俺より可愛い奴なんていません。4-4
「よぉ〜しッ!! それじゃッ、早速どこ行こっかッ!?」
麗し過ぎる葵から、遊びに付き合ってくれる事を了承され、男達は湧き上がり、テンションをそのまま、大きな声で、明らかに興奮したようすで言葉を発した。
葵は、耳を真っ赤にしながら、急に自分から視線を逸らした紗枝を不思議感じながらも、紗枝と約束した手前、しくじるわけには行かなくなり、真剣な表情で男達の方へと向き直った。
「やっぱり、鉄板は外せないよな〜……、お化け屋敷とか行っちゃう??」
「いぃ〜ねぇ〜!! ちょうど2-2出しな!!」
葵と紗枝を置いてきぼりに、盛り上がる男達を見つめ、葵は一呼吸置いた後、決意を固め、ゆっくりと話し始めた。
「ねぇねぇ、盛り上がってるとこ悪いけど……、この娘は行けないよ??」
葵は、少し首を傾げ、可愛らしく、女性っぼい仕草を取りながら、とぼけた様子で声を上げた。
葵の唐突な申し出に、男達はキョトンと固まり、片方の男は驚きのあまり「へ……?」っと声を思わず漏らしていた。
少しの間、静かな時間が流れると、ハッとした様子で、今度は男達が声を上げた。
「なッ、なんでッ!? い、一緒にさッ……」
「いや、だってぇ〜……、この娘は箱入りだから〜……。
お兄さん達、あわよくばとか考えてる系でしょ?? この娘、処女だよ??」
慌てた様子で声を上げる男達を遮るようにして、葵は話し始め、最後には爆弾発言をした。
「しょッ、処女ッ……!!」
「ちょっとッ、た、たちば……、葵ちゃんッ!?」
男達は、葵のような女性からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのか、葵の最後に発した単語を小さく呟きながら、動揺していた。
葵の後ろに立っていた紗枝も思わず声を上げ、再び顔を赤くし、驚いていたが、まだ少し冷静さが残っていたのか、男達に仲が良い友人同士だと思われている状況のため、演技をするため、途中、呼び名れない下の名前に言い直していた。
「お兄さん達、こんな可愛い子の処女奪う勇気あるの??
その時は良い気分かもしれないけど、後々、凄い後悔するかもよ?」
葵の言葉に、男達はそういった事も想定していたのか、その時に感じる罪悪感を想像し、小さく「ウッ……」っと呟き、たじろいていた。
そんな男達に、畳み掛けるようにして、葵は今度は妖艶な笑顔で、男達を試すような雰囲気を出しながら、続けて話した。
「それに、お兄さん達、どっちか1人だけで私を満足出来る自信があるのかな〜??
彼女は処女だけど、私は経験豊富かもよッ??」
葵は、そう言ってわざと彼らに期待を持たせるような形で、言い放った。
葵のその態度と、葵の思わせぶりな口調に、男達は生唾を飲み込み、真剣な表情を浮かべていた。
「さぁ、どうする??
もし、彼女も連れてくって言うなら、私は絶対満足出来ないだろうから、お兄さん達とは遊べないかな〜???」
「わッ、分かったッ!!」
葵はダメ押しと言わんばかりに発言すると、1人の男が我慢が出来なくなり、思わず声を上げていた。
「お、おいッ……!」
「だッ、だってよぉッ!! こ、こんなチャンス、滅多に無いかも知れないんだぞッ!!
それしかねぇだろッ!」
葵の提案に乗ってしまった男に、もう1人の男が少し叱るように声を上げると、提案に乗った男は必死な様子で弁明した。
「わ、わかったよ。お前の言い分は分かったから……」
彼の必死さに押されるようにして、もう1人の男もそれを承諾した。
(よし……、とりあえず、これで二宮は安全だな……。)
男達2人が葵の提案に乗ったところで葵は、ようやくホッと息を付いていた。
そうしていると、再び葵は服の袖を後ろに引っ張られる感覚を感じた。
気になり振り返ると、そこには不安そうな表情を浮かべた紗枝の姿があった。
男達は2人で何かを話し込んでいるのを横目で確認すると、葵は二宮に小さな事で、いつも接しているような形で紗枝に話しかけた。
「二宮は、これで大丈夫。 アイツらもこれ以上、しつこく何かをしてくる事は無いから」
「でッ……でもッ!! 立花君がッ……」
「俺は大丈夫。 こうゆうと慣れてるから、ミスコンの結果発表には間に合わないかも知れないけど、必ず戻れるから……」
葵は心配そうに見つめる紗枝に、これ以上、気を使わせないよう配慮し、優しく微笑みかけると、その言葉を最後に、再び男達に向き直った。
「それじゃ、行こっかッ! お兄さん達ッ!!」
「お、おぉ〜ッ!!」
「行こーッ! 行こーッ!!」
にこやかに微笑みかけ男達に葵は呼びかけると、男達もまた浮ついた感情を隠しきれていないニヤついた表情で、答えた。
何故か葵を先頭に、男達が後ろをついて行くという謎の構図のまま3人は歩き出し、紗枝は止めようと手を伸ばし、声を上げようとしたが、上手く言葉が出なかった。
今までは、色んなことが一瞬にして色々と起こり過ぎたせいで、そこまで明確に感じていなかったが、葵を呼び止めた事で、再びあの男性達に取り囲まれたらと思うと、恐怖で怖気付いてしまっていた。
紗枝は、結局何もする事が出来ず、その場に立ち尽くし、葵の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
「立花君ッ…………」
そのまま、少しの間、紗枝は自分の無力さを痛感しながら、何もすることが出来なかった。
「な、何とかッ……! 何とかしないとッ!!」
紗枝は助けて貰ったのに、自分は何も出来なかった事に罪悪感と悔しさを感じ、少し目に涙を浮かべながら、自分を奮い立たせるようにして力強く声を出し、必死に思考を巡らせた。
(もう、立花君達は行ってしまったし、私が今から行って追いついた所で何も……、どうしたら…………)
紗枝は考えても考えても、答えが出なかった。




