俺より可愛い奴なんていません。4-5
桜木高校の校舎内。
1階の廊下を懸命に走る1人の女子生徒がいた。
桜祭という事もあり、校舎内にも人がごった返し、人混みを掻き分けるようにして、彼女は目的地へと向かっていた。
息を荒らげ、ただ進行方向を一点に見つめ、彼女は走った。
(とッ、とにかくッ……、先生相談しないとッ……!!)
廊下を走る女性生徒は、二宮 紗枝だった。
紗枝は、葵に2人の男達から助けて貰ったが、その代わりに葵が彼らに付きまとわれ、2人を連れ何処かへと連れ立って行ってしまった。
1人では、どうする事も出来ず、紗枝は助けを求めるようにして、1階にある職員室へと向かっていた。
化粧をし、服もコーディネートもきちんとされている紗枝は、かなり目立ち、急いでいる事もあり、セットされた髪も少し乱れていたが、それでも美しく、むしろ周りからは色っぽく映っていた。
紗枝はすれ違う人々に、視線を向けられていたが、それを気にする程の余裕は無かった。
そんな紗枝に不意に女性の声が掛けられた。
「ん? 紗枝?? どうしたのこんな所に……」
紗枝はその女性の声に気づき、そちらに視線を向けると、いつも仲良くしてもらっている女性の友人の姿があった。
その友人は不思議そうな表情で紗枝を見つめていた。
それもそのはず、もうそろそろミスコンの結果発表だと言うのに、参加者である紗枝が会場から離れているここにいることは、誰から見ても変だった。
「あッ! 千紗ッ……、ごめんッ! ちょっと今急いでるから後でッ!!」
紗枝は友人である千紗に一瞬反応したが、それでも急ぐ事を優先し、申し訳なさそうに一言謝罪すると、再び進行方向へと視線を向け、走り出した。
「あ……、う、うんッ……。
もう、そろそろ結果発表始まっちゃうよぉ〜〜ッ!!」
紗枝をよく知る友人である千紗は、紗枝がここまで焦っているのを珍しいと感じながらも、走り去っていく紗枝の後ろ姿に呼びかけるように、声を上げた。
親切に心配して声を掛けてくれた千紗に紗枝は、答えるようにして片手を上げ、軽く振り答え、そのまま千紗の方へ振り返ること無く、走り去っていった。
「何があったんだろ…………。
そういえば、さっきもミスコンで見た人がいたような……?」
紗枝の後ろ姿を見つめ、ただ呆然とした様子で千紗は呟いた。
そして、紗枝はそのまま職員室へと向かい、ようやく職員室の出入口である扉までたどり着いた。
紗枝は、扉の前まで来ると1度立ち止まり、上がった息を整えるようにして、決意を固めた表情で職員室の扉を見つめながら、ゆっくりと引き戸に手をかけようとした。
すると、その瞬間、急に職員室の引き戸が開け放たれた。
紗枝は自分が開けるつもりだった扉が開け放たれて、一瞬ビクリと体を跳ねらせ、驚いた事で反対側から開けたと思われる人物を確認をするのが一瞬遅れた。
そんな紗枝に、聞き覚えのある男性の声が掛けられた。
「ん? 二宮??」
疑問を含み呼びかけられたその言葉に、紗枝は「もしや」と感じながら、顔を上げ、その人物の顔へと視線を向けた。
「えッ……? 立花君ッ!? ど、どうして…………」
職員室からタイミングよく出てきた人物は、先程ナンパ男2人組と何処かへと向かったはずの葵だった。
紗枝は驚き、目を見開き、点にしながら声を上げた。
「え? どうしてって……、そりゃあのナンパ男達を職員室まで連れてくるためだけど……? 二宮こそどうしてこんなとこにいるんだ??
もうそろそろ、結果発表始まっちゃうぞ??」
紗枝の焦りようとは裏腹に、葵は飄々とした様子で答え、葵もまた助けて、会場に向かわせたはずの紗枝がこんな所にいることが不思議といった様子で話した。
葵の何とも無さそうな様子に、今まで焦って、緊迫した雰囲気だった紗枝は、緊張が解れるような感覚を感じ、ようやく安心する事が出来た。
「よ、良かったぁぁ〜〜…………」
紗枝のその安堵した様子は、発した言葉にも表れ、疲れも同時に来ているようなそんな雰囲気も発していた。
紗枝のそんな態度に葵は理解出来ず、ずっと頭の中にはクエスチョンマークがあった。
紗枝が落ち着きを取り戻すまで、2人の間に静かな空気が流れ、そして、ようやく落ち着いた紗枝は、再び葵に視線を向け、少し怒った様子で話し始めた。
「だ、大丈夫になったんならまず一言連絡ッ!!」
紗枝の怒りは至極当然で、紗枝は葵と別れてから少し時間が経っていた。
紗枝よりも先に職員室に到着していた葵だったらば、幾らでも先に連絡を寄越せたはずだった。
普段大人しく、礼儀正しいく大人っぽい紗枝が、少し声を荒らげながら怒ることが珍しく、葵は少し困惑していた。
「え? え? だって、別れる間際に大丈夫だってッ……」
「あんな状況の大丈夫なんて、誰も信用出来ないよッ!!」
困惑する葵の言葉を遮るようにして、紗枝は畳み掛けるように告げた。
紗枝は再び、今度は違った意味で興奮し始めていた。
「第一ッ、なんで走ってきた私よりも早く職員室に居るのッ!?」
「い、いや、そんな事言われても……」
紗枝の迫力は凄く、葵は押されるがままで、珍しく後手に回っていた。
「とにかく、何があったのか、詳しく教えてッ!」
紗枝は、グッと葵に近づき追求した。




