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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
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俺より可愛い奴なんていません。8-13


 ◇ ◇ ◇ ◇


先発、次発、次々発と順繰りに5分刻みで肝試しはスタートし、あおい美雪みゆきのペアは、一番最後にスタート地点から出発していた。


スタートしたばかりの葵と美雪は、まだメインの廃墟には到着しておらず、薄暗い林を歩いていた。


「流石に暗くて、雰囲気出てますね……」


辺りをキョロキョロと見渡しながら、不安からか、いつもよりも近い位置で隣を歩く美雪は、少し怯えた声で葵に話しかけた。


「まぁ、多少なりとも怖い雰囲気が無いと肝試しにならないからな…

…」


「た、立花たちばなさんは余裕ですね……。

得意なんですか?」


「別にこういう事に得意、不得意は無いだろ……。

ただ、飛行機に乗るよりかは全然マシだな」


葵は場を和ませるために軽く自虐っぽく最後に付け加えて、答えたが、思いのほか美雪のツボに入った。


「そんなに面白い事か?」


沖縄での空港を思い出し、余計に笑う美雪に、自分から言い始めた事だったが、葵は少し不満げに美雪に尋ねた。


「す、すいません……。

ちょっと思い出しちゃいました……」


少しも仕分け無さそうにしながらも、笑いの余韻が残っていたのか、口元は少し緩んでいた。


「口元にやけてるぞ?」


葵が指摘すると、美雪はハッとした表情を浮かべ、口元を両手で隠し、申し訳なさそうに、「えへへへッ……」と誤魔化す様に笑みを浮かべていた。


葵はちょっとした仕返しの為に、美雪にそう言ったつもりだったため、飛行機酔いの事を馬鹿にされても、そこまで気にしなかったが、美雪のふとした行動を見て、不自然に首ごと顔を回し、美雪から視線を切った。


もちろんそんなあからさまな葵の行動を見て、美雪は不思議に感じたが、それよりも美雪は葵と話したい事が他にあった。


今日一日続いていた二人のぎくしゃくした空気感が和らぎ、以前の、旅行初日のような距離感に戻ると、美雪は意を決したように話し始めた。


「あ、あのッ! 立花さん!!

き、昨日は変な感じで話を中断しちゃって、すみませんでした」


「あ…………」


「今日、どこかのタイミングで謝れたらいいなって思ってて……。

感じ悪かったですよね?」


「あ、いやぁ、俺も……その、あの時は妙に突っかかってたし。

悪かったな……」


葵もこの件に関しては、今日一日中、美雪の友人である亜紀あきに話してしまう程に、気にしていた事だが、肝試しが始まってから、以前と同じように接することが出来たことで、どこかうやむやにしてしまおうと思っていた節があった。


そんな葵に対して、美雪はどこかのタイミングで謝ろうと、それをいつも頭の片隅に置き、切り出すタイミングを計っていた。


(こういう変に筋が通ってるところは、出会った時から変わんねぇよな……。

堂々としてるっていうか……。

人見知りで、友達が中々できないって悩んでた癖に……)


美雪の行動を見て、出会った時から依然として変わらない、彼女の根っこにある度胸を葵は、懐かしく思い、素直に尊敬できる事だと思いながら、皮肉交じりに内心で呟いた。


「謝れてよかったです……。

晴海はるみにもちょっと協力してもらっちゃいましたし……」


「こっちこそ、変な事でぎくしゃくして悪かったな」


美雪の切り出しで、再びぎくしゃくした空気に戻るかと、不安もあった二人だが、一度直った雰囲気は崩れることなく、依然と同じように接することができた。


だが、葵と美雪はここで折り合いを付けた事で、昨晩と同じかあるいわ似た話題を出す事を、タブーとしてしまう事でもあり、昨晩に二人が本当の意味で知りたかった事を、尋ねる事をお互いに禁ずる事も意味していた。


この問題の本質的な物の解決には、何にも至ってはいなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


時間は進み、旅行中に別行動になった際の話などを合間合間にしながら、林を抜けると、一目見ただけで、これが目標だと分かるほどの、大きな廃墟が葵と美雪の前に姿を現した。


大きな建物を目の前に葵と美雪はその大きさを実感する為、立ち止まり、建物を見上げるようにしていた。


「これですかね……?」


「だろうな……」


目的の廃墟はホテルだった。


大きさにして4,5階程の大きさの建物であり、長年放置されてきた事を実感させるかのように、壁には植物のツタがたくさん這いまわり、建物自体にも所々ヒビがあった。


夜の廃ホテルという事で、雰囲気は流石と言う程怖いオーラが出ていたが、葵はそれよりも、崩落等の心配も大きく感じていた。


葵はホテル以外にも何か情報が無いかと辺りを見渡すと、ホテルの看板のようなものがあり、経年劣化により読めない文字がほとんどだったが、かろうじて『リゾート』という文字だけは読み取れた。


「リゾートホテルだったぽいな……」


「た、確かに、海近いですしね…………」


落ち着いた様子で話す葵に対して、美唯は少しこわばった表情で、声にも緊張感を感じさせるように答えた。


「まぁ、心霊スポットではないらしいから、足元だけ気を付けて行くか」


葵の呼びかけに、美雪は「はい」と短く返事を返すと、歩き始めた葵の後に続くようにして歩き始めた。


葵と美雪がホテルの前まで向かい、いざホテルへ入り込もうと歩みを進めると、不意にホテルから大きな女性の叫び声がホテル中に響き渡った。


葵も美雪も予期していなかった出来事に、ビクッと体を跳ねらせたが、女性の叫び声に葵も美唯も聞き覚えがあり、すぐに冷静になれた。


そして、その声に誰よりも親しみある美雪が声を上げた。


「亜紀……?」


美雪の疑問形の呟きに、葵も女性の声の主に察しが付いた。


「何、騒いでんだ……?」


「亜紀~~~~ッ!!

大丈夫~~~~ッ!?」


心霊スポットに言ったことは無かったが、話に聞く限りのそういった独特の感じの悪さや悪寒をホテルから感じる事が無かったため、葵はいたって冷静に呟き、美雪は素直に叫び声から、亜紀を心配するように大声で亜紀に呼びかけた。


亜紀の叫び声が反響したように、美雪の大声もホテルを反響していったが、亜紀の返事は返ってこなかった。


「た、立花さんッ!?」


亜紀からの返事が返ってこないことで、美雪は一気に心配そうに、不安そうな表情を浮かべながら葵の事を見つめ、今にもホテルへ入り亜紀の安否を確認したいといった様子だった。


亜紀や美雪には悪いと思ったが、葵はそれほど心配しておらず、肝試し前の亜紀のあの怯え方から何かを見間違えたりして、大げさに叫んでいる程度にしか考えていなかった。


しかし、美雪の不安そうな表情と焦りから、気休めを言って今の美雪を落ち着かせることは難しいそうだと判断し、ため息を一つ付くと、美雪に一言呟いた。


「何かあったかもしれないし、少し急いで探しに行くか?」


「はいッ!」


葵の言葉に美雪は首を大きく縦に振りながら答え、ホテルの中へと葵と美雪は入っていった。


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