俺より可愛い奴なんていません。8-23
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沖縄 最終日、Bloom。
葵達は遂にBloomへと到着すると、一番の世話になった黛へと挨拶をした。
これまで世話になったお礼と、本番である修学旅行の際には、よろしくと頼み込み、各々に詰まる話をそれぞれ始め、集団はばらけ始めた。
葵は終始、静の様子が気になっていたが、彼女は依然となんら変わりなく、葵にも親しげに接してきていた。
これが静の気遣いなのか、昨日の事を理由に、幼馴染としての関係さえも壊れる事を嫌ったのか、葵には分からなかったが、葵は依然と変わらず接してくれる静に感謝していた。
葵は他の生徒同様、Bloomで世話になった先輩の従業員と話をしていると、不意に黛に呼ばれた。
なんだかんだで、一番、黛と接点のあった葵は、個別で礼を伝える為、素直に彼女の申し出を承諾し、無言で手招く彼女の方へと向かって行った。
「よッ! 今日で最後だね!」
「はい、なんだかんだ色々お世話になりました」
「いやいや、何度もお礼言わなくてもいいって!
てゆうか、そんな事より、昨日……、静から聞いたよ?」
ニヤニヤと急に大事な事を話し出す黛に、葵はヒヤッとしながら周りを確認すると、葵と黛の会話を聞いているような、あるいは聞こえているような人は誰も見受けられず、内容が内容だったため、葵はほっと落ちくように肩を降ろし、一息ついた。
流石の黛もそこらへんの配慮は怠っておらず、葵を自分の方に招いたのも、会話の内容を聞かれないようにするためだった。
「なんですか? 急に……」
「なんですかも何もないでしょッ!?
昨日、あんな連絡を私に入れといて~……」
「あれは……、すみません。 助かりました……」
静の向かいに来させるように、メッセージを送ったことを引き合いに出され、この話をしたくないと言わんばかりに、少し不機嫌な態度を、始めとっていた葵だったが、自分の非を認めた。
「まぁ、男の対応としては及第点なんじゃない? 知らないけど……」
黛の言う及第点がなにを基準としたものなのか、さっぱり分からなかったが、興味も尋ねる理由も無く、Bloomに訪れてからしきりに気になっている静へと、自然に目線がいった。
そんな葵の視線に黛は気づき、話し始めた。
「心配いらないよ?
確かに、昨日はショックだったろうけど、静は強いから……。
乗り越えたわけじゃないだろうけど、葵が気にしているほど、引きずってはないよ」
「そうですか…………」
「なになに? そんなちょっと残念そうな声だしてぇ~……。
まだ、自分の事引きずってるのかとか考えちゃってた??」
黛は本心で葵がそう思っているとは、思っていなかったが、それでも場を和ますとともに、葵の心配も紛らわせるようにと、わざと嫌味たらしく、ニヤニヤと笑みを浮かべ、葵を挑発するように尋ねた。
そして、黛の思惑通り、葵は静から視線を切り、黛へと視線を戻し、明らかに不満そうな表情を浮かべた。
「別にそんな事思ってないですよ。
ただ、あれでよかったのかどうか……」
葵は不満をぶつけつつも、昨日から感じていた一抹の不満を、つい零す様に発した。
「あれでいいも何も、静にとっては最悪でしょ?
でも、葵にあれ以上何ができたの??
好きでもないのに、好きだと答えて付き合うの??
恋愛なんて、成功しなきゃどう転んだって、苦い思い出にしかならない。
好きになった時点で辛いもの、傷つくものなのよ」
葵は黛の言葉に何も言い返す事は出来なかった。
しかし、黛の言葉の内容とは裏腹に葵は、葵の行動を肯定するわけでは無かったが、自分が責められているようには感じなかった。
ただ、なるようにしかならないのだと、そう言われているように葵は感じていた。
「まぁ、静の事は別に葵が心配することないよ?
本州からこっちに来た時からの付き合いだもん! あの子の根っこの強さはよく知ってる。
それこそ、葵よりもね!
なにより、経験豊富な私が付いてるからね!!」
「そうですか」
葵は黛言葉のおかげか、少しずつ彼女とのいつものやり取りの調子を取り戻し、テキトーにあしらう様に今度は答えた。
「てゆーか! 私はあんたの方が心配だよ!?」
「は? なんでですか??」
「高校生のがきんちょの癖して、恋愛観が中年オヤジみたいだから……。
その割には、頑固な面が強すぎて、小学生並の経験しか積んで無さそうだし……。
下手したら小学生の方が恋愛経験豊富なんじゃない?」
葵は黛の言葉にムッとしたが、自分の姉に似た、何故か言い返せない雰囲気を黛から感じており、言い返せたとしても、再び余計に言い負かされそうなそんな気がしていた。
葵はそんな予感を感じつつも、黛に言葉を返していった。
「流石に小学生よりかは分かってると思いますよ?」
「最近の小学生は凄いんだぞ? 彼女、彼氏を持ってる小学生だっているんだから。
それと……、じゃあ、ついでだから聞くけど、葵はこれからどうするつもりなの?
静を好きじゃないから、ただ振ったってわけでもないでしょ?」
「どういう意味ですか??」
葵は一瞬、昨日静に自分の好きな人がいる事を告げた事を思い出し、静はあの後、事の経緯を説明する流れで、そのことを黛に伝えたのかと葵は考えたが、静がたとえ近しい人間だからと言って、無断で伝えるとは葵は思えず、とぼけた様に、そして黛が何を言わんとしているか探るように尋ねた。
「好きな人がいるから振ったんでしょ??」
葵は黛の言葉に一瞬、ドキッと胸を跳ねらせ驚き、表情は固まり思考すらも一瞬固まった。
「静に聞いたんですか?」
葵は一番ないと思っていた選択制を恐る恐る黛に尋ねた。
「静が言うわけないでしょ。
冷静に考えれば何となくわかるわよ。
誰も好きな人がいなければ、幼馴染な事も相まって、その場で振るなんてこと、あんまり考えられないし。
最初は別に好きじゃ無くたって、付き合っている内に好きになる恋愛だってあるでしょ。
だけど、葵はそれをすることは無く、曖昧に断ることも無かった……。
考えられるのは、それしかもうないでしょ??」
葵は黛に見透かされているような、そんな感覚を感じ、誤魔化しは通じないと悟った。
「別に、好きな人がいなくたって、振った可能性もあるんじゃないですか?」
「それは絶対にない」
葵は最後に引っ掛かった点を黛に尋ねると、きっぱりと堂々とした物言いで言い放ち、続けて葵に向けて話し始めた。
「静の恋愛相談は私が受けてたからね!
まさか昨日、告白しちゃうとは思わなかったけど、告白する時の方法とかも色々と伝授してたし……。
例えば、相手に好きな人がいなかった場合は、そのまま済し崩しな形で、無理やり付き合っちゃえッ!みたいなね」
葵は全てに合点がいき、黛が昨日の事の流れを、大体すべて把握している事も分かると、体の力が抜けていき、これから様々な質問攻めにあうかと思うと、少し憂鬱に感じていた。




