俺より可愛い奴なんていません。8-25
◇ ◇ ◇ ◇
飛行機 機内。
葵達を乗せた飛行機は無事に離陸し、沖縄から本州に向けて空を飛んでいた。
離陸時、ワイワイと騒いでいた葵以外の男子生徒は、離陸から時間が経つと興奮も収まり、談笑を楽しんだ。
葵も離陸時には、飛行機酔いから来る具合の悪さから、不機嫌そうな表情を浮かべ、嫌いな飛行機にひたすら嫌悪感を抱いていたが、離陸から数時間たち安定した事と、疲れから睡眠に入っていた。
対して、女性生徒陣はというと、依然として元気を見せ、離陸時にも少しテンションは上がってはいたものの、男性生徒陣よりは騒がず、少しテンションが高くなっている状況が、一定している様子で会話が弾んでいた。
旅行に関しての話も多くあったが、女子トークに歯止めは無く、様々なテーマで話題を繰り広げていた。
「でさッ! 学校で結構有名になりつつあるんだよね~~。
佐々木さんと北川君の付き合ってる話がねぇ~~」
様々な話題が飛び交っていた中、晴海は自分の話したかった恋バナの話題を、亜紀と美雪に振り出した。
「えぇッ!? 北川と佐々木さんが??
無いでしょ……」
「はいはいはいッ
あっちゃんは信じないと思ってましたッ!」
怪訝そうな表情を浮かべながら、明らかに疑っている亜紀の物言いに、晴美は分かっていましたと言わんばかりに、半ばドヤ顔でいやらしく答えた。
晴海のその態度に亜紀はムッとしながらも、そこまで自信のある根拠に興味を持ちつつあった。
「そんなに自信あるなら、何か証拠でもあるんでしょうね?」
「もっちろんッ!!
何かねぇ、噂では結構二人で遊びに行ったりしてるらしいよ??
カラオケとかぁ~、ボーリングとか……」
「ふ~~ん」
亜紀自体、校内のそういった恋愛事情に疎いわけでは無かったが、晴海の話す事は比較的初耳だった。
美雪を含めた、ミスコンに関わった生徒でカラオケに行っていた事は、流石に知っていたが、二人で遊びに行っている話は聞いたことが無く、素直に感心するように声を漏らしながら、晴海の話に興味を示した。
「なんかミスコン以降から、進展があるってみんな予想してるんだけど…………」
晴海は続けて話しながら、美雪の方に視線を送った。
晴海の美雪を見る視線は、まさしく何か知っていないかと、情報を求めるような目をしており、美雪にカラオケ店での詳細を話して欲しいといった様子だった。
「えっと…………、分からないよ……?」
美雪は佐々木と北川の話題から、一言も発していなかったが、会話自体にはもちろん参加しており、小さな情報でも見逃さないといった気迫すら感じる晴海に、恐る恐ると言った様子で答えた。
「いや! 何か知ってるでしょッ!?
ミスコンの打ち上げから関係に進展があったようにも見えるし、何か小さな出来事でも何かないッ!?」
「えぇ~~、注意して見てなかったし、分かんないよ~」
晴海に再度追及されるも、美雪はあの打ち上げの際に、佐々木と北川に進展があったとは知らず、思い返しても晴海が納得するような何かは無かった。
「えぇ~~、絶対あの時期らへんからだと思うんだけどなぁ~……」
美雪の反応から、これ以上何か新しい情報を手に入れない事を悟った晴海は、唸るようにして悔しそうに呟いた。
そして、同じ恋バナでも話題を少し変え、続けて話し始めた。
「そういえば、さっき男子の話を聞いちゃったんだけど、前野君、小竹さんに振られちゃったみたいだね!」
「あんたねぇ……」
興味本位で、人の話を盗み聞き下様に亜紀は聞こえ、晴海を窘める様に声を上げたが、亜紀が全てを答える前に、晴美は必死に弁明をした。
「ち、違うよッ!? ぬ、盗み聞きとかじゃなくて、前野君達の声が大きくて、聞こえてきたというか……、聞こえちゃったというかさ…………」
晴海なりの必死な弁明だったが、亜紀はそれを聞き、晴海の答えた事、そのものが盗み聞きと言うのではないかと、一瞬脳裏によぎったが、前野と長谷川の話声がヒートアップし、内容が聞こえてきたことは、この旅行中でも何度かあった為、そのことに付いて追及はしなかった。
そして、晴美は呆れる亜紀に注意しながらも話を続けた。
「それで、どうやら小竹さんには、好きな人がいるって事で振られたらしいんだよね…………」
晴海のここまでの話で、静から昔の話を聞いていた為、美雪はそれが誰を指すのかすぐに理解した。
「ふ~~ん、それで?」
「ま、まぁ、断るのは何となく分かるんだよ……?
でもさぁ、理由がちょっと引っ掛かっててさッ」
晴海の話し方に亜紀は明らかに疑問を持ち、首を軽く傾げ、頭の上に?マークを浮かべるような様子で、晴海の話を聞き入った。
亜紀があまり関心を示さないジャンルの話題に、晴海も少し違和感を感じていたが、亜紀の様子から早く話せと言われているように感じ、間髪入れずに自分の考えを述べた。
「朝、Bloomに向かう途中で、ウチ言ったじゃない??
