俺より可愛い奴なんていません。2-3
「なるほどな、そうゆうことか」
昼休みも中盤を過ぎ去り、立花 葵は一通り橋本 美雪から二宮 紗枝が置かれた状況を聞かされ、なぜ自分がミスコンに出て欲しいと頼まれたのかを知ることが出来ていた。
葵は、話を聞くため、そこら辺に置いてあった男子の席を借り、腕を組み答えた。
女子3人に対し、男子一人が一緒に座って昼休みを過ごす光景は少し違和感があったが、美雪や葵には実行委員という肩書きもあり、紗枝はクラス委員だったため、そういう集まりだと思えば、そこまで悪目立ちはしなかった。
「どうですか? 出てもらえれないですか?」
腕を組み、難しい表情をする葵に対し、美雪は、条件が条件のため、断られるのではないかと思い、不安そうな表情で訪ねた。
「あぁ、まぁ出ることは別に……、それより俺が出ることで全部解決するのか?」
葵のミスコンに出てもいいということ聞き、3人は安心したが、葵の続けて放った問いに、3人は再び難しい表情を浮かべた。
葵は、紗枝が自分からミスコンに出ると言って、男子からの勧誘を回避し、葵が出ることによって少なくとも参加者は1人にはならないとゆう考えは、少し楽観的過ぎる気もしていた。
「しつこい男子は中にはいるだろうし、ミスコン参加者二人なんていう最悪な出来事も起こりかねない」
「た、確かに……」
葵の指摘に美雪と紗枝は黙り込み、加藤 綾は声を出し、納得していた。
「でも、どうすれば?」
美雪の問いに、葵は少し考え込むようにした後、再び3人に向き直り答えた。
「二宮は嫌かもしれないが、自分で立候補するっていうのじゃ無く、俺が推薦するっていうのはどうだ?」
「ええッ!?」
葵の提案に綾や美雪は驚いた表情で葵を見つめ、紗枝は声を上げ驚いた。
「そ、それって……」
「まぁ、多少勘違いされるだろうけど、勘違いされた方がいい効果は出るだろう……何人の男子からちょっと精神的にやられて立ち直れなくなるかもしれないけどな」
女子が嫌いで女子からも好かれていない葵が、紗枝を推薦するというのは、良い意味でも悪い意味でも目立ち、そこから出る噂で葵は紗枝を狙う男子達の戦意を削ごうというのが、この提案の目的だった。
戸惑う紗枝に対して、葵は大雑把に説明しつつ、学年でもかなり人気のある紗枝に今回のミスコンの件でお近づきになろうとしていたであろう男子達の挫折した姿を思い浮かべ、少し楽しくなっていた。
「勘違いってやっぱりそゆうことッ!?」
「そゆこと」
葵の言葉で自分の思い浮かんだこの作戦の意図と合致した綾は、興奮気味に葵に訪ね、葵が素直に答えると、キャーキャーと何故か綾が顔を赤くし、騒ぎ始めた。
「い、良いの? 多分、立花君が嫌がるような噂とか流れるかもしれないけど……」
綾にうってかわり紗枝は少し不安そうにしながら、葵を気遣うようにたずねた。
「別に? 男子達がそれで騒ぐ分には制御出来るし、俺を嫌いな女子が好き勝手言ってもどうでもいいし」
葵は飄々とした様子で、なんの心配も無いかのように答えた。
葵のその自信満々の堂々とした姿を3人は見て、その図太さを純粋に凄いと尊敬した。
「これで、前半の問題はクリアだろ……間違いなく大和なんかは心が折れるな」
葵は自分の友人が落ち込む姿を思い浮かべニヤニヤとしながら答えた。
「でも、どうしてここまでしてくれるんですか?」
紗枝は当初から感じていた、疑問をここにきて初めて葵にぶつけた。
話をすればするほど、葵にはまったくメリットが無いように思えた。葵は軽く二つ返事で答えたが、男性がしかも、桜木高校の全生徒に見られる中で女装をするなんて、かなりリスクが高いことで普通なら断る。
「まぁ、俺にとって女装はそんな対して嫌なものでもないしな……それに、借りもあるし……」
葵は紗枝からの質問も飄々と答えた後、小さく呟くように付け加えて別の理由も答えた。
葵の最後にボソッと答えた言葉は他の3人の耳には届く事がなく、3人はそのボソッと呟いた内容にも興味があったが、それよりも、紗枝と綾は、葵が最初になんでもない様な、女装をすることを些細なような事のように答えた事の方が衝撃的だった。
