俺より可愛い奴なんていません。3-14
「レディース エンド ジェントルメェ〜ンッ!!」
桜木高校の桜祭、中庭。
俗っぽい司会がマイクを使い、高らかに宣下するかのように声を上げた。
「今日はお集まり頂いきまして、誠にありがとうございますッ!! 今回、司会を努めさせて頂きます、私2-A組、大貫 勝弘と申しますッ!」
舞台に上がった彼は、会場を一気に盛り上げるようにして、話し続けた。
「人が集まっているのを見かけ、何がこれから起きるのか分からないよ〜って人のために、一応説明させて貰いますと、これから3時間程のお時間を頂きましてですね!
『桜祭ミスコン』のイベントをやらせていただきますッ!!
総勢18名による参加者を、プロのスタイリストさんの方々が彩り、彩られた参加者様を披露するというものになっております」
大貫は少し早口で、それでいてハッキリと伝わるように要点を抑え、話した。
「ミスコンという事もありまして、その18の中から今回、栄えある桜祭ミスコングランプリを決めて頂きたいと思いますッ!!
誰が決めるかはもちろんッ!! 今回お集まり頂いた、皆様に決めてもらいます! そうッ!! そこの貴方々ですッ!!」
観客を置き去りにすらしかねない程の熱量で大貫は、言い放った。
元々、お祭りだという事もあり、大貫のテンションにだんだんと観覧者もついてきていた。
「お手持ちの桜祭パンフレット、そちらに同封されております、ミスコン投票用紙に、ミスコン参加者の人の番号をご記入頂きまして、それを集計し、上位4名のみを発表させて頂きますッ!!」
司会の大貫の言葉を聞き、ミスコンを見ている観覧者はパンフレットの中を確認したり、用紙がどんなものなのかを確認したりする人が見受けられた。
「予定では、13時程で参加者全員の発表を終わりまして、生徒会のメンバーが各階をプラカードを持ち、徘徊いたします。その際に、生徒会の者に記入頂いた、用紙を提出して頂きますッ!!
結果発表につきましては、30分後の13時半頃からの予定です。
それではッ皆様ッ!! 準備はよろしいですかぁ〜ッ!?
正直、どの娘も恐ろしく可愛いです!! くれぐれも、本気の恋にはお気をつけくださいッ!! 桜祭ッ、ミスコンッ!! 開催ですッ!!!」
大貫はここぞとばかりに声を張り、高々とミスコンの開催を表明し、大貫の声と共に、桜祭ミスコンの舞台が幕を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ〜……遂に……遂に、始まっちゃったよぉ〜……紗枝ぇ〜……」
桜祭ミスコンの舞台裏。
加藤 綾は情けない声を上げながら、二宮 紗枝に話しかけた。
「うん。始まっちゃったね……、最後に司会の大貫君が宣言した時、凄かったね…………」
紗枝も始まったという事で、心臓がバクバクと脈を打ち、緊張がMAXだった。
更に、大貫が開催を宣言した瞬間に上がった、観客達の怒号のような歓声(ほとんどが男の人の声)に、それほど期待されているという事が余計に緊張をさせた。
「凄い盛り上がりだったよね。どうしよ〜……ホントに…………てゆうか、みんな怖いよッ!
