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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
九章 コスプレ編
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俺より可愛い奴なんていません。9-18


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なんか凄い話になっちゃったね……」


田辺たなべの熱意と勢いに押され、一先ずこの件は持ち帰って検討するという話で落ち着き、あおい紗枝さえは次なる撮影場所に向け歩いていた。


小百合さゆり千春ちはるも葵の頼みを快く引き受けてくれ、このイベントにおける一番の盛り上がりを見せる会場へと足を運んでくれていた。


「まさか俺まで巻き込まれる事になるとは……」


「ご、ごめんね?」


紗枝も流石に急に田辺の前で提案してしまった事と、紗枝がそれを発してしまった事で、Aoと葵が同一人物だという事がバレ、紗枝はその事を申し訳なさそうに謝罪した。


「いざ自分がやられるとかなり厄介だったな」


葵はバレてからの田辺の勢いを思い出し、疲れた様子で声を漏らし、そんな葵に紗枝は苦笑いで答えるしかなかった。


「凄いね君達~~。

初コスプレデビューにして、雑誌のスカウト来るなんて……」


「ねぇ? いいなぁ~~、お姉さんもスカウトされてみたいな~~」


紗枝がスカウトされた話は別に隠す程の事でもなく、むしろ本人もまだ迷っている部分も大いにあった為、紗枝は意外と簡単にその事実を小百合と千春に話していた。


「いや、私たちは無理でしょ? 年齢的にも」


「えぇッ!? まだ20後半だよッ!?

厳しすぎない??」


千春の言葉に、小百合は衝撃を受けつつ、若干傷付いているような様子で返事を返した。


「――多分、千春さんも小百合さんも出るだけなら、普通に出れると思いますよ?

新人と素人さんで企画持ってたり、読者モデルなんかもありますし」


「だよね~~? 別に自信があるわけじゃ無いけど無理じゃないよねぇ?」


「小百合~? お世辞だよ。

葵君も付き合わなくていいからね~?」


葵の賛同を得て調子に乗り始めた小百合をピシャリと指摘し、千春は気を遣わせないようにそう告げた。


「いや、別に冗談のつもりはないですけど…………。

タイミングとか運にも寄りますけど、無い話じゃないと思いますよ?

充分、雑誌に載っててもおかしくない容姿かと……。

普通に美人ですよ?」


葵の裏表のないハッキリとした物言いに、葵よりも大人である小百合と千春は若干戸惑った様子で、こっぱずかしさを感じた。


「あ、葵ってさぁ……、プレイボーイだよね」


「うん……、それ思った…………。

紗枝ちゃんは葵君と同じ学校なんだよね?

葵君って学校の女子に対してもこんななの??」


「ま、まぁ……」


奇妙なものを見る様に葵を見つめ話す二人に、紗枝は苦笑いで肯定した。


「紗枝ちゃんも大変だね……。

こんな外国人並みに、ハッキリと物を言う人がいたらヒヤヒヤものだわ」


「ね? その気にさせて女の子とか泣かせてそう」


小百合と千春は学校生活での葵を知る由も無かったが、学校での葵が容易に想像でき、何故かがっかりしたような雰囲気を醸し出しながら、葵の批判をした。


もちろん葵には言いがかりに近く、何故そんなことを言われているのか、まるで察しが付かず、否定することなく、むしろ首を縦に振っている紗枝を見て、納得はいかなかった。


「さっきから何を言ってるんですか? 二宮も学校での俺を知ってるだろ??

普通に女子からは嫌われてるし、基本、俺も異性は嫌いですよ。」


「ほんとかよ~~。

気になる事かにはすぐに嫌いだの、可愛いだの言って近づいてそう」


「ま、まぁ、立花君はあんまりナンパみたいな事はしないですね……。

ただ、よく恥ずかし気もなく、簡単に可愛いとか綺麗とかは言ってきます」


葵は助け舟を出してくれるであろう紗枝に話を振ったが、葵の思い通りにはならず、紗枝の発言も追撃にしかならなかった。


「あぁ~~、それが駄目だわ。

その気にさせてそう……」


「だね! 言いそうなチャラい系が、言ってくるのならまだしも、葵君はそうでも無いし」


葵はいよいよ、どうしてそう捉えれられるのか理解できず、分かろうとする努力を止め、強く反論する気も失せ始めた。


「つくづく女性って訳分からないですね。

自分たちは「かわいい~~」だとか、「綺麗~」だとか多用するのに……」


「女のそれと、男のそれとでは違うでしょ!

