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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
九章 コスプレ編
177/204

俺より可愛い奴なんていません。9-3


 ◇ ◇ ◇ ◇


「なんでこうなった…………」


夏コミ 会場。


葵は数多くの撮影者に囲まれ、困惑した表情を浮かべ、撮影者より依頼されたポージングのまま、空しく一言呟いた。


次々にシャッターが切られ、パシャパシャと音が鳴る中、葵はめげずにそれでも、近場の女性の姿を探した。


ピンク髪のメイドのキャラクターをコスプレする葵の隣には、葵が前日から用意していた看板を置き、自分の本来の目的をそこに綴っていた。


――未経験者 コスプレ募集! どんな方でも、隣のコスプレイヤーのような可愛いキャラクターにコスプレが出来ます!!――


看板の一番の見出しには大きくそう書かれていたが、残念ながら本来の目的の人材は誰一人として現れなかった。


(やばいな……、かれこれもう会場に来て2時間経ちそうだな…………。

イベント開始と共にこうして会場にはいるけど、一人もまだコスプレしてない)


葵は近場にあった時計を横目で確認し、自分の原状のヤバさを再確認した。


(最初の作戦の方針に変えた方がいいのか……?

でも、何組かに声はかけたけど、ことごとく駄目だったしな…………)


葵はこうして撮影会場に至るまでに、違う作戦で素人さんに声を掛け、コスプレを誘う方針を取っていた、


葵が自信に施したコスプレキャラのまま声を掛け、自分をサンプルの様に使い、コスプレを誘ったが、自身のコスプレが称賛されるだけで、葵の図ったようにはならなかった。


そして、1時間半程会場を歩き回った上、もう一つの作戦として、看板を利用し、コスプレイヤーが多く集まる撮影会場にて、やりたい方を募る形の作戦を取っていた。


しかし現状を見ても、葵の作戦は上手くはいかず、ただ変な看板が隣にあるだけで、純粋にコスプレイヤーとして活動しているのと全く変わらなかった。


(去年までなら、これでもよかったものの、今年はこれじゃ来た意味がないな……)


葵はどんどんと暗い表情になっている中、葵に群がるようにして壁のように集まる撮影者は声を上げた。


「すみませ~ん! 視線上げて、笑顔いただいても良いですか~~!?」


葵はその言葉に何も告げることなく要望に応えたが、もちろん明るい笑みなどは、浮かべることは出来ず、無理に作った笑顔は無機質でとても冷たいものになった。


しかし、葵のその笑顔はキャラのイメージとあっていたのか、「おぉ~~ッ」と男たちの野太い歓声が上がり、再びシャッター音が盛り上がるようにして、絶え間なく鳴り響いた。


「――――兄さんは一体何をしてるの……??」


葵のそんな姿を遠目から、伺う様にして見ていた椿つばきは、少し呆れる様にして呟いた。


「クッ……、ブッフㇷッ!

今年も、有名女装コスプレイヤー Aoあおは賑わってるねッ」


呆れた様子で呟く妹、椿に対して、同じく撮影スペースに訪れていた姉のらんは、笑いをこらえきれず、吹き出しながら、目に涙までも浮かべて答えた。


「お姉ちゃん……、兄さんをそう呼ぶのやめてよ…………」


蘭の言葉に引っ掛かった椿は、ため息交じりにそう呟くと、葵に近寄る事は無く、そのまま何か次の目的があるように、止めた歩みを再び進め始めた。


椿が嫌がるAoと言うのは、葵がコミケで披露する際に使用した源氏名のような物であり、葵の撮影者や他のコスプレイヤー達は葵をそう呼んでいた。


葵自体も最初は、趣味のような感覚でコスプレをし、その姿を披露していたが、葵の女装の腕も相まって、コスプレデビューからその人気は確立された。


趣味で見られるために始めた為、他の関係者や参加所と深く関わることも無く、そのためAoの情報は少なく、ミステリアスな部分もAoの魅力の一部でもあった。


そんな界隈では少し有名な弟を、笑いながらも、蘭も椿と同じように自分の目的の為、葵に近寄りはせず、椿の後に続くように葵から離れていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「駄目だ……、全く捕まんない…………」


葵はこのイベントに来て珍しく、歩き回った事もあり、疲れ、近くの石段に腰掛け、休憩を取っていた。


(何とか、カメラマンを納得はさせたけど……。

マジで疲れたな……)


葵は会場に訪れ、2時間を回ったあたりから、このままではただのモデルとして1日を終えてしまうと焦り、撮影時間を一時間も取っていなかったが、早めに切り上げ、集まったカメラマンを無理に納得させ、逃げる様に撮影を終わらせていた。


初めてコミケに訪れた際に、カメラマンより不意に名前を聞かれた際に、適当にAoと名乗った程に、葵は自分のコスプレイヤーとしての価値を重要視していなく、どちらかと言えば、塩対応のような対応が多く目立った。


そのため撮影を終える際も、渋られはしたが、Aoの撮影に来たカメラマンは比較的素直に、葵の意見を尊重した。


「あちぃ~~……」


前日から考えた作戦が2つとも不発だったことから、また一から作戦を考えようとしたが、夏という事もあり、暑さから思考が上手くまとまらず、思わず声を漏らし、天を仰いだ。