何あの声ッ!!」
綾は緊張のし過ぎで若干パニックになっており、何故だか期待の声を大きく上げた者たちに怒っていた。
綾と紗枝が話していると、後ろから不意に声を掛けられた。
「綾さん、紗枝さん」
綾と紗枝を呼ぶ声は、女性の声で綾にも紗枝にも馴染みのある声だった。
その声の持ち主が誰かはスグに分かり、綾と紗枝は声のする方へと振り返った。
「あ、美雪ッ!」
紗枝と綾が振り返った所には、美雪の姿があった。
美雪の姿を見るなり、2人はその名を呼んだ。
「帰ってきたんだね。どうだった? 順番ずらして貰えた??」
紗枝は優しく親しげに、美雪に尋ねた。
「はい。会長さんが居たので、会長さんに頼んだら何とかずらして貰えて、最後の方にズラして貰えました」
立花 葵が遅れているという事に美雪達は気づき、美雪は生徒会にその事を伝え、葵の順番を遅らせて貰えるように頼み込みに行って戻ってきた所だった。
美雪は安心した様子で、2人に結果を報告した。
「そっか、とりあえずはこれで問題解決だね。流石に最後であれば来れると思うし……それよりもッ……美雪ぃッ!!」
「わッ!! あ、綾さんッ!?」
綾は美雪の結果報告を聞いて、ひとまず葵の事はこれで何とかなると感じ、そこで話が終わるかと思ったが、急にニヤニヤとし始めたと思ったら、美雪向かってダイブするように抱きついた。
美雪も突然の事に、驚き、動揺している様子だった。
「水臭いぞぉ〜、美雪ぃ〜……下の名前で呼びたがってたなんて…………言ってくれればスグに呼び合ったのにぃ〜……」
綾は美雪の胸に顔を押し当て、ギュッと抱きしめるようにして愛でるように美雪にそう告げた。
当人は顔を押し当て、首を軽く揺らし、スリスリとしたかったが、化粧をしていたため、そこまでは出来なかった。
「わ、わ……えっと、ごめんなさい。ちょっとどうしていいか分からなくって…………もっと早くに下の名前で呼んでいたら良かったんですけど……」
美雪は胸に飛び込んだきた綾に動揺しながらも、素直に自分の気持ちを答えた。
そして、紗枝と綾のたまに見せるこんなスキンシップに美雪は憧れていた所もあったため、今、それが自分にもされているという事が嬉しくてしょうがなかった。
「美雪。私たちは知り合ってまだ数ヶ月かもしれないけど、綾も私も美雪はもう、大切な親友だよ? だからね? 今度からはもっと素直になんでも私達に言ってね?」
「は、はいッ! ありがとう紗枝さんッ!!」
紗枝は美雪が綾に抱きつかれている光景を、微笑ましく見ながら優しい声で美雪に伝え、美雪もそれに力強く答えた。
美雪の念願だった名前呼びが、こんなにもあっさりに唐突に訪れた事に美雪は心から喜んでいたが、まだ本人慣れていない様子で「さん」は抜けていなかった。
しかし、綾も紗枝もそれを美雪指摘する事はせず、これからもっと仲良くなりいずれ抜ける事も何となく分かっていた。
そして何より、美雪を信頼していたため、そんな野暮な事は言わなかった。
3人で少しの間、笑い合いながら話していると綾が思い出したように声を上げた。
「それよりも、立花、最後って……トリじゃん…………女装がトリって大丈夫なのかね?」
「う〜ん……どうだろう…………私は見たことないからな〜」
綾の質問に紗枝も同じような不安を持っていたのか、キッパリと確信を持って大丈夫だとは答えられずにいた。
そんな中1人だけ、美雪だけは2人とは意見が違ったようで、ハッキリと自信を持って答えた。
「大丈夫ですよ! きっと面白くしてくれます!!」
「お、面白くって…………大丈夫なの? それ…………」
自信満々に答える美雪に綾は、不安そうに呟き、紗枝も苦笑いを浮かべていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ〜ッ!! 番号1番の1年E組、冴城 千夏ちゃんッ!!
良かったですね〜!! 彼女は野球部のマネージャーを務めているという事もあって、あのフレッシュで可愛らしい笑顔で応援されるという事を想像すると……ヤバいですねぇ〜ッ!!
何本でもホームランが打てそうですッ!!」
ミスコンは進んでいき、1番の子が舞台に上がり、その姿を披露し終わった所だった。
現在、舞台では冴城が披露し終わり、退場した所で大貫が感想を述べている所だった。
1番の子、冴城は舞台に黒いローブを付けたまま上がり、皆の前に立つと、簡単な自己紹介を行い、大貫の幾つかの質問を答えた後、大貫の「では、衣装の方を披露して頂きましょう」との一言で、冴城はバッと舞台の上で黒いローブを脱ぎ捨て、スタイリストに仕上げられた自分を披露した。
ここまでは生徒会と『ミルジュ』の企画した、一連のパフォーマンスであり、桜祭前日、前々日と、何度にも渡ってリハーサルを行っていたものだった。
自己紹介をする事や質問の内容もあらかじめ、参加者一人一人には告知してあり、当日、本番になって慌てないようにするための配慮だった。
1番の冴城の反響はかなり良かった。
トップバッターでこの反応が出ると、かなりミスコンにも勢いが出来、ミスコン観覧者にもこの後の展開にかなりの期待を持たせることが出来た。
冴城は、舞台上から舞台裏へと戻ってくると、彼女の帰還を待っていた様子のまだ舞台に上がっていない、これから上がる予定のある冴城の仲間達が彼女の元へと集まってきていた。
冴城の「緊張した〜」という声に、仲間達は「大丈夫だった?」など彼女を気遣う声や「凄く可愛かったよ〜」等といった感想を冴城に上げていた。
「ではですねッ! トップバッターからこのイベントに期待を持たせられた人達と多いと思います!!