そして、葵が女装をすることを知っていた美雪は、紗枝や綾の反応を見て楽しんだ。
「た、立花って女装した事ある感じなの? 罰ゲームとか……」
「は? いや、なんで?」
しどろもどろに、葵の様子を伺うようにして尋ねる綾に対して葵は、綾のその質問の意図が分からないと言ったような様子で答えた。
その葵の堂々とした対応で綾は益々、葵が理解出来なくなっていた。
「い、いやね? 男の人がさ、女装なんてする理由はそういうのじゃ〜ん。 それに、立花が女装って想像つかないし……」
綾の答えは正論であり、何も言わなかったが、紗枝も同じ考えだった。
「あぁ〜なるほどな……」
「まぁ、ミスコンでどうせ見せる事になるんだから言ってもいいか……」
葵は綾の言っている事がようやく理解出来、考え込むようにして、少し俯いて、小さく呟いた後、再び彼女達に向き直り、再び話し始めた。
「言っとくが、俺が女装したらお前らなんか相手にならないほどだからな?」
葵は自信満々に堂々と答えると、その場は一瞬静まり、その静かな時間は、次の瞬間の綾の爆笑によって過ぎ去った。
「アッハハハハッ!! ヒィ〜……あぁ〜、おっかし!!」
綾は腹がよじれるほど大声をあげ、笑い。
呼吸荒くヒィヒィ言いながら、お腹が痛くなったのか、腹を抑え涙まで拭っていた。
「ちょっ、ちょっと……あ、あやッ……」
紗枝も綾の笑いにつられた様子で、途中途中、笑いながら、葵の前だったため、多少申し訳無さそうにしながら、綾を窘めた。
綾も紗枝も、普段からそんな冗談を言わない葵が、そんな事を言った事がおかしく、そのギャップにやられ、面白くて仕方がなかった。
「立花もそんな冗談言うんだね〜。 は〜おかしかった」
散々笑い、笑い終えた綾が若干疲れた様子でそう言うと、葵はもの凄く不機嫌そうに不服な表情を浮かべており、隣にいた美雪も葵の表情を見て、違う意味で笑っていた。
「お前らな……。 なら加藤、お前も出ろよ? ミスコン。
けちょんけちょんに潰して二度と表歩けなくしてやる」
「何ぃ〜? 言ったな立花ッ。 腐っても私は女子だぞ〜?? 負けるわけ無いだろ」
流石の綾も男である葵に負ける気はせず、葵の挑発に簡単に乗ってしまった。
綾の見た目もかなり抜群な見た目をしており、紗枝程では無かったが間違いなくモテるであろう顔立ちをしていた。
そのため、葵の女装を見た事のない紗枝もまた、自信満々の葵には悪いが、綾が負けるわけが無いと考えていた。
「マジで泣かしてやるッ」
葵は自分がここまでコケにされた事が意外にも腹に来ていたため、目が本気であり、綾に闘志を燃やしていた。
そんな、葵を横目で今まで面白そうに見ていた美雪はようやく口を開いた。
「た、立花さん。 流石に本気になり過ぎです。 それに、お二人さん、立花さんはこう言ってますけど、その通りに立花さんの女装はヤバいですよ?」
「えぇ〜? またまた〜……」
真面目な美雪が言ったことで、綾と紗枝は少し考え直したが、それでも男の葵がそこまで美人になれふとは考えられず、綾はニコニコしながら、冗談だろうと思いそう答えた
。
綾はそう答えた後、美雪の表情を読み通ろうと美雪の顔を見つめていたが、その表情には特に冗談を言っているような感じは受け取れず、そこでようやく綾は、葵の言っていた事に信憑性を感じてきていた。
「え? 嘘でしょ??」
「本当です」
中々自分の答えに返してくれない、美雪に痺れを切らし、美雪に尋ねると美雪は即答で、何故か自分の事のように自信満々に答えた。
美雪のそんな反応を見た紗枝と綾は、グッと視線を葵に移し、葵の顔を凝視した。
葵は急に2人から痛いほどの視線を感じ、少し臆した。
「な、なんだよ……」
顔を見つめるだけで何も言わない2人に、流石の葵も、その状況に耐えられなり、痺れを切らし、2人にそう言った。
「どう思う? 紗枝」
「う〜ん…………ちょっとやってみて貰わないと分かんないかな」
葵の声に反応し、2人はようやく言葉を交わしたが、紗枝達の見解はいまいち上手くいっておらず、葵が女装してどうなるかなど分からなかった。
