俺より可愛い奴なんていません。10-10
◇ ◇ ◇ ◇
月日は流れ、体育祭前日。
葵は『Fairy』の撮影から数日、これといって何か大きな出来事も無く、日々を過ごした。
依然として、来年からの北海道行の許可は貰えず、親というより椿が猛反対をし、どちらかと言うと乗り気ではに両親は、椿の意見に乗っている現状だった。
椿を上手く説得できなければ、親を納得させるのは難しい現状にあった。
学校生活はと言うと、これと言って特別な事は無かったが、葵が交わした約束は上手く果たせずにいた。
美雪と真鍋の接点を増やす事は出来たが、何かあるわけでもなく、葵もこういったキューピットのような役割を果たした事は無く、上手く立ち回る事は出来なかった。
ずるずるとあらゆることが飽和状態のまま、月日だけは過ぎていった。
「はぁ~~、どうしてこうも祭は楽しいはずなのに、準備は毎回だるいんだろうな~~」
体育祭を前日に控え、全校生徒で放課後を使い、体育祭の準備を進めていた。
葵と大和は、競技で使う物の整備、例に挙げれば、体育祭の種目には野球も含まれている為、必需品となるグローブやバットの整備などが、葵達に与えられた役割だった。
「準備も祭もダルいだろ……。
運動得意じゃない奴にして見れば最悪だろ」
準備の面倒さに嘆く大和に、その憂鬱な気分に乗せられてか、葵もだるそうに返事を返す。
「はぁ? ダルくね~よ!
楽しいじゃねぇかよスポーツ! 葵だってバレーは得意じゃんか~~」
「バレー馬鹿のお前の練習に付き合っただけだろ……。
素人に毛が生えた……、いや、やった事に奴でも、運動神経良い奴を相手にしたら、多分そいつの方がうめぇよ」
葵は確かにバレー経験はあったが、自分にその才能が無い事は、自分が一番良く分かっており、大和の称賛もまともに受け入れなかった。
「えぇ~~、そんな事ないと思うんだけどなぁ~~~。
――――じゃあさ! なんであんなにサッカーはやる気だったんだよ……」
「あ? あぁ~~~~……、うん、まぁそうだな……。
サッカーは人数多いし、野球よりサボれるから…………」
考え込むように長く唸った後、葵は捻り出したようにサッカーを選んだ理由を答えた。
随分と答えるのに時間のかかった葵の回答だが、葵の回答は実に葵らしく、大和は幻滅したように深いため息を付く。
「そんな理由でかよ…………。
まぁ、野球にしてたってウチのクラスは経験者少ないから、勝ち上がる事は無かったんだろうけどさ…………」
「俺がゴールキーパーやってもいいぞ?
手が使えるならバレの経験も活かせそうだろ?」
「こんなやる気のない奴に任せられるわけないだろ。
前行け!前に!」
桜祭のような学祭とは打って変わって、葵の全くやる気のない様子に、大和はガッカリしながらも、葵の考えを強く、正そうとするような事はしなかった。
「――――あ、そういえばさ!
最近、気になってる事あるんだけどさ! 葵、なんか俺に隠し事してね?」
「は…………?」
少しの間、二人の間に沈黙が流れ、再び大和が会話を始めたと思ったその時だった。
大和は意外な質問を葵へとぶつけ、葵はその大和の質問に思い当たる節があった。
「――――べ、別に隠してたわけじゃねぇけど……。
お前知ってるのか??」
「やっぱ隠してたのかッ!! あたりめぇだよ、何年の付き合いだと思ってるんだよ!
――――で? いつからだよ……」
「え、あ、まぁ……、まだ未定ではあるけど、来年からぐらいかな」
葵は的確な大和の質問に未だ動揺をしつつも、北海道行を言い当てられた事に驚きながらも、大和の質問に答えた。
「ん? ら……、来年??
って事は、まだ告白してないってことか??」
大和の反応に葵はほんの一瞬、違和感を感じたが、些細な違和感でありそこまで注意することも無く、続けて大和の質問に答える。
「ま、まぁ……、告白は一応したんだけどな……。
却下されてる」
「は!? 告白して断られたのかッ!?
