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俺より可愛い奴なんていません!!  作者: 下田 暗
八章 夏休み ~沖縄編 3日目、最終 『決意』~
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俺より可愛い奴なんていません。8-10



椿つばきの一言により、二人の時間は止まったかのように、静かな時間が流れた。


また静は鳩が豆鉄砲を食らったように、呆然としたが、だんだんと何を言われたかを自覚していき、どんどんと顔を赤く染めていった。


「――まぁ、固まっちゃうよね……」


椿は静がどうなるかある程度、予測しており、案の定な状況になる椿を見て呟いた。


そんな椿の少しからかったような言葉に、静はようやく我に返り、まだ心の整理がついていなかったが、咄嗟に答え始めた。


「な、ななッ、なにを急に言ってるのかな?

椿ちゃん……」


あまりにも苦しいとぼけた答えだったが、静はこう否定しなければ、羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。


「はぁ……、静お姉ちゃん、まだそんなこと言ってるの……?

もう、昔から気付いてるよ…………」


椿は若干ため息交じりに、呆れるように静に向かってそう返した。


幼いころから、静が葵に密かに想っている事は気づいていた。


そしてそれは、同じ想いを持っていた椿だからこそ、気づけた事でもあった。


「静お姉ちゃんさぁ、もう素直になって認めたら?

まぁ、自分の中じゃ気付いてるんだろうけどさ」


「み、認めるったって…………」


静は答えが出ているのにも関わらず、未だにあおいに気持ちを伝える事を躊躇していた。


昔の椿であれば、大好きな静の唯一気に入らないところで、当時はそんな静に苛立ちさえも感じていた。


「実はさ、静お姉ちゃんに伝えてなかったけど……。

多分、お兄ちゃんは静お姉ちゃんの事好きだったと思うよ……?」


「え…………?」


椿は昔を思い出しながら静に、椿の思う当時の事を話し、静はあまりの突然の話に、再びフリーズした。


しかし、椿はそんな静に構うことなく、続けて話していった。


「当時、お兄ちゃんは多分気が付いては無かったと思うけど、

静お姉ちゃんが思いを伝えていれば、多分お兄ちゃんと静お姉ちゃんは付き合う事になってたと思う。

すぐにではないかもしれないけど、確実に…………」


「そ、そんな……こと………」


「いいや、そんなことあるんだよ……?

遅かれ早かれ、付き合う事になってたはずだよ」


椿は贔屓目無く、当時感じていた椿からの目線で、静にそれを伝えた。


幼いころは、静を慕ってはいたが、それよりも大好きな兄が、静と仲良くなるにつれ、葵が静に取られてしまうような恐れを感じていた。


そのため、一つ進んだ関係になれずに、想いを秘めていた椿を素直に応援する事が出来ず、背中を押すこともできなかった。


そして、それは兄である葵に対しても、同様だった。


「で、でも……、今更思いを伝えたって…………。

葵にはもう、多分好きな人が……」


時間が経つにつれ、当然だが、葵との関係に自信が持つことが出来ず、当時と同じような事を椿が伝えていれば、今以上には行動に移る可能性があった。


しかし、時が経ったこの瞬間に、何か行動を起こす事は静にとって難しい事だった。


声を少しどもらせ、尻込みする静に、椿は、まるで優しく送り出す様に話し始めた。


「確かに、今のお兄ちゃんの事は、私だってよく知らないよ?

海外に行ってる期間は、メールとかでしかやり取りしてないし。

近くにいないと分からない変化とか、そうゆうのは感じられないし……。

それでも、昔から密かに、認めたくなかったけど、

密かに想ってることがあるんだ…………」


椿はそこまで伝えると、静へと視線を向け、最初から椿の顔を見て話を聞き入っていた静と視線が合った。


そして、椿は静の顔をしっかりと捉えながら、依然とした優しい口調で続けて話した。


「私ね? もしお兄ちゃんに彼女ができるとしたら、静お姉ちゃんが良いなって思ってたんだ…………。

今でも、これを言うのは少し抵抗あるんだけどね?

私はお兄ちゃんの妹にしかなれないから…………」


椿の中でずっと気づいていたが言えなかった言葉を、何年か越しにようやく静に伝えることが出来た。


「お兄ちゃんの隣にいられないのならせめて、

自分が認められる人と付き合って欲しいからさ!」


椿の精一杯の虚勢だったが、あくまで笑顔で静にすべてを伝える事ができた。


椿自身は口にそれを出すのが辛い部分もあったが、何年か越しに言えた事で、どちらかと言えば達成感の方を大きく感じていたが、椿の心情を知る静に取って、椿の言葉と彼女の笑顔は心に来るものがあった。


椿の口からはっきりとそれを聞いたわけじゃ無かったが、静も椿が葵に対して、家族愛とは違った感情を持っている事を、行動や反応で何となく理解していた。


そして、自分と似た感情を持って葵と接する椿の姿は自分と重なり、静もまたそんな椿に嫉妬のような感情を持つことが多々あった。


だからこそ、椿が言った言葉は静に衝撃を与え、柔らかく、優しく微笑む椿の表情を見ると、心が締め付けられるような感覚を強く感じた。


「椿ちゃん…………」


「へへへッ、

やっぱり面と向かって言うと、ちょっと恥ずかしいね……。

恥ずかしついでに言っちゃうと、昔は結構、静お姉ちゃんに嫉妬したりしてたんだよ?

私のお兄ちゃんなのにッ!っとか思ってたし…………。

お兄ちゃんに文句言った事もあったしね?」


静の気持ちを察してか、椿は昔に感じていた他愛も無い話を振り始め、椿の中でこの件については決着が付いているのだと、静に伝わるように話した。


そして、そんな椿の思いを静は受け取り、椿に対して申し訳なく思ったり、憐れんだりする事は無く、椿の話題に乗り始めた。


「私だって、椿ちゃんに思ってることいっぱいあったよ!

お家に帰っても葵と居られるのに、妙にくっついてるし……。

私は外でしか葵に会う事は出来なかったけど、椿ちゃんはずっと一緒に居れてズルいッ!とか思ってたしねッ!」


「おぉ~~? 静お姉ちゃん言うねぇ~~……。

そんなこと言ったらまだまだ、言いたい事が椿にもあるんだからね!」


椿と静はお互いのこれまでの空白の時間を埋めるように、そして、互いに葵を想い続け、時には牽制をしあった恋敵を認め合う様に、昔話に花を咲かせていった。


そんな時間も忘れるほどに楽しい一時の中、静はひとつある決心をした。

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