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俺より可愛い奴なんていません。3-11

立花たちばな あおい二宮にのみや 紗枝さえのコンセプトがようやく決まり、葵は急ピッチで紗枝のメイクを仕上げていた。


時間はあまり無いため手早く、それでいてこれ以上無いほどに丁寧に化粧をしていった。


葵は紗枝の顔に触れる事に了承を貰い、紗枝も人に、それも男性に化粧などされた経験も無かったため、かなり緊張している様子で、体も自然と強ばっていた。


しかし、時間が経つに連れだんだんと紗枝は慣れていき、最初に比べれば体の強ばりも無くなり、緊張も少し解れている様子だった。


それでも、たまに不意に化粧をしている際、葵の指が触れたりすると、体をビクッと跳ねらせ、一気に緊張感を持ち、体を強ばらせる事は多々あった。


葵は手早くやったつもりだったが、時間的にはかなりかかってしまっていた。


化粧を終了させ、時計を確認するともう時間は10時20分になろうとしている所だった。


「二宮、悪いな。いろいろ気を使わせて」


葵は、化粧中終始緊張をしていた紗枝に謝罪した。


結局なんだかんだ言っても、紗枝の緊張感は拭えず、最後まで彼女に気を使わせてしまっていた。


「う、ううん! 私こそごめんね? 人にされた事初めてで、どうも慣れなくて……」


葵に謝罪され、役割とはいえメイクまでしてもらった事で、バツが悪そうに紗枝も謝罪をし返した。


「いいや、やってて楽しかったよ。久しぶりに人のメイクをやったけど、やっぱり楽しいな」


葵は昔を懐かしむような様子で、呟くようにそう話した。


葵のそんな様子が紗枝は気になり、聞かずにはいられなかった。


「えっと、橋本はしもとさんから立花君が女装をするのは知ってたけど、自分以外の人も化粧したりした事があるの……?」


紗枝は興味有りげに葵に訪ねた。


紗枝の頭の中では、先程会った葵の姉である立花たちばな らん辺りかなと予想を付けていた。


「あるよ。もう、結構昔だけどね……?」


葵は微笑みながら紗枝の質問に答えたが、葵のその笑顔はどこか悲しげに紗枝には見えていた。


「えっと……お姉さん??」


葵の笑顔を見て、少し聞いていいものか紗枝は悩んだが、聞かずにはいられなかった。


「いや、姉貴は自分すらも化粧の実験体にするから、人に化粧を任せることは無いよ。

色々やっては、失敗した〜! とかよく叫んでる」


紗枝の予想は外れ、一気に葵が誰をめかしこんでいたのか予想がつかなくなった。


女の子とあまり親しくない葵が、女性の化粧を? とも紗枝は考えたが、話し方からして昔の事を話すような様子だったため、葵が女性嫌いになる前の話か、などと考え始めた。


紗枝が割と必死に誰なのかと考えていると葵が話し始めた。


「妹だよ……よく昔はやってあげたりしてたかな……」


「え……? 妹さん? 妹さんも居るの?」


葵の言葉に紗枝はてっきり、親族以外で考えていたため、驚いた表情で葵に尋ねた。


「いるよ。今は、海外に居るけどね……。2年は会ってないかな」


「そうだったんだ…………3人兄妹だったんだね」


少し寂しそうに話す葵に、紗枝も少し釣られるように感傷的になり、暗いトーンで答えた。


「まぁ、あんまり仲も良くなかったけどね。特に最後の方は…………。

それよりもッ! 今はミスコン!! 衣装合わせをしよう。時間も無いしな」


葵は誤魔化すように、空元気のように無理やりテンションを変え、話題を少々強引に変えるように話した。


葵のそんな態度に、この話は葵にとってはあまりしたくない話なのかと紗枝は感じ、これ以上聞くことはせず、時間もあまり無いのも事実だったため、葵の提案を引き受けた。


「そうでした。衣装合わせしましないと……、と言っても立花君の言った通りの衣装だとさほど時間は取らないと思うけどね」


紗枝はニコッと笑いかけながら葵にそう答えた後、ミスコンで使う体に身につける小物アクセサリーの入った小箱を持ち、試着室へと向かって歩き始めた。


「でも、立花君がこんな事思いつくとは思わなかったよ。

多分、こんな事するのも立花君ぐらいなんじゃないかな?」


紗枝は、試着室の方を向いたまま、そちらに向かって歩き、葵の方を振り向くことなく話し続けた。


声色は明るかったため、顔は見えなかったが、紗枝が笑顔で話していることは何となく想像できた。


「多分そうかもな。正直、これがいい案だとは一概には言えないし、俺の思い通りに、桜祭の来場者が同じ事を思ってくれるとは思えないしね。」


葵が少し弱音を零すようにそう正直な気持ちを述べると、試着室に入ろうとしていた紗枝が不意にこちらに振り返った。


「大丈夫だよ! 私はいい案だと思うよッ!」


振り返った紗枝は、満面の笑みで葵にそう答えた。


葵のメイクがバッチリと決まった紗枝の笑った姿は、恐ろしい程の破壊力だった。


紗枝はどちらかと言えば、カワイイ系の顔立ちをしており、綺麗な整った顔でもあったが、周りに聞けば恐らく綺麗と言われるよりも可愛いと言われる事の方が多かった。