社交辞令ならまだしも……」


葵は小百合の言葉を聞き、深くため息を付くと、その話題にはこれ以上参加することは無く、小百合はそんな葵に「あぁ~~、拗ねちゃった」と冗談交じりに一言告げると、同じ話題のまま女性三人でワイワイと盛り上がり始めた。


話題は二転三転し、女心の話へと変わり、葵はふと以前カラオケで、似たような話題で顰蹙ひんしゅくを買ったなと思い出しながら、目的地に付いた後の事を考え始め、女性陣の話題からも意識を逸らした。


「た、立花君ッ!」


女性陣の会話から意識を外し、考え事に耽っていると不意に、後ろ付いてきている紗枝に名前を呼ばれた。


葵は短く返事を返しながら、数十分ぶりに女性陣の方へと意識を向けた。


小百合と千春はまだ会話で盛り上がっており、紗枝は少しの間そこから抜けて来たといった様子だった。


「どうかしたのか?」


「えッ? え、あ、まぁ~……、えぇ~と……」


葵が尋ねると、紗枝は何故か動揺したように何かを言い淀み、葵はそんな紗枝を不思議そうに見つめた。


「あ~、え、ぇ~っとさッ! 今行く会場って、一番? 結構、人が多くて人気なとこなんだよね?」


葵は何とか言葉を返した紗枝に、未だに不信感を抱きながら、淡々と答えた。


「まぁ、広いな場所は……。

雑誌に出てるようなプロもいるし、事務所所属のタレントだったりいるから、多分一番盛り上がってる場所でもある」


「へ、へぇ~~、凄いねッ!」


葵は紗枝の反応から、この質問を聞きたくて、話を掛けたわけじゃ無いのはすぐに分かった。


「なんだ? 何が聞きたいんだ?」


中々要領を得ない紗枝に、葵は目的の場所に付くまで、そう時間もかからないことから、本題を言わせるようにそう尋ねた。


「えッ? え、えぇ~とさ……。

そこの会場って、立花君のお姉さんだったり、妹さんがいたりするよね?」


「ん? あぁ~、まぁ、いるな……」


葵はらん椿つばきの名前が出るとは思っても見なかった為、一瞬驚いたが、素直に質問に答え、それと同時に、いよいよ紗枝が何を尋ねるのか、見当がつかなくなっていた。


「じゃ、じゃあさ? 立花君の事を名字で呼んでたりしたら、ちょっと混乱しちゃうというかさ?

その~、小百合さんや千春さんも名前で呼んでるし……」


「別にいいぞ?」


「へ?」


紗枝はまだすべてを言い終えておらず、話の途中だったが、葵は紗枝の言葉を遮るようにして、紗枝の提案を了解した。


どもりながら、中々提案せずにいた紗枝は、あまりにあっさりとした承諾に、思わず声を漏れ、何が起こったのか理解できていないような様子だった。


「名前で呼ぶって事だろ? 別にいいぞ、好きに呼んでもらって……」


「そ……、そっか……。

じゃ、じゃあ、え、えぇっと~~、あ、あおい……くん…………」


葵は特に何の抵抗も無くそれを承諾し、紗枝は早速葵の名を呼んだが、妙な間と、あまりに恥ずかしそうに呼ぶ紗枝の姿を見て、葵にまでもその羞恥心が移った。


「その……、何か変な間を持たされると恥ずかしいんだが」


「あ、あぁ、ご、ごめんね? ちょっと、まだ、その、慣れて無くて……」


「あぁ、まぁ、いやいいんだけどさ…………」


「えっと……、なんか、ありがと……」


「いや、なんでお礼ッ……」


葵は照れ臭そうにしながらも笑みを零す紗枝に、そう言いかけたところで、不意にまた違う方向から女性の声が掛かった。


「葵~~ッ!」


その聞き覚えのある声に葵の声は遮られ、声のする方へと視線を向けるとそこには手を大きく振る姉、蘭の姿があった。




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