俺より可愛い奴なんていません。9-15
◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁ~~、こんなに変わるとはね……」
「ごめんね? 葵君。
早く会場に戻りたいだろうに、写真撮るのに勤しんじゃって…………」
葵は、小百合と千春のコスプレを終え、会場に二人を連れ歩いていた。
葵は特にそこまで焦ってはいなかったが、千春は長々と完成した自分たちのコスプレを、お互いに写真に取ったり、ツーショットを取って貰ってりと、時間を使わせてしまった事を申し訳なさそうに思っていた。
「千春ぅ~~、葵は別にそんな小さなこと気にしてないって! なぁッ?」
小百合も千春も予想以上の自身の変身っぷりにテンションが上がっており、小百合は上機嫌なまま葵にそう声を掛けた。
「はい、気にしてないですよ?
むしろこっちはお願いしてもらってる側です……。
会場に出て一般の方に披露してもらえるだけで十分です」
「ほらな? 葵は童貞高校生なのに大人だなぁ~~。
ウチの職場のアホ男子共にも見習ってもらいたいよ」
葵は皮肉交じりに褒められたことに、馬鹿にしているように感じ一瞬ムッとした表情を浮かべたが、メイクや衣装選びをしている際に、小百合や千春とはそれなりに打ち解ける事が出来、軽い冗談も言い合えるようになるまでには関係性が出来上がっていた。
「童貞でも何でもいいですけど……、お二人は会場に付いたら基本的に軽いポージングだけをして、許容できる範囲までの要求のラインは決めてくださいね?
少しでもこれはちょっとと思うような要求であれば無視、断る事……。
一度ラインを越えてしまえば、何度もそのラインを超えた要求が飛んできます。
後、こういう場でもナンパ者は一定数います。
千春さんも、特に遊び慣れてそうな小百合さんも慣れてるとは思いますけど、
素人のコスプレイヤーを狙ってきますんで、気負付けてください。」
「うん、丁寧にありがとね?
充分気を付ける」
葵のコスプレ撮影における必要最低限の事を小百合と千春に説明していき、二人はその葵の話をうんうんと頷きながら、心にきっちりと取り留めておくように聞いていった。
「なんだなんだ~、葵が生意気になってきたぞ~~。
まるで人をビッチみたいに……、しかも私だけ特に遊び慣れてるってなんだよぉ……」
「いいじゃないですか? 大人の女性って事ですよ……。
童貞高校生からしたら憧れですよ?」
「ムッ……、生意気な奴め……」
小百合は悪態を付くようにそう呟いたが、ほんとの意味で嫌悪感は感じられず、葵の言葉もあくまで冗談と受け取っているような様子だった。
「でも、小百合の言う通り葵君、ほんとなんか手慣れてる感じだよね?
『ミルジュ』だっけ? あそこで長くバイトとかしてる感じなのかな??」
「『ミルジュ』でバイトとかはした事ないですよ? 姉が働いているんで、偶に手伝いとかはしてますけど……。
このイベントには詳しかったりするのは、俺も何度かコスプレする側で、参加したことがあるからだと思います」
「へぇ~~、コスプレとか好きなんだね~~」
「え……、あ、ま、まぁ…………」
葵は女装を趣味としてやっていた事を二人に話していなかった為、このイベントも女装を楽しむ延長上で楽しんでいたとは言えず、濁す様にしてテキトーに答えた。
「あッ!? そういえばさ、葵に聞いてなかったんだけど、
そうして私たちのコスプレはこのキャラクターに決めたわけ?」
葵が自分の返答に不自然だったかと、不安に感じ始めたところで、そんな葵の悩みも全く感じ取っていない小百合は、思い出したかのように葵に質問を投げかけた。
「え? あ、あぁ特に大きな理由は無いですよ?
素の二人を見た時に、パッと似合いそうなキャラクターを何人か思い浮かべて、その中から選んだだけです」
「えぇ~~! なんかもっと具体的な……、何かないのッ?」
葵は真剣に答えたつもりだったが、小百合は葵の答えに納得いっていない様子で、少し駄々をこねる様に追求した。
「具体的ですか……?
