俺より可愛い奴なんていません。10-11
「実はな? ここだけの話……。 葵に好きな人がいるみたいなんだよな~~」
大和は先程、葵と話、確信した事を意気揚々と綾と紗枝に告げた。
「え…………?」
「えぇぇぇぇぇぇえええッ!?」
紗枝と綾は、違う形ではあったが、それぞれ驚き声を漏らす。
「ど、どうゆう事よッ!?
説明しなさいよッ!!」
紗枝は呆然とした様子で驚き、綾は動揺のあまり大和に詰め寄るように、言葉を返した。
「いや……、何か俺もさっき聞いた話ではあるんだけど…………、告白して振られたらしいんだよね」
「告白ッ!? しかも振られたッ!?!?」
好きな人がいる事ですら驚きなのに、大和からは次々と衝撃的な事実が暴露されていき、綾は動揺しつつも、紗枝の事情も知っていた為、紗枝の様子をチラチラと横目で伺った。
「そう。 でも、何か諦められないらしくて、またアタックするとか言ってたな……」
アイスをほおばりながら話す大和に、綾は遂にその話に違和感を感じた。
「――――ねぇ……、それってホントに立花の話??
アイツがそんな風な事言う様に思えないんだけど…………」
「い、いやいや! マジだってッ!!
しかも、何か妹に反対されてるみたいな事を言ってたぞ?」
「はぁぁぁああ?? 妹ぉ~~???
増々意味わかんないんだけど…………」
綾の目はどんどんと細まり、大和を睨みつけるような、そんな疑う目で見ており、大和は慌ててこの話の信憑性を高めようと情報を出したが、それは増々この話が信用できなくなるだけだった。
そして、今まで黙って話を聞いていた紗枝だったが、ようやく口を開き、大和に話しかけた。
「神崎君ッ! 今の話……、本当に立花君が言ってたんだよね??
告白して振られたって……、でもまだ諦めてないって」
綾とは違う、殺気すらも感じさせる気迫で、大和に詰め寄った。
「え、え? あ、はいッ! そ、そうですッ!!」
いつも笑顔を周りに振りまく、クラスのアイドルのような彼女が、いつもは見せない雰囲気で迫ってきた為、大和はそんな紗枝に怯えながら答えた。
「そう…………、そうなの…………」
大和の嘘の無い言葉に、紗枝の先程まで見せた覇気はみるみる失せ、力なく呟くと、途端に気分を落とした。
「あ、いやッ! 紗枝!? た、多分勘違いだってぇ~~ッ!!
神崎、何かおかしなこと言ってたし……。
それに立花だよッ!? そんな勇気無いって~~!!」
「でも、神崎君はあおッ……、立花君の友達だよ??
そんなウソつく? しかも、あの立花君が…………」
「い、いやいや、絶対ッ! 神崎の勘違いだってッ!!」
綾の言葉は的を得ていたが、あまりのショックに論理的に考える事が出来ず、綾の声は届かなかった。
そして、そんな時だった。
「お前らうるさいぞ。
一応、準備中って事でみんな作業してんだから…………」
会話の内容のせいで、次第に盛り上がり声が大きくなっていた綾達は、戻ってきた葵にくぎを刺された。
「ここだけ馬鹿みたいに騒いでたら、サボってるって思われるだろ??」
葵の登場に綾達は驚いた表情を浮かべたまま固まり、そんな事もお構いなしに、葵は呑気に言葉を続けた。
そして、そんな事を言いながら、大和の隣に腰を降ろすと、降ろした瞬間に、綾から声が掛かる。
「た、立花ッ!! い、今……、神崎から聞いたんだけど…………、こ、告白したってホント??」
「――ん? あ?? や、大和…………、お前、言ったのか??」
「わ、悪い……、つ、遂な…………」
ギロりと睨みつける様な視線を飛ばし、葵は大和に問いかけると、大和は申し訳なさそうに、葵に言葉を返す。
「そ、そんな事よりッ!! ほ、ホント……なの…………??」
話の腰を折られた綾は更に、恐る恐ると言った様子で追求し、紗枝も聞きたいことではあった為、綾を止める事は無かった。
「はぁ~~~、ホントだよ…………」
観念したようにため息交じりに答えると、紗枝の表情は一気に暗くなり、綾も激しく動揺した様子で続けて葵に質問をぶつける。
「だ、誰によッ!?」
「はぁ? だ、誰ってそりゃ、お世話になる…………。
――――いや、ちょっと待てよ……? お前らなんか勘違いしてるだろ…………??」
綾と紗枝の反応、そして先程大和と話していた際に感じていた違和感から、葵は何か嫌な予感がし、途中で北海道の話を話すのを止め、疑るように綾達に視線を向け、言葉を放った。
「か、勘違いって何よ…………。
あ、アンタが好きな人に告白したって話でしょ??」
綾は少し動揺した様子で答えると、葵は「はぁ?」っと言った表情を浮かべ、ようやく自分の感じた違和感と疑問が解けていた。
「なるほどな…………、通りで話がかみ合わなかったわけだ……。
あのな? 俺は別に好きな人に告白したわけじゃ無いぞ??」
「「「え…………??」」」
葵の言葉に、綾達は同時に声を零し、驚いた。
「好きな人に告白するように見えるか? つい最近まで女子が嫌いだった俺が……。
それに、告白した相手も妹や家族にだぞ??」
「――――ほらねッ!? 私の言った通り!
