俺より可愛い奴なんていません。4-2
「いやぁ〜、立花さんは羨ましいですッ!」
立花 蘭や椿、結達とひとしきり話して、結果発表もある為、葵と共に、橋本 美雪は舞台裏へと戻っていると、急に思い出したように声を上げ、葵に訴えた。
「な、なんだ? 急に……。
別に、羨ましがれる所無いだろ……」
「いやッ! 羨ましいです!
私、一人っ子なんで兄弟とか姉妹とかって憧れなんですよ」
「……別に、そんな大層なもんじゃないし、居たら居たらで結構面倒だったりもするぞ?」
兄弟に対して強い憧れを持って話す美雪に、葵は先程、椿から猛烈な追求にあっていたため、少しまだその疲れが抜けていない様子で、淡々と答えていった。
「はぁ〜……。持つ者に持たざる者の気持ちなんて一生理解出来ないですよ。
いいな〜、お兄ちゃんかお姉ちゃん……」
美雪は、諦めたようにため息を付いた後、羨ましがるような可愛らしい声を上げていた。
「お兄ちゃんねぇ…………」
少し甘えたような声を出している美雪を見て、葵はふと、美雪が妹になっている想像をした。
(橋本が妹か……、普段キッチリしてるし、成績も優秀だからな、あんまり想像つかないけど…………。
こんな感じな甘えた声を出したり、頼ったりするんだろうか……)
葵は軽く想像するつもりだったが、考えれば考える程、想像がどんどん深まっていった。
自分の妹である椿が仮に、美雪だったらと想像し始め、ふと脳内で先程の甘えた声を自分に投げかけられる所まで想像してしまった。
(……ッ!! バカか? 俺は……。
なんで、脳内で橋本のお兄ちゃん疑似体験してんだッ!?)
葵は素早く首を左右に振り、邪念を取り払うようにし、これ以上の妄想を辞めた。
「どうしたんですか? 立花さん??」
「ん? なッ……あ、あぁ、なんでもないッ……なんでも…………」
不思議そうに葵の表情を見つめて尋ねる美雪に、葵は明らかに動揺した様子で答えた。
葵の様子は明らかにおかしかったが、葵の言葉を鵜呑みにし、それ以上追求したりする事はなかった。
「あッ……。
そういえば、私、さっき思ったんですけど、立花さんって意外と妹さんには甘いですよね?
椿さんも慕ってる感じでしたし……」
「別に……、普通じゃないのか?」
美雪の問いかけに、葵は普段から椿とはあの感じの距離感だったため、そうに聞かれたのが不思議だった。
「結構仲良い兄妹だと思いますよ??
私は居ないんで分からないですけど、兄妹がいる友達とかの話を聞くと、仲が良くなかったり、そもそもあんまり話さないとか良くあるみたいですよ?」
「ふ〜ん……」
美雪の答えに葵は意外そうに呟いた。
葵のそんな反応に、美雪はニヤニヤとしながら、話し始めた。
「フフフッ……。立花さんも家ではちゃんとお兄ちゃんしてるんですね!?」
「は……?」
今まで歩く方向だけを見つめて話していた葵は、急に美雪から妙な事を言われ、首を捻り、美雪の方へと視線を向けた。
するとそこには、少しからかうような感じで、ニヤニヤと笑顔を浮かべる美雪の姿があった。
「べ、別にそんなんじゃねぇよ…………。普通だろ、普通……」
「ですねッ、そうゆうことにしときましょッ……」
葵は美雪から視線を外し、再び前を向きながら、少し動揺したように答え、そんな反応を美雪は、楽しむように見つめて話した。
美雪は葵をからかう目的のためでもあったが、葵に向かって放った言葉に嘘偽りはなかった。
女性に冷たい葵でも、妹や少し雑に扱っているようにも見えるが姉に対しても、親愛があり、優しい笑顔を向けれる事を美雪は知れていた。
「身内だけなのかな…………」
「え……?」
美雪がふと小さく呟いたが、その言葉は葵には届かず、聞き返すようにして声をあげた。
「いえ、なんでもないですよ」
不思議そうに尋ねる葵に、美雪は優しい表情を浮かべながら答えた。
◇ ◇ ◇
美雪と葵が会話をしながら、ミスコンの結果発表のため舞台裏まで戻ってくると、先に舞台裏でスタンバイしていた加藤 綾が2人の姿を見るなりこちらに駆け寄ってきた。
「あ、やっと戻ってきた……。結構長かったね」
綾が自然と会話出来る程の距離まで、葵達の所まで駆け寄ると、声を掛けてきた。
「はい。ちょっと、お話盛り上がっちゃいました。
蘭さん凄く楽しい人でしてね。」
綾の問いかけに美雪は、少し照れくさそうにしながら、ニヤニヤとして答えた。
「あぁ〜……、確かに。
立花に無理やりスタイリストやらせた時とか笑ったな〜……」
蘭の人となりは、ある1件で分かっていた綾は、納得といった様子で答えた。
蘭の話題で盛り上がる綾と美雪を見て、葵はある事に気がついた。