葵は、当初はそんな紗枝を綺麗系に、美しい女性として仕上げようと考えていたが、カタログを見て、ある物が目に入った事で考えを改めた。


紗枝の魅力を十二分に発揮させるカワイイ系のメイクを施した。


頬を薄くピンクに染め、元々ふっくらとしている唇も印象付けるため、明るいピンクの口紅を使用し、肌が凄く綺麗な白い肌をしていたため、余計にそれは映えた。


目もいつもより大きく見えるように施し、黒く艶ったつけまつ毛も使用した。


それでいて、化粧はうるさくなく、あくまで紗枝の魅力に寄り添うようにして際立てる程度のものだった。

アイドルのように仕上げたそのメイクだったが、幼稚に見える事も無く、何処か大人っぽさも兼ね備えていた。


それは本来彼女が持つ凛々しさから来るものなのか、彼女のいつも礼儀正しく、しっかりとしていて、何よりも優しい背景を知る者ならば、余計に大人っぽさ感じると葵は考えていた。


「そ、そうか……」


予想以上の迫力に葵は完全に動揺した様子で、彼女を直視し続ける事が出来ず、今日初めて紗枝から目を逸らしながら、答えた。


葵のそんな様子を見て、今まで葵に恥ずかしめばかり受けていた紗枝は満足した様子でにっこりと1度微笑むと、試着室の中へと消えていった。


◇ ◇ ◇ ◇


桜祭の祭りは、始まってから2時間以上経っていた。


時間が経つにつれ、どんどん来場者が集まり初め、より一層盛り上がっていた。


中庭は、9時~10時までの吹奏楽部による演奏会が終わり、1時間の準備期間に入っていた。


中庭を使いたいという桜木高校の成都が少なかったこともあり、イベントはひっきりなしに行われるというわけでもなく、何時間か空き時間があった。


逆に、体育館は使い生徒達がかなりの数いるため、スケジュールもキツキツであり、ひっきりなしに何かしらのイベントが行われていた。


人気な体育館という事もあり、一つのイベントで何時間も使用するなんて事は出来ず、必然的にミスコンは中庭で行われる事となっていた。


そんな、中庭の舞台裏。


化粧や衣装合わせが終わったミスコンの参加者達や、ミスコンを主催する生徒会、『ミルジュ』の社員が入り乱れてそこに居た。


ミスコンの開催のため、『ミルジュ』のスタッフと生徒会は少々慌ただしくも、準備を急ぎ、ミスコンの参加者達は緊張をしているのか、落ち着かない様子でキョロキョロとしたり、紛らわせるために話をしたりしていた。


参加者達には、舞台裏に移動する際はもちろん、舞台裏であっても他から見られないようにするため、首から全体を隠すように降りた黒いローブのようなものを羽織らされていた。


このローブのおかげで、その瞬間まで衣装は見られず、化粧をした顔は諦めるしか無かったが、それでも無いよりはあった方が全然いい代物だった。


これで、ネタバレをするような事を未然に防ぐ事が出来た。


「ねぇねぇ、結構これって緊張するよね……?」


加藤かとう あやは、少し恥ずかしそうな様子で橋本はしもと 美雪みゆきに話しかけた。


「そうですね。ちょっと緊張します……」


美雪も綾と同じで緊張していた。


周りを見渡すと、早めに終わった参加者生徒達は先に舞台裏に集められていた。


まだ、全員が集まっている訳ではなく、まだここに来ていない生徒が何人か見受けられた。


その中で、葵と紗枝の姿もまだ見受けられなかった。


「二宮さんと立花さんもまだ来てないですね」


美雪は少し不安そうに呟いた。


「うん。なんか急遽決まった感じだったしね〜……やっぱり、大変なのかな……」


美雪と同じように紗枝達が居ないことに気づいていたのか、綾も同じ事を考えていた。


二人の間に少し暗い雰囲気が流れたが、美雪はそれを拭うようにして明るく声を上げた。


「でも……きっと大丈夫ですよ! 立花さんのメイクは凄いですからね!」


美雪は自分に言い聞かせるようにして、そう自信ありげに答えた。


「そうだよね……スタイリストさんも止めてなかったしね」


美雪の答えに綾も、当時の事を思い出しつつ答えた。


「紗枝、どんな感じになっちゃうのかな〜? 普段から可愛いからどうなっちゃうのか楽しみだよね」


「はい。絶対、またファンが増えます」


「アハハハッ……だよね〜!」


美雪と綾は、これ以上心配することは無かった。


「私もな〜、こんなに変わるとは思っても見なかったしな〜……。

正直、今ならナンパされる自信あるッ!!」


「はい。今の加藤さんは正直ヤバいくらい可愛いです!!

とゆうか、加藤さんは素でも可愛いから、ナンパはされてるでしょ??」


綾の自信満々な告白に、美雪も全面的に同意した。


そして、美雪は付け加えるようにして、尋ねた。


「いや、それがされないんだな〜……これが。隣に紗枝がいるからなのかね〜……。

紗枝めぇ〜……私もチヤホヤされてみたいのにぃ〜……」


綾は美雪の質問に、冗談っぽく恨めしそうに答えていた。


綾と美雪は、紗枝と葵が来ることを信じつつ、楽しみにしながら、その時を待った。

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