俺より可愛い奴なんていません。4-3
「ちょッ……、ホントに離してッ!!」
チャラチャラとした風貌の男2人組に囲まれ、その内の1人から力強く、その場に拘束されるようにして、腕を掴まれている紗枝は再度声を上げ、相手の腕を振り解こうとした。
しかし、紗枝の行動も虚しく、1度目と結果は変わらず、紗枝は開放される事は無く、そんな紗枝を見て、男達はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。
(た、助けてッ!! 誰かッ!!!)
嫌がっている態度を見て、喜んですらいるようにも見える2人の男を見て、紗枝はますます恐怖感に駆られ、遂には声が出ず、心の中で大きく叫んだ。
紗枝が心の中で叫んだその時だった、自分がいる場所とは少し離れたところから、美しい澄んだ声で紗枝を含んだ3人に向かって声が掛けられた。
「ねぇ、ちょっと、ちょっと、そこのお兄さん達!!」
自然と耳に入ってくるような綺麗な声が響き渡り、声の主を確認するため、紗枝やその2人の男たちは声のした方へと視線を向けた。
「お、おぃ……うそだろ…………?」
「なんだよ……、あれ…………」
声のした方向を見て、その声の主を見た男2人は、驚いた表情を浮かべ、思わず声を漏らし、紗枝もまた目を丸くし、その場に現れるはずの無い彼の姿を見て驚いていた。
紗枝達の前に姿を表したのは、女装姿の立花 葵だった。
都会でも滅多に見られない程の、超が付くほどの美貌で、芸能人だと嘘を言われたとしても、疑わない程の姿で、見るもの全てを魅了する葵の姿を見て、男たちは完全に固まっていた。
「た、立花くッ……」
「あッ!! 何やってんのよ、紗枝ぇ〜……。もう、探したんだからぁ〜……」
紗枝が立花君と言い終える前に、葵はその言葉を遮るようにして声を上げ、親しげな女性の友人のように話しかけ、紗枝の方へと駆け寄っていった。
紗枝は、葵の作り声とは言え、葵から急に下の名前で呼ばれたことに一瞬驚き、たじろいだが、葵がこれから何をやろうとしているかを考え、スグに平静を保った。
「ん? 紗枝、この人たちは??」
葵は少しわざとらしく、男たちを上目遣いで様子を伺うようにして見つめながら、紗枝に尋ねた。
男達は葵から上目遣いで見つめられ、その破壊力に半歩後ろへと下がった。
「え、えっとぉ〜……、急に遊ぼって腕掴まれちゃって……」
完全に葵に押され気味の男達を尻目に紗枝は、葵の演技に乗っかるようにして、少し困った様子で答えた。
「えぇ〜〜ッ!! 何? お兄さん達、強引な人〜??」
葵は少し引いたような様子で、怪訝そうな表情を向けた。
「い、いやぁッ!! ち、違うよッ! 違う! 違う!!」
自分達の印象が悪くなったと感じた男達は慌て、紗枝の腕を握っていた男は、パッと手を離し、身の潔白を証明しようとした。
「えッ…………?」
紗枝が開放されたのを見ると、葵は素早く紗枝の手を掴み、グッと力強く自分の方へと引き寄せた。
紗枝は急な出来事と、不意に葵に手を掴まれたことに驚き、思わず声を漏らしていた。
「そっかぁ〜……、良かったぁ普通のお兄さん達で……。
危ない人達なら警察呼ばなきゃいけないとこだったしぃ〜……」
紗枝を引き寄せた葵は、間髪入れずに言葉を発し、葵の不意に漏らした「警察」という言葉に男達は一瞬、ビクリと体を跳ねらせていた。
「それじゃあ、私達はこれで失礼するね? バイバイッ」
紗枝が解放された事で葵は、スグにその場を離れようとそう言い放ち、男達とは別の方向へ振り返ろうとした。
その瞬間、葵は男性にグッと力強く腕を掴まれた。
(やっぱ……、簡単には返してくれないよな…………)
葵は、八割型予想していた出来事だったため、さほど驚くこと無く、飄々した様子で再び、男達の方へと向き直った。
「えっとぉ〜〜……、何かな?」
葵は少しとぼけたように答え、相手の様子を伺った
「いやいや、流石にさ? こんな美人さん、目の前にしてこのままっていうのもさ……、俺ら的には無いかな〜って……」
(なに言ってんだ? コイツ……)
葵の顔を見ては、その顔を直視出来ないのか逸らし、再び葵の顔を見ては逸らしを繰り返しながら、ハッキリとしない口調で葵を誘うように男は答えた。
葵はこれからどうやって対応しようかと少し考えていると、グッと自分の着ている服が後ろに引っ張られる感覚を覚えた。
葵は、考えるまでもなくそれが誰がやっているか分かり、自分の少し後ろにいる紗枝へ視線を少し送ると、そこには不安そうな表情を浮かべた紗枝の姿があった。
紗枝のその表情は、女性にとっては明らかに武器であり、大抵の男性ならばそんな表情で見つめられれば、何とかしなければと頑張るほど
の破壊力だった。
「えぇ〜と……、お兄さん達、私達と遊びたいの??」
葵は紗枝から男達へと視線を戻し、少し困った表情を浮かべながら尋ねた。
葵から尋ねられると、男達は力強く首を縦に振り、肯定した。
「う〜〜ん……」
「だ、大丈夫ッ!! 絶対、後悔させないからさッ!!!」
葵が悩むような声をあげると、男達は少し焦った様子で葵を説得するように答えた。
葵は男達の誘いよりも、この状況をどうしようかと考えながら、呻き声を上げていると、ある事を思いついた。
(まぁ、最優先事項は二宮の安全だからな……、これしか無いだろうな……)
葵は、決意を固め、男達の顔を正面から見つめ、大きく言い放つようして声を上げた。
「うんッ! 分かったいいよぉ〜ッ!!」
葵は笑顔で答え、葵の答えに男達は大声を上げ、力強くガッツポーズしていた。
「た、立花君ッ……!!」
葵の対応が理解出来ないのか、葵の後ろに立つ紗枝はグイグイと葵の服を引っ張り、小声で葵にだけ聞こえる音量で、それでいて力強く葵へ呼びかけた。
「大丈夫、任せろ! 絶対危ない目に合わせないから!」
嬉しさのあまり飛んで喜ぶ男達を尻目に葵は、紗枝に力強く答え、葵のそんな言葉に紗枝は、急に恥ずかしくなり、葵から視線を外した。
 