だと思った……」
葵の言葉に少しの間、沈黙が流れたが、すぐにその沈黙は破られ、綾はしたり顔で、そう告げた。
「で、でも、何を告白したの??」
少しだけ落ち着きを取り戻したのか、安心したような表情で、少し表情も明るくなった紗枝は、葵に問いかけた。
しかし、紗枝のその質問に葵は一瞬、表情を曇らせ、今までは詳細に答えて来た葵だったが、その質問にだけは誤魔化す様に答える。
「――――進路だよ……。
来年高三だろ? 受験もあるし、色々相談も兼ねて…………」
「そ、そうなんだ…………。
た、確かに、来年は忙しくなるだろうしね!」
葵の表情の機微を感じてか、紗枝はそれ以上具体的に聞くのは忍びなく感じ、追求は避けた。
「まぁ、なんにせよ! 私の予想がバッチし当たってたわけだ!!
神崎ぃ~~!? 紛らわしい事しないでよ~~」
「い、いや、加藤さんだって葵に突っかかるように質問してただろ?
一瞬でも信じてた癖に~~」
「うっさいわねッ!」
再び、がやがやと盛り上がる大和達を横目に、葵はバレていなかった事を安心し、これ以上大和達に感づかれ無いよう、家の説得を早急に終わらせ、四条から電話を来ないようにすることを、改めて誓った。
◇ ◇ ◇ ◇
「やっぱ、神崎の勘違いだったねぇ~~ッ!!」
体育祭の準備に戻った葵達と別れた、紗枝達は校内を歩きながら、会話をし、綾はやれやれと言った様子で言葉を発した。
「そうだね……」
綾の言葉に紗枝は少し、考え込む様子で答える。
そんな紗枝に、綾が気づかないはずも無く、「紗枝?」と声を掛けながら様子を伺った。
「ねぇ、綾…………。
だとするとさ、最近、立花君が慌てて電話に出てる理由ってなんだと思う?」
「え? 電話??
あぁ~~、そういえばさっきも出てたね……。
神崎も言ってたけど、最近多いらしいんだよね~~。
マナーモードにしてたはずなのに、最近は着信を分かるようにしてるとかなんとか…………」
「そう……、なんだ…………」
紗枝は綾の言葉を聞き、過去の葵との出来事を思い出す。
紗枝の記憶の中には、文化祭から始まり、イベントでのコスプレ、最近で言えば雑誌の撮影と、何かと関りの多くなった相手ではあったが、その中で葵が着信に反応し、慌てて電話に出るような事は一度も無かった。
紗枝の目の前では偶々起きず、ついさっき初めて、目の当たりにしただけの可能性もあったが、綾の言葉にもあった大和の話でその可能性は薄いとも思えた。
(なんで、急に着信で電話なんかに…………。
やっぱり、何かあるのかな…………。
最初、告白の事を聞いた時も何か様子が変だったし……)
紗枝の思い過ごしの可能性も大いにあったが、何故か紗枝は葵のその行動が引っ掛かってしょうがなかった。
そんな思考を巡らせていた紗枝に、綾はニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、紗枝に話題を振り始める。
「でもさ~~、良かったね? 紗枝!
立花が好きな人に告白してるとかじゃなくて~」
「ッ!! あ、綾~~ッ!!
もうッ、からかうの止めてよッ!」
綾の言葉に紗枝は顔を一気に赤くし、からかう綾にくぎを刺した。
「はいはい。
でも、今回はただの勘違いで済んだけど、いつまでもウジウジしてたら、本当に好きな人が出来ちゃうかもよ?
立花と関りも多いんだし、そろそろアタックしても良いんじゃないの??」
「そ、そんな事言われても…………。
こ、告白とかは、ま、まだ無理だってぇ~~」
「またそんな弱気な事を…………。
あッ! そんな弱気な紗枝に良い事教えたあげよっかッ!?」
綾はそう言って何か思いついた様子で、紗枝にあることを耳打ちした。