「そういや、二宮は? もうそろそろ時間もアレだろ」
「う〜〜ん。そうなんだよねぇ……。
お茶買ってくるって言ってさっき出ていったんだけど、ちょっと遅いかも……」
葵は結果発表の時間も迫ってくる中で、紗枝の姿が居ない事が疑問で、綾も少し不安そうに呟き、答えた。
真面目な紗枝だからこそ、時間に気を使わないわけが無く、紗枝が遅刻する事が想像出来なかった。
「ちょっと、様子見てくるか……。
お茶買いに行くって言ってたんだよな? となると、近い自販機か……?」
「うん、多分そう。あっち方向に行ったからそうだと思う」
葵は、何か嫌な予感がし、紗枝の様子を見に行くことに決めた。
「私も行きましょうか?」
「いや、いい。 橋本と加藤は多分残ってた方がいい。
結果発表があるから……」
美雪も心配なのか提案されたが、葵はそれをスグに否定した。
葵は美雪と綾のミスコンでの発表を認めており、仮に美雪を連れていったとして結果発表の時に居ないと、美雪が優秀賞に選ばれた場合、壇上に上がることが出来ないと考えていた。
「分かった……、お願いね?」
綾は、素直に葵の言うことに従い、自分の親友のために動いてくれる葵に対して誠実に、頼み込んだ。
「おぅ……」
綾に答えるようにして小さく呟くと、葵は綾達に背を向け、目的の方向へと進んで行った。
「何も無いと良いですけど……」
「まぁ、立花なら何かあったとしても、何とかしてくるでしょ……」
去っていく葵の背を見つめながら、心配そうに美雪は呟き、綾も口ではそう答えたが、内心は少し不安だった。
◇ ◇ ◇
(…………どこ行ったんだ……?)
綾達と別れ、葵は紗枝が向かったと思われる自販機の近くまで来ていた。
校内に幾つか設置されている自販機だったが、ここの自販機の場所はあまり人通りが無い箇所に設置されていた。
人気がない所に設置された自販機は、普段であれば放課後に、運動部の部室が立ち並ぶ箇所から1番近い自販機と言う事もあり、それなりに利用されていたが、桜祭の本日には、周りに出し物も無いため、余計に人通りが無かった。
(ここじゃないのか……?)
辺りを見渡し、紗枝が居ないことを確認すると、葵は読みが外れたと思い、違うところを探そうと考え始めていた。
そして、他の所を探しに行こうと決意した時、不意に女性の叫ぶような声が微かに聞こえた。
「…………な……してッ!!」
葵はその声に気づき、声のする方へと近づくと、段々と会話が聞こえて来ていた。
「いやぁ〜、そんな冷たい事言わないでさぁ〜……、俺たちと遊ぼうぜ?」
「嫌ですッ! これから用事があるんですってッ!!」
甘えたような男性の声と、必死に何かに抵抗するような女性の声が聞き取れ、葵はその女性の声に聞き覚えがあった。
(二宮……?)
2人の声は、角を曲がった先から聞こえてきており、葵は角に身を潜めるようにして、2人にバレないように誰が話しているのかを確認した。
「はぁ…………、やっぱトラブルか……」
葵は、疲れたように大きなため息をつき、呟いた。
葵が物陰から除くように、声の主を見ると、聞き覚えのある女性の声の持ち主は紗枝であり、1人の男性の声しか聞こえなかったが、様子を見ると紗枝は2人の男性に囲まれていた。
1人の男性から紗枝は、細腕を掴まれており、紗枝は振りほどこうと力を入れている様子だったが、女性の力では振り切れず、がっちりと腕を握られていた。
「迷子か、ナンパかで考えてたけど、面倒臭い方だったな……」
葵は、最初から幾つかのトラブルを想定していたが、想定していたトラブルの中で、紗枝は厄介な部類のトラブルに巻き込まれていた。
「大丈夫だってぇ、ほんのちょっとの時間だからさ? 俺らと遊ぼうぜ??」
「あぁ、そうだよ。絶対後悔させないからさ!」
「ホントに嫌ですッ! 離してくださいッ!!」
男性はしつこく紗枝を誘い、紗枝はそれを拒絶していた。
(ホントに嫌ですとか言われるし……。普通あんだけ拒絶されたら萎えるだろ…………。
とゆうか、今の二宮って化粧も、コーディネートもされてるからいつにも増して、めちゃくちゃ美人だぞ……?
よくあのレベルでナンパ行けるとか考えつくよな、ホント……。俺が男でも無理だわ……)
葵は、物陰から一部始終を見て、何度も激しく拒絶されている男達を見て、彼らの神経を疑っていた。
(あれだけやられて諦めないなら、ちょっと二宮1人じゃ厳しいよな……)
葵は、紗枝1人ではこの状況を抜け出せないと判断し、作戦を考え始めた。
「上手く行けば……、まぁ何とかやってみるか……」
葵は助ける事を決意し、物陰から身を乗り出した。