どんどんと次の参加者の発表にいっちゃいましょうッ!!」
大貫の言葉にまた、会場のボルテージが1つ上がった。
「それでは、参加者2番ですね! 2-B組からの参加者ですッ!! その美貌は暴力的ッ!
お高くとまったようなこの人もまた高嶺の花と呼んでもいいでしょうッ!!
ご紹介します……2-B組、佐々木 美穂さんですッ!!」
大貫の大袈裟とも言えるような紹介で、1人の女性が舞台へと上がった。
佐々木と紹介された女性は、ゆっくりとそれでいて堂々とした足取りで、舞台の真ん中へと向かっていき、これまた堂々した様子で真ん中に立ちつくした。
佐々木が出てくると、開催は一気に盛り上がりを見せた。
正直に言って、佐々木はかなり美人の部類だった。
それこそ、同じ2-B組の二宮 紗枝と人気を2分する程だった。
彼女が紗枝と違う所は、紗枝は正しく王道の天使、学園のアイドルといったような可愛さだったが、佐々木はどちらかと言えばギャルで、いつもオシャレで意識が高い系と呼ばれるようなそんな感じの女性だった。
紗枝もその美しさと可愛さから高嶺の花のような扱いを受けていたが、佐々木もまた紗枝とは違った魅力で、小さな小粒のような男子をまるで相手にしない事から、彼女もまた高嶺の花と言われていた。
そんな、彼女が出てきたのだ、見ている男性が湧かない訳がなかった。
「え〜と、では、自己紹介の方、簡単にお願いしますッ!」
大貫はそう言い、佐々木へマイクを渡した。
「2-Bの佐々木で〜す。出たからには1位とりま〜す。彼氏はいませ〜ん、募集中で〜す。」
佐々木はやる気が無さそうに語尾を伸ばし、少々ダルそうに自己紹介をした。
初めて佐々木を見た外の人間が見たら、佐々木のその様子はやる気の無さそうに見てたかもしれないが、佐々木のこれはデフォルメであり、常にこんな感じだった。
佐々木は言いたいことを全部伝えられたのか、大貫にマイクを返した。
「はいッ! ありがとうございます佐々木さんッ!! どうですか、皆さんッ彼氏はいないそうですッ!! 私も、司会の立場で無ければ、彼氏候補に立候補にしていた事でしょうッ!!」
大貫は、佐々木とはうって変わり、元気よく大きな声で盛り上げるようにそう言い放った。
ここから予定通りの大貫の質問タイムに入るかと思いきや、佐々木が急に声を上げた。
「え? 大貫さん、立候補したかもしれないの?? えぇ〜嘘ぉ〜……超嬉しぃ〜……」
佐々木は、大貫が彼氏候補に立候補してくれたかもしれないという事に触れ、先程のダルそうな自己紹介とは違い、可愛く女性らしい甘えた声で、上目遣いで大貫にそう告げた。
「えッ? えッ?? 何? 僕、脈アリだったのッ!?」
佐々木のその仕草と声は凄まじい破壊力だった。
大貫はもちろん、見ていた観客達のほとんどが佐々木のソレに心を打たれていた。
大貫は自分が司会だという立場を忘れ、素の反応でかなり動揺していた。
そんな大貫の様子を見て、佐々木はニヤリと不敵に微笑んだ後、自分の声が大貫の持つマイクに拾われるように、ある程度声を出して答えた。
「嘘だよ〜、冗談。もうちょっとカッコよくなったら、あるいはお金持ちになったら相手したあげる」
佐々木はニヤニヤと笑いながら、大貫をからかうようにそう言った。
普通ならこんな事を言われたらカチンと来るであろう言葉であったが、佐々木に言われる事に関しては、特にそういった怒りの感情は湧き上がって来なかった。
むしろ、佐々木はそれを言われても頭に来ないほど美人であり、突然だと納得させてしまうような魅力があった。
それよりも、悪い女に遊ばれているという感覚が妙に心地よく、それを喜ぶ男性も少なくなかった。
「一瞬体が浮き上がる感覚でした……、本気になりましたし、冗談だと言われてもなんか、からかわれて嬉しいですッ!!」
大貫は感情の起伏についていけてないのか、妙な事ばかりを口走っていた。
このままでは進行に支障が出ると大貫は、判断し、落ち着かせるために一呼吸置いた。
「え、えっと……、質問を幾つかよろしいですか?」
落ち着きを取り戻した大貫は次の進行内容を頭で確認しながら、佐々木に尋ねた。
「ん。いいよ〜……」
佐々木は軽い様子で適当に答え、質問を引き受ける意思を見せた。