「まぁ、いやでもミスコンの時に見れんだろ。そんな事より、俺にも1つ提案がある」
葵はそう言って、ようやく自分の話が出来ると思いつつ、美雪に視線を移し、続けて言った。
「俺が、ミスコンに出るのであれば、橋本、お前も出ろ。これが俺がミスコンに出るための条件だ」
葵は宣言するように、美雪に言い放ち、綾や紗枝は驚いた表情を浮かべた後、美雪の答えが気になったのか、一気に美雪に視線が集まった。
「え? え? なんでですか??」
美雪はそんな理由を提示する葵を理解できないといったような様子で、狼狽えながら答えた。
「なんでだと……? そんなの決まってるだろ」
葵はそう言って一呼吸置いた後、しっかりと両目で美雪を見据え言い放った。
「それは、お前が地味だからだッ!!」
「えッ? ちょっとッ、立花君ッ!?」
「立花……、流石にそれは失礼だろ」
ハッキリと答える葵に対し、綾はすかさず葵を非難し、紗枝は戸惑った様子で声を上げた。
美雪は、キョトンとした様子で、特に怒ったり取り乱したりする事は無く、ただ呆然と葵を見つめていた。
「だいたい、お前のその学校での格好はなんなんだ? 女子だろ?? 街であった時はそんな地味な格好してなかったろ」
葵はずっと美雪に言いたかった事がようやく言え、今まで溜めていたものが爆発するかのように、ベラベラと話し、説教するように美雪にそう言った。
女装のし過ぎで、女装の楽しみを見出してしまい、下手したら普通の女子以上に、美の探求に対する思いが強い葵にとって、美雪のしている事が理解出来ず、口を挟まずにはいられなかった。
葵は絶対に口にはしなかったが、街で出会った美雪は、装いも大人で凛々しく、それでいて綺麗な美しさを持っていると思っていた、それも、女装をした自分に迫る程の。
綾と紗枝は、学校以外でも美雪と葵は交流があるのかと、そこに引っかかっていたが、葵はそんな彼女達に質問をさせる隙無く話し続けた。
「なんで、学校でアレをやらない。ずっと理解出来なかった。だから、お前には出てもらう。
もちろん本気でミスコンに出ろよ? 手抜きは許さん」
葵は過去に何度か、美雪を綺麗だと、見とれるような事があった。
それは、葵にとっては絶対に認めたくないような事で、東堂との事件以降、その気持ちは強くなった。
「そんな事言われましても……」
葵に強く言われた美雪は、失礼な事を言われたにも関わらず、特に怒ったりする気配は無く、困ったような様子で答えた。
「ダメだ、なんなら俺がお前をめかし込んでやる。男にやられるのが嫌なら、俺の姉貴はプロのスタイリストだッ。姉貴を連行してめか仕込ませる」
葵は強い気にどんどんと美雪が断れないような状況に追い込むようにして、話した。
そんな葵の必死にも思える、美雪のミスコン出場への猛プッシュに綾と紗枝は驚き、呆然とする事しか出来なかった。
「いや、流石にお姉さんに悪ッ……」
「大丈夫だッ。 姉貴は可愛い女の子が死ぬほど好きな変態だ。 しかも、花のJKとなれば頼まなくとも、あっちから来る」
「え、えぇ〜…………」
美雪が葵の姉に悪いと断りをいれようとした瞬間、葵は美雪が全てを言い終える前に、話を遮り、答えた。
葵のあまりの強引さと、姉を平然と貶め、利用する葵に美雪はついに反論する言葉が見当たらず、嫌そうに声を上げることしか出来なかった。
「えッ!? ちょっと待って? 立花のお姉さんってスタイリストさんなの??」
葵の目論見とは違い、何故か今まで黙って目の前で起こる現象を見つめる事しか出来なかった綾が、興味津々で葵の言ったことに食いつてきた。
「ん? あぁ、だから出ろッ」
葵は綾には興味無さそうに、冷たく適当に答えた後、視線を再び美雪に戻し、ミスコンに出ることを強要した。
「分かったッ! 出る出る〜!!」
「お前に言ってないッ!!」
「紗英も立花のお姉さんにやってもらおッ!? きっととんでもない事になるよ〜」
葵の姉にメイクなどをやって貰えることで綾は俄然やる気が出てきたが、綾などどうでもいい葵は、騒ぐ綾を黙らせようと、そう言い放った。
