俺より可愛い奴なんていません。8-24
「そんで?
葵は、これからどうするわけ?」
昨夜の静との一件から、黛に事のいきさつを全て見透かされ、葵は黛からその後も追及をされ続けていた。
黛は、見事に葵に好きな人がいる事を見抜き、葵に今後の考えを尋ねた。
「いや……、どうするも何も、何もしないですよ……」
葵は昨晩より、本格的に美雪への気持ちを認めたが、それに気付き、好きな事を認めたからと言って、何か行動を起こすつもりは無く、素直に黛にそう答えた。
「はぁッ!?
何、何もしないって…………。
好きなのに??」
葵の言葉を聞き、黛は信じられないといったような様子で、ジョッとした表情を浮かべたまま、葵を見つめ、声のボリュームも大きくなっていた。
そして、黛のそんな態度に葵はムッとしつつも、丁寧に反論をした。
「別に珍しい事じゃないですよね?
好きな人がいても告白できずに、片思いで終わる人だっているでしょ??
ましてや、中々本音を言えない国民性の日本人なんだし、よくある話で、大体の人がそんな経験をしてるはず」
「別にアンタがその枠にハマる理由は無いでしょ?
それが定石、常識みたいな形で考えるのやめて、諦める事だけは辞めなよ?」
葵の言葉に黛はため息交じりに、優しく諭す様に答えた。
まだまだ子供の葵が話す大人の常識のような物は、屁理屈のようにしか聞こえず、黛の言葉に葵は珍しくすぐに言い返す事は出来なかった。
葵はそのまま、黙り込む形でワイワイと騒ぐ他の桜木高校の生徒達を防煙と見つめていると、ある一角が気になった。
葵はそこを注視して見ていると、静と前野が二人きりで話しているのが見えた。
そして、しばらく葵はその二人に視線を向けていると、前野が頼み込む形で頭を下げ、静は小さく頷き、二人で人気のない方へと移動していくのが目に見えた。
葵はそれを見て、前野がこれから周りの邪魔が入らないところで、静に告白するつもりなのだと察しが付いた。
「おろ? 静と晴太どこ行くんだ?」
葵の視線から静と前野の一部始終に気付いたのか、不思議そうに黛は呟いた。
「告白するらしいですよ?」
「えぇッ!? マジ?
静はモテモテだなぁ~~。 まぁ、美人だから当然だけどね~~」
淡々と答える葵に対して、黛は大きく驚き、感慨深そうに呟いた。
そして、呟きながらも葵に目をやり、様子をうかがっていた。
「なに? 不服なの??」
黛は呆然と見つめる葵に、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら尋ねた。
「どうなんですかね……。
自分でもよくわかんないです。複雑と言えば複雑ですけど」
「ふ~ん、意外とそうなんだ」
葵の答えに黛はケロっとした様子で、実に意外そうにそう呟き、その流れのまま続けて質問を繰り返した。
「じゃあさ、葵の好きな人が他の誰かに取られたとしたら?」
黛の質問に葵の表情は一瞬固まった。
葵は黛の言葉に誘導されるように想像を働かせた。
そして、考えを纏めゆっくりと答え始めた。
「良い気はしないです。
ただ、それでそいつが幸せそうに笑っているのであれば、それでいいです」
葵は言葉の通り、心の底から本当にそう思えた。
昨日の昨晩、ここの島に来て1番のお気に入りの心落ち着ける場所で、長い時間考え、そして結論を出した事に揺るぎはなく、葵の確かな思いから来る素直な言葉だった。
――たった1つ、確かな事があるならば、美雪にはどんな形であれ笑顔で、自分の惹かれたその笑顔で居て欲しい――
それが葵のこれからの行動を理由付ける、信念だった。
「――そっか……。
まぁ、葵がそう思ってるならもうこれ以上は何も言わないよ。
ただ、好きな人の笑顔が自分に向けられないのは、辛いものだよ……」
「分かってるつもりですよ」
黛が言及するのをやめ、葵も黛の最後の言葉に納得するように呟き、答えた。
「はぁ~~、まったく最近の若者は難しいねぇ~~……。
陰気臭い世の中が、こうやって頑固で歪んでる若者を生み出すんだろうか」
「なんでも世の中のせいにするのは、どうなんですかね?
