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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
九章 コスプレ編
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俺より可愛い奴なんていません。9-17


田島たじまから急なオファー、スカウトが紗枝さえに来たことで、あおいは一先ず、紗枝の撮影を一時中断させ、人ごみの落ち着いた場所へ、紗枝と田島を連れ移動していた。


「いやぁ~~、ナンパや変質者と疑われ始めた時は、どうしようかと思いましたよ~~」


葵と紗枝がようやく自分の話を、まともに取り合ってくれえそうな雰囲気を感じ、田島はホッと胸をなでおろし、頭を片手で軽く撫でる様にしておどけた様子でそんな言葉を発した。


「いえ、こちらこそ疑ってすみません……」


「あぁ~~、いえいえッ! 私がアポなしに声掛けたのが悪いので。

いきなり雑誌に出てくれッ! なんて、急すぎて怖いですよね……。

すみませんでした」


紗枝と田島はお互いにぺこぺこと頭を下げあっている中で、葵は一人冷静に、淡々とした様子で、田島に本題を切り出した。


「それで、雑誌に出したいって? コスプレイヤーのニノをですか?」


葵はこの場では一般の素人であり、どこの事務所にも所属しているはずの無い、普通の女子高生、紗枝の本命は出さず、あえてこの日限りの偽名を使って話した。


「そうです! 『Fairy』の一般のモデルとして是非とも数ページ、載っていただきたいなと思いまして!!」


「素人ですよ? しかも今日だってその日限りのモデルです。

『Fairy』なら載りたいと思うモデルの卵だって大勢いるんじゃないんですか?」


葵は田島を『Fairy』の雑誌の関係者ではないと疑ってはいなかったが、紗枝をスカウトする正当性と、彼が信用に足る人物なのかを見極めるために、あえて挑発的な、少し攻撃性のある質問を投げかけた。


田島は葵の意図を分かってか、知らずかその表情からは読み取れなかったが、腰は低く、笑顔のまま、親切丁寧に質問に答えていった。


「モデルの卵じゃダメなんです……。

実は私が新しく立ち上げた企画でもありまして、町にいる素人の美人さんやかわいい子にモデルをやって貰って、今流行りの服とかコーデとかを見せる企画でしてね?

もちろん素人だって事は公言してますし、その雑誌を買っていただいた方は、モデルより距離が近いためか、想像しやすく、そのファッションを取り込みやすい。

ウチとしては売り上げだけでなく、素人さんがモデル事務所にの目に留まって、大成してもらえたりすれば、そのデビュー前の写真として話題になる。

後にも先にも利益になる、企画自体もそれなりに人気もありますよ!」


「なるほどね……」


葵はここで話を一度区切り、今度は紗枝へと視線を向けた。


「どうする二宮? テキトーに参加するだけなら問題ないと思うぞ??

二宮に興味があればの話だが」


葵は田島を前にして失礼かと思いもしたが、ここは包み隠さず、葵が素直に感じ思った事をそのままに紗枝に伝えた。


「え……? う~~ん、興味はあるんだけど……」


「ん? 何か引っかかる点でもあるのか?? 少しでも疑問に思う事があるんだったら雑誌に出るのは辞めとけ。

おすすめはしないぞ?」


葵の言葉に田島は「ちょ、ちょっとちょっと! そんなぁ~~……」と泣き言のように声を発していたが、葵は依然として毅然とした態度で、横暴に見えなくも無かったが、田島の依頼から引き離すような態度を取った。


葵はここまで熱心に、紗枝をスカウトする田島を引き離すのには訳があった。


紗枝の素質を、葵も認めている部分があり、少しのきっかけさえあれば、簡単にモデルに成れてしまう程に、紗枝に才能を感じていた。


すぐにそれなりの事務所の目に留まり、周りの勢いも凄まじく、本人も簡単に流されるまま、モデルになってしまう例を葵は知っており、周りからおだてられる事で、その気になってしまう者が、何人かいた事も知っていた。


紗枝がそれに当てはまらないとは、葵は断言することが出来ず、全く興味のない世界なのであれば、関わらない方が良いとまで思っていた。


それ程までにモデルという業界は輝かしく、興味のない者でも夢を抱かせる魔性な世界だと認識していた。


「私一人だと、ちょっと恥ずかしいんだよね……」


少し過保護気味にも思える葵に対し、紗枝は恥ずかしそうにそう呟いた。


「た、確かに最初は恥ずかしく思えるかもしれないけど、やってみると意外とみんないい表情になるよッ!?

緊張は解れるから!」


「――やってみたいのか?」


紗枝を必死に説得する田辺の隣で、葵はただ紗枝の本音を促す様に尋ねた。


「ちょ、ちょっとね……? 将来の夢……とまではいかないけど、私が憧れてる世界に、ちょっと近づくかもしれないし……」


「演劇か??」


葵は先程話していた事もあり、すぐに紗枝の言わんとしている事が分かった。


葵が尋ねると紗枝は増々恥ずかしそうにしながらも、首を小さく縦に振り、葵の質問に答えた。


「――演劇……、近いか??

遠ざかるわけじゃ無いとは思うが…………。

あんまり詳しい世界でもないから分からないな」


「う~~ん、演劇かぁ~~……。

舞台女優とかって事だよね?? ウチの雑誌はタレント事務所も見てるから悪くないと思うけどね?

最近のタレント事務所は多様化してるから、スカウトされる事務所にもよるとは思うけど……」


紗枝の夢を聞き、葵は専門外という事もあり、途端に頭を悩ませ、今まで熱心に勧誘していた田辺も、思慮深く考え込むようにしてそう答えた。


「あ、いや! 別に雑誌でモデルしてスカウトを狙ってるとかじゃないよ!?

高校を卒業したらちゃんと、その道に進めるような、専門学校に行く予定でもあったし……。

ただ、そこまで人前に出るのが得意では無いというか……、ちょっと上がっちゃう、緊張しちゃうところを直せたらなぁ~って…………」


「ミスコンの時も、クラスの委員長としても十分堂々してたと思うけどな」


「あ、あれはほら! せ、責任感みたいなものがあったり、私が失敗したら他の人に迷惑が掛かったりするし……」


「なるほどね…………」


葵は紗枝の言葉を聞き、紗枝にも考えがあり、この提案を受けまいか真剣に考えている事理解し、どんな結果であれ、紗枝の考えを尊重する事を決めた。


そうして、これまでのように執拗に間に入る事は、辞めようとそう思った時だった。


「た、立花君も一緒に雑誌に出てもらう事って出来る……かな……?」


「は……?」

「え?」


葵は紗枝の不利のならないよう、要所要所で田辺との話し合い加わるスタンスに変えた途端、紗枝は葵に懇願するように、上目遣いで様子を伺いながら、そう提案し、急な願いに葵と田辺は、思わず声を漏らした。

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