しかし、綾はまるで聞く耳持たず、葵を無視し、葵の姉の話に夢中だった。
「私はもう出ることは確定してたし……どうせやるなら、私もやってもらおうかな……?」
綾の熱にやられたのか、それても綾と同じでスタイリストにやってもらう事でやる気が出たのか、葵には分からなかったが、紗枝もだんだんと表情が明るくなり、あれほど出る事を嫌がっていたミスコンを、楽しみにしているようだった。
葵は紗枝のその言葉に反応し、容姿が優れている紗枝が自分の姉の力によって更に美しくされるのだとしたら、ミスコンの勝負は危うくなるなと、考えが過った。
「まぁ、お前達もやって貰え……姉貴には言っといてやる。
これで、契約成立だな、当日楽しみにしとけよ」
葵はそう言って、まだ美雪がやるとも言ってないのにも関わらず、強引に決定し、振り返り、自分の男友達が溜まる方へと向かい、その場から立ち去っていった。
「私まだやるなんて一言も言ってないんですけど……」
美雪は、立ち去っていく葵の後ろ姿を見つめながら、近くにいる綾や紗枝に聞こえる程度の音量で呟いた。
「あ、アハハハ……、ま、まぁ、でもいいじゃんッ!?
プロのスタイリストにやって貰えるなんて滅多にある事じゃないし……それに、私、橋本さんの本気でめかし込んだ格好、ちょっと……いや、めちゃめちゃ興味あるしッ」
「うんうんッ! 私も興味あるかなッ。
前にも言ったと思うけど、橋本さん普段から綺麗だと思うし、もっと綺麗になると思うよッ?」
綾は、強引に決めつけられた美雪を見て、苦笑いを浮かべた後、美雪を励ますようにして、自分の意見を美雪に伝え、紗英も同じことを思っていたのか、間髪入れずに綾の意見に激しく賛同した
。
「た、たしかに、プロのスタイリストさんは気になるかな……うん、前向きに考えます。 それに私が出ないと立花さんも出ないとか言い出しそうですし」
美雪は2人に励まされようやく前向きにミスコンに挑めるような考えに変わり、晴れた表情で綾と紗枝に向かって答えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「おいッ!! 葵ッ、どうゆう事だよッあれはッ!!」
葵は美雪達との話が終わり、いつものメンツがたむろする所へと戻るや否や、いきなり肩に腕を回され、友人である神崎 大和が話しかけてきた。
葵は、美雪達と会話する中で、妙に大和達がいる方から強い視線を感じるなとは感じていたが、大和が話しかけて来たことでそれは間違いではなかったと確信した。
「お前、ずっとこっち見てただろ? あんまジロジロ見てると嫌われるぞ? 女子はそゆうの敏感なんだから……」
「なッ! お前、ちょっと委員会になって女子と交流持てるようになったからって勝利者ヅラかッ? おいおい、お前達、ここに勝ち組だと勘違いしてる奴がいるぞ〜」
葵の言葉に、大和は激しく動揺し、何かと葵にいちゃもんを付けた後、一緒に昼休みを過ごしていたいつものメンバーである山田と中島に呼びかけ、2人は葵に向かってブーブーとブーイングをしていた。
「ハイハイ、もうそれでいいよ……、今、俺は機嫌が良いからお前らのそんな僻みや妬みすら広い心で受け止められるし」
葵は、山田と中島のブーイングに見向きもけず、そう言い放つと彼等のブーイングはより一層酷くなり、大和まで加わっていた。
(さてっと……、あっちからミスコンの話を俺にふっかけてきたのは意外だったが、ラッキーだったな……こっちから誘う手間が省けたし……)
葵はついに大和達を無視し、黙り込んで考えをまとめ始めた。
葵も昼休みに廊下へ出た時、たまたま張り出されていたミスコンのチラシが目に入り、綾や紗枝を参加させるつもりは無かったが、美雪だけにはどうしても出て欲しかった。
(これで白黒ハッキリどっちが美しいか決まる……いちいちチラついたアイツへの妙な感情も消え失せるだろ……見てろよ? 橋本 美雪…………)
葵は、今度はニヤニヤとニヤケ初め、それを見た大和達はザワザワとざわめき始め、不気味に笑う葵に完全に怯えていた。




