俺より可愛い奴なんていません。10-4
◇ ◇ ◇ ◇
『Fairy』撮影日当日。
葵と紗枝は、撮影スタジオへ、予定の時間通りに訪れると、今回関わるスタッフ等々と一通り挨拶を交わし、撮影の準備へと取り掛かった。
葵は今回、紗枝のメイクも兼ね、数点衣装を見に纏うが、どの衣装でも違和感のない美しいメイクを求められていた。
メイクをする立場である為、着替えは紗枝からであり、紗枝の仕上げが終わると葵という順番になり、順調にその準備は進んだ。
葵と紗枝が人取り準備を終え、カメラスタッフ、監督等が集まる撮影スタジオへとその姿を現すと、スタジオから大きなどよめきが起こった。
「おいおい、マジか……? 高校生?
すげぇ、モデル向きの二人じゃん…………。
ここ最近撮ってきた中では、ピカイチなんじゃね?」
「知ってるか? あの黒のニットワンピースにグレーのジャケットを羽織ってる子。
実は、男らしいぞ……」
「うわ……、あのクオリティで男なの……?
女として自信無くすわ………」
紗枝と葵はスタジオに顔に出すと、すぐさまその出来栄えに、多くの称賛の声がポツリポツリと上がった。
紗枝の称賛ももちろんだが、中でも男という事もあり、やはり葵の女装のクオリティに驚く者が多数だった。
「モデルにしては俺はそこまで身長もあるわけじゃ無いからな……。
男なのにそこは勿体ないよな」
「い、いや! そこまで女装できてるんだから上等だよ!
なに? 葵君はパリでも目指してるの!?」
称賛の声ばかりが聞こえる中、葵はいたって冷静に自分の姿を客観視し、評価を下し呟くと、紗枝はその意見が信じられないといった様子で答えた。
紗枝と葵が今回挑むコーデのテーマは冬コーデ。
夏休みが終わったとはいえ、まだまだ残暑が残る季節だが、ファッション業界はいち早く次の季節の、流行りのコーディネートを取り入れ、雑誌にしていた。
葵のコーディネートは、足元、くるぶし程にまで長い黒のニットワンピースに、上には、上品な色合いで、少し光沢も感じさせる、ザラザラとした触り心地のグレーのジャケットを羽織っていた。
髪はウィッグだが、セミロングで肩当たりまで髪を伸ばし、変にカールなどはさせず、真っ直ぐにさらさらとした印象を持たせる髪をしていた。
まさしく葵の得意なカッコいい系、キレイ系のコーディネートだった。
対して紗枝は、可愛い系で魅力を出しており、キャラメル柄の程よくもこっとしたニットに控えめなベージュなスカートがひざ元まで伸びていた。
スカートの下には黒いタイツがはかれ、とてもやさし気な雰囲気を醸し出していた。
葵と同じセミロングであるが、髪にはカールが施され、少しやんちゃで、ワイルドにも見えるそんな髪型をしていた。
少し固い女の衣装もある葵に対し、遊び心が見え隠れする可愛い系の紗枝といった感じで、二人並ぶとそれぞれの魅力で、そうとう絵になる二人だった。
「うん! 二人とも僕の見込んだとおりだね!!
それじゃ! 早速撮影入ろうか?」
田辺は。葵と紗枝の近くまで来ると、葵と紗枝の出来栄えを見て、満足げに笑みを浮かべながら、葵と紗枝にそう言い放ち、撮影スタッフに招集をかけ、段取りの確認を行い始めた。
葵はそうでもないが、紗枝は緊張の面持ちで、田辺からの支持を待っていると、不意に二人に声を掛ける一人の女性スタッフが現れた。
「あ、あの~~、ちょっと、噂で聞いてしまったんですけど……。
もしかしてコスプレされてるAoさんですか?」
声を掛けた女性スタッフは葵の方を向き、もじもじと緊張した様子で葵に話しかけていた。
勿論近くにいた紗枝もその話声は聞こえており、することも無かった為、会話に入るつもりは無かったが、同様にその話を聞ていた。
「え? えぇ~~っと、まぁ……一応、その名前でやってたりはします」
葵は自分から公言はしていないが、別にこの女装の趣味とコスプレの事を隠しているつもりも無かった為、素直に認めた。
すると、葵に話しかけた女性スタッフの瞳が輝き始め、彼女の体温が上がるのを感じた。
「や、やっぱりそうなんですねッ!?
噂だし……、こういう雑誌には出てこられない方だったんで、疑ってはいたんですけど。
嬉しいです!! 私、実はAoさんのコスプレ追ってて!!」
感極まった彼女は饒舌に、テンションが上がったことで声色も音量も上がっていった。
「別に大した活動はできてませんが……。
ありがとうございます。 素直に嬉しいです」
「そ、そんな感謝なんてッ……!?
あ、あの後で写真とか良いですか?」
「いいですよ。
女装を解く前だったら全然」
「ありがとうございます!!
じゃ、じゃあ、撮影終わったら、また声掛けますね!!」
葵は女性に短く返事をし答え、女性が遠ざかっていくのを確認すると、その場が少し、異様な雰囲気を醸し出している事に気が付いた。
当たりを見渡すと、その原因はすぐに分かった。
「な、なんかあったのか……?」
葵は明らかに怪訝そうな表情を浮かべ、不満が見える紗枝に恐る恐る尋ねた。
「いいえ、別に……。
私の初対面の対応とは随分違うなと……」
「うッ……!
いや、ま、まぁ、あの時はいろいろ思うところがあってだな……」
「分かってますよ。
ただ、なんだかなぁ~~って思っただけです」
葵は今は反省もしている痛いところを付かれ、ばつが悪そうに謝罪したが、紗枝の機嫌はあまり良くはならなかった。