小竹さんと立花君が付き合ってるんじゃないかって……。
それが、小竹さんのあの答え方だとちょっと違うのかなって……」
「ん~~、まぁ、言わんとしてる事は分かる……」
「だよねッ!? 普通、付き合ってるなら、好きな人じゃなくて恋人って言うよね??」
晴海の最初の物言いで、亜紀はともかく、声を発していなかった美雪もそれに気づき、亜紀が同意するように答えると、晴美は自分の不安だった考えが、正解なのではないのかと自信を持ち始め、強く同調するように話し始めた。
「で、でも、ほら……、付き合ってたとしても恥ずかしくて、はぐらかした可能性もあるんじゃない?
とゆうか、そもそも付き合っても無くて、片思いとか……。
立花さんじゃない可能性も……」
「う~~ん、まぁね」
晴海と亜紀の話に今まで、静かに聞いていた美雪は自分の意見を発し、美雪の意見を理解しながらも、十分には納得できていないのか微妙な反応を見せた。
「それで? 仮に晴海の言ったように、小竹さんと立花が付き合ってなかったとしたら、何が言いたいの??」
煮え切らなさそうに唸る晴海に亜紀は、単刀直入に尋ねると、晴海はゆっくりと答え始めた。
「う~~ん、ウチは絶対ないと思ってたんだけど、さっきのカラオケの話でもう一つ噂になってる事があってさ……。
美雪と立花君って、付き合ってる……?」
「はぁッ!?」
「えぇッ!?!?」
晴海のとんでも理論に、亜紀と美雪は思わず大きな声を上げ、驚きを隠せない様子で、目を見開き、晴海視線を送った。
「だ、だれ!? そんなふざけたデマを流す馬鹿は!?」
「いやね? ウチも違うと思うんだけどね?」
美雪よりも亜紀の方が怒りを露わにし、晴海も基本的には亜紀と同じ意見で、それでも口に出した以上、ほんの数パーセントは疑ってもいた。
美雪は自分のそんな話が一部、学校でされていた事に驚きと、恥ずかしさを段々と感じ始め、みるみる顔を赤らめていった。
「ほら、最近、美雪と立花君が何かと行事ごとで一緒になる事が多いでしょ?
ま、まぁ、それでそんな噂が出てるみたいな?」
「ないでしょ……、ないない。
ね? 美雪」
亜紀はため息交じりに呆れた様子で、美雪に尋ねると、美雪は固まった様子で、亜紀の言葉が伝わっていないように見えた。
「美雪?」
「あ、あぁッ! う、うんッ! そうだよ!」
亜紀に再び尋ねられ、美雪は我に返ったように、一つ前に聞かれた事を思い出し、すぐさま答えた。
晴海は美雪のそんな反応に何とも思わず、同意するように「だよね~」とニコニコを笑いながら答えていたが、亜紀は美雪の反応に違和感を大きく感じていた。
(美雪の好きな人は、真鍋のはず…………。
立花と尾行して、再確認したし、肝試しの時だって……)
亜紀は感じた違和感を無視せず、続けてこの旅行で感じた他の違和感も、連動するように思い出し始めた。
(そういえば、肝試しの時、やけに立花の奴、素直に真鍋と美雪の二人の探索に納得してたよな……。
買い出しの二人を尾行までしてた立花が…………。
諦めたと思ったけど、美雪のこの反応……、もしかして違う……?
無理だと分かってても、告白できるような玉じゃないし、付き合ってるなんてもっての他で、考えられやしないけど、何かあったのか……?)
考えれば考える程奇妙に思え、そして何より、言われた美雪の反応が亜紀には引っ掛かった。
嬉しく思っているようにも見えた美雪の反応、そして、葵と尾行した際からの一歩引いたようにも思える葵の行動、亜紀は自分の思い過ごしのようにも思えたが、気になって仕方がなかった。
亜紀は美雪の気持ちが変わっていない事を断定できたが、この葵との絶妙な関係性を、美雪は悪くは思っておらず、むしろ心地いいとすら感じているのではないかと推測した。
しかし、亜紀は二人の思いを知っているがゆえに、その二人の関係性はとても奇妙で危うくすら感じられた。
悪気の無い二人は、求める者が違い、歪んでいき、あらぬ方向へ話が進み、最悪の形で関係が崩れる、考えすぎかもしれないが、亜紀はそんな結末を予感していた。
◇ ◇ ◇ ◇
立花宅。
長かった沖縄旅行を終え、葵はようやく自宅へと帰ってきていた。
帰るや否や旅行の疲れ癒えぬまま、家族から、特に姉の蘭や椿から激しい追及を受け、そこから、夕食や入浴を済ませ、葵はやっと自室でゆっくりと一息つく事が出来ていた。
自分のベッドに腰掛け、不意に旅行の事、そして、ある出来事から葵はその事についてずっと考えていた。
それは、自分の将来についての事だった。
この旅行の間、様々な事があり、いろんな思い出があったが、その中で葵は二日目の大きなイベントが印象に残っていた。
桜木高校での学祭、『桜祭』の二宮 紗枝しかり、今回のイベント、水着コンテストでもそうだが、人にメイクや髪のセットを施し、感謝されたことが葵にとって初めての経験であり、そのことが妙に気がかっていた。
葵はそんな事を考える中で、おもむろに旅行で使ったカバンから一つの名刺を取り出した。
「掛けてみるか……」
葵は名刺に書かれた番号を、自身の携帯に打ち込むと、電話を掛けた。




