初からずっと務めていた大貫が、舞台裏でスタンバイをしていた。
「大変お待たせしました。
集計が終わりました。 只今より、ミスコンの結果発表に移らさせていただきます。」
女性の聞き取りやすい声が、会場に響くと、会場はわぁっと湧き上がり、盛り上がり始めた所で、大貫が勢いよく、舞台へと上がった。
大貫が登場した事で、ボルテージは更にあがり、その歓声で舞台裏でスタンバイしていた参加者達は、始まったんだと肌で感じる事が出来た。
「ヤバい、始まっちゃった……」
綾は、焦った様子で呟き、葵がきっと連れてきてくれると、信じ込んでいた美雪も不安を感じていた。
「おぉ〜……、今始まったとこだったのか……」
歓声で湧き上がる会場の方へと視線を向けていた綾と美雪に、聞き覚えのある男性の声が、不意に2人に降りかかるように掛けられた。
綾と美雪は、「まさか」と内心で感じながら、勢いよく、声のした方へと視線を持っていった。
すると、そこには2人の思った通りの人物ともう1人、2人がずっと心配して、帰りを待っていた人物の姿があった。
「紗枝ッ!!」
「紗枝さんッ!!」
綾と美雪は、ほとんど同時に、そこにいた女性、紗枝の名前を叫んだ。
「へへへっ……、ごめんね? 遅くなっちゃった……」
綾と美雪の反応から、自分が心底心配されていたのだと、分かると、紗枝は少し恥ずかしそうに、照れくさそうにしながら2人に答えた。
「何かあったの? こんな遅く……」
「う、う〜ん……、まぁ、ちょっとね……?」
綾の問いかけに、紗枝は少し答えずらそうに、結果、はぐらかして答えた。
「ナンパに捕まってた」
「うッ……、な、なんで言っちゃうのッ!? 立花君!」
はぐらかそうとしている紗枝に、葵はわざとバラすようにして淡々と答えを言い放ち、紗枝は焦ったように、葵を注意した。
「やっっぱりねッ!! そんな事だろうと思った!
もう……、いつも、断る時はやり過ぎるくらいでって言ってるのに……」
綾は、ある程度予測していた様子で答え、紗枝には前科があるのか、続けてそう言った。
美雪も葵も、紗枝がナンパ経験がある事を初めて知ったが、特に驚かず、当然だろうなという事しか思わなかった。
「いやいや、今回はね? ちゃんと断ってたんだよ!?
ちょっと、難易度が高くて……、ねッ? 立花君ッ?」
「ん? あ、あぁ……まぁ、今回はちょっと男が特殊だったかもな……」
紗枝は自分の身の潔白を訴えるように言い、自分の反論だけではまだ弱いのか、葵に話を振り、助けを求めるような目で葵を見つめた。
葵も、今回ばかりは相手が上手だったと感じており、何より、助けを求め、こちらを見つめる紗枝を可哀想に感じ、助け舟を出すように答えた。
「ホントぉ〜……?? とゆうか、それにしても長いナンパだったね……
もう、紗枝がここから離れて1時間は超えてるよ?」
「あ、あぁ……それは……」
綾の質問は的確で、紗枝もただ1時間の間、絡まれていた訳ではなく、ここまで遅くなったのは、葵によるお色直しもあったからだった。
紗枝はそれを説明しようとしたその時、不意に舞台裏にいる参加者全員に向かって女性の声が投げかけられた。
「参加者の皆さんッ!! 大貫君の紹介と同時に、1人ずつ舞台へ上がっていく準備をしてください! 一番の方からこちらに並んでいって下さい!」
女性の声の主は、生徒会長である並木 麗華だった。
先程、遅れている際に会場にアナウンスを掛けていたのも彼女で、彼女の澄んだ声はよく届き、響いた。
「並ぶか……」
4人の会話は、麗華の呼び掛けによって終わりを迎え、葵は指示に従い、小さく呟いた。
「うぅ〜〜……、紗枝、後で何があったか聞かせて貰うからね!」
綾はどうしても、友人に起きた出来事が気になるのか、唸りながらその気持ちを抑え、最後には、一方的に約束を取り付け、指示に従うため、麗華が指揮をとっている方へと向かっていった。
綾の発表は、4人の中で1番初めだった事もあり、どちらかと言えば先頭の方へと並ぶ予定だった。
紗枝、美雪、葵は比較的、順番が近く、最後の方の発表だったため、途中まで連れ立って歩いて向かった。
「色々大変でしたね……。ホントに大丈夫でした? 紗枝さん」
「うん。何とかね……、立花君も助けてくれたし……」
美雪は紗枝を気遣うように声を掛けると、紗枝もなんともないことをアピールするように答えた。
「なるほどぉ……、やりますねぇ〜? 立花さん」
紗枝の答えを聞き、美雪は葵を少しおちょくるようにニヤニヤとしながら葵に話を振った。
葵は、美雪のそのからかっている様子が癇に障り、何故だか美雪に言われると余計にムッときていた。
「ホント、ありがとねッ! 立花君。
それじゃ、私はこっちだから。またねッ」
短い間だが、紗枝は会話を楽しみ、葵に再度お礼を伝え、自分の順番へと並んでいった。
美雪は、紗枝に別れの言葉を返し、少しの間、紗枝に手を振っていたが、再び葵が歩き出すと、それに合わせるように美雪も歩き出した。
「立花さん。紗枝さんの好感度上がりまくりですねッ
あの誰とでも仲が良くて、評判の良い彼女から信頼されれば、他の女子からもよく思われるんじゃないですか〜?
モテモテになれるかもですよ〜……」
美雪は、楽しげにニコニコとしながら、葵に話しかけた。
しかし、葵は内心全く楽しくなど無かった。
美雪の言葉は、先程から何故か葵の心に刺さり、この手の話を美雪からされると若干イラッとしていた。
「あぁ、そうだといいな」
葵は少し当てつけの気持ちも持ちながら、ふてぶてしく冷たく答えたが、葵がふてぶてしいのはいつもの事だといった様子で、美雪は特に気にしていない様子で、依然としてニコニコとしていた。
そんな美雪の態度がますます、葵には癇に障っていた。
(なんで俺、こんなイライラしてんだ……?)
葵は、自分の気持ちを上手く整理出来てなく、何故美雪にイライラしているのかが、自分でもよく分かっていなかった。