とゆうか、頑固でも歪んでもないです」
少し遠回しにややっこしく、葵に気付かせるようにして、黛なりに葵の恋を応援しているつもりだったが、葵にその気がない事を確認すると、黛は気の抜けた声で愚痴を吐き出した。
葵も話の途中から、静と前野の去っていった行方から、遠目に見える、楽しそうに談笑する美雪へと視線を移し、呆然と見守るように見つめていた。
「いやいや、歪みまくってるよッ!?
まず、普通の男子は女装しないし、たかだか十数年しか生きてないのにも関わらず、そんなに達観してないよ!」
「現実主義なんで……」
冷めた口調で答える葵に、黛は諦めるように大きなため息を付いた。
「もっと、簡単に純粋に恋愛を楽しめないものかね?」
「恋愛なんて元々楽しいものなんかじゃないですよ……。
気付てしまえば最後……、地獄です」
「葵を見てると、ホントに学生の頃の、病み気の自分を思い出すよ」
葵の徹底した恋愛に対しての考え方に、黛は口から空気が漏れるような薄ら笑いと共に、葵にそう告げた。
◇ ◇ ◇ ◇
葵達はBloomでの最後の別れを終えると、初日に訪れた空港へと訪れていた。
「いやぁ~~、いけると思ったんだけどなぁ~~……」
空港に付き、サイトたちを一ヵ所に集め、手続きを行うため生徒達から真鍋が離れると、前野はたまっていた気持ちを一気に吐き出す様にして、長谷川と葵に話し始めた。
「まぁまぁ、元気出せよ?
よくよく、普通に考えれば割と当然の結果だぜ??」
前野はBloomに付き、静と二人きりになったあれ以降、無事、想いを告げる所までは成功したが、きっぱりと静に断られていた。
そして、その結果だけは葵と長谷川は道中で聞かされており、落ち込む前野に対して、長谷川は若干、にやけ面を浮かべながら、容赦ない一言を前野に浴びせていた。
「はぁぁああ??
お前、告白前は応援するとか言ってたじゃねぇかよッ!?」
「お、落ち着けって……。
あの時はお前が盛り上がってたから、止めように止められないだろ?? 立花は止めてたけども…………」
応援すると太鼓判を打ったはずの長谷川が、くるりと手の平を返すと、怒りで激情した様子の前野はキレ始め、長谷賀は宥めるようにして前野にそう答えた。
そんな長谷川と前野のやり取りを、葵は聞いてはいたが関心の無いように、何も答えずただ聞き流していた。
「そういえば、なんて断られたんだ??」
長谷川の不意な質問に今まで聞き流すだけだった葵は、一気その質問に耳を傾けた。
「え? いや、それは、まぁ……、堂々と? 好きな人がいるからって…………」
「あぁ~~、まぁ~~、鉄板よな……」
葵は前野の答えに一瞬、胸が跳ねたような妙な感覚を感じていた。
それは、嬉しいだとかそういった感情ではなく、申し訳なく感じつつも、どこか焦りのような、とても言葉では表せない妙な感覚だった。
「はぁ~~、静ちゃんの好きな人って誰だよ~~…………」
「まぁ、間違いなくイケメンではあるよな!」
葵は前野達には余計な事は言わず、だんまりを決め込み、そんな葵にSNSで一通のメッセージが入った。
葵はポケットに入った自分の携帯が振動したの気付くと、ポケットから携帯を取り出し、起動させると携帯の通知が目に入った。
私、諦めないからね!
葵は差出人よりも先に、その強い意味を持ったメッセージが先に目に入り、次にそのメッセージが静から来ている事が分かった。
皆まで言わずとも、静が何を諦めないとしているのかが分かり、葵はメッセージに困惑すると同時に、なんと返せばいいかすぐに思い浮かばなかった。
彼女らしく、また、黛の教えを体現しているようにも思え、葵はそんな素直な彼女を、少し羨ましくも思えた。
長く続きました沖縄編は後1話、軽いのを入れて終わりになります。
長々とお付き合い下さり、ありがとうございました。
9章からは、少し違った形での葵の夏休みでの出来事を書いていくつもりです。
小出しの予告になりますが、葵がコスプレしてコミケに行きます(笑
週一の更新でお待たせしておりますが、引き続き暇つぶし程度に楽しんで頂ければ幸いです!