う~~ん、お二人を見た時に、高校生の年齢層のキャラクターは、全部俺の中では無くなりました。
別にそれは変な意味でなく、おそらく高校生学生のキャラクターもお二人ならある程度こなせると思うんですけど、一番魅力を出したいならば、やっぱり大人のキャラクター。
年齢的に若かったとしても、学校に通っているようなキャラは選択肢から外しました」
「うんうん、まぁ、ちょっと引っ掛かるけど、言ってることは分かる」
「いや、ほんとに変な意味で無くですよ?
高校生のキャラでも、上手く側だけ作って見せる事はできると思います。
だけと雰囲気だけは誤魔化せなくて、やっぱり成人した大人雰囲気が出ます。
プロのモデルならそういうのも上手く操れるのかもしれないですけど、素人では難しい。
何で、一番魅力的に見せれるのは大人な雰囲気を纏ったキャラクターかと思いました」
「なるほどね……、度々の失礼、今の説明で許そう……」
葵の弁明に、小百合は納得したのか深く何度も頷き、そう呟いた。
「選んだお二人のキャクターもコスプレイヤーの中ではメジャーですから、
傍から何のコスプレをしてるかも一発で分かりますよ?」
「あ、えぇ~となんだっけ? 何かのゲームキャクターなんだよね?
ウチはゲームはあんまりやらないからなぁ~~
千春は分かる?」
「うん! 分かるよ。
小百合も聞いたことあると思うけど、ファイ〇ルファ〇タジーで出てくるキャラクターだよ?
私がしてるのがⅦ(セブン)で出てきたキャラで、小百合はⅩ(テン)のキャラクター。」
「あぁ~、FFね?? 知ってる知ってる!」
千春に言われ、小百合はテンションが上がったように声が大きくなり、一人ブツブツと「なるほどね」と何かに納得するように呟いていた。
そんな小百合から千春は視線を外し、まだ葵に聞きたいことがあるのか、葵に質問を投げた。
「葵君、でもFFなら知名度もあるⅦで揃えても良かったのに……。
ほら、私はティ〇ァをやってるから、エ〇リスを小百合にしてさ!」
「あ~、まぁ、ごもっともなんですけど、これは僕個人の意見でイメージなんですけど、エ〇リスのコスプレって、あんまり日本人の容姿に会ってないように思えて……。
白人の方とか、ハーフの方がやってるのを写真見たりした時に、イメージ固められちゃいまして……」
「なるほど……、色々あるんだね~~」
「それに、小百合さんのやって貰ってるⅩのキャラクター、ユ〇ナですけど、あれって一作目のユ〇ナじゃないのはご存じですか?」
「うん! 私はFF好きだからよくわかるよ! 二作目の方の衣装だよね!!
――――あ、何か葵君の意図が読めて来たかも……。
まぁ、小百合は二作目の方があってるよね」
「ちょっと垢抜けた感じの方が、それっぽいですよね……。
これも個人的にはですけど、一作目のユ〇ナの方が好きなんですけど……」
「私も」
葵と妙に馬の合った千春は、ニコッとした笑顔を浮かべ、葵も様々な背景から小百合の演じる事となったユ〇ナの事を思い出し、笑みが零れた。
葵は意地悪で二作目の方を選んだわけでは無く、本当に小百合に合っていると思い、更には彼女を魅力的に見せられると思い選んだわけだったが、二作目のユ〇ナは様々な要因から敬遠されているような節があり、一作目とのギャップもあったことで、二作目のユ〇ナよりも一作目のユ〇ナが支持されている雰囲気があった。
「なに二人でこそこそ笑ってんだよ~~」
葵と千春の笑顔に気づいたのか、小百合は少し不機嫌そうに二人に尋ねたが、二人はもちろんその事に付いて説明することは無く、その後も上手く話を交わし続け、談笑をしている合間に、気づくと会場へとたどり着いていた。