そんな八方ふさがりな葵に、不意に女性の声で声が掛けられた。


「ラ〇のキャラクターで、がっつり男の声出すじゃん!」


石段で休んでいると、葵と同じようにコスプレを自身に施した女性が一人葵の目の前に現れた。


そのコスプレイヤーの女性の手には、100mlのお茶のペットボトルを2つ見えた。


「ほいよ! 同業者!」


女性よりも喉の渇きから、葵が呆然と女性が持つお茶へと視線を向けていると、不意に持っていた一つのお茶を受け渡された。


「悪い…………」


葵は一言、女性にお礼を告げると、「同業者じゃねぇよ」と思いつつも渡されたお茶を一気に飲み干した。


水分が失われつつあった体中に、一気に水分が染み渡るような感覚と、お茶の冷たさで思考が段々と冴え始め、葵はようやく目の前の女性の顔を見上げた。


葵に話を掛けた女性は、あぃこと言う名前で活動している有名コスプレイヤーだった。


葵が夏コミでコスプレをし始め、2度目の会場で知り合い、葵の数少ない、交流を持つ関係者の一人だった。


「珍しいな? もう休憩か??」


あぃこを見上げ、葵は自分が休み始めた時間も知っている為、珍しそうにそう呟いた。


葵の言った通り、今の時間はコスプレイヤーの撮影が盛り上がる時間帯でもあった。


コミケ自体、開始から1、2時間は、ほとんどの来場者が自分のお目当てな、サークルなどの同人誌等の物販の為に並ぶ人が多かった。


もちろん、最初から撮影する者もいる事は確かだったが、それでも、物販から流れてくる来場者も狙えば、午後からの方が本番と捉える人も少なくは無かった。


「あぁ~~、今日は開始から始めちゃったからねぇ~~!

ちょっと暑いし……、てか、Aoにめっちゃ聞いて欲しい事があるんだけどさッ!」


「いや、後にしてくれ……。

今はちょっと取り込み中。 邪魔をしないで静かに去ってくれ…………」


「塩ッ!! 同じコスプレイヤーに対しても、塩過ぎないッ!?

てか、お茶に免じても聞いて欲しいんだけどッ!」


葵は相変わらずうるさいなと内心で思いながらも、あぃこの言った通り、お茶を貰った手前、それ以上無下には出来なかった。


あぃこは出会った時からそうだったが、他人に対して冷たい対応の目立つ葵に、しつこく絡みにいっていた。


変な奴と思っていたが、葵は不思議と彼女の会話のペースに飲まれ、当時は異性が嫌いだったこともあったが、彼女にはそこまで強く嫌悪感を持つことは無かった。


また、お互いにプライベートな話はすることなく、年齢、職業、本名すらも知らなかったが、コスプレと言う共通の話題だけで、打ち解けることは容易にできた。


そして、何人かコスプレイヤーの知り合いもできたが、知り合いの殆どがあぃこ繋がりでもあった。


「私さ! 最近、界隈でも結構有名になってきてるじゃん!?

SNSとかでも、コスプレ画像上げたらそれなりにリプ来るしさッ」


葵はあぃこの話したい話題を尋ねなかったが、よほど話したかったのか、葵の興味の無さそうな反応にも屈しず、あぃこは自分の話を始めていった。


「それでさ! 最近なんだけど、雑誌の撮影の依頼とかも入ってきて!!

いよいよ、個人じゃなくて、事務所とかにも入れそうなんだよねッ!」


「へぇ~~、凄いな」


「いや、もうちょっと興味持ってよ…………」


「持ってる持ってる。

素直に尊敬してるよ」


「ほんとかよ…………」


いまいち揉められている気のしないあぃこは、葵の言葉を完全に疑っていたが、葵は自身もやりたい事を見つけ、今まさに上手くいかない状況に苦しんでいる為、本心から彼女の事は尊敬していた。


あぃこは、元よりプロのコスプレイヤーを目指しており、趣味でやってる葵よりもより本格的にコスプレに取り組んできていた。


葵が知り合う前よりも、彼女はそこそこの知名度を持っていたが、それでも現状のように雑誌に載る程では無かった。


「いやぁ~~、ほんと続けててよかったなぁ~~

憧れのえにこさんに会えたし、一緒に撮影もできたし……」


「あ、会えたんだ……。

なんか、ずっと会いたいとか言ってたコスプレイヤー」


「会えたよッ!! いや、マジで可愛かったねッ!? 

やっぱりコスプレイヤー詳しくない人にも、認知されてるくらい有名なコスプレイヤーだよ! 

光栄だったなぁ~~」


「ふ~~ん、良かったな……」


当時から自分以外に興味のない葵は、あぃこから何度もその有名コスプレイヤーの話を聞かされたが、結局興味を持つことは無く、そのコスプレイヤーの事をよく知らなかった。


そして、長年の経験から、そのコスプレイヤーの話になると恐ろしくあぃこが語り出し、止まらなくなるため、葵は休憩も満足に取れた為、その場から立ち上がった。


「そんじゃ、行くわ……」


葵は一言、そう告げ、逃げる様にその場から離れようとすると、不意に腕を掴まれ、引き留められた。


「あ、あ、ちょっと待って……。

こ、この後さぁ、ちょっと、付き合ってほしい事があるんだけど…………」


「え?」


葵は時間も無いため、呼び止められた事を不満に感じたが、葵がコスプレを始めた当初、分からない事も大かった中で、色々教わった恩もあったため、彼女の願いをむげには出来ず、その場で立ち止まった。


「えっと……、ちょっと、お願いしずらい事でもあるんだけどさ……。

一緒に、撮影頼まれてくれないかな??」


「は……?」


葵は突然の出来事に、頭が真っ白になり、あぃこは頼みずらいからか、不自由な日本語になりつつも、葵に自身の願いを伝えた。



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