――――それで、来年って……、もう一回アタックするつもりかよ」
「当たり前だろ! 決めた事だし、譲れない事だからな」
「あ、葵……、お前、そ、そこまで一途だったんだな……」
「一途ってなんだよ!」
再び大和から、意味の分からない返しが飛んでき、葵は少しムッとしながら返事した。
「照れんなよ! まぁ、あの頑固な葵が諦めず何度も告白するなんてな……。
考え深いというかなんというか…………。
――――あッ! そういえばさ、偶に昼休み電話かかってくるよな?
あの電話って…………」
「――――あぁ、まぁな……。
お前の思ってる通りだよ」
葵は珍しく大和に心の奥底までを見透かされているような気がし、自分で答えるのもこっ恥ずかしいとすら感じた。
「まじかッ!!
あの葵が電話なんて珍しいと思ったんだよなぁ~~!!
――ん? っていうか、そんな状況なら意外と次の告白はいけそうな感じじゃないのか??」
「さぁな、それはどうか俺には分からん。
椿次第だろ……」
「え……? なんで、椿ちゃん……???
あ、あぁ~~ッ! え??? 椿ちゃんに反対されてるの??」
葵の答えに大和は、頭の中に大量の?マークを浮かべ、急に話がかみ合わなくなったように、動揺する。
しかし、葵も親よりも妹の方が強く反対する現状は、理解できないだろうと思っていた為、大和のその反応を特段、おかしいとは思わなかった。
「親よりもな……。
どうやって説得すればいいのやら」
「い、妹に反対されるなんて、け、結構珍しいタイプなんだな……。
まぁ、俺に何が出来るか分かんねぇけどさ! なんかあったら相談にぐらいは乗ってやるよ!」
大和のふとした昔から変わらない優しさに、葵は思わず空気が漏れるような笑みを零した。
「暇つぶしに今度話してやるよ」
葵がそんな風に大和へ返事を返すと、そんな二人にどこからか声が掛かる。
「お~~い、神崎、立花~~。
差し入れ持ってきたぞ~~」
体育倉庫から道具を持ち出し、校庭の一角で作業していた大和達に声を掛けたのは、綾だった。
綾の声に反応するように大和と葵は、声の方へと視線を向けると、紗枝の姿もそこにあった。
「差し入れ? なになに??」
大和は急に元気を取り戻し、コンビニ袋をぶら下げる綾に駆け寄る。
葵も一旦手を止め、大和に続くように綾の方へと歩み寄った。
「先生からの差し入れ、アイスだよ!
溶けるから早く取ってね」
「うおぉぉ~~、ナイスチョイス!!
まだまだ残暑が厳しいからねッ!!」
綾の袋から大和はアイスを二つ手に取り、後ろから遅れて追いつく葵にアイスを渡す。
「パシられてるのか? 加藤」
「はぁッ!? 違いますぅ~~、パシられてあげてるんですぅ~~ッ!!
私と紗枝の二人が回ると、男子が喜んで精を出すから」
「二宮はそうかもしれないけど、加藤はどうなんだ……??」
葵はつまらなそうに、本心を呟くとアイスを食べ始まる。
何気なく呟いた葵の一言が、綾の逆鱗に触れたのか、ヤイヤイと葵の文句を上げまくる綾だったが、葵は一向に取り合う事は無かった。
「ほんっっとッ! 腹立つな~~。 立花め……」
全く相手にされない事を理解したのか、綾は文句を言う事を諦め、恨み言を呟いた。
そんなやり取りだが、なんだかんだで絡みの多かったこの四人には。見慣れた光景に成りつつあった。
そうして、簡単に休憩と談笑を始めようとしたその時だった。
不意に葵の携帯が着信を知らせ、葵は慌ててその場から退散する。
「また電話…………」
綾は不思議そうに呟くと、大和は急に眼を光らせ、楽しそうに話し始める。
「あ、実はな? ここだけの話ちょっと面白い話があってな」
大和は意気揚々に二人に話を切り出した。
 




